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金属板を金槌で叩いてアルミのお皿と真鍮のスプーンをつくろう

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成瀬恵理

鍛金作家
人類が金属を初めて手にしたときと同じ技術で道具をつくる

鍛金(たんきん)とは、金属の板を金鎚で叩いて形を作る金属工芸の伝統技法です。鍛金の歴史は古く、その歴史は紀元前メソポタミア文明の頃にまで遡ります。一番最初に使われた金属は銅や金、銀であったと考えられています。鍛金は、手に握った金槌で金属を叩いてかたちづくるシンプルな技法でありながら、古代から今日まで受け継がれてきました。現代の金属製品は大量生産が主流となっていますが、あえて手間と時間をたっぷりかけてつくる鍛金のうつわたちは、温もりのある愛おしい一品となるでしょう。また、鍛金を深めていくと、「道具をつくるための道具」を自作する必要が訪れます。それは物づくりを根源へと遡るような体験です。鍛金は少しだけ手強いですが、それだからこそ、手仕事をすることの意味と価値を教えてくれるでしょう。

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READY
準備するもの
  • 金槌

    各種数本

  • 木台

    2台

  • 当てがね

    各種2本

  • 金工やすり

    各種数本

  • 耐水ペーパー(#240、400、600、800)

    各種数枚

  • アルミ板(1×200×200mm)

    1枚

  • 真鍮板(1×40×160mm)

    1枚

  • 糸鋸

    1本

  • 耐火レンガ

    10個程度

  • ガストーチ

    1本

  • 適量

  • クレンザー

    適量

  • 重曹

    適量

STEP 1

必要な道具をそろえる、つくる

  • 写真①。道具一式
  • 木台とぶったて(左)、への字(右)
  • スプーン用の木型。硬い木に凹みをつける
  • 芋槌を中心にいくつかの金槌をそろえる

基本の道具として、写真①に写っているものが必要です。すべてを用意できない場合は、身近なもので代用したり、自作できないか工夫してください。

①金鎚、木槌
金属工芸用の金鎚たち。締め鎚、芋鎚、荒鎚、特殊な形の金鎚、木槌など。金鎚は頭の部分を金属工芸のお店で購入し、形を整えて打面を磨きます。柄の部分は硬い木(カシの木)を削ってはめます。

②木台、木型 
写真左下の丸太を加工した台が木台。この木台に③当てがねと呼ばれる鉄の杭のようなものを打ち立て、素材(地金)を置いて叩きます。打撃の衝撃に負けないだけの重量が必要です。写真右下はスプーンを作るための木型。スプーンのすくう部分と柄の部分に丸みをつける際に使います。鑿で削って自作します。

③当てがね 
当てがねは制作物のサイズやカーブによって大小さまざまな形があります。今回は木台に打ち立てて使う”ぶったて”と、木台に穴をあけてその部分に柄を入れて使う”への字”を使います。「鍛金 当てがね」などのキーワードで検索すると販売サイトが見つかりますが、自分で鉄を熱して叩いたり、曲げたりして作ることもできます。

④金工用のヤスリ 
平らな形や、丸い甲丸のヤスリ、棒ヤスリなど

⑤耐水ペーパー
水をつけて研磨に使います。

STEP 2

地金の素材を用意 する

  • 製作物に合ったサイズのものを購入する

スプーンとお皿用の素材として、それぞれ1mm厚の真鍮板とアルミ板を用意します。鍛金では様々な金属が扱われますが、銅、真鍮、アルミ、金、銀、鉄などが主要な素材となります。今回は、真鍮とアルミを選びました。真鍮は銅と亜鉛の合金で、銅よりも硬く展延性(延びやすさ)はあまりありません。銅よりも加工が困難ですが、綺麗な金色で緑青が吹きにくい性質もあって生活のなかでは使いやすい素材です。もうひとつの素材のアルミは、とても柔らかい素材です。叩くと簡単に薄くなってしまうので、加減が必要ですが加工はしやすい金属です。製作後にこれといったお手入れが必要ないことも使いやすいポイントです。真鍮、アルミともにホームセンターやネット上の素材屋さんから購入できます。

STEP 3

デザインを決めて地金を切り出す

  • 皿の底の長さに側面の高さを加えた円を描く
  • 糸鋸を使って切り出す
  • 電動糸鋸は作業性が高い

お皿の大きさ、深さカーブを決めます。「どんな料理に使おうかな」と思い浮かべながら、平たいお皿にするかボウルにするのかを考えます。お家にあるお皿やスプーンを参考にしてもいいでしょう。基準となるのは、イメージするお皿の底の直径と側面の高さ。これを型紙に起こします。お皿は立体で金属板は平面ですが、絞り(周辺部を叩いて寄せること)の量が少ないお皿なら、完成時の底面の直径と側面の高さをそのまま紙に起こして大丈夫です。

型紙上の直径が18cmのお皿を例にとりましょう。底面の直径を12cm、側面の高さを3cmとした場合、コンパスを使って最初に半径6cmの円を描き、続けて半径9cmの円を描けば、それが型紙になります。

スプーンをつくるときも同様に型紙を起こします。匙の形の線対象の型紙をつくります。お皿、スプーンともに、上手につくれたらその型紙を保存しておきましょう。同じ大きさのものを作るときに便利です。

材料の切り出しは金工用の刃をつけた糸鋸で行ないます(刃は細かいものが使いやすいです)。金工用の刃は木工用とは異なりとても細い刃なので折れることも多々あります。刃は多めに用意したほうがよいでしょう。切り出しは手動の糸鋸でもできますが、大きいものは電動糸鋸があると便利です。

STEP 4

地金を焼き鈍す

  • アルミ板と真鍮板をバーナーで熱する
  • 真鍮がオレンジ色に変化
  • ぐにゃりと曲がるまで柔らかくなる
  • 最後は水に入れて完全に冷ます

金属を火で熱して柔らかくすることを鈍(なま)すといいます。鈍した金属は冷めた後も元の硬度よりも柔らかくなり、形を加工しやすくなります。金属板を鈍すときは、延焼を防ぐために耐火レンガを並べてその上で作業をします。加熱に使う道具は市販のガストーチで十分です。アルミを熱する場合は熱し過ぎないように注意。アルミは他の金属と比べて融点が低いので、あぶる程度で柔らかくなります。色の変化もないので見極めが難しい金属です。

真鍮は温度変化によって色も変化していきます。柔らかくなるまで熱すると表面がオレンジ色に変わってくるので、その色になったら火を止めます。熱しすぎると組織がもろくなってしまうので気をつけましょう。火を止めたら冷めるまで放置し、水に入れて完全に冷まします。

STEP 5

叩いてスプーンの形をつくる

  • 木型の凹部の上で叩き、すくう部分を作る
  • 木型の溝で叩き、柄の丸みを作る
  • 大体の形は木型で叩いてつくる
  • 当てがねに地金を密着させて叩く
  • 「への字」で柄を叩く

最初は当てがねを使わず、木型で形を大まかにつくります。スプーンのすくう部分を木型に置いて上から金槌で叩いていきます。このとき使用する金鎚は先の丸い「芋鎚」。金槌の頭に角があると形が作りにくく、角が素材(地金)を傷つけてしまいます。すくう部分を凹ませたら柄の部分も叩いて丸みを出していきます。柄の丸みは強度を出すためのもの。丸みの深さはお好みで結構ですが、柄の丸みの浅い・深いは木型に設けた溝の深さに影響されます。イメージに合わせて木型の溝の深さを調整しましょう。

木型で大まかな形を作ったら次は当てがねの上で叩きます。当てがねの上に素材(地金)を乗せてその上から金鎚で叩きます。焼き鈍しをして柔らかくなった金属は、当てがねの上で叩くことによって再び硬くなっていきます。これを加工硬化といい、この特性を生かして形を成形していきます。

金鎚は常に一定の位置から振り下ろし、地金の方を動かすのが作業のコツです。斜めや横から金鎚を振るのではなく、上から振ることで力が伝わりやすく、体も疲れにくくなります。地金を当てがねにピタッと合わせることもポイントです。いい音が響くとよく叩けている証拠です。スプーンのすくう部分にはぶったて、柄の部分にはへの字といった感じで当てがねを使い分け、イメージする形につくりあげていきます。

POINT

一度で思い通りの形を作ろうとはせず、徐々に形を作り整えていくことが大切です。当てがねで叩いた後に、もう一度木台に戻って形を張り出させたり、深さを出したりと調整しながら作ることもできます。作業時はケガを防ぐために革手袋をしましょう。

STEP 6

叩いてお皿の形をつくる

  • 回しながら縁を木台に沿わせるように叩く
  • 底の歪みは平らなところで叩いて平面をだす
  • 当てがねの上に載せて叩く
  • 一周叩いたら次の段に移ってまた一周叩く
  • 最後に平らな当てがねの上で底を整える

作業に取りかかる前に、地金にお皿の底部と側面を分ける線をコンパスで描き入れ、この線を目安にして側面を絞って(立ち上げて)いきます。側面を絞るときに便利なのが天面に凹みを作った木台です。木台の凹部を生かして絞る部分を叩いて側面を立ち上げていきます。平らにしたい底面も同じように叩き、バランスよく形を整えましょう。

木台で形を大まかに作ったら、次は当てがねの上で叩きます。当てがねの上にお皿をかぶせるように載せ、底面と側面を分ける線を当てがねに添わせます。当てがねのカーブがお皿のカーブになるので、コンパスで描いた線を狙って金鎚を振り下ろします。一回打ったら皿を左に(時計回りに)ずらして、すぐ隣に打ちます。叩いた跡を槌目と呼びますが地金を少しずつ回しながら順番に槌目がつくように叩いていきます。地金で当てがねが隠れてしまうため叩く位置が分かりづらいですが、叩いているうちに感覚で位置がわかってくるはずです。一周叩いたら下の段(外側)に移って、また一周叩きます。この作業を縁まで繰り返します。

お皿の底面は平らな当てがねの上で叩いて平面を整えます。強く叩きすぎると形が張り出してくるので、加減しながら叩きましょう。

POINT

叩くときの姿勢も重要です。脇を締めて背筋を伸ばしましょう。鍛金作業はじっくりと時間をかけるので疲れがつきものですが、姿勢を正していると疲れが軽減され、余計な力を使わずに済みます。また、慣れるまでは槌目をきれいに並べるのが難しいのですが、あらかじめコンパスで複数の同心円を描いておくと、打つ場所の目印になります。

STEP 7

ヤスリで形を整える

  • 棒ヤスリで縁を整える
  • ガタガタしている部分を削る
  • 最初は#240で磨く
  • 直接触れる部分は#600番?#800番で

形ができたら次は削ってアウトラインを整えていきます。切り出した当初よりも縁がガタガタしているのは、金鎚で叩いたことで金属が伸びたから。その部分を棒ヤスリで削って整えて、触れたときのアタリを滑らかにしていきます。

ヤスリで形を整えたら、次は耐水ペーパーで表面をさらに滑らかにしていきます。耐水ペーパーは金属を研磨するときに使う紙ヤスリで、水につけながら研磨します。番手は#240~#800を使います。#240で側面部分を中心に研磨し、続けて#400で全体の表面を研磨していきます。粗いヤスリを使うと槌目も消えてしまうので、残したい場合は#240を使わずに#400から全体の表面を研磨する方が良いでしょう。#400が終わったら#600、#800と細かくしていきます。#800まで研磨すると、とても滑らかで使い心地のいいものができあがります。

アルミのお皿は柔らかいので、よく研磨すると槌目が消えてしまいます。槌目を残したい場合は800番で表面を均すぐらいにしてもよいでしょう。研磨した後で叩き直して槌目をつけてもいいと思います。それぞれの好みがあるので、実物を見ながら研磨してください。しかし、手で触る縁はどんな風合いにする場合も滑らかに仕上げたほうがよいでしょう。

STEP 8

酢で洗って酸化膜を取る

  • お酢に浸けて酸化膜を除去
  • クレンザーと重曹で磨き洗い
  • 磨き洗い後。色が変わっているのがわかる

でき上がったスプーンとお皿は、一度お酢に浸けて酸化膜を取り除きます。お酢の原液に直接浸してもよいですが、大きなものだと酢がもったいないので、酢1に対して水3といった比率で薄めたものでも大丈夫です。バットやボウルなどに入れて10分ほど浸します。水で酢を流したあとはクレンザーと重曹の順番で磨き洗いをします。クレンザーと重曹には、酸化膜の除去だけでなく酢につけて酸性になった表面を中和する効果もあります。磨き洗いをしたあと水洗いをして、布巾で水気を拭いて完成です。

STEP 9

暮らしのなかで使って直す

  • アウトドアで活躍するトレイルフードと合
  • 完成したお皿とスプーン
  • ?並んだ槌目のひとつひとつが手作業の証

お皿とスプーンを洗ったら、いよいよ食卓への登場。好きな料理をお皿に盛り付けて、スプーンを使って食べてみましょう。自分で作ったお皿とスプーンを使うのはとても嬉しいこと。ちょっと違った素材の仲間が加わったことで、いつもの食卓がさらに豊かになったのではないでしょうか。生活の道具としての愛着も湧いてきますね。使い込むうちに酸化するので、ときどきSTEP8のように洗ってお手入れをすると風合いが戻ります。そして、使い込むうちにより自分の体や生活に合う形が見えてくるはず。自分でつくったものは手直しもできます。もう少し形を変えたいと思ったら叩きなおせるのも鍛金の良さです。ぜひ、楽しみながら末長く使ってくださいね。

実践したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。

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MATOME
まとめ

金鎚や当てがねなどの「道具をつくるための道具」を自作し、それらの道具を自分の手で使い、限りなく素材と近い距離で加工する。これは人が初めて金属を手にした時代とさほど変わらない方法です。そんな技術で制作していることが、ときおりとても不思議に思えてきます。鍛金は地道で根気がいる作業です。すぐに形は変わらず、大胆な変化はありません。たくさん作ることはできませんし、とても時間がかかります。しかし私は、その制作工程に意味があり、大切なことが詰まっていると感じています。

現代の鍛金では素材として整った真鍮板や銅板を使って製作しますが、これらは自然の鉱石だったものです。採掘して溶かし、整形して手元に届きます。考えれば考えるほど、大きな力が働いて成り立つ産業だと感じます。そんな素材を一打ずつ叩いて、自分がイメージするうつわをつくりあげていきます。ゆっくりとつくるから見えてくることもあります。意気揚々とつくる作品からは、利用できない端材が生まれます。それは私にものづくりに伴う負荷を見せつけます。

本来の道具にはそんな負の面が備わっていることや、ものづくりにはとても手間がかかることを鍛金は教えてくれます。だからこそ、曲がったり凹んだりしたものを直しながら使い続けようという気持ちも生まれてきます。

作りっぱなしではなく、その製作の途中の手間や完成の先を見据えてものづくりをする。鍛金はそんな視点も与えてくれるように思うのです。

GROW CHART
成長スコアチャート
野性3
5知性
3感性
アクティビティ
つくる
環境
季節
春 ・ 夏 ・ 秋 ・ 冬
所要時間
4時間~6時間
対象年齢
小学生高学年以上
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