岩宿博物館の友の会「石器作りサークル」の代表。自身の石器作りの技術を深めるかたわら、地域の子どもたちやワークショップの参加者を対象に石器作りの指導を行なう。石器作りだけでなく古墳めぐりも楽しむ。Xでは、「岩宿の石器」名義でワークショップの開催予定や石器の魅力を発信中。
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かつて、日本には旧石器時代の文化はないと考えられていました。しかし、在野の考古学者である相澤忠洋が群馬県みどり市の関東ローム層から石器を発見したことでこの定説は覆りました。相澤が石器を発見した岩宿遺跡からは約3万5000年前の後期旧石器時代初頭の石器が出土しています。これらの石器を収蔵する岩宿博物館(2026年秋まで改修で閉館中)では、黒曜石を使った石器作りのワークショップを開いており、その指導に石器作りサークルのメンバーがあたっています。この記事ではガラス質の石から石槍をつくり出す基本の技術を紹介します。
黒曜石
必要量
ガラス瓶
必要量
丸石
1個
鹿角のハンマー各種
数本
革のシート
1枚
革製スペーサー
1個
防刃グローブ
1双
ゴーグル
1個



打製石器作りでは鋭い石片が飛び散るので、長袖長ズボンで体を覆い、作業する手には防刃グローブ、目には保護のためのゴーグルを身につけます。足元は靴を履き、靴のなかに石片が入らないように注意して作業を進めます。
石の加工に必要な道具は、石を打ち割る丸石(鋭い角を丸めるのにも使います)、より精密に割るための鹿角を加工したハンマー、押圧で石片を割りとるための鹿角製押圧具、押圧の際の台座となる革製のスペーサー、足を保護する革製のシートなどです。
石を成形するハンマーは硬ければ硬いほどよいわけではありません。ほどよい柔らかさがあるほうが石を望む形に成形しやすく、鹿角は理想的な硬さを備えています。鹿角を手に入れたら、大きく割るためのハンマーと押圧に使いやすい部位を切り出して、ヤスリで削って打撃・押圧しやすい形に整えます。




打製石器はチャートや頁岩、安山岩などからも作られますが、私たちは天然ガラスともいわれる黒曜石を素材に使っています。他の石材は黒曜石より硬くて割りづらかったり、石目の影響で割れやすい方向が決まっていたりする場合があります。黒曜石はほぼガラスなので、材質も均質で割れやすく、性質を理解すると望む形に加工できます。
まずは大きな黒曜石の岩塊を丸石で叩いて、素材にちょうどよい剥片をつくりだします。このときに意識するのが「割れ円錐」の原理です。ガラス質のものは打撃を加えると打撃を受けた点から円錐状に割れが広がります。黒曜石を硬いもので叩くと、打撃された点から60°の角度で割れが走り、剥片を得られます。天然の石の形は千差万別ですが、材料の縁の角度が鋭角になっている場所を叩くと薄い剥片が取れます。何度か挑戦しているうちに叩くべき場所と力を入れる方向がイメージできるようになるはずです。
石槍は素材を薄く鋭くしてつくりあげていくので、石器の元になる剥片も薄く割れるのが理想的です。薄く大きく剥がれるように割り取ったものを使って、石槍に成形していきましょう。





石器の元になる剥片が得られたら、今度は鹿角をハンマーにして小さいかけらを剥ぎ取っていきます。叩き方のコツは石の縁すれすれをコン! と叩くこと。すると縁から割れ円錐が走り、叩いた点の裏側が薄く剥がれます。打撃された石の縁には鋭い角が生まれます。角の鋭さは脆さでもあるため、次に叩く前に丸石で鋭い部分をこすり取っておきます。そうすることで、次の打撃でも大きく剥片を剥ぎ取ることができます。
かけらを剥ぎ取るときに意識したいのが石の「稜」です。材料の面の中で取りたい厚みが縁に合流する部分が出っ張りになっています。その出っ張りから厚みの陵線に沿って割っていくようなつもりの方向で打撃を加えると、稜を剥ぎ取るような形で力が伝わります。石の厚みを取るときは、その厚みを下にして上からハンマーで縁を叩くと、割れ円錐がその膨らみを沿って進んで厚みが剥ぎ取れます。この法則を利用して、黒曜石から膨らみを取り、徐々に薄くしていきます。




鹿角のハンマーで叩いて薄い円盤状に近づけたら、今度は「押圧剥離」によって形を整えていきます。押圧剥離とは読んで字の如く、物を押し当てて石を剥がす技術です。石に接した状態で力を加えるので、打撃よりも正確に狙った場所を剥がし取ることができます。
この段階から注意したいのが石の形と厚みとエッジです。外形を整えつつ、二面の膨らみ方が均等になるように意識して剥ぎ取ります。また整える際には石槍のエッジも観察して、エッジが一直線になるように意識して石を剥ぎ取っていきましょう。
押圧剥離では、革を重ねて作ったスペーサーがあると便利です。剥ぎ取りたい部分をスペーサーの空間部分に載せ、鹿角を押し当ててパキッと剥がしていきます。このとき私は、腕の力だけでなく足の力も使っています。腿の間に石を握った手と鹿角を持った手を入れ、割りたい部分に鹿角を押し当てた状態で足を狭めることで石を剥ぎ取ります。そうすることによって腕の力だけで割るより強い力を加えることができます。




押圧剥離を繰り返しながら、石槍を機能的な形に整えていきます。どちらの面も均等な厚みで、先端は鋭く、エッジのラインはきれいな一直線になるように意識します。納得できる形になったら完成です。厚みが取れて薄くなると、折れやすくなります。最後の最後に真っ二つに折れてしまわないように注意して作業を進めましょう。
黒曜石からつくった石器はたいへん鋭いので、完成後の扱いには注意が必要です。また、不要になったからといって野外に捨てることも厳禁です。危ないことはもちろん、拾った人がふるい時代につくられたものと勘違いしてしまうかもしれません。




冒頭で黒曜石はほとんどガラスである、と書きました。ということは……ガラスからも石器がつくれます。ガラスは天然の黒曜石とは違って不純物が入らずに質が一定なのが利点として挙げられます。しかし厚みが無いためちょっとした力加減で折れるリスクが高く、難易度としては黒曜石よりも高いと感じています。しかし入手困難な黒曜石よりは手に入りやすいので、まずはガラスから挑戦してみるのもいいのではないでしょうか。
必要なのは底が厚い瓶と鉄の棒。瓶のなかに鉄の棒(ドリルの刃や釘などでOK。長さがあって適度な重みのあるもの)の尖っていないほうを底に向けて入れ、防刃グローブをして瓶の口を押さえて空中で鋭く上下させます。すると鉄の棒が当たった衝撃で瓶の底が丸く抜けます。落ちた瓶底が折れないように床にはやわらかいものを敷いておきましょう。底が抜けたら丸石で縁の出っ張りを削って円盤状に整えます。





ガラス瓶の底はある程度形が出ているので押圧剥離で整えていきます。鹿角で叩いて割っていっても良いのですが、もとが薄い材料なので、叩く場所や力加減を誤ると折れる危険性が高いので、押圧剥離で割っていく方は失敗が少ないです。瓶を加工するときに注意したいのが、底の形です。瓶底は内側に向かって凹んでいるので、凹面側の縁を剥離してできるだけフラットになるようにしていきます。凹面側から凸面側を押圧剥離して、両面の膨らみ具合が均等になるように整形していきます。


両面を剥ぎ取っていっても、終盤まで凹面の影響が残ります。円盤状になるよう剥ぎ取っていき、一回りも二回りも小さくなり、最後の最後にようやく両面の厚みが整ってきます。瓶底で作った石器は光が透過して色が美しいのが特徴。気に入った色の瓶からつくってみましょう。
なお、黒曜石とガラス瓶、どちらを素材にした場合も鋭いかけらが残ります。残ったかけらは注意して扱い、新聞紙とガムーテープなどでくるんで地域指定の割れ物の処理方法で片付けましょう。


黒曜石で石器をつくったら、切れ味を確かめてみましょう。前段で作った石槍は突き刺す道具なので切る道具ではありません。切れ味を体感するなら石槍ではなく黒曜石から剥ぎ取ったかけらを使います。黒曜石の塊から真っ直ぐで鋭い刃ができるように割り取ります。石槍作りの際に出たカケラの中から鋭い刃のあるものを選んで使ってみてもいいでしょう。
金属の刃物は研いで鋭くしています。そのため電子顕微鏡で拡大してみると手術用のメスでさえ研ぎスジがハッキリとみえます。しかし黒曜石の刃は叩き割っただけの刃なので、同じ倍率で見ても刃は滑らかなままです。これは相当の鋭さです。その切れ味は、肉を切ってみるとわかります。ふだん家で使う包丁よりもずっと軽い力で肉を切ることができます。また黒曜石のナイフは肉の脂身が刃にこびりつかないという利点もあります。包丁にこびりついた脂身は洗剤を使わなければ取れませんが、黒曜石は水をサッと流しただけできれいに取れて自然に優しいです。
ここで注意したいのが、切るのは肉だけにすること。大根のような素材を切ると黒曜石は簡単に欠けてしまいます。もちろん、切った肉を料理して食べるときは、肉を切るときに石のかけらが肉に残らないように注意しましょう。刃が薄いため少しの衝撃でも刃こぼれするので、切り方にも注意が必要です。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
私が子供のころ、父が家の畑から縄文時代につくられた石の鏃(やじり)を持ち帰ってきたことがあります。当時の人が硬い石を加工して精巧な石器をつくっていたことを不思議に思ったのを覚えています。それから数十年を経て、私は岩宿博物館の石器作りサークルの代表となり、毎月第3日曜に仲間と集まって石器をつくったり、小学校で石器づくりの指導を行ったりしています。石器づくりに興味をもたれた方は、ぜひ岩宿を訪れてみてください。