365日野草生活をおくる野草愛好家。自然観察指導員。多摩川野草会代表。日本全国で自然観察会を催行。著書に『見る・食べる・楽しむ まいにち野草』 がある。野草に関する情報発信するかたわら、野草をテーマにするグッズや映画、ドラマ、バラエティの監修も行う。最新情報はtwitterで発信中。アカウントは@365nitiyasou
春の七草のひとつに数えられるハコベ(はこべら)は、もっとも身近な食べられる野草。庭や家の近所に生えているのを知っている人も多いでしょう。人だけでなく、飼い鳥やウサギにも喜ばれる食べやすい野草ですが、消炎効果の高い生薬「繁縷(はんろう)」としても知られ、江戸時代には歯磨き粉の素材に使われていました。そんな素朴な歯磨き粉を再現してみましょう。


ハコベが茂るのは春から初夏。ほどよい湿度がある草丈の低い草原や林床でみつかります。コハコベ、ミドリハコベ、ウシハコベなどの種がありますが、利用するぶんにはこれらを見分ける必要はありません。姿が似ている草に有毒なものがあまりない点も野草観察入門者にはうれしいですね。花が咲いている時期が見分けやすく、また柔らかでもあるので、花のある時期に採集するのがよいでしょう。



ハコベの収穫に難しい技術はありません。すぐに刻んでしまうから扱いも大雑把でOK。柔らかな部分をむんずとつかんでちぎり、カゴに集めましょう。茂った株のなかにはいろいろな生き物が潜んでいるので水に沈めてから流水で丁寧に洗い、同時にほかの草(写真ではオランダミミナグサなどが混じっています)や繊維が硬くなった茎を取り除きます。水洗いと下処理が済んだら水をきっておきます。



ハコベの歯磨き粉の材料は……塩とハコベ。以上! 作業も「細かく刻んで塩と合わせて煎る」だけなので簡単です。水をきったハコベをできるだけ細かく包丁で刻み(←重要!)、その後、すり鉢やミキサーでペースト状にします。このペースト化が人力ではたいへん。私は擂り鉢でつくっていますが、最初に細かく刻むのが省力化のコツです。刻みがあまいといつまでも繊維が残ります。もっとも、必要なのは繊維よりもハコベから出る汁のほうなので、強い繊維が残った場合は汁だけ濾してそちらを使っても問題ありません。





ハコベがペースト状なったら塩を加えて混ぜ合わせます。私はハコベと塩の配合比率をハコベ5に対して塩1のでつくっていますが、塩とハコベを1:1でつくる人もいます。この配合比はつくる人によっても異なるし、ハコベの含水量でも変わってきます。シーズン後半のハコベの水気が少ないタイミングでは5:1では繊維質が多くなってしまいます。「絶対にこうでなくてはいけない」というものでもないので、ハコベペーストの粘度と濃さに合わせて塩を配合してください。
塩とハコベを合わせたら、焦がさないように弱火で加熱して水分を飛ばしていきます。一度はハコベの液と一緒になって見えなくなっていた塩の粒が確認できるようになり、バサっとした質感になったら火を止めて熱を飛ばし、手頃な小瓶に入れて保存します。


さぁ、できあがったらいよいよ歯磨きに挑戦。はたしてどんな使用感でしょうか。口にふくんでみると……「しょっぱーーーーーい!!!」ってなるはずです。主な成分は塩なので。塩のあとに感じるのは青くささとコク。ほんのり甘みも感じるでしょう。煎りかたにもよりますが、ほうじ茶に似た香りもあります。
塩の粒が主ですから、いきなり歯茎を攻めるのは禁物です。塩とハコベの繊維で歯をこすり、馴染んできたら歯周を磨きます。ある程度磨けたら新たなハコベ塩を盛って再度「しょっぱーーーーーい!!!」。さて、磨き終わったら、どうでしょうか。歯茎の引き締まりは感じられるでしょうか?
このハコベ塩、食べられるものでできているから料理にも使えます。おにぎりに振るとハコベの風味がアクセントになります。多めにつくったら歯磨き用と料理用に分けてもよいでしょう。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
ハコベ塩を使った歯磨き粉は現在市販されていない(ハコベ塩の流れを汲んで、会社の名前に残っているところはある)のですが、江戸時代には、いくつかの製造元があったようです。その効果は江戸時代の人も感じていたのでしょう。草が人体に効く、というと眉に唾をつけたくなる人もいるでしょうが、人に作用するのは草に含まれる成分のほう。植物には人を死なせるほどの毒をもつものもありますから、薬のように作用するものがあるのも当然です。正直な話をすると、私自身はまだ歯磨き粉としては絶大な効果を感じられていません(どうしても比較対象が現代の歯磨き粉になるので……)。しかし、ハコベの成分の効果は疑いません。ハコベは消炎効果をもつほかに、乳の出をよくすると言われています。私はこれを実感しました。かつて集中的にハコベを食べたときのこと。乳こそ出ませんでしたが胸が大きく張り出しました。それも、私のではなく一緒に食べている夫の胸が! 幸いなことに食べるのを止めたら元に戻りましたが、ハコベの成分にはそんな力もあるようです。この夏、こんな草花遊びとこぼれ話を『見る・食べる・楽しむ まいにち野草』という本にまとめました。植物の不思議とそれを楽しむアイデアをたくさん紹介しています。このハコベ塩や、WILD MIND GO! GO!で紹介したクズやドクダミの楽しみ方も収録しています。ぜひ、手に取ってみて下さい。