2023.09.151736 views

街を抜け出して「暗闇」と「自然の明かり」を楽しもう!

9

星 昇

(一社)湯本森・里研究所代表理事
現代では体験することが難しい「暗闇」を探しに行こう

私は今から14年前に、現在住んでいる福島県の山村に引っ越してきました。それまでずっと首都圏にしか住んだことのなかった私は、「空気が美味いってこういうことか!」とか、「隣近所の人たちとの会話が楽しい!」とか、都会とのいろいろな違いに衝撃を受けましたが、その中の一つに「夜が暗いな!」ということがありました。移住した集落は小さな温泉地だったこともあり、風呂は毎晩住民用の浴場へ歩いていくのですが、最初はその暗さになかなか慣れず苦労しました。ところがしばらくすると、「暗さ」にもいろいろなタイプがあることがわかってきたり、暗いことで得られる楽しさ、豊かさがあることに気づきました。今回は、そんな田舎暮らしに魅了された私からみなさんに、「暗闇の楽しみ方」をお伝えしたいと思います。

暗闇を体験しに出かける際は、安全のため単独での行動は避けましょう。大型の野生動物と遭遇する可能性もあります。クマやイノシシ等の生息する地域では、それらに出会わないよう、鈴を鳴らす等の対策をしましょう。また、くれぐれも許可なく私有地に立ち入らないようにしましょう。

READY
準備するもの
  • ライト(赤色灯機能付きか赤いフィルムを貼ったもの)

    2機

  • 虫除け

    1本

  • クマ避け(鈴、爆竹等)

    必要数

  • 星座早見盤

    1枚

  • レジャーシート

    1枚

STEP 1

夕暮れをじっくり観察しよう

  • 日没30分前の山間部。太陽はすでに山陰へ
  • 日没。黄昏からブルーモーメントへ

日没の時間帯、みなさんはふだん何をしているでしょうか。まだまだ仕事に追われている人、帰宅ラッシュの電車の車内にいる人、夕飯の準備などなど、人それぞれだと思いますが、なかなかのんびりと空を眺めるという時間って取れないものですよね。時にはじっくりと夕暮れを観察するというのも新鮮かもしれません。

日没の正確な時間は新聞の日付欄にありますが、いまではインターネットで簡単にわかります。日没の前後30分ずつ、合わせて1時間ほどを、夕暮れ観察に確保しておきましょう。

日没30分前。すでに空は茜色に変わりつつあります。影が長く伸び、山合ではすでに山の稜線に太陽が沈んでいるところもあるでしょう。

日没を迎えても、空はしばらく明るさを保ちます。この状態のことを黄昏とか、薄暮、トワイライトなどと言います。宵の明星とも呼ばれる金星が一番星として見えるのもこのころ。その後、徐々に空の赤みが薄れていき、あたりは青い光で覆われるようになり(ブルーモーメント)、最後に暗闇に包まれます。日没後30分ではまだ明るさが残っています。太陽の光の影響が完全になくなるには意外と時間がかかり、日没後1時間ほどを要します。

STEP 2

暗闇を体験できる場所を探そう

  • うす暗いキャンプを楽しむ
  • 人家から離れた田んぼの農道で撮影
  • キャンプ場。明るいサイトは快適だけど…

いま、市街地の夜は光であふれています。特にLEDの普及によって照明の自由度が増し、あらゆる商店の看板が光るようになってきています。そのため、暗闇を体験するには市街地を離れ、田園地帯や山村など、人家の疎らな場所へ行く必要があります。東京近郊のような大都市圏ですと、少しばかり郊外へ行っても、街の明かりが空を照らし、暗闇が得られないことがあります。そんなときは思い切り山奥へ足を踏み入れることも必要かもしれません。

さらに、星空を期待する場合は視界が開けた場所である必要があります。暗さを求めて山の中へ来たけれども、道路際まで大きな木で覆われていて空が見えない、なんてこともよくあります。そのためには、インターネットで閲覧できる衛星写真等を使って、伐採地や牧場、スキー場など、人家から離れていて高い木が少ない場所を事前に探しておくとよいでしょう。

キャンプ場も多くは人家の少ない場所にありますが、最近は快適さを求めて焚き火だけでなくいろいろな照明器具で周囲を明るくする傾向が強いように思います。以前私が湖畔のキャンプ場を利用したときのこと。他のキャンパーたちはみな思い思いにおしゃれなライトでテント周辺を明るくしていました。一方、私のサイトは小さなライトだけで、ほぼ真っ暗。ところがそのおかげで、周囲にたくさんのヘイケボタルが飛んでいることに気づきます。私と息子はホタルを捕まえたりして楽しみましたが、ほかの人たちはホタルがいることにまったく気づいていないようでした。キャンプにもいろいろな楽しみ方があると思いますが、このときはちょっとだけ得した気分になれました。キャンプへ行くとき、利用者の少ない時期を狙ったり、自分のサイトだけでも極力照明を使わないようにするなどして、わざと暗い環境を作ってみるのも時にはおもしろいと思います。

STEP 3

暗闇での目の働きを知ろう

  • ムササビの観察。刺激せぬよう赤色灯を使用

みなさんは明るい場所と暗い場所で、色の見え方に違いがあることにお気づきでしょうか。これには目の網膜にある視神経の構造が関係しています。視神経はその形から、桿体細胞と錐体細胞という2種類の細胞に分けられます。桿体細胞はわずかな光でも感知できる代わりに色が分かりません。一方錐体細胞は感度が低い代わりに色が分かります。暗い場所では錐体細胞がほとんど機能せず、主に桿体細胞で見ているため、色が分かりにくい、モノクロの視野になるのです。また、目の視野の中心部分には錐体細胞が集中しており、桿体細胞はありません。そのため暗い場所では視野の中心部分の視力が下がります。ためしに寝室など暗い部屋で物を見るときに、視野の中心で見た後に、同じものを視野の少し周辺で見るようにしてみましょう。暗い場所では視野の中心は見えにくいのが分かると思います。

なお、夜行性の動物の目は桿体細胞が発達しており、わずかな光でも鮮明に見えるようになっています。その代わりに錐体細胞が少なく、色はほとんど識別できないようです。

ところで、暗所で使用することの多いアウトドア用のヘッドライト等には、赤い光に切り替える機能があるものがあります。これは特に赤い光を感知しにくいという桿体細胞の特徴を利用し、暗所での視力を阻害しないようにしてあるのです。これは夜行性の動物を観察する際にも、動物への刺激を最小限にする効果があります。暗闇で行動する際には、赤色灯モードや、ライトに赤いセロファンを貼るなどして、通常のライトと使い分けるとよいでしょう。

STEP 4

月明かりと雪明りを体感しよう

  • 月が照らす夜道。月夜はライトがいらない
  • 月夜は肉眼でも影が見えるほど明るい
  • 元日未明の神社。蝋燭と雪明り

市街地にいると街灯や商店の看板の明かりのために「月明かり」を意識することはまずありません。ところがひと気のない所へ行くと、夜空に月が出ているかどうか、さらには月齢によって、周囲の明るさが大きく変わることが実感できます。

月齢はインターネットでかんたんに調べることができます。新月なら一晩中月は現れませんが、満月の夜はほぼずっと月が出ています。三日月や上弦の月は夜の前半。下弦以降の月齢なら、夜半過ぎに月が上ってきます。

試しに満月の前後を狙って、田園地帯などの開放空間に行ってみましょう。周囲に明かりなどなくても徐々に目が慣れてきて、月明かりによって景色が見えることがわかると思います。月によってできる自分の影も新鮮に感じることでしょう。さらに本当にごくまれにですが、月が明るい夜の雨上がりには月の光によってできる虹「月虹」が見えることがあります。ステップ3で説明したように、弱い光では人間の目は色を感じにくいため、月虹も実際には虹色をしているのですが、白いアーチとして見えます。私もこれまで一度だけ見たことがあります。

雪国にお住いの人や、スキーなどで雪のある場所に行った時には、ぜひ「雪明り」も体験していただきたいです。月が出ていればほかに明かりなどなくても夜道を歩くことができ、山肌もはっきり見ることができます。

STEP 5

闇夜を体験しよう

  • 電灯を消すと見えるもの聞こえるものがある

さて、これまでは人工的な光の少ない所で、自然の明かりを体験してきましたが、こんどは「暗闇」にチャレンジしてみたいと思います。長年写真を趣味にしている人の中には、昔「暗室」にこもってプリント作業をしたことがある人がいると思います。私もその一人ですが、暗室は換気扇すらも遮光仕様になっており、文字通りの真っ暗闇です。そこでライトを付けずにいると、目を閉じても開けても同じ真っ暗闇というのを経験できます。

では新月のころを選んで、夜の山へ出かけてみましょう。そこでライトを消すと、条件がよければ目を閉じても開けても同じ、という状態を体験できるはずです。ただし、これだけではすぐに飽きてしまうと思います。でも大丈夫です。自然界には光以外にもさまざまな情報があふれています。風で木々が揺れる音、沢を流れる水の音、虫や鳥、動物の鳴き声や動く音。目からの情報がない分、聴覚が研ぎ澄まされてくるのが分かるでしょう。

さらに目が慣れてくると、まったくの暗闇だと思っていた場所でも、徐々に光を感じるようになってきます。それは空に輝く星だったり、遠くの街の明かりだったり、昆虫やキノコが発する光だったりします。

ここからが、本当の暗闇の楽しい時間の始まりです。

なお、暗闇に目が慣れた状態でライトを付けたりスマホを見たりすると、再び目が鳴れるまでに時間がかかるので、極力見ないようにします。ライトをつけるときには赤色灯を使うようにしましょう。

STEP 6

夜空を楽しもう

  • 蓄光塗料を使う道具はライトなしで視認可能
  • 星座早見盤は赤色灯で見よう
  • 夏の大三角と天の川
  • さそり座付近の天の川。流れ星も写った
  • 冬の星座と人工衛星

月の無い夜、天気をチェックして出かけましょう。空を楽しむなら、田園地帯の田んぼのど真ん中や、山の中なら周囲に高い木の無い開けた場所がおすすめです。街の明かりが届かない海岸でもいいと思います。ライトを消して暗闇に目が慣れてくると、空には満天の星が見えるはずです。
星座早見盤があるときは、赤色のライトで照らしながら観察すると、視力を阻害せず見ることができます。最近はスマホを空へ向けるとそこにある星座を表示する「AR早見盤」なるものも登場していますが、スマホのバックライトは暗闇ではかなり明るいので、光量を最小にしてから利用するとよいでしょう。

条件が良ければ天の川も見えるはずです。特に夏の天の川は明るいのと、場所が分かりやすいため、観察もかんたんです。7月から9月にかけて、日没後から夜半くらいまで、夏の大三角と呼ばれる明るい星で構成された三角形が見えると思います。その三角の中を南北に貫くように、ぼんやりと明るい雲のようなものが見えるのが天の川です。南へ行くほど明るくなり、地平線の近くでいて座やさそり座と重なるあたりは、最も明るい天の川銀河の中心部にあたります。

せっかくなので、地面にレジャーシートを敷いて仰向けに寝転んでみましょう。じっくりと空を見ていれば、流れ星や人工衛星が飛んで行くのが見えます。流れ星は流星群の時期でなくとも、5分に1個くらいはふだんから見えるものです。また日没後または日の出前のそれぞれ2時間ほどの間は、人工衛星の観察にも向いています。人工衛星は一見飛行機のように空をゆっくり動いていくのが見えますが、飛行機と違って点滅せず、星がそのままスーッと動いているように見えるのが特徴です。これも意外と多くの人工衛星が見えることに驚くこと間違いなしです。

時分針と秒針の先端部、文字板のインデックスに赤色の蓄光処理を施し、宵闇に浮かぶ焚き火の炎を表現した PRO TREK PRW-6900BFはこちら↓
https://www.casio.com/jp/watches/protrek/products/prw-6900bf/

STEP 7

暗闇で光る生き物を探しに行こう

  • ヤコウタケ。倒木全体がぼんやり光っていた
  • ゲンジボタル
  • ホタルの飛翔。目が慣れるとよく見える
  • 森の暗闇で光っていたクロマドボタル

ステップ5のように、暗闇で徐々に目を慣らしていくと、思わぬものに出会うことがあります。私の場合は森の中で光るキノコ「ヤコウタケ」でした。

光るキノコで有名なものとしては、ツキヨタケがあります。ブナの木の幹にびっしりと生えるようすはなかなか壮観ですが、光はそれほど強くなく、肉眼ではぼんやりと緑色に見える程度です。一方のヤコウタケは、薄暗い林の中だと昼間でも光っているのがわかるほど強く光ります。私が見つけたヤコウタケは子実体(キノコの傘の部分)だけでなく、菌糸が回った倒木まで光って見え、とても幻想的でした。ヤコウタケは都道府県によっては絶滅危惧種に指定されるような希少種ですが、真っ暗な森を歩くと、こういう出会いもあるわけです。実際には偶然出会う機会などなかなかないかもしれませんが、光るキノコを観察するツアーなどは各地で開催されています。そういうところへ参加するのもおすすめです。

「暗闇で光る」といえば、ホタルを思い浮かべる人も多いでしょう。ホタルは光ることでオスとメスが出会います。清流にすむゲンジボタルや、田んぼや湖にすむヘイケボタルが有名ですね。種類や地域によって少しずつ見られる時期が違いますが、いずれも6月から7月の、蒸し暑くて風のない夜がもっとも観察しやすいです。これらを見るときも、まずはライトを消して暗さに目を慣らすことが大事です。

ホタルというと水辺にすむイメージが強いですが、実は森の中にすむホタルの方が種類は多いです。明るく光るヒメボタルなどもいますが、多くはほのかに光るか、まったく光らないものもいます。ヤコウタケを観察していたとき、近くのササの上で小さく光るものを見つけ、ライトを当ててみたらクロマドボタルという森林性のホタルの幼虫だったことがあります。これもライトを消して真っ暗にしていないと、見つけることができなかったでしょう。

STEP 8

ナイトハイクで闇夜の生き物観察会

  • 樹皮に残るムササビがよじ登った跡
  • ムササビのフン。木の根元に落ちていた
  • 暗がりで光を反射するムササビの目
  • 木の梢近くまで登り、滑空する
  • トラツグミ。妖怪「ぬえ」の正体

近年の登山ブームで、夜の登山「ナイトハイク」も流行しているようです。主に星空や夜景を見ることを目的としていることが多いようですが、ここではちょっと趣向を変え、闇夜の生き物観察会をご紹介します。

暗くて生き物など観察できるのかと思われそうですが、哺乳類の多くは人間の活動しない夜間の方が活発に行動することが多いですし、野鳥にも夜行性のものがいます。ここではそういう生き物たちの観察のしかたのコツを伝授します。

まずはムササビに会いに行ってみましょう。各地で観察会が開催されていたりもしますが、探し方がわかると自分で生息場所を見つけることもできます。ムササビを見つけるには、事前に下調べをします。雑木林に隣接した神社やお寺など、郊外の樹木の多い場所へ行ってみましょう。木の根元を丹念に探すと、5mmほどの丸い木くずの塊が見つかることがあります。何を隠そうこれが「森の正露丸」などとも呼ばれるムササビのフンです。これがたくさん見つかる場所にはムササビが訪れています。ムササビは日没後30分ほど経つと巣穴から出てきて、エサを探して林の中を移動します。粘り強く待っていると、ムササビに出会うことができるかもしれません。

もうひとつは夜のバードリスニングです。バードリスニングとは、鳥の鳴き声を聞くことです。ひっそりとした夜の森を歩いていると、意外と多くの鳥の声が聞こえることに気づきます。わが家の辺りでよく聞こえるのはトラツグミの鳴き声です。夜、どこからともなく「ヒー…ヒー…」と悲しげな声が聞こえてきます。これを昔の人は「ぬえ」という妖怪の声だと思ったようです。「キョキョキョ…」と鳴き続けるヨタカも宮沢賢治の童話の題材になりました。夜鳴く鳥というのは妖しく人の関心をひくものがあるのかも知れません。ほかにもフクロウの仲間やホトトギスなど 夏の夜に鳴く鳥は多く、ナイトハイクの楽しみの一つと言えます。動画投稿サイト等でこれらの鳥の鳴き声を確認することができます。事前に覚えておいて出かけるとよいでしょう。

STEP 9

『やった!レポ』に投稿しよう

完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。

MATOME
まとめ

今回は夜本来の暗さや、暗いからこそわかる光の楽しみ方、夜の生き物観察を中心にご紹介しました。いったん夜の暗さを味わうと、その豊かさ、おもしろさを感じてもらえるのではないでしょうか。利便性や防犯上の都合から、どうしても市街地では夜をどんどん明るくする方向へ進んでしまいがちです。ひょっとすると現代においては「暗さを楽しむ」のはとても贅沢な嗜みなのかも知れません。安全対策を万全にしたうえで、ぜひみなさんも暗闇を探しに出かけてみませんか?

GROW CHART
成長スコアチャート
野性3
4知性
4感性
アクティビティ
感じる
環境
山 ・ 川 ・ 森 ・ 海
季節
春 ・ 夏 ・ 秋 ・ 冬
所要時間
1時間~3時間
対象年齢
4才以上(保護者同伴)
やった!レポを投稿
写真とコメントをみんなと共有しましょう。
※画像サイズが大きい場合、通信料などがより多く発生します。
ログインしてやった!レポを投稿しよう!
※投稿するにはログインが必要です。
Profile
あと140文字
EVERYONE’S REPORTS
みんなのやった!レポ
コメント
Profile
あと140文字
クリップしたユーザー(3人)
LATEST HOW TO
新着のHow To
NEWS
お知らせ
THEME
テーマ