千葉県木更津市の築100年を超える古民家をベースにして、竹を生活と社会に取り込む方法を研究。定期的に古民家で竹細工のワークショップを行うほか、日本全国で竹細工の出張講座も展開。日々の活動内容と最新情報を各SNSで発信中。
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近年各地で問題になっている放置竹林。暗く見通しの利かない竹林は獣たちのすみかとなり、そこから夜な夜な獣たちが田畑へと遠征してくるようになっている。ところがほんの数十年前までは、竹林は生活に必要な資源を生み出す宝の山だった。春にはタケノコが生え、その材はさまざまな生活道具の素材に使われてきた。竹林の価値は今も昔も変わらない。変わったのは私たちの手からそれを活用する技術が失われたこと。もう一度竹を生活に生かす技術を身につけて、地域の竹林に息を吹き込んでみよう。





若い竹や老いた竹も混じる林から、3~4年生の節の間が長い竹を選んで伐りだす。竹細工の素材としてはマダケが一般的だが、地域や地形、竹林の日当たりによってもその質は大きく変わる。場合によっては同所に生えるモウソウチクのほうがマダケより質が良いこともある。
竹を伐る時期は10~12月の新月がベスト。冬季は材に含まれる水分と養分が少なく、新月だとさらに含まれる水分量が減る。このタイミングで伐った竹でつくると製作物がカビにくい。……とはいえ、必要なときこそいちばんの伐りどきなので、手に入る種類の竹を必要なときに伐って利用すればよいだろう。
竹を伐る際、節の直上で伐ると残った竹に水が貯まらず、ボウフラの発生を抑えられる。その反面、伐った竹がドスンと地面に落ちると地面にめり込みやすい(切った側に節があるとめり込みにくい)ので、状況に合わせよう。
伐り倒して枝をはらったら、林から搬出して製作物に合わせた長さに切り出す(今回は約70cm)。その際は節から1cmほど離れた場所で節と平行に切り落とす。切る位置が節に近すぎると材が厚くなり作業しにくくなる。
切りたての竹は汚れているのでスチールタワシを使って汚れを落とす。節の周辺は汚れが強いのでとくに念入りに洗う。洗い終えたら布で拭き上げて乾かす。
節には「竹皮部」と呼ばれる小突起があり、そのままにしておくと作業をする上で不都合なので竹割り包丁の刃を竹皮部に当て、竹を回転させて削り落とす。この作業を「節繰り(ふしくり)」という。





竹には上下があり、生えているときに枝先側になるほうをウラ、根側をモトと呼ぶ。竹を割る際は、必ずウラ側に刃を入れる。切り出したあとの竹は節を見ればウラ、モトがわかる。節を横から見たときに竹皮部がある側がモトだ。竹を均等に割り出すためのマーキングをスミ付けと呼び、スミ付けは必ずウラに施す(ウラのほうがモトより細いため)。使う道具はけがきコンパスか安価なノギス。必要な竹ひごの幅に1mmほど追加(例:6mm幅がほしいときは7mm)して、ウラ側の切り口付近に軽く傷を入れる。
竹を必要な幅に分割する作業が「割り」だ。スミを目印にして竹割り包丁を切り口に当てて1/2、1/4……と大きく分割し、そのあとスミに合わせた幅に割っていく。真っ直ぐ割るコツは竹の繊維に対して真っ直ぐ刃を入れること。ある程度刃が入ったら竹割り包丁をこねるようにすると繊維に沿ってパン、と両断される。節にある「節板」も適宜叩いて除いておく。
竹を細く割る際は、非・利き手で脇に材を保持し、利き手で保持した竹包丁を引きつけるようにする。引きつけた利き手が自身の胴で止まるようにすると、刃先が流れてケガをすることがない。
身竹と呼ばれる竹の内側の組織は繊維が粗くて利用できない。使わない身竹と表皮を分ける作業が「剥ぎ」だ。竹細工では数度の剥ぎを経て竹ひごをつくりあげるが、最初に行う剥ぎを「粗剥ぎ」と呼ぶ。粗剥ぎでは、表皮側の厚みが1、身竹側の厚みが2になる比率の場所に刃を入れて分離する。竹割り包丁の刃をウラ側から食い込ませて表裏を分けたら、竹割り包丁を刃部分から根元側へとスライドさせ、楔状になった胴金を挿し入れて繊維を表裏に分けていく。
今回は作業効率を高めるために竹ひご2本ぶんが繋がった状態で粗剥ぎを行ない、その後2本に分割した。しかし、不慣れなうちは竹ひご1本ずつに分けてから粗剥ぎをしたほうがやりやすい。
粗剥ぎ、分割が済んだら竹ひごをもう一度剥ぐ。この工程が中剥ぎだ。中剥ぎでは竹ひごを身竹側と表皮側のちょうど真ん中で剥ぐ。1:1の比になる場所に竹割り包丁を入れて剥ぎ、表皮側だけを使う。





竹ひごの幅を揃える作業が「幅取り」。幅取り台に2枚の小刀の刃を突き立て、2つの刃の間にひごを通すことで竹ひごの幅を均一にする。まずは台の天面につくりたい竹ひごの幅で2枚の小刀を打ち込む。この小刀の刃は左利き用小刀と右利き用小刀をワンセットにするのが理想だが、替え刃式切り出しナイフの刃2枚でも代用できる。ただし、この替え刃には左右がないので打ち込む際には角度の調整にちょっとだけコツが必要だ。
刃を打ち込む際に注意したいのが左右の刃のエッジの位置。2本のエッジが前後しないように、またエッジの角度の閉じ開きが左右で大きく変わらないように注意したい。刃の逃げ角も重要で、それぞれの刃が内側に入りすぎても外側に開きすぎてもうまく削れない。また、それぞれの刃は切先から元側に向かってやや後傾するようにして台に打ち込むと、繊維に対して角度がつき、余分をスムーズに削り取れる。
幅取り台の調整が済んだら、竹ひごを表皮側を下にして刃の間に通し、棒で上から押さえて竹ひごを引いて幅を整えていく。竹ひごを引く際、2枚の刃の両側にシュルシュルと余分が削り出されるのが理想的。左右のどちらかだけから余分が出る場合は片側だけを削ってしまっている。
幅取りが終わったら小刀の刃を抜いて、刃をV型に打ち替える。この刃に表皮を当てて、上から軽く押さえながら引くことで面取りをする(竹ひごを引く際はモト側からウラ側へ)。



粗剥ぎと小割り、中剥ぎ、幅取り、面取りを経て、ひごは1.6mmほどの厚みになっている。これに竹割り包丁を入れてさらに薄く剥いでいく。竹割り包丁をひごに食い込ませて表裏を分けたら、胴金の部分で割り開き、厚み0.8mmの表皮ひごと身竹ひごに分ける。身竹ひごの内側の組織はやや粗いので、ひごにしたあと竹割り包丁の刃先と当て布の間に挟んでスライドさせ、表面を整える。全長700mm、幅6mm、厚み0.8mmの身竹ひご6本、表皮ひご12本が用意できれば準備完了。





数ある編み方のなかでも基本的かつ応用も利くのが六角形の網目を重ねていく「六つ目編み」。六つ目編み波縁かごは、底部を六つ目編みでつくり、残ったひごを波型に編み込むかごだ。
編む前に覚えなくてはいけないのは基本の用語。2本のひごが重なるとき、ほかのひごの上にくることを「おさえ」、下になることを「すくい」という。竹細工ではいくつものひごでおさえとすくいを連続させることで構造をつくっていく。
最初に使う6本は表皮ひご。2本をクロスさせたら、3本目は1本目をすくい、2本目をおさえる形で挟み込む(写真2)。4本目は2本目をすくい、3本目をおさえるかたちで1本目と並行に並べる(写真3)。5本目は3本目をすくい、4本目をおさえ、1本目をおさえる形で2本目と並行に並べる(写真4)。すると、5本のひごでダイヤモンド型に囲まれる五角形の空間が生まれる。この形ができたとき、ダイヤモンドの右側に伸びる2本をすくい、ダイヤモンドの左に伸びる2本をおさえるのが六つ目編みの大事なルールだ。
実際に6本目を差し入れてみると(写真5)のようになるが、ただ差し入れるだけでは六角形の構造をつくれない。次の手順は事項で解説する。





6本目を挿入したら、それぞれのひごをできるだけ中心に寄せて、生まれた六角形をきつくしめる。そのあと赤丸の部分のひごの上下を入れ替えて6本目が外にはずれない構造をつくる(写真1)。これによってかごの中心となる六角形がつくれた。このときにひごの節がそれぞれのひごをおさえる場所にくるように調整しておく。
6本の表皮ひごで六角形をつくったら、続けて7本目として身竹ひごを加える。挿入するのは写真の位置。このとき、7本目のひごの節が2段下のひごの節と一直線上にくるように配置する(写真2)。
7本目を加えたら、全体を左へ60度回転させる(写真3)。するとダイヤモンドができているので、ダイヤモンドルールに則って、ダイヤモンドの右上に伸びる2本をすくい、左上に伸びる2本をおさえる形で8本目のひごを挿し入れる(写真4)。これで六角形が2つできた。それぞれの形を整えつつひごを寄せて締め、網目を密にする。その後、赤丸部分のひごの上下を入れ替えて8本目を固定する(写真5)。





再び全体を60度左へ回転。ダイヤモンドができているのでルールに則って9本目を追加し(写真1)。赤丸のひごの上下を入れ替えて固定する(写真2)。10本目、11本目の手順はここまでと同様。ひごの挿入と交差部の上下入れ替え、60度回転の繰り返しになるのでこの手順の写真は割愛。
12本目を加える前、写真3の状態になるとダイヤモンドがふたつできていることに気づく。この場合はふたつのダイヤモンドから右上に伸びる3本をすくい、左上に伸びる3本をおさえる。
写真4は12本目を挿入した状態。このあと写真5のように赤丸の交差部のひごの上下を入れ替え、13本目の表皮ひごを加え、黄丸の交差部のひごの上下を入れ替えて固定する。
14~18本目は、60度回転とダイヤモンドルールに則ったひごの追加、交差部のひごの上下入れ替えを行う。



全18本のひごを編み上げると、中心に表皮ひごでつくった六角形ができ、その外に身竹ひごでつくった六角形、さらにその外に表皮ひごでつくった六角形ができる(写真1)。このあとの作業では、いちばん外側の六角形を意識することが重要になってくる。編み上がったら六角形の頂点に目立つシールなどを貼ってマーキングしておくとまちがいにくい。
このあとの作業では縁を立ち上げる。曲げ癖をつけるために一度裏返して底を押さえて外に広がるひごを内側にたわめて曲がりやすく整えておく。





このあとの作業では六角形の頂点(橙色で示した)の左右に位置する3本(表皮ひご、身竹ひご、表皮ひごの3本)をワンセットで扱う。頂点の左側にくる3本を左トリオ、頂点の右側にくる3本を右トリオとする。
最初に任意の頂点の左側にある左トリオをつかんで束にする(写真1)。続けて右トリオと次の頂点の左トリオをかわして、次の頂点の外側を通して写真で示した六角形のなかに収める(写真2)。大きな六角形を構成する小さな六角形のうち、頂点に関係しない小さな六角形(青丸の枠)に収める、と覚えるとわかりやすい。この処理をすべての頂点の左トリオで行う(写真3)。トリオの束を収めていく際、3本のひごの位置関係が入れ替わることがある。表皮ひご、身竹ひご、表皮ひごの位置関係のまま処理するように意識しておく。
左トリオの処理を終えたら、今度は右トリオを収めていく。右トリオが収まる位置は左隣の頂点の外側。そこにはふたつ隣の左トリオの束が流れてきているので、その束と頂点の間の隙間に右トリオを収めていく(写真4)。これをすべての右トリオで行う(写真5)。左右のトリオが収まったら外側から縁を内側へと揉み込み、曲げ癖をつける。




すべてのトリオを収めて、縁を内側へとたわめて曲げ癖をつけたら、ステップ8で青印で示した枠から左トリオを引き抜く。右トリオがすでに外側から押さえ込む構造をつくっているので、左トリオを抜いても縁はばらけない(写真1)。
続けて、左トリオの束をつかみ、ひとつ左隣の頂点の外の枠に収める。これをすべての左トリオで行う(写真2)。左トリオが収まったら、今度は右トリオを収めていく。右トリオが収まるのは頂点の左隣の枠。左トリオの束を上から越えて、頂点の下へ入る流れで収めていく。写真3では赤の矢印が左トリオの流れ、青の矢印が右トリオの流れとなる。
すべてのひごを収めたら、かごの内側に出ているひごをカットして完成。小さな六角形をひとつまたぐ長さで切ると始末が良い(写真4)。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
日本人は野山の天然素材を活用してさまざまな生活の道具をつくってきた。しかし、それを実践してみようとすると、身につけなくてはいけない技術とかかる手間の多さに途方に暮れてしまう。その点で竹細工はほかの伝統工芸と比べて取り組みやすいのが特徴だ。少ない道具と比較的短時間の修練で作品を生み出すことができる。材料は近所にふんだんにあり、使えば使うほど地域から喜ばれる。実際の生活のなかで使える道具を生み出せて、壊れても自分で修理ができ、使い終えたときには再び土にかえる。「竹林と自分」だけで完結できることも魅力だ。一度技術を身につければ生涯楽しめる竹細工。竹をもう一度資源としてとらえなおしてみてはどうだろうか。
なお、六つ目編み波縁かごの編み方、竹の割り方、幅取りなどの手順とコツをYoutubeの房総竹部のチャンネルで紹介している。写真と文字ではわかりにくい部分も動画ならわかりやすい。ぜひ参照してほしい。