人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
「カメラオブスクラ」は現代のカメラの基礎となった道具。小さな穴(ピンホール)から入り込んだ光は上下左右反転した像を穴の反対側にある壁に映します。この現象を利用して、カメラオブスクラは風景などを正確にトレースすることに使われました(カメラオブスクラには撮影の機能はなかったため、当時は映り込む像を手でなぞって描画していました)。ピンホールのかわりに安価なレンズを用い、さらに撮影する機能もつけたのがここで紹介する段ボールカメラです。現代では日常的な行為となった「撮影」の源流を素朴なカメラで体験してみましょう。
段ボール
1㎡ぶん
虫メガネ
1個
布ガムテープ
1巻
黒ケント紙
1㎡ぶん
両面テープ
1巻
半透明の袋
1枚
サイアノタイプ薬液
1セット
カッター
1本
カッターマット
1枚
刷毛
1本
ビーカー
1個
バット
1枚
カメラオブスクラは、ぴったり重なるふたつの筒で構成されます。筒の前面にはレンズ、後ろ側にはスクリーンをつけ、ふたつの筒をスライドさせることで焦点距離を調整します。筒の中での乱反射を防ぐために、内側には黒い紙を貼って光の反射を防ぎます。
この筒のサイズは使うレンズの口径や倍率によって変わります。大きいレンズほど光を取り込む量が多くなるので、ホームセンター等の拡大鏡売り場でいちばん大きいレンズを買い、それに合わせて筒のサイズを決定します。
今回入手できたレンズは口径90 mmで倍率は2倍。テストしたところ50cm前後の場所で焦点がむすばれたので、内筒の内径を20cm×20cm、長さ50cmとしました。外筒の長さも同じく50cmとしましたが、内径は内筒が入るぶん(20cm×20cm+段ボールの厚みとなる)若干オーバーサイズにします。
段ボールに折り目をつけて黒いケント紙を内側に貼り、接合部をテープでとめれば2つの筒の完成です。筒どうしに遊びがあるときれいな像を得られないので、力をいれるとズルッとずれる程度のはめこみ具合を目指しましょう。
外筒の内径にぴったり合うサイズに段ボールを切り出し、その中心に虫メガネから取り外したレンズを挿入します。外したレンズを紙にあててペンで外周を写しとり、丸く切り抜いてレンズをはめこみます。そのままではレンズが落ちてしまうので、短冊状に切ったテープでレンズの辺縁部を1~2mm押さえつけるようにします。この処理を段ボールの両側から行うとレンズが固定されます。
レンズを通った光が像を映すスクリーンをつくります。このスクリーンに必要な機能は、とりはずしができて、光をある程度通し、印画紙を保持できること。この機能を満たせばどんな素材、構造でも構いません。
今回は内筒にぴったりの枠を段ボールでつくり、そこに半透明の袋を長方形に切って貼り付けました。スクリーンの前面には2枚の細長い段ボールのレールを貼り、ここに印画紙を挿入できる構造にしました。
スクリーンの位置が一定でないと、印画紙を挿入したときに像を結ぶ場所とずれてしまいます。内筒に段差を設けて、押し込んだスクリーンが必ず一定の場所でとまるように細工します。スクリーンはレンズに対して平行でなくてはいけないので、今回は細く切り出した段ボールを内筒の内側に貼り、スクリーンを押し込むとレンズとスクリーンが平行になるように細工しました。
残った段ボールがあるなら、外筒の縁に何周か巻いて持ち手を兼ねた補強材にすると、箱が歪みづらくなります。2つの筒ができたらいざ挿入。力を込めれば筒をスライドできて、手を離しても筒が動かない程度の保持力が理想です。
装置としての完成を見ましたが、このままでは手で持ち続けなくてはいけません。三脚と接続できる台座をつくりましょう。今回は手頃な板に三脚のネジの規格と同じW1/4のナットを埋め込み、カメラオブスクラを載せる台としました。この台を三脚に接続して、カメラオブスクラを載せてゴム紐などで固定すると、普通のカメラのように構図を保持することができます。
カメラオブスクラが完成したら、手近なものをのぞいてみましょう。スクリーンには何やらぼんやりとした像が映っているはずです。内筒を前後にスライドさせていくと、どこかで焦点が合い、スクリーンに上下左右が入れ替わった像が映し出されます。
このスクリーンに印画紙を貼り、任意の時間露光して現像すれば写真が撮れます。大判カメラ用の印画紙を使うと鮮明な写真を撮影できますが、大判カメラ用の印画紙は現像が大変です(薬液や暗室が必要)。市販の日光写真体験キットを用いると簡単に撮影できます。
今回は「サイアノタイプ」と呼ばれる青写真を焼く技法を紹介します。これは紫外線に反応して青く発色する薬品を紙に塗って印画紙とするもの。2液を決められた配合比で混ぜ合わせ、画用紙に塗って乾かすことで印画紙とします。紫外線に反応してしまうので配合と塗布、乾燥の工程は室内で行い、野外に持ち出すときは日光を当てないように注意しましょう。
サイアノタイプは紫外線で感光するため、紫外線量の多い晴天が撮影に向いています。そして、紫外線の反射率の違いによって影の濃淡が変わるので、反射率の異なるもので画面が構成されていることが重要です。例えば芝生の丘の手前に樹木がある、といった構図の場合、樹木はほとんど写りません。芝生と樹木の紫外線の反射率がほとんど同じだからです。樹木の背景となるものは空や岩など、紫外線の反射率がちがうものでないと影を撮影できません。
撮影時にもうひとつ注意したいのが、レンズに直接入射する光です。直射日光がレンズに入る状況では、ものにあたって反射する光より直射日光のほうが強いので日光を印画紙が拾ってしまいます。カメラオブスクラを据えつける場所を大きな木の影にする、レンズに入り込む日光をカットする(板で遮る、外筒の前にフードをつける)などの工夫が必要です。
構図を決めたら、黒い紙で覆った印画紙をスクリーンに挿入し、スクリーンをはめこむ間際に黒い紙を取り外します(感光を避けるため)。スクリーンをストッパーに当たるまで押し込んだら、内筒に段ボールなどで蓋をします(この蓋は印画紙の裏側から入った光で感光させないためのものです。)あとは任意の時間露光します。サイアノタイプの薬剤や用いるレンズの口径にもよりますが、2時間から3時間程度の露光が必要です。何度か撮影するうちに、自分がつくったカメラに必要な光量と露光時間がわかるようになるはずです。
サイアノタイプは水に浸けて現像します。水をはったバットに印画紙を静かに浸けて引き上げると、紫外線が当たった部分が青く発色します。水に浸けたあと薄い過酸化水素水に浸けるとさらに強く発色しますが、過酸化水素水なしでも十分な色が得られます。
現像したら実際の風景と見比べてみましょう。上下左右が反転しているはずです。上下の反転は印画紙をひっくり返せば解消されますが、左右の反転は戻せません。紫外線の量が多い空は青く発色し、樹木があった場所は白く抜けます。樹木は紫外線の吸収率が高いからです。
一度撮影してみると、紫外線の反射率が違うものでうまく画面を構成する必要があることがわかります。どんな被写体ならうまく写るのか、挑戦してみましょう。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
今日、私たちは当たり前に写真を撮りますが、撮影に使うスマホやカメラのなかで何が起きているか理解している人は少ないのではないでしょうか。今では色と風景の情報は0と1の羅列として記録され、モニターで実際の景色が再現されるようになりました。しかし、この技術が確立される前には、色と風景を紙に写し出す技術がありました。さらに遡ると色の情報もなくなります。原始的なカメラでは、「撮影」の文字どおり影の濃淡だけが写しとられていました。ここで紹介したカメラで撮影できるのは現地にあった影そのもの。いまはなくなってしまった影が実体として印画紙にその姿をとどめているのを見るのは、なんだか不思議な体験です。