ヨーロッパでは古くから筆記用インクとして没食子(もっしょくし)インクというものが使われてきました。このインクは皮でできた羊皮紙にもしっかりと書くことができ、中世から最近まで利用されてきました。没食子とは中近東で得られる虫こぶの一種。人類は長く虫こぶで字を書いてきたわけです。日本に没食子はないのですが、同じようにインク作りに適したヌルデミミフシという虫こぶがあります。化学的につくられたインクの書き心地いいボールペンが手軽に使える現代だからこそ、ここはあえて虫こぶインクで字を書いてみてはいかがでしょうか。
デジタルカメラを使った動画撮影が一般的になり、市場に出まわるデジタルカメラの多くにスローモーション撮影の機能が搭載されるようになりました。印象的な動画制作のために使われることの多いスローモーションですが、この機能でぜひのぞいてほしいのが生き物たちの動く様子です。スローモーションにすると肉眼では追いかけられない彼らの生態が見えてくるのです。身近な生物をスローモーション撮影して、秘められた生態や生活をのぞいてみましょう。
一般の遊漁者に許される漁法のなかでも、とくに効率が高いのが投網。使える状況は限定されるものの、地形や水位とマッチすれば、ほんの数投でその日のタンパク源を調達できます。一度身につければ、その技術は一生もの。きれいな川や海の近くに住んでいるなら、ぜひ覚えておきたい生活技術です。
サンドイッチの味付けやウインナーの付け合わせに使われる粒マスタードはペーストの和カラシよりも風味が強く、食材をひと味もふた味も美味しくします。お店では小瓶がそれなりの価格で売られていますが、実は自作するのはそれほど難しくありません。カラシナが種子をつける初夏、河川敷に生えた野生の株から粒マスタードをつくってみましょう。
仕事がら、あちこちの水辺に出かけてはタモをふるいますが、年を追うごとに日本の水辺の環境が悪化しているのを感じます。その原因のひとつが、もともとはその地域にいなかった生きもの(=外来生物)の侵入です。そのまま野外に外来生物を置き続ければ、その地域の固有の自然が損なわれてしまいます。しかし、外来生物にも命があります。もとあった自然に対して外来生物が及ぼす影響と、個々の外来生物の命の重さはどのように考えればよいのでしょうか。また、子供たちに環境の保全と命の尊重をどのように伝えればよいのでしょうか。「地域の自然を守りたい」と市民が志したとき、外来生物をどのように扱うべきか。さまざまな視点から考えてみましょう。
仕事の合間にちょっと休憩……。そんな場面で日本人がいちばん飲んでいる飲料はおそらくお茶でしょう。現代では静岡や福岡、鹿児島といった有名産地でつくられたお茶を飲むのが一般的ですが、数十年前まで、お茶は庭先のチャノキから若葉を摘んで自宅でつくるものでした。今でも、郊外や田園地帯の生垣にはそのころの名残のチャノキが使われています。そんな木から若葉を摘んで緑茶と紅茶をつくってみましょう。
自分の生活に欠かせない嗜好品を問われたとき、多くの人がコーヒーをあげるでしょう。コーヒーはコーヒーノキの種子を焙煎して砕いた粉から、成分を抽出した飲料ですが、このコーヒーの種子は、生のままでは私たちの知るコーヒーの香りや味は一切ありません。しかし、「焙煎」という処理を加えると、生豆にはない豊かな味や香りが引き出され、美味しい飲料に変化します。焙煎という調理方法は食材にどんな変化を与えるのでしょうか。コーヒーの焙煎と聞くと、大きな焙煎機を使ってプロが厳密な温度管理のもとに行うものが思い浮かびますが、焙煎自体は家庭にある機材にいくつかの道具を買い足すだけで楽しめます。キャンプやピクニックに出かけたときに、そこでコーヒーを焙煎してみませんか?
人は古い時代から、飲み物に香りを付けて楽しんできました。「植物から香りを抽出する」というと、特殊な装置を思い浮かべるかもしれませんが、素材によっては、植物から香りを取り出すのはそれほど難しくありません。ここで紹介するのは植物から取った香りを楽しむ自家製ノンアルコール・ジン。お酒が苦手な方や妊婦さん、車を運転するお父さんやさらにはお子さんまで楽しめます。バーで飲むようなジントニックをつくってキャンプなどで仲間たちと一緒に楽しんでみましょう。
人の暮らしに欠かせない要素を「衣・食・住」と表現することがあります。この3つの要素の筆頭に掲げられるように、私たちが生活を営み、命をつなぐうえで衣類はたいへん重要です。しかし、生活の根幹を支える衣類を自分で作ったことがある人は、少ないのではないでしょうか、ましてや布の素材となる綿花から育てた人はごくわずかでしょう。私たちは1枚のシャツを織るのにどれほどの広さの畑や手間が必要か知らないまま、日々衣服を身につけています。日本には、この島の風土に合った「和綿」というコットンがあります。日本人の生活を支えてきた和綿を育てて、衣類とは何か、ファッションとは何かを考えてみませんか?
一年も終わりに近づくと、クリスマスに向けて街中は色とりどりの装飾で飾られます。家庭でも楽しめるクリスマスの装飾といえばクリスマスツリーとクリスマスリースでしょうか。なかでもクリスマスリースの歴史は古く、五穀豊穣や子孫繁栄、新年への祈願の想いが込めて家庭の戸口に飾られたと言われます。つまりこれはしめ縄の西洋版。思い思いの願掛けをして、自分だけのクリスマスリースを作ってみましょう。
「野の香り山の味」を謳って、「郷土料理ともん」を開店したのは1976年4月、私が24歳になる少し前のことでした。渓流釣りを通して各地の山渓に出かけた私は、いつしか多くの山人とも知り合いになりました。山梨県でヤマメ、イワナの養魚場を営むAさんとは、釣りによる親魚の採捕に何度も同行し、ワラビ狩りやヤマウド掘り、秋にはキノコ狩りにも出かけました。同様に長野県の伊那谷のBさんとはマツタケの山に入り、同じく福島県の奥会津のCさんとは、マイタケを目的に飯豊山の深山にも分け入りました。そのほかにも渓流釣りを通して知遇を得た多くの山人たちの協力を得て、山渓の幸を扱う「ともん」はスタートしました。私が抱いた〝山河に深く関わって暮らす〟夢はこうして始まり、まもなく半世紀になります。ここでは私の経験をもとに、季節を追って野生食材の採集の魅力についてお伝えしましょう。
最近、生き物の愛好家の間で水辺ビオトープづくりが再び盛り上がっています。水辺ビオトープは30年ほど前にも大きなブームがありましたが、当時は造成や管理の方法が確立されておらず、この時代につくられたビオトープには環境に対して悪い影響を残したものが多くありました。それらが生んだ負のイメージから、長いあいだ水辺ビオトープづくりは生き物の愛好家が手を出しづらい遊びになっていたのですが、この数十年で水辺ビオトープをつくることで自然環境にプラスの効果を生む技術が蓄積されました。小さな水辺ビオトープをつくって、地域の生き物たちに居心地の良いすみかを提供してみませんか。
特徴のある香りを持つドクダミは、繁殖力も強くて厄介な雑草と思われがちです。しかし、意識を変えてよく見てみれば、ドクダミは宝物のような植物になります。現に中国から東南アジアにかけての地域では、ドクダミはポピュラーの食材です。花、葉、根っこまで余すことなく活用できるドクダミの家庭での楽しみ方をご紹介します。
日本で紙がつくられるようになったのはおよそ1500年前。その製法は日本で独自に編み出されたとも大陸から伝来したともいわれていますが、どちらにせよ日本人は野山の植物から繊維を取り、それを紙に漉いてきました。現代の製紙業では木材を化学的に処理して繊維を取り出して紙にしますが、昔ながらの紙漉きでは植物から強靭な部位を取り出して重ね合わせて紙にします。プロの漉く和紙のように均一にはなりませんが、まったくの初挑戦でも文字を書ける強さのある紙を漉くのは難しいことではありません。
皆さんは五穀豊穣という言葉をご存知でしょうか。現在の日本人の主食といえば米ですが、その他にも麦、粟(あわ)、黍(きび)、そして豆を加えた5種の穀物は米と同様に大昔から日本の食生活に欠かせない主要作物でした。その中でも豆=大豆は、育てるのが容易で収量も多く、古くは縄文時代の遺跡からも大豆の原種であるツルマメの痕跡が見つかっています。今回紹介する納豆はそんな五穀のひとつ、大豆を使った日本の伝統発酵食です。微生物の働きで豆の栄養価をさらに高めた納豆は、実は特別な道具を使わず家庭で作ることが可能です。納豆作りにチャレンジして、目に見えないミクロな自然を感じてみましょう。