大学では農学部で食品の研究を行い、卒業後は大手コーヒー焙煎会社に就職。東日本大震災を機に、食を探求しその楽しさを発信するために転職し、大規模貸し農園事業を展開。現在はあらゆる自然遊びをサイエンスの視点から語るライターとして活動。狩猟も得意で銃砲店のスタッフとしても活動している。
twitterアカウントは@Yuu_Miyahara
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キャンプや焚き火のあと、炭箱の底や火床には細かい炭が残ります。現代では灰と一緒に捨ててしまうこの炭クズを使って、昔は「炭団(たどん)」を作ることがありました。炭団は炭を粉にして澱粉糊で固めたもの。火保ちのよい炭団は、囲炉裏や火鉢のなかで翌朝まで火を温存するのに使われました。今のような便利な着火具がない時代には、火を絶やさずつなぐことは重要な生活の技術でした。現代では火をつなぐ必要はなくなりましたが、キャンプや焚き火で出たクズ炭を集めて炭団を作れば、翌日の火起こしがぐっと楽になり、資源を無駄にしない満足感も得られます。
炭は、空気を遮断した窯の中で木や竹を加熱して作る燃料です。高温加熱によって水分や煙のもとになる揮発成分が抜けて、炭素を主成分とする軽い固体が残ります。これに火をつけると、炭素が空気中の酸素と反応して燃え、熱を発生します。炎を上げることなく赤く光りながら燃えるのは、木の油分や樹脂が取り除かれているからです。
炭には黒炭と白炭があります。黒炭は柔らかい木を400~700℃程度でゆっくり焼いた炭で、火付きが良く扱いやすい反面、火持ちはやや短めです。白炭は堅い木を1000℃以上の高温で焼き締め、灰をかけて急冷することで作られます。密度が高く、叩くと金属のような音がするほど硬く、火保ちは非常に良いですが、着火には少し時間がかかります。煙や匂いが少なく、安定して高温を保つため、備長炭などの白炭は料理や茶の湯で重宝されてきました。キャンプやBBQで手に入りやすいのは黒炭で、今回作る炭団も基本的には黒炭のクズを使います。
炭団は、黒炭のかけらや粉を澱粉糊でまとめて丸め、乾燥させたものです。団子状に固めることで空気と触れる面積が減り、燃焼がゆっくり進むため強い炎は上がらず、穏やかな火が長く続きます。つなぎとなる澱粉(C₆H₁₀O₅)ₙは燃えるとCO₂とH₂Oになるため残骸をほとんど残さず、煙や匂いも出にくいのが特徴です。炭団と似たものに整形炭がありますが、こちらは粉炭に澱粉などを混ぜて高圧プレスし、焼成して揮発分を飛ばしたもの。黒炭よりは目が詰まっており、白炭より多孔質で煙が少なく燃焼も安定します。火力の面では整形炭に軍配が上がりますが、炭団は火種としてじわじわ燃やす用途に適しています。
キャンプや焚き火が終わったあと、炭箱の底や灰の中から残った炭をかき集めます。まだ熱が残っている場合は必ず冷ましてから取り扱いましょう。灰の中から取り出す場合は、金ざるなどでふるいにかけましょう。湿っている炭は新聞紙に広げて半日から一日陰干しして水分を飛ばすと、あとで糊と混ぜるときに扱いやすくなります。
これらを風で飛んでしまわないように袋に入れてから、叩いて細かくします。本来は粉状になるまで細かくしますが、ひとまず5mm以下の粒度になれば良いでしょう。
炭の粒度は細かいほど弱火で火保ちが良く、粗いとその逆になる。好みに合わせて調整しよう
片栗粉や小麦粉を水に溶き、中火にかけて透明感が出るまで加熱し、糊状にします。水200ccに対して片栗粉を大さじ2くらいを目安にします。糊は柔らかすぎるとまとまりが悪く、固すぎると混ざりにくいので、加熱された状態でお粥程度の粘り気にします。火傷しないように冷ましてから使います。
粉炭に澱粉糊を加えてよく混ぜます。目安としては、粉炭に対して見た目でおよそ3割ほどの糊を加えると扱いやすい配合になります。一度にすべてを加えず、少しずつ足して様子を見ながら調整すると失敗がありません。糊が多すぎると燃焼時に不純物となり、煙が出やすくなるほか、燃え残りも増えます。逆に少なすぎると成形したときに崩れやすくなるため、手で握ったときにしっかり形が保てる程度のしっとり感を目安にしてください。
糊はあくまで“つなぎ”として使う程度にとどめ、全体が均一にしっとりするまで手でしっかり練り込む。水分が多すぎた場合は粉炭を追加して調整する。木炭や灰は強アルカリ性なので、必ずゴム手袋を着用しよう
粉炭と澱粉糊がよく混ざったら、手で丸めて団子状にします。空気を抜きながらしっかり握ると、乾燥後に割れにくくなります。現代風にアレンジするなら、クッキー型やシリコン型を使って星形やハート形にしても楽しいですが、薄く小さく作ったり、厚い部分と薄い部分が混在する形にすると割れやすくなったり、燃え尽きやすくなります。炭団は本来、翌朝まで火を残すためのものなので、握りこぶし大くらいに作るのが基本です。大きめに作るほど燃焼がゆっくりになり、火保ちも長くなります。厚さや大きさをそろえて作ると、乾燥ムラが減り、燃え方も安定します。
成形時にしっかり空気を抜くと強度が増し、大きさをそろえることで乾燥や燃焼が均一になります。小型・薄型にすると着火しやすいが火保ちは短くなります
成形した炭団は、風通しの良い日陰でじっくり乾かします。季節や湿度にもよりますが、夏場なら3~4日、冬場や梅雨時は1週間以上かかることもあります。完全に乾いた炭団は手に持つと軽く、叩くとコツコツと硬い音がします。急いで乾かそうとして直射日光に当てると、表面だけが先に乾いてひび割れたり、中に水分が残って燃えにくくなるので注意が必要です。
シリコン型などに入れて成形した場合は、完全に乾く前に型から外すと乾きやすい
完全に乾いた炭団は、しっかりと火を起こしてから使います。着火したら表面が赤くなり、じわじわと燃え始めるのを確認しましょう。そこまで火が入ったら焚き火台や囲炉裏の灰に半分ほど埋めておくと、ゆっくりと燃え続け、翌朝まで火が残ります。全体の粒度が均一だと、丸いままうまく燃え続けますが、細かいクズ炭を澱粉で繋ぎとめたものは澱粉から先に燃えて分解しがちです。灰に埋めたら極力触らずに保持しましょう。朝になったら残った火種の上に新しい炭や小枝を足すとマッチを使わずに再び火を起こすことができます。
火を残す場合は、灰に埋めて酸素供給を減らしゆっくり燃焼させる。極力触らずに形を維持する
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
炭団づくりは、昔の人々が日々の暮らしの中で培った知恵を体験する方法のひとつです。クズ炭を集めて糊と混ぜ、丸めて乾かすという単純な作業ですが、残り火を次の日のために生かすという発想が、現代では逆に新鮮に感じられます。資源を最後まで活かすという感覚は、ただエコという言葉で片付けるにはもったいない、自然との付き合い方そのものです。キャンプでクズ炭が出たら、集めて炭団を作って次回の火種に使ってみてください。火が赤々と残っているのを見つけたとき、きっと自然と暮らしがつながっていることを実感できるはずです。