1962年東京生まれ。デザイン体操考案者。体操歴(記憶の限界まで遡って)少なくとも半世紀のデザイナー。1990年より欧州を拠点に国際的なデザイン活動に従事し、感覚体験を軸にした新しいデザイン研究と教育活動を欧州各地の大学で展開。ベルリン芸大、エストニア芸大、ベルリン国際応用科学大の教授職を歴任。子どものためのデザイン教育のプログラムづくりにも力を入れ、世界各地で子どもと青少年のためのデザインワークショップを行っている。著書に原研哉との共著、平凡社『なぜデザインなのか。』、訳書に『ブルーノ・ムナーリのかたちの不思議シリーズ』などがある。www.masayoavecreation.org
デザイン体操は、自然がデザインした『美しいお宝』を発見する、宝探しエクササイズ。自然に潜在する不思議を知覚し、お宝発見の喜びを分かちあいながら、子どもの世界を無限大に広げるデザイン演習シリーズです。
街中の公園の慎ましい自然の中にも、地球のすべての不思議と永遠の美が存在します。偉大な学者が生涯をかけても研究しつくせないほどの不思議が、その中に凝縮されています。好奇心「センス・オブ・ワンダー」を全開にして、芸術家としての直感を研ぎ澄まし、科学者の眼で身のまわりの自然を観察する。そして発見の喜びを分かちあい、その先にあるさらなる不思議に想像を膨らませる――デザイン体操の「観察ー発見ー記録ー想像」のステップは、不思議の世界に飛び込むための助走のステップでもあります。
この演習は一人でもできますが、子どもと大人でチームを組んで実践するのが理想的。発見には、子どもの目が断然に有利で、発見を詳細に記録し、発見の向こうの想像を膨らますためには大人の手助けが必要だからです。
今回のテーマは『美しい円形』の発見。それでは、身近な自然の中に隠れている『美しい円形』の宝探しを、子どもといっしょに始めてみましょう。
虫眼鏡 直径の理想は直径10-13センチ。一人一つ。
(大人は、新聞・雑誌用の薄型大判ルーペでも可。)
スマートフォンやカメラ機能付きのタブレット 、または
デジタルカメラ(ペアチームで一つ、大人が持つ。)
小さなメモ帳とペン(大人が持つ。)
子どもの好奇心
芸術家の直感
科学者の観察眼
■観察エリアを決める
緑のある公園に出かけましょう。立派な自然公園や森林公園もよいですが、近所の小さな緑地公園でも構いません。そして、この木のまわり、とか、ここの生垣のまわりとか、ここの草むら、とか、宝探しの観察エリアを決めましょう。観察エリアは、狭いほど良いです。木や植物が植えられているところ、雑草が生えているようなところ、大した草むらでなくても、虫の声、鳥の声が聞こえそうな場所には、必ず『お宝』があります。舗装してある遊歩道の上にも『お宝』は見つかります。エリア選びは直感で。
■ペアチームで観察を開始
観察エリアを決めたら、大人と子どもでペアチームを組み、それぞれに虫眼鏡を持って、自然がデザインした『美しい円形』を探します。子どもが発見係、おとなはデジカメやスマートフォンでの記録係、が基本ですが、おとなも発見できるかもしれません。また、大人と子どもの数があわないときは、子どもどうしのペアチームもありです。その場合は、いくつかのチームに一人の大人がついて、記録係を務めましょう。
■ひとエリアの観察の制限時間は15分
このお宝探しの制限時間は、ひとエリアにつき15分です。スマートフォンのタイマーを15分にセットして、お宝探しに取り組みましょう。15分経って、まだ探したりなかったら、さらに、ワンセット追加して、時間を延長しても構いません。また、観察エリアを変えて、さらにワンセットのお宝探しに挑戦するのもよいです。楽しくなってきたら、4セット、60分くらいやるとよいでしょう。かなりの数のお宝が発見できます。
※双眼鏡やルーペで、太陽や強い光を見ないようにしてください。
POINT1
・子供用の虫眼鏡は本格的な良いものを
虫眼鏡は、自然科学の世界に開かれた魔法の窓。一生使えるものですから(老眼がはじまる年齢になれば、家の中でも毎日使う道具になります)子どもだましではない、質の良い、本格的なものを購入しましょう。倍率は2倍程度でもよいですが、直径が10㎝以上の大きいものが良いです。大人用には、シート状の薄型大判ルーペ(新聞・雑誌用のニュースリーダー)も可。これは、かさばらないので、毎日持ち歩いて、隙間時間に、近所の遊歩道や公園で演習するのに便利です。
POINT2
・あるがままの姿を観察
自然にあるものを動かしたりしてはいけません。あるがままの姿をじっくり観察して、『美しい円形』を発見します。
『美しい円形』を発見したら、宝探しのパートナーを呼んで、発見の喜びを分かちあいましょう。そして、本当に良い円形かどうか、どんな円形なのか、何でできているのか、色や手触り、大きさ、模様の特徴などを、虫眼鏡でよーく観察しましょう。二人の眼で観察すると、最初には見えていなかった新しい発見が見えて、いっそう楽しくなります。
発見した『美しい円形』を、写真にとって記録しましょう。円形のディテールがわかるように『美しい円形』を中心において、きれいな写真を撮りましょう。また、観察して気がついたことは、小さなメモ帳にメモしたり、スマートフォンのボイスレコーダーに吹き込んでボイスメモしておくと、発見を忘れません。
記録ができたら、制限時間がいっぱいになるまで、同じエリアで、さらなる『美しい円形』を探し、発見―記録のプロセスを繰り返しましょう。
POINT1
小さなものはミクロで、木の上にあるような遠くのものは、望遠で撮影できます。(最近のコンパクト・デジカメは、顕微鏡にも望遠鏡にもなる!)撮っているうちに、カメラの使い方にも慣れて、だんだん上手に写真が撮れるようになります。うまく撮れていなくても、各自の記憶の中に発見は記録されていますから、大丈夫。あとで思い出すきっかけになれば充分だと思って、写真の質にこだわらず、どんどん発見と記録に精を出してください。写真のフレームを、最初から正方形にセットしておくと、あとで、発見コレクションとして、きれいにアーカイブできます。
POINT2
植物の名前や特徴を写真から簡単に調べることができる「植物図鑑アプリ」を使うと、スマートフォンで写真を撮るときに、その場で、その植物の名前を検索することもできます。その検索内容を保存しておき、それを手がかりに、あとで図書館の大きな図鑑で、詳しく調べてみるのも楽しいです。気になる円形の植物の名前の由来や、どこが原産の種なのかなどを知ると、その植物が、植物の世界への自分だけの特別な入り口になります。
撮った写真を、パソコンやタブレットの大きなモニターで、あらためて見てみましょう。これは、家に戻ってからでも、天気が悪くて出かけられないような日に、あらためて見てみるのでも構いません。もう一度、『発見』をよく観察して、それが、なぜ円形なのか、想像してみましょう。想像して思いつく理由を、できるだけ言ってみましょう。
自然の作り出した形には、みな理由があります。その枝の切り口が丸いことにも、その花が丸いことにも、そこについている水滴が丸いことにも、確固とした理由があります。その理由のすべてが解明されているわけではありませんが、遠い昔から現在まで、たくさんの優秀な科学者たちが、その理由の解明に努めてきたので、自分ではわからないことも、たいていの場合は、文献を調べたり、その分野に詳しい先生に聞いてみるとわかります。急いですべてを知る必要はありませんが、学校の理科の先生や、また、どこかで科学者に会うことがあったら聞いてみることができるように、わからないことを確認して「いつかチャンスが来たら聞く」リストを作っておきましょう。
《おすすめ相談室》
子ども科学電話相談室
NHKラジオでは「子ども科学電話相談室」という、子どもが不思議に思ったことを、自然科学研究の第一線にいる専門家の先生に電話で質問できる、人気の長寿番組があります。また、各地の科学館で、子どもの質問を受けつけているところもあります。そのようなところで、自然科学の専門家に質問してみることもおすすめです。https://www.nhk.or.jp/radiosp/kodomoq/
《おすすめ書籍》
円形 ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議2(ブルーノ・ムナーリ著、阿部雅世訳 平凡社)
デザインの神様、ブルーノ・ムナーリが発見した『美しい円形』を満載した、かたちの百科事典。古代建築から現代音楽まで、魔方円から高等幾何学まで、シャポン玉から永久運動機関まで、和傘からレーダーまで……古今東西のデザインの知恵がちりばめられた、伝説の一冊。
詳細はこちら https://www.masayoavecreation.org/munari-circle
《おすすめ映像》
ニール・ブロムホール Neil Bromhallの映像コレクション
BBCやCNNの数多くのワイルドライフ映像を手がけ、エミー賞をはじめとする多くの世界的な賞を受賞した映像カメラマン、ニール・ブロムホーム Neil Bromhall は、植物がある形を形成する過程を撮影した動画を、世界の子どもたちのために公開しています。「英国の子どもたちが自然科学を学ぶために見るべき映像」のトップリストに入っている映像です。
タンポポの花が丸く開いて、丸く閉じて、まん丸の綿毛が形成されるまでの様子は、こちら。
肉眼では見えなかった、たくさんの『美しい円形』が、その過程にもたくさん見つかります。
発見した円形のお宝写真を『やった!レポ』に投稿して、驚きと歓びを分かちあいましょう。円形の中に発見した不思議も、コメントに添えて教えてください。
このエクササイズを、何度も丁寧にやると、公園にまでいかなくても、自分の家のそばでも、学校の校庭でも、驚くような『美しい円形』を発見できるようになります。雨上がりの枝についている水滴が丸いことにも、帰り道の空の月が丸いことにも、そして、宇宙から見た地球が丸いことにも、ふっと心を揺さぶられるような感性が身につくからです。
円形を探していて、円形以外の美しい形を発見することもあります。このエクササイズは、偶然の発見を誘発するためのきっかけですから、円形以外の美しい形をみつけることも、間違いではありません。円形以外の発見も、しっかりと記録しておいてください。
デザイン教育の本然は、自らが生きる環境を分野を横断して総合的に理解し、その環境の質を自分の感覚で判断できる能力を身につけることにあります。日常の現象を鋭敏に知覚する感覚を鍛え、この世の不思議に驚喜する感性を磨く。このデザイン体操が、子どもと、かつて子どもであったおとなの心を、たくさんの好奇心の種とわかる喜びで、いっぱいに満たしてくれますように。