人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
「化石を掘る」と聞くとと、壮大なプロジェクトを思い浮かべてしまいますが、掘る対象が恐竜やアンモナイトでなければ、意外にも近い場所で楽しむことができます。化石採集の入門者におすすめなのが、岩が柔らかいポイントでの採集。特別な道具がなくても掘れるので気軽に挑戦できます。出会えるのは貝類や植物などが主ですが、東京を流れる多摩川ではアケボノゾウという今では絶滅してしまったゾウや、アキシマクジラと名付けられたコククジラの仲間が見つかっています。そんな大物と出会う可能性もゼロではない、と思いつつ数万~数百万年前の地層と向き合ってみましょう。
ポイントを探すいちばんの早道はインターネットでの検索です。「住んでいる都道府県 化石 場所」などのキーワードで調べると、それほど遠くない場所に化石を産出する場所が見つかります。インターネット以外では、化石の採集地を紹介する書籍もあります。こちらは専門家が書いているぶん、情報が正確です。
続けて調べるのは岩の質とアクセスのしやすさ。奥山だったり岩の質が硬かったりすると、入門者が挑戦するのはぐっと難しくなります。簡易な道具でも掘れてアクセスが容易な場所を探し出しましょう。
化石が掘れる場所は、古い時代の地層がむきだしになっています。これを「露頭」と呼びます。日本の自然環境では、外的な力が働かなければ地層はすぐに土と草で覆われてしまいます。それが露出しているわけですから、化石が掘れる場所は海岸や河原など波や流れに洗われる場所になります。事故の心配のない穏やかな日を選んで訪れましょう。
化石採集の基本の道具はタガネとハンマー。そして飛び散った破片から目を守るゴーグルと手を保護するグローブなども必要です。これらに加えて、掘り出した化石を壊さずに持ち帰るための緩衝材と容器も用意しておきましょう。
採集地に着いたらまずは周囲を観察します。化石が出る地層があるとはいっても、含まれている化石の量はまちまちです。砂ばかりの岩と化石を多く含む岩があるので、まずは周囲を観察して先行者の掘ったあとを見てみましょう。砂ばかりの岩ではなく、化石が混じった岩があるあたりが有望です。場所によっては化石そのものが露出していることもあります。多摩川の場合、「生痕化石」と呼ばれる生き物が利用した痕がそのまま残っているポイントもあります。痕はそこに生き物がいた証。痕があるならそれを作った主や同時代を生きたものの化石があるかもしれません。
有望なポイントを見つけたらタガネを岩に当て、ハンマーで叩いて岩を割り出します。化石と岩では強度が異なるので、化石が含まれている場合は化石に沿って岩が割れることがほとんどです。難しいのは、割り出す大きさ。あまりに細かく割ってしまうと化石を壊す可能性が高まります。かといって大きく割り出すと割り出した塊の見えない場所に化石が残る可能性も。岩の雰囲気を体で感じながら絶妙な大きさで割り出していきましょう。
厚手の貝殻などはそのまま残ることもありますが、貝殻が薄い貝はすっかり形をなくして貝のあった痕だけが残っている場合もあります。また、風化した露頭では貝がなくなって貝がそこにあった痕だけが残る場合も。これらの跡は「印象化石」と呼ばれています。ちなみに、体そのものが残った化石を「体化石」と呼び、さきに紹介した生痕化石と合わせてこの3種が化石として総称されています。
化石を含んだ岩のことを母岩と呼びます。あまりに母岩が大きいと持ち帰りづらいですが、かといってキワキワを掘り出そうとすると化石を傷つける可能性もあります。屋外ではほどほどの大きさに母岩を整えるにとどめ、持ち帰ります。持ち帰る際は丸めた紙や綿などを緩衝材にして容器に収めます。
母岩に含まれた化石を掘り出して整えることをクリーニングと呼びます。クリーニングに使う道はさまざま。硬い石を扱う場合や、専門家は特殊な機材を用いますが、入門者は千枚通しやまち針、歯ブラシや刷毛などで工夫してみましょう。クリーニングに焦りは禁物です。化石の状態や母岩との接合の具合、岩の目の向きなどをみながら化石を少しずつ掘り出していきます。化石を掘り出せたら、種類も調べてみましょう。相手は元の色を無くした大昔の生き物で、すでに絶滅した種のこともあります。調べるのは容易ではありません。有名な産地の場合は専門家がその産地での調査報告を公開している場合もあります。そんな情報を手がかりにして化石の正体を確かめますが、わからない場合は採集者と採集地と年月日を記録しておくだけでも大丈夫です。自分の目が養われたときに改めて種名を書き入れましょう。予想もしない経緯で誰かがあなたの標本を手にしたときも、ラベルに採集時のデータが書かれていたら標本に資料としての価値が生まれます。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
今回の採集地の多摩川中流域は、100万年ほど前には浅い海でした。陸だった時代もあるため、アキシマクジラなどの海の生き物だけでなくメタセコイヤやアケボノゾウなどの化石も見つかります。それらが生きていた場所に、100万年後に自分が立っている、と考えるのは不思議な体験です。私たちは数ヶ月や数年、長くても数十年で物事を考えるのがほとんどですが、化石を掘ってみると想像の及ぶ範囲が一気に万年単位に広がります。化石掘りは大きな時間軸で物事を考える視点をくれるかもしれません。