1985年生まれ、神奈川県出身。山好きイラストレーター。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。在学中に「山と溪谷社」で編集補助のアルバイトを始め、その後フリーランスのイラストレーターになる。山岳雑誌を中心に活動中。 夏山でのテント泊縦走から残雪期の山まで、年間を通じて登山を楽しむ。神奈川県大磯町に移住し、近所に海と低山がある生活を満喫している。山小屋の間取りイラストを担当した『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在紀』(山と溪谷社)が好評発売中。
子どもを授かって出産し、外に連れ出せる時期を待つと、母親は1年以上本格的な運動を休むことになります。なかでも再開の見極めが難しいのが登山。長時間子どもから離れるわけにもいかないし、危ない場所に連れていくわけにもいきません。母親と父親、そして子どもの三者が無理なく登山を楽しむにはどうしたらいいのか……。親子登山初期の「おんぶ登山」の実践方法をご紹介します。
親子登山デビューは、1歳の誕生日を迎える頃が子どもの体力的に不安がないでしょう。ベビーキャリアに長時間座らせることになるので、しっかりと腰が座っているかが目安になります。月齢が進ほど子どもの体力は増しますが、それにつれて子どもの体重も重たくなっていきます。我が家の息子は腰が座るのが遅くてなんとなく不安だったので、登山デビューは1歳3ヶ月になるころでした。当時の体重は11.5キロ(平均よりだいぶ重め)。長らく登山をしていないなまりきった身体にムチを打って登ったのを覚えています。
子どもの体力や身体の成長は個人差が大きいので、タイミングを見定めて楽しい登山デビューにしましょう! 春秋の過ごしやすい気候にはじめると親子ともに負担が少ないでしょう。
おんぶ紐でも登山は可能ですが、親と子どもが密着するので熱がこもりやすく、荷物の収納もできないため、やはり登山用のベビーキャリアがベスト。それなりの価格かつ使用期間も限られるので、フリマアプリやリサイクルショップで中古品を探してもよいでしょう。我が家の息子はキャリア大好きですが、知人のお子さんはキャリアもおんぶも拒否して、抱っこのみ可だったそう。子どもの反応を見るためにも登山用品のレンタルサービスでお試しするのもいいかもしれません。
我が家で活躍しているのは出産祝いにいただいたドイターというメーカーのキャリア。日差しと気温が強い昨今、直射日光を遮るサンルーフはマストです。ベビーキャリアのタイプにもよりますが、荷物の収納スペースが小さい場合はパックを増設するとよいでしょう。私は先輩ママさんからアタックザック(軽量な登頂用バックパック)を外付けして容量を増やす小技を教わり、実践しています。
1枚目の写真は私の基本の出掛けセットです。特別なものは持っていきませんが、ヘッドランプや救急セットは近場でも持っていくようにしています。
(1)キャリア (2)レジャーシート (3)大人用雨具 (4)子供雨具 (5)カメラ (6)貴重品等が入ったサコッシュ (7)水筒 (8)お昼ご飯 (9)おやつ (10)救急セット (11)ヘッドランプ (12)地図(スマホで地図アプリも使ってます)(13)防水バッグ(14)トレッキングポール(15)ボトルホルダー (16)おむつ・おしり拭き・ビニール類 (17)子どもの着替え
子どもの服装は暑い時期は積極的に放熱し、寒い時期はしっかり保温できるようにこころがけまています。我が家は気候の穏やかな天候の安定した日を選んで出かけていることもあり、子どもの服装は登山の際も普段と同じ服を着せています(いつものお出かけ同様に着替えを持ちます)。登山用の高機能ウェアを着せるのは、子どもがある程度動けるようになってからでもよいでしょう。
雨への備えとしては子どもには普段使いのレインポンチョや砂場用プレイウェアを持ちます。荷物は防水バッグやビニール袋に入れて雨から守ります。キャリア専用のレインカバーもあると安心ですね。……と言いながら、そもそも雨の心配がある日は山へは行かないので、まだ降られたことはありません。
食事やおやつは、近所の山に登るときはふだんの食事を詰めて持っていきますが、これは食べるまでの時間が短いときだけ。気温が高い日は食中毒に要注意です。離乳食のうちは市販のベビーフードが持ち運びやすく傷みにくいので安心です。水分は余裕をもった量を持ちましょう。
キャリアはハイドレーション(背負った水筒からチューブで吸水するシステム)を設置するのが難しく、飲料ボトルを入れられるサイドポケットがないものもあります。ショルダーハーネスに付けられるボトルホルダーがあると親の水分補給が楽です。
「背中の子どものためにも絶対に転んではいけない!」というプレッシャーを軽減してくれるのがトレッキングポール。ポールがあると不整地での安定感がまるで違います。自分の膝を守るためにも必須の道具です。
道具がそろったら、いきなり山で使うのではなく近所の公園や散歩コースで試すと安心です。特に気をつけたいのがベビーキャリアです。初めてキャリアを使用するときは、ベルトがちゃんと締まっているか、子どもが傾いていないかなどをチェックしながら乗せ(最初は難しい!)、安全な場所で背負ったり下ろしたり歩いたりして感覚をつかみましょう。
長く歩きたい気持ちをおさえ、まずはコースタイム1~2時間程度の超ゆるゆる低山からはじめて親子ともに慣れたら徐々に延ばしていきましょう。過去に歩いたことのあるルートならなお良し。車などでアプローチできる山でも、標高2500m以上の山は3歳頃まで我慢。子どもは大人より高山病になりやすいうえに、自分の体調の変化を上手く伝えられません。高山病は脳に後遺症が残ったり、最悪亡くなることもあるので侮れません。低山にも楽しい山はたくさんあります。
ある程度長いルートを歩く際はエスケープルートのある山を選びましょう。なにかトラブルが起こったらすぐ麓に下りられることが大事です。ロープウェイやケーブルカーが登山道と並走する山は、いざというときに一気に山を下りることができて安心感が高まります。往路は登山は楽しみ、下山にロープウェイを使えば、短い歩行時間でも絶景を楽しむこともできます。乗車の際はキャリアがどうしても邪魔になるので他のお客さんへの配慮を忘れずに。
1歳児ともなると、山頂でキャリアから下ろしたときにウロウロと歩きたがって大変です。山頂が広かったり、公園になっているような山だと危険が少なく子どもと思いっきり遊べます。写真は神奈川県二宮町の吾妻山。山頂が芝生の広場になっています。山仲間がシャボン玉を持参して子どもと遊んでくれました。
諸先輩からよく聞くのが、辛い思い出ができて子どもが登山を嫌がるようになってしまう失敗。自分だけでなく、子どもの体力に見合った不安のない山&ルート選びを心がけましょう。
子どもと2人だけで行く登山は素敵です。……が、その場合の無理は禁物。子どもを守れる人間が自分しかいないことを自覚して、慎重な行動を心がけましょう。親子だけで歩く静かな山も魅力的ですが、やはり大人が2人以上いるとやっぱり安心です。背負っている子どもの様子を見てもらったり、ケガや体調不良で子どもを背負えなくなったりしたときの交代要員など、安全面での安心感がまるで違います。これらに加えて、大人のトイレ問題という盲点があります。
山中にあるトイレは子どもと一緒に入れるスペースがない場合がほとんど。そのため保護者がトイレに行きたいとき、外で子どもと待っていてくれる大人が必要なのです。私が子どもと2人だけで登山をする際はどうしているかというと……ずっとトイレを我慢しています! 男性は小用なら子どもを背負ったままできるのでしょうね、と心底うらやんでいます。
お互いに子供の対応に慣れていて、天気や子どもの体調による日程変更を気軽にできる点で、夫婦で行くのが一番気が楽です。私の夫は登山をしませんが、子連れ登山ではイージーな山にしか行かないので、同行してくれます(パートナーが登山をしないという人は、これを機に山の世界にひきずり込みましょう)。
同行の無理強いはできませんが、子ども好きの山仲間も頼もしいもの。山へ行く前から子どもに会わせて子どもに親近感を植えつけ、仲良くなったら満を持して子連れ登山に誘ってみましょう。子持ちの山仲間がいたら、お互い子連れでワイワイ行くのも楽しいですね。
家を出る前に体温を測り、体調が悪そうだったらその日の登山はすっぱり諦めましょう。山中では普段より休憩を多くいれて、おでこや身体を触って熱かったり冷たかったりしないか、顔色が普段と違っていないかをマメにチェックしましょう(1枚目の写真はとあるとっても寒い日。息子は終始鼻水を垂らしていました)。
冬場でも親は歩くので体温が上がりますが、子どもはキャリアでじっとしているので体温が上がりません。自分の体感温度は信用できません。行き先の気温に合わせてダウンジャケットやスノーウェア、ニット帽などの防寒着を着せましょう。フリマアプリには中古品の防寒着がたくさん出品されています。砂場用のプレイウェアは下半身を冷たい風から守ってくれ、使わないときはコンパクトになるので便利です。
2枚目の写真は子ども用の防寒具。3月に青梅丘陵を歩いたら寒すぎて大泣きされ、大反省しながらフリマアプリで即購入したスノーウェア(右)です。左は砂場用プレイウェア。防寒着にも雨具にもなるすぐれものです。
野外では保温は比較的簡単ですが、難しいのが放熱です。まず真夏日の日中の登山は絶対に避けましょう。気温が低い早朝に歩くか、涼しい高原などを行き先に設定しましょう。私は夏の間は涼しい格好をさせて帽子をかぶせ、肌が露出している部分には子ども用の低刺激な日焼け止めを塗ります。キャリアのサンルーフは必須です。着替えも2組あると安心です。濡らして振ると冷たくなるタオルや、うちわ、ポータブル扇風機などの暑さ対策グッズもフル活用しています。意識して水分補給をたくさん行っています。暑くて食べ物を受け付けないこともあるので、暑い日には子ども用のゼリー飲料を持つとよいでしょう。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
「親子登山」というと子どもへの自然体験の提供にフォーカスされがちですが、登山が好きな母親にとっては自身の楽しみでもあります。親と子の楽しみの比重でいえば、子どもが小さいときほど、親のための登山の側面が強くなるかもしれません。まだ弱い子どもと出かけるので、注意事項ばかりの紹介になってしまいましたが、入念な準備は安心感にもつながります。子どもの安全を確保しつつ、子連れ登山を心からエンジョイしてください!