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2022.09.162665 views

静かに歩き、静かに眠る。ULハイキングにスモールキャンプを学ぶ

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土屋智哉

ハイカーズデポ店主

アウトドアの楽しみ方が多様化するなか、幾度めかのアウトドアブームが日本に訪れています。自然を愛する人が増えるのは喜ばしいですが、実践の方法によっては、自らを楽しませてくれる自然に大きな負荷をかけてしまうことも……。自分が訪れたことによって自然の豊かさを損なわないためには、負荷を最小限にとどめることが重要です。そんな無理のない自然利用についてヒントを与えてくれるのが、UL(ウルトラライト)ハイキング。荷物の軽量化によって体への負担を減らし、長距離を歩く技術ですが、このULハイキングには、自然への負荷を最小化しながら利用する技術と思想が凝縮されています。ULハイキングから、「野に入る姿勢」を考えてみませんか?

READY
準備するもの
  • ハイキング道具

    一式

STEP 1

ULハイキングの背景を知る

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    北米のロングトレイル
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    軽量で簡素な道具で泊まる

ULハイキングの起源は数十年前に遡ります。北米には数ヶ月から半年かけて数百キロ、数千キロを踏破する超長距離トレイルがありますが、そこを歩くハイカーたちの間でULハイキングの胎動が1990年代に始まりました。

ハイカーたちは長旅において体への負担を少しでも軽くするため、徹底的に軽量化にこだわり、やがて彼らの背負うバックパックは水、食料を除いた重量が4~5kg程度にまでおさえられるようになりました。ULハイカーは上蓋、フレーム、パッドも省いた簡素極まるバックパックを軽やかに背負い、登山靴ではなくジョギングシューズで優しく歩き、テントではなくタープで風を感じながら眠り、アルコールストーブで沸かした湯でささやかに食事をとります。

装飾をとりはらった簡素なハイキング&キャンプスタイルがアウトドアシーンに与えた影響は小さくありませんでした。2000年代には日本やヨーロッパでもこのスタイルに共鳴するハイカーがうまれました。2010年代には書籍や映画でとりあげられたことも影響して、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)をはじめとする超長距離トレイルへの注目が高まります。そして、それに連動してULハイキングというスタイルや、それに使用される道具への関心も急速に高まっていきます。

STEP 2

野山に入る理由と姿勢を考える

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    レイ・ジャーディンの著書
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    ULハイキング草創期のスタイル

体への負担を軽減するために背負う道具を軽くする。この実用的な趣旨と潔いまでにシンプルなビジュアルばかりが注目されがちですが、ULハイキングは単なる軽量化運動ではありません。わたしたちが自然の中に赴くのはなぜか、自然の中で何を得ようとしているのか。こうした野外活動の根本的な命題に向きあうことをULハイキングは標榜しています。そしてこの命題は、都市生活や経済活動へのカウンターとして浸透したアメリカのアウトドアカルチャーから引き継がれたものでもあります。

ULハイキングのバイブルともいえるレイ・ジャーディンの『Beyond Backpacking』(Jardine, Ray:2000)では、その巻頭に「Nature Enrichies(自然が与えてくれるもの)」という章がおかれ、ここでレイは問いかけます。

家財道具を一切合切持ちだすかのような大仰なキャンプスタイルは、果たして自然体験といえるのか? 多くの道具であふれかえった都市のアパートのようなキャンプサイトで自然を感じることができるのか? と。

ハイキングやキャンプの目的は、たくさんの装備を運び歩くことでもなく、華美なテントを立てることでもなく、豪華なディナーを食べることでもないはず。それでは、自然体験の中でこそえられるものとは何なのか……?

自ら運べるものを運び、
自然の中を優しく歩き、
自然の中でそっと静かに眠り、
自然の営みに心を配り、
自然との関わりを考える。

わたしたちが自然の中に赴くのは、こうした行為の中で自然との一体感を得るためだ、と彼は訴えます。ここでの「自然との一体感」は決してスピリチュアルなものをだけを指しません。自然を観察し、自然を理解し、自然と共生する。そうした理知的な行為もレイの言う一体感に含まれています。

この考えは『Beyond Backpacking』のなかで「アースフィロソフィー」「コネクション」または「リンケージ」などと表現され、ULハイキングの根幹となる思想とされてきました。道具を軽くするだけではなく、自然とつながる感覚を得ることこそが重要である、と。

この思想はULハイキングに独自のものではありません。アウトドアカルチャーの歴史を紐解けばわかるように、野外活動、自然体験などのアウトドア活動全般に共通する本来的な考え方なのです。

STEP 3

軽さで環境負荷を軽減する

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    ランニングシューズで軽快に歩く
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    ULスタイルではシューズも靴下も軽量

自然とつながる感覚を重視するULハイキングでは、そのハイキング&キャンプそのものが自然環境にローインパクトであることが重要視されています。

靴を例に考えてみましょう。荷物が軽いULハイキングでは、歩く際の身体への負担が大きく軽減されます。そのためハイカーは重厚な登山靴ではなく、軽量なランニングシューズ、トレイルランニングシューズを選ぶことができます。いっぽう、重く、大きい荷物を背負うスタイルでは、足首をサポートするために硬く重たい登山靴を履きます。このような靴は岩や氷、雪という環境で登行の安定感を提供してくれますが、その反面、表土が脆弱な山域では登山道そのものを削りとってしまうことが指摘されています。

このように、柔らかで軽いシューズと軽い荷は、歩く人の体だけでなく登山道に与える負荷を軽くすることができます。また荷物が軽ければ、歩行の自由度も高まります。多少歩きにくいところでも環境負荷の少ないルートを選択することができるでしょう。

難所に行き合ったときに「強さ」で征服するのではなく「軽さ」や「柔らかさ」によってやりすごす。自然を負かさず寄り添うことで自然への負荷を小さくしながら望むような効果を得る。こうした姿勢はULハイキングに限らず、アウトドア活動全般において環境負荷を減らすヒントになるはずです。

MATOME
まとめ

許可されれば何をやってもいい、人目がない場所なら少々はめを外してもいい……。そんなスタンスとは真逆にあるのが、アウトドアカルチャーの中で長く重ねられてきた本来のキャンプのあり方です。人の目と人の法の外に出るからこそ、自然と他者に対して負荷を与えないように振る舞う。ときにその振る舞いはキャンプや野外活動が許されている場所以上に厳格でなくてはいけません。昨今は、山野で眠ったり、自然界から食材や燃料を調達する野外活動が人気を集めていますが、これらの楽しみ方は気をつけなければ大きな負荷を環境に与えます。「痕跡を残さずに立ち去る」。シンプルな原則ですが、これを徹底して守る限り、環境を大きく壊すことはないでしょう。

GROW CHART
成長スコアチャート
野性5
4知性
3感性
アクティビティ
感じる
環境
山 ・ 川 ・ 海
季節
春 ・ 夏 ・ 秋 ・ 冬
所要時間
1日以上
対象年齢
小学生高学年以上
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  • おとしふみこ
    2022.09.19 14:24

    「自然に負荷をかけない」という自然への関わり方。
    30年以上も前にアラスカのデナリ国立公園に行った時この原則を知り、確かにそうだ、と、実はあたり前のことに目からウロコだったことを思い出しました。

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