狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
夏の気温が40 ℃近くになることも珍しくなくなった昨今。国連の事務総長が「地球沸騰化」という言葉で表現をしたこともうなずけるほど、地球温暖化は加速しています。夏場は屋外での活動を控えるようにうながされることも増えてきましたが、屋外がどこも一様に暑いわけではありません。身近な場所に隠された天然の納涼スポットなら、盛夏でも野外活動を楽しめます。
街を歩いていて、大きな緑地帯の近くで涼しい風を感じたことはないでしょうか? 涼しく感じるのは心理的な効果だけではありません。実際に温度を測ってみると、大きな緑地帯は隣接する市街地と比べて数度気温が低くなっています。
それはおもにふたつの効果によります。ひとつは広がった枝葉が日差しを遮って日陰をつくるから。もうひとつは植物がその表面から水分を蒸発させることによって気化熱で周囲から熱を奪うからです。
ここで、太陽光によって気温が高くなる仕組みを考えてみましょう。意外なことに感じるかもしれませんが、太陽光自体には熱はありません。太陽光が何かの物質にあたり、その物質の分子を震わせたときに初めて熱が発生します。私たちが日向で浴びる日差しを熱く感じるのは、太陽光が身体の分子を震わせて熱に変えているからです。そこでは電子レンジがマイクロ波で水の分子を震わせて温度を高めるのと似た現象が起きています。
木々の枝葉が日差しを遮れば、人の体が直接温められることはないため、日向にいるときよりも涼しく感じます。そして植物は光を遮るだけではなく、その表面から水を蒸発させてもいます。水が液体から気体に変わるとき、気化熱が周囲から熱を奪うため温度が下がります。枝葉が木陰をつくり、そこに気化熱によって冷やされた空気が滞留することで緑地帯の周囲には涼しい空気が生まれます。
住宅地の気温が36℃の日に緑地帯の各所の温度を測ってみると、直射日光が当たるアスファルトの上は48℃、日陰のアスファルトは37℃、木陰の地面は34℃でした。そして緑地帯の気温も34℃。太陽光に家や地面が熱せられるばかりの住宅地より、緑地帯のほうが涼しいことがわかります。
川の中流にも涼しい場所があります。それは伏流水の湧出口の付近です。川は目に見える場所だけを流れているわけではありません。地表を流れる水とは別に、川底の下や川の周囲の土のなかも川は流れています。川の水は目に見える場所と見えない場所を出入りしながら海へと向かって流れますが、この地中を流れる水のことを伏流水と呼びます。
伏流水は大きな瀬の下流側の中洲や河岸でまとまって湧出することがあります。そんな場所は本流よりも水が透明で冷たいので、あたりには涼しい空気が漂います。本流の水温が30℃の日、伏流水の湧き出す「わんど(本流につながる入り江)」の水は25℃でした。本流があまりに高温になった日には、涼を求める魚たちが伏流水の溜まるわんどに集まるのを見ることがあります。
川以外にも水で涼める場所はあります。地下から水が湧く「湧水」です。そんな場所は近所にはない、と思われる方は自分の住む地域の名前と「湧水」というキーワードで検索をしてみましょう。きっといくつもの湧水が見つかるはずです。
湧水は多くの場合、地形の高低の差が生み出します。標高が高い場所に降った雨は、地面にしみ込んで水を通しにくい地層の上に溜まり、地下水となります。地下水は地面の中をより低いほうへと流れていきますが、水を通しにくい地層が地表に露出していると、そこから湧水となって湧き出します。
東京を例にとってみましょう。東京の西部はふるい時代の多摩川がつくった扇状地が台地として残っており、その台地の北と南は川に削られて河岸段丘になっています。この崖から台地に降った雨が湧き出して湧水をつくります。人の多い東京にあっても、こんな湧水を集めた川は清洌な水が流れています。
山地と低地の高低差が多い土地(神戸など)や大きな火山の麓(富士山麓や阿蘇山麓)などでも水は湧き出します。
気温は標高100m上がるごとに0.6℃下がります。標高が0mの気温が30℃のとき、標高が1000mの場所は24℃になる計算です。暑い街にいても、ビューンと空へ飛ぶことができれば街にいながらにして涼めるわけですが、そんな道具を持っている人は稀でしょう。
標高が高い場所まで行けなければ、標高が高い場所から来る冷たいもので涼みましょう。でかけるべきはやはり川。山地の冷たい水を集める川の上流域は、中・下流と比べて水温が格段に低く、水も透明です。川は流れ下りながら温められますが、水は次から次へと流れ下ってくるうえ先述の伏流水の効果もあるので、山奥でなくてもそれなりに冷たさを保っています。市街地の外れまで出れば水質も向上します。川遊びの道具を持ち込んで積極的に楽しみましょう。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
先日、真夏の日中に停電がおきました。ほんの少しエアコンが止まっただけでみるみるうちに上がっていく室温。ほどなく通電しましたが、気温が体温を超える季節に電気が止まると、ひたすら炎暑に耐えるしかないことに気づかされました。もしも大都市が停電して、交通が麻痺したなかでエアコンが使えなくなれば……。どこにも避難できないまま多くの人が熱中症になるでしょう。地球沸騰化の時代は、人の生死も電気に握られる時代になったといえるかもしれません。日本において、近年の大きな地震はたまたま盛夏を外れて起きていますが、次の大地震が夏に起きない保証はありません。そのときに体を冷やせる場所を見つけておくのは、大切な防災技術といえるでしょう。
自分の避難先を見つけておくことに加えて、地域全体で緑地を増やして街の気温自体を下げることも考えるときかもしれません。グリーンカーテンで家を覆う、敷地をコンクリートで覆わずにできるだけ草地にしておくといった工夫をすると、家の周囲の気温を下げることができます。