人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
松葉サイダーは昭和の時代から親しまれてきた素朴な炭酸飲料。松葉についている酵母菌で砂糖水を発酵させて微発泡の炭酸水へと仕立てます。必要な素材と道具は砂糖と松葉と保存瓶だけ。太陽の力と時間を使って夏にぴったりな清涼飲料水をつくってみましょう。
松葉サイダーを発酵させるのは天然の酵母菌。松葉に限らず、酵母菌はいろんな植物についていますが、アカマツについているものを使うと失敗しにくいとされています。アカマツはその名の通り、樹皮が赤いマツで低山や河川の土手、雑木林などに生えています。採取の際は管理者の許可を得て入手しましょう。
松葉サイダーづくりのベストシーズンは夏。初夏に伸展した若葉を枝ごと採取し、指でつまんで枝から抜いて葉だけを集めます。集めた葉を軽く水で流してから仕込むのが一般的ですが、洗うと酵母菌も流れると考えて洗わない流派も。それぞれの衛生観念に合わせて下処理をしてください。
用意した瓶を軽く充満させられる程度に松葉を詰めたら、砂糖1に対して10倍量の水を用意して砂糖を溶かし、砂糖水をつくります。瓶に入れた松葉にこの砂糖水を合わせていきますが、松葉がしっかりつかる高さまで砂糖水を注ぎましょう。写真では広口の瓶を使っていますが、ペットボトルなども保存瓶として利用できます。
松葉に砂糖水を注いだらあとは酵母に任せます。必要なのは適度な温度と時間。スタート直後は陽光に当てて瓶を適度に温め(熱くしすぎてもよくありません)、2日目以降は暖かな部屋で保存します。すると松葉についた酵母菌が砂糖を分解して炭酸ガスをつくりだします。3日目になると発生した炭酸ガスが松葉に細かな泡を作ります。発酵の期間は夏場で3日、冬場で5日ほどが適当です。どちらも気温によって発酵の度合いが変わるので発生した泡で見極めましょう。
気をつけたいのが、長く発酵させてアルコールをつくってしまうこと。砂糖水を酵母で分解するとアルコールが生まれますが、アルコール分が1%を超えると酒税法に抵触してしまいます。発酵は軽い発泡が見られたら止めるとよいでしょう。
夏場で3日ほど発酵させたら、瓶ごと冷やしてから氷を入れたグラスに注いで試飲します。上手に発酵していたら、ジンにも似た松葉の香気とともに、舌先に炭酸を感じられるはずです。
試飲、と書いたのは天然の素材を使った発酵には絶対の安全がないからです。ときには発酵が進まないこともありますし、中の液が望まない方向に変質することもありえます。まずは鼻と舌先で味を確かめて、それから楽しみましょう。
自然界にはさまざまな菌がおり、隙あらば分解してやろうと身構えています。日本酒をつくる麹菌も大豆を納豆に変える枯草菌も、もとは自然界にいたものです。菌が働いて、人間に好ましい分解を起こすとそれを「発酵」と呼び、好ましくない分解を起こすとそれを「腐敗」と呼びます。砂糖水と松葉でつくる松葉サイダーは、もっとも簡単に発酵を感じられる遊びのひとつです。