北海道出身。レザークラフトマン、ウッドワーカー、その他もろもろの素材であらゆるものを作り出すマルチクラフトマン。小物から小屋、シーカヤックまでアウトドアで使う道具をDIYする。
しなやかさと強さ。相反する性質によって人類を支え続けてきた素材のひとつが「皮革」です。戦場や鍛治場など、体を衝撃や火から守らなくてはいけない現場で革は重用されてきました。さらに遡れば、毛皮をもたない私たちを最初に暖めた被覆は、ほかの動物からとった毛皮だったことでしょう。化学繊維が発達した現代においても、素材としての革の優位性は失われていません。今も皮革製品は私たちの生活のあちこちで活躍しています。人類の手に馴染んだ素材である皮革を使って、生活の道具をつくってみませんか?
丸目打ち(レザーパンチ)
1セット
ポンチ
1本
革包丁
1本
手縫い針
2本
蝋引き糸
1巻
鉛筆
1本
銀ペン
1本
ハンマー
1本
ディバイダー
1本
ゴム板
1枚
接着剤
1本
ゴムのり
1本
床革
30×40cm
通常、動物から剥がされた皮は毛や残った肉を除いたあと、腐敗する成分を抜き、柔らかさを付与する加工が施されます。この工程が、読んで字のごとく「皮鞣し」の作業になります。
鞣されたたことで「皮」から変わった「革」は、用途に合わせて裁断されたり、厚みを変えたりします。革の主役は表皮(銀面という)をもつ「本革」です。銀面を生かすために肉側の面をスライスして取り除くのですが、この厚みを変える工程で生まれるのが「床革」です。
床革は銀面をもつ本革と比べて繊維が粗く毛羽立ちもあり、厚さも不均一です。しかし、安価で柔さにも富みます。今回製作するのは焚き火端で使うミトンですから、熱から手を守りつつ、物をつかめるしなやかさが必要です。そして、安価であれば道具として遠慮なく使うことができます。牛の床革で2.5~3mmほどの厚みのものが材料として適当です。
レザークラフトの工程は大きくわけて4工程。デザインを決めてそれを革にうつしとり、線に沿って裁断し、糸を通す穴をあけ、糸で縫い合わせます。工夫次第で専用品を減らすこともできますが、丸目打ちのセット、ポンチ、革包丁、蝋引きの糸、手縫い針などは専用品を入手しましょう。このほかに、革の端から一定の場所に線を引くディバイダーや革にラインを引く銀ペンもあると便利です。
写真には写っていませんが、スムーズに作業をすすめるにあたり、ゴムのりと接着剤もあるとよいでしょう。
今回は読者のみなさんのために型紙を用意しませんでした。それというのも、人の手の大きさやかたちはそれぞれに異なるからです。型紙は、自分の手を基準にしておこしてみましょう。
親指以外の指をそろえたら、親指を軽くおこした状態で紙に手を置き、そのアウトラインをうつしとります。続けて、最初に描いた手のシルエットから2cm程度外側にふたまわり大きいラインを引いていきます。実際のシルエットよりふたまわりほど大きくするのは、手を差し入れるための余裕をもたせ、手をまげたときの曲がりしろをつくるためです。
形が決まったら型紙を切り出し、それを革に重ねてラインをうつしとります。同じ寸法で2枚の革を切り出すので、できるだけ無駄がでないように配置するとよいでしょう。
切り出すべき線を革に描き入れたらその線に沿って革包丁で切りとっていきますが、切り出す前に親指の股部分にポンチを打って穴をあけておきます。これは、指の股のような急カーブは革包丁で切りだすのが難しいため。切り出すラインがポンチの穴のカーブのラインにつながるように革を切り出すと無理がありません。
革の断面が垂直になるように革包丁を立ててぐるりと切り出していき、刃先がポンチの穴に近づいたら一度刃を止めてポンチの穴に刃先を入れます。穴側からすでに切ってきた部分へと切り開くと失敗しにくくなります。
コンパスのような形をしたディバイダーを取り出し、調節つまみを回して先端を5mmほどの幅に開きます。幅を決めたら二股の片方の先端を革の端に当て、もう片方の先端を革の表面に添えます。この状態でディバイダーをスライドさせていくと、革の端から一定の場所に線を引くことができます。
この線は、糸を通す穴を打つべき場所のラインとなりますが、線を引くのは2枚の革の1枚だけでOKです。なぜなら次の工程で2枚の革を重ねた状態でこの線に沿って丸目打ちで穴をあけていくから。2枚の革に別々に線をひき、別々に穴をあけてしまうと、縫い針を通す穴の位置がそろいません。
2枚の革の穴の位置を確実にそろえるため、丸目打ちで穴をあける前に革の外側の何箇所かにゴムのりを塗って軽く2枚を固定しておくとよいでしょう。
2枚の革を重ねた状態で丸目打ちチを当ててハンマーで叩いて穴をあけていきます。直線は6本歯、カーブがゆるい場所は4本歯、カーブがきついところは2本歯といった感じで穴をあけていきますが、必ず先にあけた穴のひとつにパンチの端の歯を重ねるようにします。こうすることで、穴の間隔が常に等間隔になり、仕上がりが美しくなります。
革を縫い合わせる方法はいくつかありますが今回は2本の針を使う方法で縫い合わせていきます。革を縫う際、一般的に使われるのが蝋引きの糸。穴を通るときは蝋のおかげでするりと通り、通ったあとは蝋による程よい摩擦力で保持します。この蝋引きの糸の両端に針をつけて交互に塗っていくことで強固に縫い合わせます。
蝋引きの糸をひと尋(1.5mほど)切り出したら、その端から5cm程度の場所に針を突き立て、針の中ほどまで糸を滑らせます。続けて糸の末端を針穴に通して引き、針穴の後端側でループを閉じます。この形で針に糸を通すと、針穴に一回糸を通すよりもしっかりと糸を保持することができます。糸の反対側の末端にも同じ方法で針をつければ準備完了です。
縫い始めは、いちばん端側の穴に裏側から糸を通し、2本の針につながる糸の長さを左右そろえます。続けて、対面する穴のひとつ隣の穴に針を挿し入れ、×印を描くようにして左右の針で交互に縫い進んでいきます。
このとき、靴紐の通し方のように表側と裏側の両面で×印を描くように進んでもよいのですが、この縫い方は早く縫い上がる反面、ひとつの穴を一回しか糸が通らないので革の縫い合わせに不安が残ります。
そこでおすすめなのが写真1のように表側ではひと目進んで、裏側は対面する穴に糸を通す方法。この方法では、ひとつの穴をA、Bの糸がそれぞれ通るうえ、革どうしを引き寄せる力も強くなるので、強固に固定できます。この縫い方では表面は×印、裏側は棒をならべたようなステッチになります。
慣れるまでは左右の針でひと目ずつ交互に縫っていくのが確実ですが、この方法だと2本の針を持ち替える手間があります。少し慣れたら右の針で10目ほど縫い、続けて針を持ち替えて左の針で追いかけるように10目縫う、といった形で縫い進めると無理がありません。
縫い合わせる目の高さがずれると仕上がりが歪になりますので、要所要所に接着剤を塗って、革を軽く固定しながら縫い進んでもよいでしょう。
ひと尋の糸の両端に針をつけましたが、ひとつの穴を2度糸が通る方法で縫うとすぐに糸が尽きてしまいます。糸が短くなってきたら、10cmほど糸を残した状態で、裏側になる面で糸を固結びして末端を処理します。末端を処理したら、新しい糸を針に通して再び縫い進んでいきましょう。
最初は魚の干物のように開いていた2面は、縫い進むごとに袋状になってきます。平面だったときよりも縫いにくくなるので、針先で通るべき穴を探しながら縫い進んでいきます。とくに親指の股部分は縫いにくいのでのここはひと目ずつ丁寧に縫いましょう。
ぐるりと縫って、最後の縫い目まで完全に縫い上げてもよいですが、余裕があるならフックにひっかけるためのループをつけてもよいでしょう。適当な革のハギレを短尺状に切り出し、丸目打ちで4カ所ほど穴をあけます。この穴を本体の穴と合わせ(パンチの歯の幅は同じなので穴はそろいます)、一緒に縫い上げてしまいましょう。最後のひと目はループの内側に末端を結べば、結び目は見えない場所で処理されます。
完成後、表面を金ブラシか紙やすりで起毛すると熱い鉄に触れる面積が減って、手触りもソフトになります。
今回紹介したミトンの特徴は立体裁断ではないこと。馴染むまではちょっと物を握りにくいですが、形が縫い目で線対象になっているため左右どちらの手でも使うことができます。焚き火端においておき、燃え盛る薪や熱い鍋のふたをつまむような用途に適しています。もうひとつ縫って両手で熱いものを持てるようにしてもよいし、少し使ってみてから、親指の部分を切り落としてもっと立体的なパーツをつくって縫い合わせたりしてもよいでしょう。
実践したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
このグローブづくりでは、まったくの初心者の方でも縫える方法をご紹介しました。器用な人なら数時間、そうでない人でも1日もあれば縫い上げることができるでしょう。
こんなにつくるのは簡単なのに、できあがったグローブの焚き火端での活躍には目を見張るものがあります。素手ではとてもつかめない燃える薪や熱い鍋も、革のグローブがあれば気軽に扱うことができ、刃物を使うときには体を守るガードとしても使えます。薄く、軽量なのに強さと保護能力は抜群。これこそが革のもつ魅力です。
そして、革は再生産が可能な天然素材であり使い古した後は土に還ります。この点でも化学的な素材とは一線を画しています。野山に出かけて火をおこし、その隣で眠る。そんなスタイルで根源的なアウトドアを楽しむときに、自作した革の道具があるとその体験はいっそう深いものになるはずです。