北海道出身。レザークラフトマン、ウッドワーカー、その他もろもろの素材であらゆるものを作り出すマルチクラフトマン。小物から小屋、シーカヤックまでアウトドアで使う道具をDIYする。
例えば、雨に降り込められたキャンプ。せっかくフィールドにいるのに行動しにくい日には、私は野の素材のハンドクラフトを楽しみます。特別な道具を使わず、その場の素材で作れる点で優れているのが生の蔓で編む蔓かごです。一般的に、蔓や割いた木の繊維でかご等を編む場合は事前に蔓を水で戻す作業が必要ですが、採集したばかりの蔓は柔軟性が高いのでそのまま編み始められます。強度と柔軟性さえ確かめられたら、名を知らぬ蔓も素材にできるのが蔓かごの魅力。名前を知る前に草と仲良くなることができます。
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かごを編もう!と意識して野山を眺めれば、そこには何種類もの草の蔓が生えていることに気がつきます。それらの蔓の中からかごを編むのに適したものを探し出します。かごの素材としての条件は、程よい柔軟性と強度があること。折り曲げたり引っ張ったりして蔓の強さを確かめます。続くチェック項目は均一な太さである程度の長さを採集できるかどうか。かごを編む際、継ぎ足す回数が少ないと仕上がりが美しく強度も高まります。こんな条件を満たす直径3~7mmの蔓を数十m採集して、束ねて持ち帰ります。
茎を細く伸ばす植物には蔓(つる)型と蔦(つた)型の2タイプあり、かごを編むのに適しているのは蔓のほう。蔦は樹皮や岩肌に付着するための根を茎から出すため、表面が平滑な蔓と比べて工作の素材に不向きです。
蔓には他の草木に巻きつきながら伸びますが、ほかのものに巻きついた跡がバネ状になっている部位はかごには不適です。できるだけまっすぐな茎を数m単位で採集しましょう。また、上方に伸びるだけでなく地面を這っている蔓もあります。地面を這っているものはまっすぐなものが多いので、地面も忘れずに見ておきましょう。
蔓の採集地は個人所有ではない河川敷などがおすすめです。個人所有の土地に入る際は地権者に許可をとりましょう。蔓のなかには棘が生えていたり、有毒なもの(ツタウルシなど)もあるので、不安な場合は図鑑や同定アプリを活用しましょう。
蔓を採集したら枝葉や根っこを落とし、太さが近いものを束ねて仮置きします。そこから最初に選び出すのは軸になる部位。太さが均一で、ある程度強度があるものを選んで数十cmの長さで8本切り出します。軸の長さは作り上げるかごの大きさに準じますが、仕上がりイメージの大きさより20cmほど長く切り出しておきます(あとでこの余分が必要になります)。
8本切り出したら、これに加えてもう1本切り出しますが、9本目は最初の8本の長さの半分で十分です。
最初に切り出した8本を4本ずつに分けて十字に重ね、これらが直交する中心部に細めの蔓を巻き付けて固定します。細めの蔓を使うのは、中心部は外側よりもカーブがきつくなるため。太い蔓では折れたり作業がしにくくなります。5~6回巻き付けたところで半分の長さの9本目を交叉部に挿入して固定。中心から放射状に5・4・4・4本の軸が広がる形にします。
半分の長さの9本目を追加したら軸を放射状に広げ、今度は軸を上下にかわすようにして蔓を巻き付けていきます。軸を広げつつ蔓を隙間なく締めつけなくてはいけないので、ちょっと力が必要なパートです。ここで生きてくるのが最後に足した9本目。この9本目を足したことで軸の数が奇数になり、ジグザグに編んできた蔓が2周目では反対の向きから軸を挟み込む形になります。軸の総数が偶数だと2周目、3周目も蔓が同じ向きで通ってしまうため強度が出ません。中央部を十字に固定する巻きつけ方から、軸を上下にジグザグにかわす編み方へ移行するタイミングは、ひとつの蔓を使い続けられると強度が出ます。ジグザグ編みに変えるタイミングと1本目の蔓から2本目の蔓に変わるタイミングが重ならないようにしましょう。
蔓を2本目、3本目と追加する際は、軸2本ぶんの長さの重なりを作って新しい蔓を追加します。この重なりがないと強度が出ません。
イメージする大きさまで底部を編み込んだら、軸を立ち上げて側面を編み込みます。底部から側面への切り替えは、軸を上に折り曲げて強めに編み込むことで形が保持されます。側面もイメージする高さになったら、蔓の巻きつけは終了。少し余裕を残して余らせておきます。
続けて縁の処理に入ります。立ち上がっている軸を横に倒し、ひとつ隣の軸の内側を通って2本先の軸の外側、3本先の軸の内側に入る形にします。すべての軸について、横に曲げては隣の軸の内側、2本目の軸の外側、3本目の軸の内側となるように折り重ねていくと、ぐるりと一周したときに軸どうしがお互いに押さえ合う形になります。
軸を倒す向きは巻きつけてきた蔓の回転方向と同一にして、軸を倒す側へ処理を繰り返していくと作業に無理がありません。
縁が編み込めた時点で蔓の末端を処理します。収まりがよく、ちょうど固定できそうな隙間に差し込んで余分をカットしましょう。
軸の処理、蔓の末端の処理ともに「こうでなくてはいけない」ということはありません。収まりが良く、強度が出ていて、見た目が良い位置に挿し込めていれば問題ありません。
ステップ5で完成としてもよいですが、今回は持ち手を追加します。素材にしたのは雰囲気のある少し太めのアケビの蔓。同じ長さで2本切り出したら先端をナイフで削って尖らせ、縁の下あたりに外側から挿入します。末端は再びかごの外へと出します。このままでは外れやすいので、縁と持ち手が重なる部分を細めの蔓で編み込んで補強します。補強用の蔓の巻き付け方はSTEP3と同じ方法でOKです。
できあがったら、実際に何かを入れてみましょう。野山で収穫した山菜や畑で採れた野菜、野良仕事に使う小物類……。緑のかごは野外の風景によく馴染みます。長く使いたい場合は、風通しのよい窓辺などにおいて水気を抜くと長く使用できます。水分が多い場所に置いておくとカビたり分解が始まるため注意が必要です。
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
自分の身体以外に必要なのはナイフ1本。野の蔓を使ったかご編みは、数時間で習得できる素朴な技術ですが、身につけると世界の見え方が変わります。野山で何かを持ち帰りたくなったとき、かごが編めなければ「容れ物がないから運べない」となりますが、編めるようになれば「必要にならかごを編めばいい」と思考が変化します。そして、それまではただの一様の緑に見えていた風景から、蔓が浮かび上がってくるようにもなります。今回紹介したのは最もシンプルな編み方ですが、世界には幾通りもの編み方が存在します。手先が編むことに慣れたら、ぜひほかの編み方にも挑戦してください。