人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
日本で紙がつくられるようになったのはおよそ1500年前。その製法は日本で独自に編み出されたとも大陸から伝来したともいわれていますが、どちらにせよ日本人は野山の植物から繊維を取り、それを紙に漉いてきました。
現代の製紙業では木材を化学的に処理して繊維を取り出して紙にしますが、昔ながらの紙漉きでは植物から強靭な部位を取り出して重ね合わせて紙にします。プロの漉く和紙のように均一にはなりませんが、まったくの初挑戦でも文字を書ける強さのある紙を漉くのは難しいことではありません。
ゴムハンマー
1本
ミキサー
1台
重曹
適量
ゴム手袋
1双
大鍋
1個
2cm角の木材
160cm
網戸補修シート(15×25cm)
2枚
ヘアゴム
2本
タッカー
1台
まな板
1枚
バット
1枚
巻き簾
1枚
キッチンペーパー
1枚
新聞紙
1枚
日本で古くから紙の素材に使われていたのは、強靭で長い繊維の皮をもつ植物。その代表的な種であるミツマタやコウゾは今も紙幣に使われています。この2種も入手できれば素材になりえますが、入門者には見つけることが少し難しいので、コウゾに近縁でどこにでも生えているクワと、衣類などの素材になったカラムシを近所で探してみましょう。この2種は養蚕の餌や衣類に使われてきたので日本中に生えています。今回はこの2種に加えて、「葛布」として布の素材になっていたクズも試してみました。
カラムシは根元から、クワとクズはまだ樹皮が緑色をしている部位を切断し、手で葉をしごき落とします。長い1本の幹を残したらその端をポキリと折って表皮を浮かせましょう。浮いた部分をつかんで強く引くと、木質の部分と強靭な繊維をもつ表皮を分離できます。
剥ぎ取った皮の表面に茶褐色の鬼皮がついている場合は、貝殻や竹の板、定規などの角を当ててこそげとりましょう(この皮膜があるとでき上がった紙に茶色いシミが残る)。
採取した皮は水を張った大鍋に入れ、重曹を加えて(全体量の5%程度)30分ほど煮ます。重曹(炭酸水素ナトリウム)の溶液は加熱しなければ弱いアルカリですが、熱を加えると重曹は二酸化炭素と水と炭酸ナトリウムに分かれて、よりアルカリ性が強い炭酸ナトリウム溶液に変化します。このアルカリ性のお湯で煮ることで繊維以外の部位を煮溶かすことができます。
30分煮たら溶液を捨てて皮を流水でもみ洗いしましょう。すると緑色の肉が落ち、白い繊維だけが残ります(この作業をするときはアルカリ性の溶液で手が荒れることがあるのでゴム手袋を着用しましょう)。
繊維と不純物を分離したら、木の台の上に繊維を広げ、ゴムハンマーで叩いで繊維どうしを1本ずつに分けていきます。この工程で残った鬼皮も破砕します。最後に再度流水で洗って不純物を流し去ります。
今回はクワとカラムシは表皮を取ってから処理しましたが、クズは茎をそのまま煮込んでみました。その結果、強い木質の繊維も残ったのでゴムハンマーで叩いて繊維を分け、ミキサーにかけて繊維を短くしました。集めた素材が木質っぽい繊維をもつ場合はミキサーで細かくして繊維を細かくしましょう。
分離した繊維を水に溶かして、それを目の細かい網で濾し取ることでシート状の紙をつくっていきます。そのストレーナーの役割を果たすのが「漉き舟」です。今回は25cmと15cmの木の棒をタッカーで留め合わせてロの字型の枠を2個つくり、その枠で上下から網戸の補修パーツをはさみこむことで漉き舟としました。紙を漉いたあとは網を外して乾かしたいので、上下の枠はヘアゴムで簡易に固定する構造になっています。漉き舟のサイズには決まりはありません。自分がつくりたい紙の大きさや手持ちのバットの大きさに合わせて製作しましょう。
STEP3でつくった長い繊維を5mmくらいの幅で切って短くします。繊維が長いまま水に浮かべると繊維が互いに絡み合いすぎて塊になってしまうからです。ある程度細かくできたら、バットに水を張り繊維を溶かしてみましょう。繊維がほどよくバラけていればOK、かたまってダマになっている部分があるときは再度引き上げてさらに短く断ちましょう。
繊維がまんべんなく水に広がったら、漉き舟を静かに沈めて網の上に均一に繊維を広げていきます。このときに適度にゆすると繊維どうしがからみあい、完成後の強度が高まりますが、ゆすりすぎるとダマができてしまいます。繊維の層の厚みが均一になるように調整してください。場合によっては、指で調整してもよいでしょう。
漉き舟を引き上げたら枠を外して、網に載せたまま立てかけた巻き簾に重ねて水気を切りましょう。
ある程度水気が切れたら上側にも網戸のシートを載せてはさみこみ、さらにキッチンペーパーと新聞紙ではさみこんで円筒形の瓶などで上から圧力をかけます。すると、水気が絞り出されるのとともに紙の厚みが調整され、全体的に厚みが均一になります。
水気が切れて平滑になった紙は、窓ガラスに貼り付けて乾かします。乾かすのはどんな方法でもよいですが、ガラスに貼り付ける方法が歪みを少なくすることができ、簡単でもあります。
紙を漉くときに押し花などを漉きこむこともできます。野原から選びだした草花を新聞紙の上に置いたティッシュの上に広げて整形し、その上にティッシュを重ねてから圧を加えて水を抜きつつ形を固定します。完全に乾燥しきらなくても、形が保持される程度に水気が抜ければOKです。
押し花ができたら、漉き舟の上に漉し取った繊維の上に並べ、スプーンで水と共にすくった繊維を少しずつ上から流しかけて繊維で覆っていきます。上からかける繊維の量が多いと花が埋没し、少ないと固定されないので、押し花の輪郭を薄い繊維が覆うように丁寧に流しかけます。流しかけたあとの工程はプレーンなバージョンと同様です。
クズの葉でつくった紙(左)は荒々しい藁半紙のような質感に。カラムシ(中)とクワ(右)の紙は上品な和紙のような質感に仕上がりました。光にすかしてみると、細い繊維が絡まり合って形をたもっていることがわかります。
せっかく紙をつくったのですから、文字を書き込んでみましょう。自作の紙は凹凸が大きく、ペン先がひっかかりやすいので先端が柔らかい筆ペンと好相性です。
自作した紙や押し花を漉きこんだ紙はハガキ大に切り抜いて、切手を貼って送ることもできます。こんな自作ハガキは私製ハガキと呼ばれますが、サイズや重さ等に守るべきルールがあるので、ハガキを自作する場合はルールをよく確認しましょう。
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
私たちの生活のなかに当たり前にある紙。現代ではその存在とありがたさを意識することはまずありませんが、江戸時代までは紙は何度もリサイクルして使われるものでした。自分でつくってみると気づきますが、草木から紙をつくるのは、かなり手間のかかる作業なのです。そして、その素材は有限の植物です。
わたしたちが手にする紙は、どこかで伐られた木を薬品で処理し、漂白した末に届いています。紙のリサイクルが進むほど、伐られる気は減り環境負荷も減少します。ついつい気軽に使い捨ててしまう紙ですが、身近な植物から紙をつくって製造にかかるコストと環境負荷を知ると見え方がちょっと変わるかもしれません。