人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
「糒(ほしいい)」とも書かれた乾飯は、炊いたご飯を乾かして保存期間を飛躍的に伸ばしたもの。日本人はふるい時代からこの保存食を活用しており、天平10年(738年)の駿河国正税帳には乾飯を納めた倉のことが「糒倉」として記録されています。第二次世界大戦では日本軍の要請によりアルファ化米(乾飯はこれの一種)の研究が進み、今もアルファ化米は炊飯なしで食べられる白飯として重宝されています。現代の保存食の原点でもある乾飯を自宅の台所でつくってみましょう。
米の主成分であるデンプンは生の状態では分子がしっかり結合しており(ベータ化デンプン)、生のままでは食べても消化吸収の効率が低く、食味も悪いものとなります。この状態から水を加えて加熱すると分子の結合がほぐれ、消化吸収がしやすく食味も高まります。この状態のデンプンがアルファ化デンプンです。アルファ化デンプンは冷めるとまたベータ化しますが、アルファ化した状態で乾燥させると食味を大きくおとさずに長期保存が可能な状態になります。乾飯はこのアルファ化を利用して、炊いた米の保存期間を伸ばしつつある程度の食味と調理のしやすさを両立させたものですが、古来のつくりかたでは乾燥まで時間がかかるため、再度ベータ化が起こって食味が劣化してしまいます。今回は食味をなるべくおとさない方法でつくってみましょう。
つくり方は簡単。白米をかために炊いて、炊き上がったら薄く広げてレンジで加熱して水分をとばすだけです。
しかし、上手につくるにはいくつかのコツがあります。肝心なのは米の温度管理です。冒頭でも解説したとおり、炊いたお米のデンプンはアルファ化していますが、冷めるとベータ化して食味がおちてしまいます。アルファ化がとけないうちに加熱して水分を抜いてしまうことが食味を保つうえで重要です。
米が炊けたら、皿のうえにこびりつきを防ぐクッキングシートを敷き、その上にできるだけ薄く白飯を広げます。続けて、米の載った皿を電子レンジに入れて1分から2分ほど加熱し、その後、扉を開放して庫内の水蒸気を逃します。水蒸気が抜けたら再度加熱し、蒸気を逃すことを繰り返します。電子レンジによっては部位ごとに電磁波の強弱が異なり、ある部分は米が焦げはじめているのに、ある部分は加熱が足りない、といったことが起こります。皿の位置を変えたり、乾き切った部分は早めに取り分けるなどして全体を均一に乾かしましょう。薄い板状に乾いたら細かく割って密閉できる袋に乾燥剤とともに入れて保存します。
電子レンジを使わない場合は、炊いた米を軽く湯で流してぬめりをとり、できるだけ薄く広げて空気の乾燥した日に天日で乾かします。天日で乾かした場合のほうが、ベータ化が進んで食味がおちます。
レンジを使って上手に乾飯を乾かせると、透明感のある粒が残ります。パッと見は鍋の縁で乾いた米にそっくりですが、噛んでみるとただ乾いただけの飯粒よりも柔らかく、甘みも感じられます。水加減にもよりますが、炊きあがりの状態のおよそ半分の重さまで軽量化できます。さすが兵糧として使われただけのことはあります。
上手にできた乾飯はアルファ化がとけていないので、そのまま食べることもできます。噛んでいるとデンプンが唾液のアミラーゼに分解されて糖に変わり、甘みも感じられます。しかし、より美味しく食べるなら、完全に湯で戻したほうがよいでしょう。スープジャーなどの断熱性の高い容器に乾飯と同量より若干多めの熱湯を一緒に入れ、20分ほど待てばすっかり復元します。食味は炊き立てと同様! ……とはいきませんが、十分においしく食べられます。食味の劣化が気になる場合は、お湯を多めにしてふりかけなどで味をつけるとよいでしょう。
水分が抜け切った乾飯の場合、喫食が可能な保存期間は数年ともいわれますが、たとえカビなくても酸化によって食味は次第に劣化していきます。自作したものは数週間以内に食べてしまうのがよいでしょう。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
「唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」とは、伊勢物語に登場する句。着慣れた服のように馴染んだ妻を想って遠い旅路を振り返ったものです。都から東国へ向かう男が沢沿いのかきつばたにかけてこの句を詠むと(各パートの最初の音にかきつばたが織り込まれています)、そばにいた男たちは涙を流してしまい、その涙で乾飯がふやけてしまった、という情景が描かれています。当時は沢水に浸けて乾飯を戻したそうですから、米を戻すために沢に寄るのはよくあったことなのでしょう。こんな時代から1000年以上を経て、現代に生きる私たちも沢で水を汲み、旅の食事をつくっています。乾飯を食べるときにはふるい時代の旅人に想いを馳せてみるのも楽しいかもしれません。