人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
棒とそこに張り渡した弦、弦の震えを共鳴させる筒の3つで構成される一弦琴はもっともシンプルな弦楽器です。単純な構造なのに(単純だからこそ?)、弦を押さえる位置を変えれば、無段階に音を変化させることができます。あらゆる弦楽器の原初にある一弦琴を作って、音楽の不思議に触れてみませんか。
流木の板
1枚
70cm程度の棒
1本
ピアノ線(0.5mm径)
1巻
空き缶
数個
空き瓶
数個
木ネジ
4本
ステンレス薄板
1枚
アイボルト(5mm径)
2本
ナット(5mm径)
2個
鬼目ナット(5mm)
1個
貝殻
数個
麻紐
50cm
「ディドリーボウ(diddley bow)」はアフリカで生まれ北米で発展した素朴な楽器。アフリカから連れてこられた黒人奴隷が、ありあわせの素材から作ったことに起源をもち、有名なブルースマンが最初に触れる楽器だったと言われています。一枚の板の両端に弓弦のように針金を張って、針金と板の間に音を共鳴させる瓶や缶を差し込めば完成です。ピンと張った弦を片手で叩いたり弾いたりしながら、もう片方の手で持った棒を弦の上でスライドさせて音程を変えて演奏します。
ディドリーボウの構造は極めて単純。板の上に瓶や缶を載せてその上にピアノ線を渡し、ピアノ線がほどよいテンションを維持できれば成立します。これらの条件を満たせば、どんな製作方法で作っても構いません。ここでは比較的入手しやすい素材で、弦に適度なテンションを加えられる作り方を紹介します。
まずは板の片端にピアノ線がギリギリ通る程度の穴を開けます。穴を開けたら板の全長の1.3倍ほどの長さに針金を切り出し、その末端を捻って抜け止めを作ります。抜け止めを作った針金は底側から穴に通します。
板の反対側の固定はプレートを使います。ネジ止めなどでもよいですが、手に入った流木の板に十分な厚みがなかったので割れを防ぐためにステンレスの薄板を4番目の写真のように曲げて座金としました。この座金にアイボルトを通します。
板の上に瓶を置き、その上からピアノ線を通して、テンションをかけるにはどのくらいの長さが適当かを探り、ピアノ線を曲げてマークとします。
アイボルトの環にピアノ線を潜らせ、捻って末端を留めます。瓶を板の間に挟んだ状態でネジを締め上げると、ピアノ線にテンションが加わります。板の形状によってはピアノ線に力が加わると瓶が板の中央側へとずれ込んでくるので、何らかの方法で瓶が片側に寄った状態を保持します。今回は麻紐を使って瓶を座金側へと引っ張って処理していますが、どんな方法でもかまいません。
瓶を固定できたら穴を開けた側のピアノ線の下にボルトを差し入れます。こうするとピアノ線が浮き上がり、弾いたときに音が明瞭になり、長続きします。ピアノ線が木に触れた状態だと、柔らかい木部が弦の振動を吸収してしまいます。
ディドリーボウの音程の調整は、弦を弾きつつ、ガラスの小瓶などの硬いものを弦に押し当てて行ないます。小瓶を押し当てる場所が大きい瓶から離れるほど低い音になり、近づくほど高い音になります。
開放状態(小瓶を使わない状態)で弦を弾いたときが最も低い音になり、大きな瓶とボルトの中間点に小瓶を当てたとき、解放状態よりも1オクターブ高い音が出ます。基本的に、弦を弾くときはふたつの瓶の間を弾きます。
弦を弾くとビヨヨン、ビヨヨンと間伸びした音が出ますが、感の良い人なら弦を弾いているうちにどこを弾くとどんな音が出るのかを掴んで、簡単な曲を演奏できるようになるでしょう。
広義のディドリーボウに含まれ、さらに演奏をしやすくしたのが「カンジョー」。「CAN」で作るバンジョーからの命名です。
こちらも構造は簡単。真っ直ぐな棒の片側に空き缶を固定し、缶の底とネックの先端にピアノ線を渡してテンションを加えます。こうなるともう、フレットを持たない1弦だけのギターです。
ここで紹介するカンジョーは、弦を缶の底に固定するタイプです。弦の振動を缶の底に伝え、缶の底を大きく震わせることで音を生み出します。肉が薄く、柔軟性のある金属の缶はガラス瓶よりもよく震えるので大きい音が出ます。基本的に大きい缶のほうが振動する部分の面積と開口部が大きくなるので、小さい缶を使った場合よりも音が大きくなります。
弦は細くなるほど、短くなるほど、テンションが高くなるほど高い音が出ます。缶は大きくなるほど音が大きくなりますが、缶の強さと弦の強さには相性もあります。また、缶の底や側面に強度を高めるためのリブがあると、そこで振動が吸収されることもあります。
大きさの異なる複数の缶と直径の異なるピアノ線を用意して、いくつかの組み合わせを試してみると、ベストなマッチングがみつかるはずです。
まずは棒の片側に空き缶を木ネジで固定します。使う木ネジの数は2~4本程度。ニードルで缶の縁に下穴を開け、そこに木ネジをねじ込みます。弦を張ると強い力が加わるので、棒の強度に応じたネジでしっかり固定しましょう。
缶を固定できたら、缶の底の棒から5~7mm程度の高さにピアノ線を通すための穴を開けます。この穴が棒から離れすぎると、弦を押さえるときに力がたくさん必要になります。その反対に低すぎると、弦を押さえたときに缶の縁に弦が干渉してしまいます。
弦のテンションの調整はアイボルトで行ないます。棒の缶を付けていない側の端から数cm下がったに側面に下穴を開けて鬼目ナットをねじ込みます。さらに、その鬼目ナットから3cmほど缶側の正面に、弦の方向を変えるための木ネジをねじ込みます。
棒の全長の1.2倍ほどの長さのピアノ線を切り出し、抜け止め(STEP2参照)を作って缶の底の穴から通します。
先の工程で仕込んだ鬼目ナットには、3個のナットを通したアイボルトをねじ込んでおきます。アイボルトから3cmほど下がった場所に打った木ネジを介して缶から引いた弦をアイボルト側へと送り込みます。
アイボルトに通した3個のナットの外側の2個は弦を締め上げて固定するためのもの。2個のナットの間に弦を挟み込んでナットを締め上げます。弦が固定できたら、アイボルトを回して弦にテンションをかけていきます。弦を弾きながらアイボルトを回すと、「ビョン!」「ビン!」「ピン!」と音が変化していきます。弦にほどよいテンションがかかって、音が澄んできたら、残るナットを鬼目ナット側に締め込み、アイボルトを固定します。
この状態では弦が棒の表面に接してしまうので、弦を浮かせるためにスペーサーを挟み込みます。細いネジや硬い枝など、弦の震えを減衰させないものなら何でもOKです。今回は小さな貝を挟み込んでスペーサーとしました。
カンジョーには弦を押さえた時に必ず決まった音を出すためのフレットがありません。自由に演奏してもよいのですが、すぐに曲を奏でるなら、音階を記すとよいでしょう。
ネックの側面にマスキングテープを貼ったら、スマートフォンにチューナーのアプリをダウンロード。弦を弾いて音をだし、どこを弾くとドレミファソラシドの音が出るのかチューナーで確かめながらマスキングテープに書き込みます。
音階を書き込めたら、利き手ではないほうの手の中指に小瓶を装着します。フレットがない場合、指の肉が弦の震えを吸収するうえ、弦を押さえる場所が点ではなく面になるので音が濁ります。小瓶を介して弦を押さえると、弦の震えが減衰しにくくなります。
弦は指で弾いてもいいし、ピックやコインを使ってもOK。コインを使うのがラフでカンジョーらしいかもしれません。
いくつかの道具を組みあわせると、カンジョーを「エレキカンジョー」に変身させることができます。必要なのは、市販のピエゾピックアップとヘッドフォンギターアンプとスピーカー。この3つを組み合わせると、空き缶底部の振動をピエゾピックアップが電気の情報に置き換え、スピーカーからカンジョーの音を大きく出すことができます。
ピエゾピックアップがあれば生の音を電気の情報に置き換えられる、ということはライブ演奏で使う大型アンプやエフェクターに接続できることでもあり、もっと言い換えれば、カンジョーを市販のエレキギターのように扱うことができる、と言えます。
以下の動画は、ピエゾピックアップで拾った音をエフェクターとそのコントローラーで加工した即興演奏。家にある廃物や拾った漂着物から、こんな演奏ができる楽器が作れるのです。
ストラップに接続するワイヤレスエフェクトコントローラーCASIO「DIMENSION TRIPPER」で手元でエフェクターを調整。 こんな演奏にもカンジョーは使える。DIMENSION TRIPPERの詳細はこちらから!
本記事の監修
小林亮平 カシオ計算機株式会社 音響設計エンジニア、「DIMENSION TRIPPER」開発者
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
北米に連れ去られた黒人奴隷が生活の中にある道具や廃物から作り出したディドリーボウ。たいへん素朴な楽器ですが、その演奏には音楽の根源に触れる喜びがあります。今回は空き缶と空き瓶、木の棒で作りましたが、生活から出る廃物や浜辺に打ち寄せられるあらゆるものが素材になりえます。ビーチコーミングを楽しむとき、河原を歩くとき、ディドリーボウのことが頭の片隅にあると、風景はまた違った色を帯びるかもしれません。