人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
仕事の合間にちょっと休憩……。そんな場面で日本人がいちばん飲んでいる飲料はおそらくお茶でしょう。現代では静岡や福岡、鹿児島といった有名産地でつくられたお茶を飲むのが一般的ですが、数十年前まで、お茶は庭先のチャノキから若葉を摘んで自宅でつくるものでした。今でも、郊外や田園地帯の生垣にはそのころの名残のチャノキが使われています。そんな木から若葉を摘んで緑茶と紅茶をつくってみましょう。
関東以南の地域であれば、注意しながら街を歩いているとチャノキが生垣に使われているのに出会います。昔ながらの農家さんやふるくからその土地にある家の生垣に多いようです。個人宅の財産ですから勝手に摘むわけにはいきません。ひと声かけて、お茶の葉を摘ませてもらえないか聞いてみましょう。
茶葉を摘む適期は5月上旬。文部省唱歌の「茶摘み」の歌詞には「夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る」とありますが、八十八夜とは立春から数えて88日目のこと。毎年5月1日か2日ごろとなります。
常緑樹のチャノキは通年葉がありますが、この時期に木を見ればどれが若葉かは一目瞭然。その若葉のうち、枝先にある数枚の葉を収穫します。よく言われるのは「一芯二葉」。先端にツンと立った芯から2枚目の葉まで摘む方法です。葉が若い場合は三葉まで摘んでもよいでしょう。
チャノキにはチャドクガという毒蛾が発生するため、生垣が消毒されていることもあります。分けてもらう際は消毒の有無について聞いておきましょう。
収穫した茶葉は自身のもつ酵素で変質していきます。紅茶にする場合はこの酵素の働きを生かしますが、緑茶の場合は茶葉が新鮮なうちに加熱して、酵素の働きを止めます。この作業を「殺青」と呼びます。
殺青は鍋に入れて弱火で加熱する、蒸篭に入れて蒸すといった方法が一般的ですが、家庭で手軽に行なう場合は、レンジにかけてもよいでしょう。焦がすと風味が変わってしまうので、どの方法を選ぶにしても焦がさないように注意します。
続けて、殺青した茶葉を広げて揉んでいきます。理想的な方法はゴザや目の細かい竹ざるに茶葉を広げて、両手で転がすように揉む方法ですが、茶葉の量が少なければ、両手で擦り合わせてもよいでしょう。「ある程度の摩擦があるふたつの面の間で茶葉を転がす」ことができればどのような方法でも大丈夫です。
この揉む作業は茶葉の組織をほぐして成分を出しやすくするための工程です。繊維の結びつきは解きながら、葉っぱ自体は壊さないイメージで揉んでいきます。茶葉を擦り合わせるうちに、粘りを帯びた水気が出てくるので、液で茶葉が滑り出したら再び鍋で炒って水分を飛ばします(レンジにかけてもよいでしょう)。揉みと乾燥の工程を繰り返しているうちに、茶葉は縮れて締まってくるので、ある程度硬くなったら広げて乾燥させて水分を完全に飛ばしましょう。乾き切ったら緑茶の完成です。
茶葉に含まれる酵素の働きを最初に止める緑茶に対し、紅茶では酵素の働きを利用して独特の香りと色を出していきます。最初の工程が「萎凋(いちょう)」。収穫した茶葉を広げて一昼夜乾かし、葉っぱから水分を飛ばします。作業は水分を飛ばすだけですが、この萎凋によって紅茶の風味は大きく左右されます。長く干せば紅茶感が強くなるかといえばそうでもなく(長くやると水分が抜けすぎて発酵が弱くなるため)、萎凋とのちの発酵のバランスによって、同じ茶葉でも出来上がったときの風味は変わってきます。
紅茶の場合、緑茶とは違って加熱をせずに揉む工程へと入っていきます。萎凋によって茶葉はハリを失い、水分もほどよく抜けているので揉みやすくなっています。揉みかたは緑茶と同様です。
茶葉がほどよく揉めたら、硬く絞った布巾などで包み、高い湿度を保ったまま25~30℃の環境で数時間寝かせます。今回は布巾ごとビニール袋に包んでいますが、これは簡易な方法です。ぬるい湯を張った浴槽にボウルを浮かべ、そこに布巾に包んだ茶葉を置く、といった、通気はありながらも湿度が保たれるような環境のほうがより好ましい発酵を得られます。
茶葉は寝かせる間に酸化が進み、褐色に変質します。紅茶の発酵は微生物の働きかけによるものではなく、茶葉に含まれる酵素によるもの。酸化することによって色と香りが変化します。
茶葉の発酵が済んだら、ごくごく弱火で加熱した鍋の中で茶葉を転がし、加熱しつつ茶葉を乾かします。焦がしてしまうとほうじ茶のようなにおいに変質してしまうので、慌てずにゆっくり行います。
新茶を淹れるときはまずは急須に茶葉を入れ、お湯を湯のみに注いで湯のみを温めつつお湯の温度を下げます。ある程度温度が下がったら(湯温が70℃程度)、湯のみから急須にお湯を移し、抽出を開始します。30~40秒待ったら湯のみにお茶を注ぎます。急須にお湯を残すと苦味が出るため、急須の中のお茶は湯のみに注ぎきります。
上記が基本の淹れ方ですが、自作のお茶は成分の出やすさが市販のお茶とは異なるので、いろんな淹れ方を試して自分の茶葉にあった抽出レシピを見つけ出しましょう。
ある程度湯温を下げてから茶葉にお湯を注ぐ緑茶に対し、紅茶の場合は沸騰直後のお湯を注ぎます。注ぐ際は少し勢いを出して、ポットの中で茶葉が踊るように心がけます。2~4分ほど抽出してカップにお茶を注ぎますが、この抽出時間は茶葉によって最適な時間が変わります。自作のお茶にあった時間を探し出しましょう。
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
カテキン、ポリフェノール、カフェイン……。お茶には人の体によい作用をもたらすさまざまな成分が含まれています。コーヒーやそのほかのハーブティーにもこれらの成分は含まれていますが、なんと言ってもお茶がすごいのは、身近な場所で栽培できてそれを自分で加工できること。多くの嗜好品は生産や流通において環境負荷や社会問題と結びついていますが、自分の生活圏で摘まれたお茶はそれらと結びつきません。自作のお茶は他者にやさしいお茶といえるかもしれません。