福島県生まれ。特定非営利活動法人NPO birth自然環境マネジメント部 部長。東京農業大学短期大学部を経て茨城大学に編入し、卒業後は環境コンサルティング会社を経て現職へ。専門は野生生物の調査と自然環境の保全。現在は都市公園の管理と絶滅危惧種の保護増殖、外来生物の防除に携わる。著書に『絶滅危惧種はそこにいる 身近な生物保全の最前線』(角川新書)があり、TVや雑誌などのメディアを通じて、都市周辺の生き物の生態や保全の重要性を発信する。
仕事がら、あちこちの水辺に出かけてはタモをふるいますが、年を追うごとに日本の水辺の環境が悪化しているのを感じます。その原因のひとつが、もともとはその地域にいなかった生きもの(=外来生物)の侵入です。そのまま野外に外来生物を置き続ければ、その地域の固有の自然が損なわれてしまいます。しかし、外来生物にも命があります。もとあった自然に対して外来生物が及ぼす影響と、個々の外来生物の命の重さはどのように考えればよいのでしょうか。また、子供たちに環境の保全と命の尊重をどのように伝えればよいのでしょうか。「地域の自然を守りたい」と市民が志したとき、外来生物をどのように扱うべきか。さまざまな視点から考えてみましょう。
「外来生物(外来種)」とは、もともと生息していなかった地域に人間によって運ばれ、かつ人の管理下にない生きもののことです。これは養殖のように人が利用する目的で人が移動させた場合でも、積荷などに紛れて意図せず移動させてしまった場合でも変わりはありません。また、同じ国のなかであっても、もともといなかった場所に人間が移動させた場合は外来生物となります(この場合は「国内外来種」と呼ばれます)。生き物が自身の力で分布を拡大した場合は、外来生物とはなりません。
外来生物は移入先の自然にさまざまな影響を及ぼします。大きく分けると以下のようになります。
・捕食(もともとそこにいた生物を食べてしまう)
・競合(もともとそこにいた生物のすみかや食物を奪う)
・交雑(もといた生物と交配して地域固有の遺伝子をが失われる)
・感染(その地域にはなかった病気や寄生虫などを持ち込む)
上記は主にほかの生きものへの影響ですが、外来生物は人の生活を支える農林水産物を食害したり、人も感染する病気を持ち込む可能性もあります(例えばアライグマは狂犬病やアライグマ回虫などのキャリア動物です)。
このように、外来生物はさまざまな影響を環境や社会に及ぼし得ますが、影響の度合いは種によっても異なります。外来生物への対処を効果的に行なうため、とくに環境への影響が大きい生物は「特定外来生物」に指定されています。特定外来生物は飼育、栽培、保管、運搬、野外へ放つことが禁じられているほか、譲渡や販売も一部の特例を除いて禁止されています。
特定外来生物は海外起源の外来種で生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、または及ぼすおそれがあるものから指定されます。「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(通称:外来生物法)」によって、飼養、栽培、保管、運搬、輸入などが規制されており、防除等を行うように定められています。
特定外来生物は2024年5月末の段階で動植物合わせて159種が指定されており、2024年7月1日には新たにアフリカヒキガエルと外国産のオオサンショウウオ類とその交雑種が加わります。
私たちに身近な特定外来生物には、アライグマやオオクチバス、ウシガエルなどがありますが、ちょっと扱いが異なるのが、ペットとしてポピュラーなアカミミガメとアメリカザリガニです。この2種は2023年6月から条件付き特定外来生物に指定されていますが、これまでどおり飼育が可能です。飼育を目的とした採集・移動も可能ですが、一度飼育下においたものを再び野外に放つことは禁止されています(ただし、採集地で網に入ったものをその場で逃すのはOK)。譲渡も無償かつ少数であればゆるされますが、「頒布(不特定多数に配り分ける)」は禁じられています。
ルールがちょっとややこしいですが、一度でも自分の管理下に置いたアメリカザリガニとアカミミガメは2度と野外に戻せないことと、大人数の他人に配れないことを覚えておけばよいでしょう。
自然はたくさんの生き物の関わり合いによって、今の姿を保っています。植物、昆虫、鳥類、哺乳類……。食って食われての関係性のなかでバランスをとり、特定の1種だけが増えるようなことが起きないシステムがあります。ところが、そこにもともといなかったメンバーがやってくると事情が変わります。外来生物は、在来の生きものたちが保っていたバランスを大きく崩してしまうのです。
日本の水辺で問題を起こす生物の代表格が、オオクチバスやコクチバスなどの遊泳力が強く捕食の上手い外来魚。小型の魚類や水生昆虫に大きな影響を与えることがわかっており、規模の小さな池などではその影響が顕著です。
外来生物の脅威は直接的な食害だけではありません。最近、アメリカザリガニは湿地帯の環境を大きく変えることが明らかになりました。アメリカザリガニにとっては、外敵から姿を隠せる濁った水と採食しやすい障害物のない湿地が好都合。そのためアメリカザリガニは水草を刈り取って小魚などの隠れ家をなくし、水草による浄化作用を弱めて澱んだ湿地をつくりだします。
だからといって、駆除さえすればすぐに問題が解決するという単純なものでもありません。アメリカザリガニのいる水域にはオオクチバスも同所的に暮らす場合がありますが、オオクチバスは在来生物に対して脅威であると同時に、アメリカザリガニにも強い捕食圧をかけています。こんな池でオオクチバスだけを駆除すると、アメリカザリガニばかりが増えて水草が壊滅し、かろうじて残っていた在来生物も絶える、といったことが起きる可能性があります。
在来の水草が消えた環境では、外来の水草が在来の魚たちに隠れ家を提供していることもあります。また、外来の植物の花が在来の昆虫の蜜源になっていることもあります。
このように、自然は生きものの関わり合いで成り立っているので「外来生物がいる!」「すぐに駆除だ!」となるのは早計です。生きもの同士の関係性を見極めながら、外来生物を全体的に減らし、外来生物がいなくなったスペースに在来生物を呼び戻すような視点が重要です。
繁殖力や捕食圧の高い外来生物を日本の自然のなかに置き続けると、少しずつその場の多様性は損なわれていきます。放置はもちろんできません。しかし外来生物もひとつの命です。「駆除すればいい」とは簡単には言えません。
今やどこにでもいる外来生物です。子供たちと一緒にいるときに目にしたり、手にしたりすることもあります。そのときに、外来生物の存在をどのように伝えるのか。その場にいてはいけない生きものとして教えるのか、在来の生きものと同様に、その日出会えた生きものとしてその場は流すのか……。
私にも小さな子供があり、この問題については常に考え続けています。科学的な正しさと、命の尊さを同時に伝えるのはとても難しいものです。今のところ、小さいうちは生きものの不思議や命の大切さを伝えることに専念しようと考えています。小学生の高学年程度になったら在来生物と外来生物の関係性を教え、植物の駆除は中高生くらいから、そして動物の駆除は環境や命の大切さを俯瞰できる年齢(20歳前後)になってから実践するのが適当ではないかと考えています。
駆除の方法のうち、もっとも手軽なのが管理者への通報です。私はオオキンケイギクなどの特定外来生物が花をつける時期に、その土地の管理者に防除をお願いしています。外来生物法では地方公共団体や事業者、及び国民に特定外来生物による被害の防止への協力が促されているので、対応してもらえる場合があります。市町村によっては通報窓口を設けているので、そちらに連絡してもよいでしょう。
次のステップは自身による駆除。植物の場合は1本ずつ手で抜く「抜き取り」が基本的な方法です。根が残るとそこから再生することも多いので、根を切らないように注意して引き抜きます。トゲがある場合はスコップを活用しましょう。株数が多すぎて抜き取りが難しい場合には「草刈り」も有効です。刈り跡から再生することが多いので、何度かくりかえして刈ります。
駆除した植物は、焼却場所まで運んで焼却処分します。特定外来生物は基本的に運搬が禁じられていますが、駆除した植物体の場合には下記3つを満たせば運搬してよいことになっています(詳しくは環境省からの通知「環自野発第1501091号」を参照)。
外来植物を焼却処分するための運搬であること
運搬中に種子などが落ちないようにしっかり密封すること
駆除を実施する目的、日時、実施団体などを明記して事前に掲示すること
動物の場合は種類によって異なる道具、手法を使います。身近なアメリカザリガニ、アカミミガメ、ウシガエルなどを駆除する場合に特別な許可がなくても使える道具はタモ網です。捕獲後は炭酸ガス(ドライアイスなど)で気絶させてから死なせ、焼却か埋設するのがもっとも苦しみが少ないと考えられており、特別な許可もいりません。
公園などの公有地では個人が勝手に駆除を行なうことはできません。まず管理者に相談し、管理者やボランティア団体等と協力して実施するのが望ましいです。許可や掲示などで困ったら、管理者や環境省に相談するとよいでしょう。
環境を守るためとはいえ生きものを殺すのはつらいものです。そこで、都市公園などでは外来生物ポストが設置されている場所もあります。つかまえた外来生物をここに入れると役所や専門業者が回収して処分してくれるのです。このような取り組みが広まると、市民がより簡単に地域の自然の保全に関われるようになるかもしれません。身近な公園に外来生物ポストがない場合には、設置をお願いしてみてください。
ただ殺すだけではつらい、という場合は食物や肥料として利用することもできます。ウシガエルの別名は食用ガエル。実は食材として優秀です。同じくアメリカザリガニも食材として活用でき、中国ではたいへんな人気となっています。南米原産の特定外来生物であるナガエツルノゲイトウも食べられることが知られています。
ただし、食材として利用する際も法律は守らなくてはいけません。アメリカザリガニは生きたまま持ち帰って家で泥抜きなどができますが、ウシガエルはその場で締めなくてはいけません。ナガエツルノゲイトウも生のままでは移動させられません。
法令を遵守しつつ衛生的かつ美味しく食べるには知識と下調べが欠かせません。また、食べる場合は採集地の水質や汚染度のことも忘れずに。食物としての活用が難しいときは締めたのちに埋設して家庭菜園などの肥料にするのがよいでしょう。
日本人はただ死なせることへの抵抗感が強いので、駆除を考えるときには利用も一緒に考えられることが多いようです。もちろん利用できればそれに越したことはないのですが、利用の比重が大きくなると、ときに駆除のブレーキとなることも。あくまで駆除をメインの活動に据え、利用は副次的なものとしたほうが、環境の保全の面では無理がないでしょう。
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
外来生物の駆除はときに精神的な負担の大きい作業ではありますが、負担に見合うだけの効果がある取り組みでもあります。なかでも劇的に環境が改善することがあるのが、池のかいぼり(いちど水をすべて抜くこと)です。東京にある狭山公園の池は、濁った水にオオクチバスとコイが泳ぐような環境でしたが、かいぼりでリセットした結果、土のなかで休眠していた在来水草が数十年ぶりに復活し底が見通せるほどきれいになりました。最近は再び、外来生物に押されて濁りつつありますが、人が積極的に関わることで在来の生物に良い環境を提供できることが証明されました。また、外来生物を完全に根絶できなくても、外来生物を減らすだけで、在来の生き物が暮らすスペースを拡張させることができます。外来生物の防除は積極的な自然保護活動のひとつといえるでしょう。