人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
マッチやライターが登場する以前に使われていた発火法のひとつが火花法。火打石と火打金を打ち合わせて火花を飛ばし、その火花から火種をつくって火をおこします。ヨーロッパでは1万年ほど前から行われており、日本でも江戸時代にはよく行われる発火法でした。火花法は今では馴染みが薄くなりましたが、実は身近な素材で再現可能です。河原で拾った石と生活の中から出る廃材で火をおこしてみましょう。
昨今のキャンプブームですっかり一般的になったメタルマッチ(ファイヤースターター)ですが、これは火打石・火打金とは似て非なるもの。発火に至るまでのプロセスが異なります。
メタルマッチは特殊な金属でできたフェロセリウムロッドを強くこすることによって運動エネルギーを摩擦熱に変え、削り出した小片を燃焼させます。フェロセリウムは150~180℃で発火点に達するので火花を飛ばすのが比較的容易です。しかも金属自体が燃焼しながら2000℃以上の温度を出すので、枯れ草などに火花を飛ばせば、いきなり着火することができます。
高温の火花が得られるフェロセリウムに対し、火打石と火打金の火花は温度が低めです。火打石と火打金で出す火花は赤熱こそすれ、燃焼していないからです。石と金(かね)を打ち合わせたときに運動エネルギーが摩擦熱に変わり、それと同時に石が金を削り出すところまではフェロセリウムと同じですが、こちらは運動エネルギーが生んだ摩擦熱が小さな鉄のかけらにのっているだけなので火花は小さく、温度も低めです。とても紙や草に直接火をつけることはできません。
そのため、火打石と火打金を使う発火では、火花をいちど火口(ほくち)で受けてそこで火種をつくって燃え広がらせます。
火打石として使えるのは石英や瑪瑙(めのう)、チャートなどの硬い石。鉄を削らなくてはいけないので、当然鉄よりも硬い必要があります。そんな石たちが潜んでいるのは河原。……なのですが、火打石は造山運動によって生み出されるので、どんな川にもあるわけではありません。「住んでいる地域+瑪瑙」などのキーワードで、最寄りの硬い石が拾えるスポットを探してみましょう。
東京周辺の場合は多摩川で火打石を拾うことができます。まずは五寸釘を手に河原に降りてみましょう。そこには色や質感が異なる石がたくさんあるので、ひとつひとつ釘の先端で引っ掻いてみます。表面に傷がつけば鉄よりも柔らかい石。傷が付かなければ鉄よりも硬い石です。
釘で傷をつけられない石を多摩川で見つけたら、それはおそらくチャートです。多摩川で見つかるチャートは古い時代に(1億年以上前とも)海底に降り積もったプランクトンの死骸が固まったもの。透明感があってずしりと重いので目が慣れたら簡単に見つけることができます。
河原の石は摩擦されて丸いので、鉄を削り出すほどの鋭さがありません。それらしい石を見つけたら、別の石を打ち当てて角を出します(かけらが飛ぶのでゴーグルをしましょう)。その石と火打金を打ち合わせて火花が出たら合格! 柔らかい石では石が削れるばかりで火花が飛びません。
ひと口に鉄といっても、含有する鉄以外の元素によってその性質は大きく異なります。数ある鉄のうち、火打金として使えるのは炭素を含みほどよく硬い鋼(はがね)です。あまりに柔らかくては火花にならず、硬すぎても火花が飛ばないので、鋼の硬さと性質が火打金にはちょうど良いようです。
手にした廃材のどれが鋼でどれがそうでないかの見分けは難しいのですが、元の用途から素材を推察できます。安価な工具(金ヤスリ、ノコギリの刃)には鋼が使われていることが多いので、使用済みのクズ鉄を火打石に打ち当てて探してみましょう。
今回火打金の素材に使ったのは、メタルマッチの棒を削る板の使い古しです。これはフェロセリウムロッドよりは硬いけれど、火打石よりは柔らかいので、火打石と打ち合わせると鉄のほうが削れて火花になります。そのままでは力を込めにくいので、手近な木片に打ち込んでハンドルとしました。
ノコギリの刃や金ヤスリなど、いろいろな廃材が火打金になりえるので、入手したクズ鉄に合わせてハンドルをつくりましょう。
火打石と火打金でつくる火花は温度が低いので、火花を受けて火種へと育てることが必要だと最初に書きました。その火花のゆりかごとなるのがチャークロスです。チャークロスはその名の通り布製の炭。布の端切れを炭化させたものです。木綿の元は植物の繊維ですから、それを炭にすれば、薄い布状の木炭が得られます。
ガーゼや着古したコットンのTシャツを4cm四方程度に切り出したら、密閉できる鉄製の缶にいれて火にかけ、蒸し焼きにします(缶には内圧と煙を逃す小さな穴を開けておきます)。酸素がない状態で加熱されると、木綿は熱分解されてあとには炭化した布が残ります。この炭化した布は非常に燃焼しやすく、火花が触れただけで赤熱を始めます。赤熱したチャークロスを丸めて育てると火種として使うことができます。
チャークロスをつくる際、注意したいのが酸素の流入です。加熱中はもちろん加熱を終了したあとも、高温のチャークロスに酸素が吹き込むと缶のなかで燃えてしまいます。燃焼後は穴を塞いで酸素が入らない状態で温度を下げます。
火打石、火打金、チャークロスの3点に加え、火を出すために必要なのが火種を燃え移らせる繊維質です。これはよく乾いた極細の植物性の繊維であればどんなものでも使えるのですが、あらかじめ用意するのであれば麻縄が最適です。撚り合わせられた麻縄の繊維をほぐし、鳥の巣のような形に整形したものは発火の成功率を高めます。
火おこしは段取りが肝心。途中で失敗すると用意した素材が無駄になるので、一回のチャレンジで成功率できるよう素材を整えておきます。まずは麻縄をほぐして、握り拳大の麻の繊維の塊をつくります。それを鳥の巣形に整形して、中央の窪みに火種をいれられるようにしておきます。
麻の用意ができたらいよいよ火打石と火打金の出番です。利き手の反対の手に石をにぎり、石の鋭い角にチャークロスを添わせます。利き手に握った火打金で火打石の角を狙い、石に打ち当たりつつ、奥側へと逃げるような当て方をします。石の角に火打金の金属部がぶつかり、こすれるような当て方が理想です。
何度か繰り返すと火花がチャークロスに移り、小さな赤い点が燃え広がりながら赤熱を始めます。ある程度燃え広がったら、チャークロスを軽く丸めて用意した麻の塊の窪みへ入れ、全体を包んで保温します。
麻に包まれて保温されると、チャークロスは強く赤熱して温度を高め、やがて麻の繊維を焦がし始めます。麻の繊維の隙間から煙を感じられるようになったら、火種があるあたりへ細く長く息を吹き込みます。酸素が供給されるとモウモウと煙が上がり、やがてそのなかから「ボウッ!」と音を立てて炎が誕生します。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
現代の生活のなかではなかなか活躍する場面のない石ですが、古い時代には私たちの命を支える大切な道具でした。火打石のように、道具としての側面から石を見てみると、十把一絡げだった河原の石の違いが急に目に飛び込んできます。石の名前や硬さや柔らかさ、野外での用途、どの山から流れてきたのか……。いちど火打石を拾ってしまったら、その後は出かけるたびに石のことが気になるはずです。