山梨県北杜市在住。小規模農と廃物利用を組み合わせ、環境負荷が小さいお金にあまり頼らない暮らしを実践。ブログ「自給知足がおもしろい」を通じて有用な生活技術を発信する。https://musikusanouen.hatenadiary.jp/
八ヶ岳山麓の標高750mの山里で自給的な暮らしをしています。この標高だとサトウキビは栽培できません。カエデの樹液からメイプルシロップはつくれますが1シーズンかけてつくったメイプルシロップはパンケーキ3回でなくなってしまいます。その点、蜂蜜は優秀です。ここ虫草農園で育てているのは、ニホンミツバチという在来種。セイヨウミツバチに比べると採蜜量は5分の1程度とかなり少ないのですが、それでもひとつの巣から1シーズンで2000cc以上の蜂蜜が採れたりします。
さらにミツバチたちは別の幸運をももたらしてくれました。ハチを飼い始めてから畑の作物、特に実モノの出来がよくなったのです。虫草農園は無農薬、無化学肥料、放任に近いいい加減な栽培方法なのですが、それにもかかわらず、アンズはジャムを販売できるくらいにたくさん採れるし、桃も1本の木で200近い袋をかけています。さらには、野菜などのタネを自家採種する上でもミツバチはありがたい存在。優良なタネがたくさん採れます。
ミツバチは健気で可愛くて観ているだけでも癒やされるのですが、ミツバチを飼うことでハチたちは、われわれヒトと自然との間でいまどんなことが起きているのかを教えてくれます。
日本ではセイヨウミツバチとニホンミツバチの二種類のミツバチが飼育されています。ニホンミツバチはトウヨウミツバチの亜種で、古くから日本に生息する在来種。一方、セイヨウミツバチはヒトが蜂蜜を得るために、明治以降に持ち込んだ外来種です。
ハチたちは一日中見ていても見飽きません。たとえば帰宅するハチは、後ろ足のバスケットに花粉をたっぷり蓄え帰ってきます。蜂蜜と共に花粉は幼虫たちのエサになります。その花粉の色の違いによってさまざまな花から採蜜&花粉集めがされていることがわかります。中には頭のすぐ後ろに花粉のカタマリを付けてくることもあり、これらはランの仲間によるものとして知られています。
からだのサイズはセイヨウミツバチの方がひとまわり大きく、ひとつのコロニー内で生活する個体数も多いことから、蜂蜜の収穫をする上では効率的です。プロの養蜂家はセイヨウミツバチを飼育することが一般的になりました。ただしセイヨウミツバチは外来種で体格的に勝っているので、野生化してしまうと在来種であるニホンミツバチの生息環境を奪ってしまう可能性があります。
日本の生態系にはミツバチの天敵としてオオスズメバチがいます。ニホンミツバチは蜂球をつくってスズメバチを熱殺できるので、野生状態でもコロニーを守ることができます。一方セイヨウミツバチは(いまのところ)蜂球をつくって群を守る手法を(完全には)習得できておらず、オオスズメバチに襲われると3万頭以上のコロニーでも数時間で全滅してしまいます。いまはこうしてオオスズメバチによって在来種であるニホンミツバチは守られていますが、オオスズメバチが数を減らしてしまったり、セイヨウミツバチが蜂球をつくることを学習してしまうと、様相は変わるかもしれません。
ちなみにオオスズメバチが生息しない小笠原では、セイヨウミツバチが野生化してしまい、在来のハナバチ類の激減により在来種でしか受粉できない小笠原固有の植物までもが絶滅の危機に瀕している、という報告もあります。
セイヨウミツバチは外来生物法が定める特定外来生物ではないので、罰則などはありませんが、野生化しないような管理(分蜂群が出ていってしまわないように女王の王台を管理する)が必要です。また養蜂振興法により、ミツバチを飼う場合には市町村への届け出が義務付けられています。
社会性昆虫であるミツバチは群=コロニーをベースにして増えていきます。春になると働き蜂の個体数が急激に増え、同時に新しい女王が生まれます。面白いことに、新女王が誕生すると、その親である旧女王は半分くらいの働き蜂を率いて、住み慣れた巣を出ていきます。老いた親が若い娘に巣を譲り、新居を求めて巣から旅立つのです。これを分蜂(巣分かれ)と呼び、この分蜂群をヒトがつくった巣箱に取り込むことで飼育がはじまります。
ニホンミツバチは趣味人による飼育が主体なので「待ち箱」での収容が一般的です。(あるいはすでに飼っている方から分けてもらう方法もあります)。一方、セイヨウミツバチのコロニーはお金で売買されることが多いようです。
分蜂群はどんな巣箱を好むのか? そのあたりを探求するのも楽しい作業です。人それぞれ、独特の方法があります。野生状態では木の洞などに造巣することから、最近はハイブリッドタイプと呼ばれる待ち箱がハチにも趣味人にも人気があります。ハイブリッドタイプはハチが出入りする巣門付近(一段目)を丸太にした樹木の洞風です。その上の2段目以降は、重箱式と呼ばれる箱型の巣箱になっています。なぜ重箱式巣箱を組み合わせるかというと、採蜜や巣の増設などの際、重箱式が管理しやすく、コロニーへのダメージも少ないためです。ハイブリッドタイプの材料が揃わなければ、重箱式巣箱をハチが好みそうなところに設置するのでもOK。重箱式についてステップ3で詳しく紹介します。
ミツバチは、朝日は当たるけれど日中や西日は当たらないところを好むので待ち箱はそんな環境に設置します(ハチは、冬は朝早くから温度が上がるけれど夏は温度が高くなりすぎない場所を好みます)。待ち箱の入口や内部には、蜜蝋を塗っておくと入居しやすいと言われています。
キンリョウヘンと呼ばれるシンビジウムの仲間の花は、トウヨウミツバチの集合フェロモンに似た匂いを放ちます。このキンリョウヘンやキンリョウヘンの誘引物質を合成した商品で分蜂中のミツバチを誘引する技術もありますが、本来日本に分布しないランを使って誘引することに私は抵抗があります。
また、待ち箱を飼育地から離れた場所に仕掛ける場合、離れすぎないように心がけます。ニホンミツバチもゲノム解析が進み、岐阜以南と長野以北、九州とで変異があることが分かってきました。離れた地域のものを人為的に移動しないようにして欲しいと思います。
セイヨウミツバチの場合には、巣礎と呼ばれるハニカムが貼られた巣枠式の巣箱で飼うことが一般的ですが、ニホンミツバチでは重箱式と呼ばれるタイプが普及しています。四角い筒状の巣枠をお節料理の重箱のように縦に数段重ねたもので、一番下の段には巣門と呼ばれる出入り口用の木枠をつくります。底板は分蜂群を取り込みやすいように取り外し式にします。
重箱式巣箱はミツバチが貯蜜層と育児層を上下に分けて使う性質を利用したもの。ミツバチは巣の上部に貯蜜し、下部で育児を行ないます。巣がある程度成長したタイミングで最上段を分離して蜜を収穫しても、卵や幼虫、蛹などを傷つけずに済みます。
重箱式巣箱にもいろいろありますが、虫草農園では廃材や安価な「1×6(ワンバイシックス)材」を使って作っています。同じサイズの板を切り出し、それを交互に組み合わせて四角い枠を作る方法もありますが、横からの力で変形しやすいことと、長さの異なる二種類の板を組み合わせて正方形をつくる方が材を無駄なく使えるので私は木端を揃えています。
巣枠のサイズは内寸で20cm以上27cm以下の正方形で、高さは10~15㎝程度、板厚は12~30mmくらいまでが一般的です。
暑い夏に巣は柔らかくなります。そのため竹ヒゴにより巣落ち防止用の細工をします。十字でもいいようですが、虫草農園では4本で井桁状に組んでいます。
ステップ2で解説した待ち箱は、この重箱を蜂の好む場所に置いて群れを誘引したもの。良い場所で誘引したら、半月ほど巣作りさせてから管理しやすい場所に動かします。待ち箱に入居してからすぐに動かすと逃去してしまうので、ある程度巣作りさせるのが逃去を防ぐコツです。
もうひとつ重要なのが、待ち箱を置く場所と管理する場所の距離。2km以上離さないと、働き蜂が待ち箱を置いた場所へと帰ってしまいます。待ち箱を中心にしたミツバチの行動範囲と、管理地を中心とした行動範囲が被らないことが大切です。
重箱式巣箱を上から見ると、上蓋、スノコ、巣枠、巣門、底板という構造になります。雨の浸入を防ぐ上蓋、その下に巣の土台となるスノコがきて、巣枠が数個続き、巣門が最下段にきます。
巣門の作り方は人それぞれです。分蜂取り込み後、群を逃さないためには数日間、女王バチを巣に閉じ込めておく必要があります(巣門を働き蜂はくぐれても女王蜂は通れない幅にする)。またオオスズメバチに巣箱内に入られないためにも、巣門の高さを調整式にしておくことをお勧めします。
底板もそれぞれです。底板を設けず、巣くずが土に落ちるほうがスムシの被害を防げるという人もいますが、密閉に失敗すると天敵が入ってきてしまうので、私はネットを張ったうえで(ちょっと過保護ですが)夏は開放し、冬は板で塞いでいます。
コロニーの個体数が増えてきたら、継ぎ箱(重箱を下に追加する)をして内部空間を広げてあげる必要があります。そのために定期的に内部の点検をします。最近はスマートフォンが普及しているので、巣門を外し、そこにスマートフォンを差し込んで内部の様子を撮影するのが楽ちんです。撮影の結果、巣が底板近くまで迫っている場合は、巣門部分と最下部の重箱とを切り離し、そこに重箱をひとつ追加します。
近年はダニによる被害が大きく、ダニよけの薬品を上蓋とスノコの間に置いて、巣内に薬品を充満させる方法が普及しています。そのため、上蓋とスノコの間に薬品を置ける空間をつくる構造にする人もいます。薬品はたしかに効果はあるのですが人為が過ぎるように思います。虫草農園では薬品や人工的な給餌をやめました。
薬剤を使って人為的にダニを防除してしまうと、淘汰による選択が働きにくくなってしまいます。ミツバチがもつ遺伝子の多様性や突然変異などによってダニへ対応するスピードが遅くなってしまう可能性を(個人的な推測ではありますが)危惧しています。
多くの生物は遺伝子の淘汰による変化(=変異)によって、環境変化に対応しています。その流れをできるだけ損なわないように飼育することが野生種でもあるニホンミツバチを飼育する上での重要なポイントのようにも思っています。
巣から出ていくハチと帰ってきたハチの大きさの違いには驚かされます。蜜胃にたっぷり蜜を溜め込んでいるので行きと帰りとで大きさが違うのです。巣の前でホバリングして働き蜂を襲うキイロスズメバチは、離陸するハチではなく帰って来るハチを捕食しますが、そのする理由もわかります。キイロスズメバチは雑食で、ミツバチもムシャムシャ食べますが、ヤブガラシなどの花の蜜も大好物だったりするのです。
ちなみにキイロスズメバチはミツバチを一頭ずつ捕食するだけなので、健全な巣であれば放置しても全滅に至るようなことはありません。スズメバチと聞くと身構える人もいるでしょうが、ハチの多くは人の違いを認識可能で、我が家に来たお客さんと虫草農園スタッフとで対応が異なります。キイロスズメバチはミツバチ以外の虫(青虫)もたくさん食べるので、虫草農園に巣が作られたときには駆除せず見守っています。今まで、キイロスズメバチに巣を全滅にされたことはありません。
一方、オオスズメバチは集団で巣を襲います。コロニーを壊滅させられてしまうこともあります。ミツバチは通れるけれどもオオスズメバチは通過できないサイズの網で囲い、巣に近づけないようにする方法が効果的です。
もう少し自然な方法としては、熱殺蜂球をしやすいように、巣門の前に転がり止めを置いてあげる方法があります。蜂球を作ろうとした初期に少数のミツバチごと草むらに落ちてしまうとオオスズメバチが勝ってしまうのです。そこで巣門の近くに細い板などを置いて初期の蜂球が草むらに転がり落ちることを防止します。
ミツバチの巣を食べてしまうスムシの対策としては、巣門を底板から少し高い位置に作り、ミツバチにくっついてスムシが巣に登ってこないようにする方法が知られています。スムシには、セイヨウミツバチと共に日本に入ったハチノスツヅリガ(大型)と日本在来のウスグロツヅリガ(小型)がいて、ウスグロツヅリガはニホンミツバチと共生しています。ウスグロツヅリガが食べるのは巣屑が主。巣の掃除役であり、数が増えるとツヅリガの寄生虫であるスムシコマユバチも増え、バランスを保っています。虫草農園では、以前は箱の底の巣屑を掃除していましたが今はウスグロツヅリガに片付けをお任せしています。
農村、特に田んぼの近くでは農薬や除草剤の影響があります。散布が行われた日には巣門を閉じ、ハチを巣箱の中に閉じ込めておく必要があります(外に出ようと盛んに板を齧る音にますます悲しくなります)。ニホンミツバチは特に雑草と呼ばれる野草の花たちからも吸蜜するので、除草剤の影響も大きく、残念ながら農薬の影響で大量に死んでしまったこともありました。これはミツバチだけでなくアシナガバチなどにも影響はあるようです。卵や幼虫を残した最盛期の巣にもかかわらず親バチたちがいなくなる現象の多くは農薬によるものではないかと推測しています。
もうひとつ、このところ大きな影響を及ぼしているのが寄生虫であるダニです。セイヨウミツバチのコロニーに大きな打撃を与えるヘギイタダニは日本在来のダニでもあり、ニホンミツバチは比較的耐性があります。
一方、セイヨウミツバチと共に入ってきたアカリンダニによる影響は大きく、その地域の群が全滅するような大きな被害がでています。K羽根と呼ばれる状態のハチが巣門の近くをウロウロしだすのが感染の目安で、便が下痢状になる症状もあります。対策としては、メントールや蟻酸などの薬品を巣箱の上部に置き、それらを気化させてダニを駆除する方法が知られています。ハーブが主体でダニよけ効果があると言われるシリカゲル乾燥剤(商品名「ダニよけシリカ」)などと呼ばれるものもあり、使っていたこともありました。
もう少し自然な方法としては、メントールなどを含むミントを多く植えたり、クリーピングタイム(日本の在来種ではイブキジャコウソウ)などが防御効果があるとの研究があり、虫草農園ではそれらを増やしています。
元々の野生種を飼育し、増えたコロニーを野生に帰す可能性がある場合、変化に追従できずに淘汰される遺伝子を人為的に無理して残さない、ということも大切なことのようにも思っています。
ただし我々ヒトは蜂蜜の収穫という恩恵(ハチから見れば収奪)を行っているわけで、さらには人為的な環境汚染や農薬、除草剤の散布などもあるわけなので、そのあたりのさじ加減は難しいところ。虫草農園の場合も当初はかなりの過保護飼育だったのですが、最近は放任に近い飼育方法を実践するようにしています。それでも森からやってきてくれた元気な群は元気だし、ヒトがいろいろアシストしても淘汰されていく群は淘汰されてしまうように感じます。
2年目以降、無事に冬を越えることができたら、飼育している巣箱のコロニーが分蜂をしてくれます。オス蜂の姿がたくさん見られるようになったら要注意。そろそろ分蜂がはじまります。分蜂は元気な巣箱の場合、1シーズンで4回くらい行われます。最初の分蜂で巣を出る女王は母女王なので、すでに交尾済み。できればこれはなんとか捕まえましょう。
最初の分蜂以外は、交尾を終えていない女王たちです。女王はからだが大きくその割に羽根は小さいので交結婚飛行中にツバメなどに捕食されてしまうことがあります。そのため交尾済みの最初の分蜂群は貴重なのです。
分蜂する蜂たちは、近くの木の枝などにぶら下がり、大きな蜂球をつくります。その後、行き先が決まったら、いっせいに飛び立ち、新しい巣になる木の洞や巣箱に向かいます。分蜂を取り込むチャンスは、木の枝などに蜂球ができた状態のとき。行先が決まらず、長い場合は翌日まで蜂球を作っていたりすることもありますが、普通は2時間くらいで飛び立ちます。今にも飛び立ちそうな場合、時間稼ぎとして霧吹きで蜂の羽根を濡らしてしまう方法が知られています。
蜂球はネットで捕まえるのが一般的で、すぐに巣箱に誘導せず、半日以上、風通しのいい日陰に放置してジラしてから巣箱に取り込んだ方が巣箱に定着してくれる率が高いよう感じます。
また、母女王が巣箱から逃げないように、巣門のサイズを小さく(3.8ミリ前後)にして働き蜂たちだけがギリギリ通過できるくらいにセットするのも有効です。
ただし第2分蜂以降の女王は結婚飛行に出してあげる必要があり、働き蜂が花粉を運び出したら巣をつくりはじめた合図なので巣門を広げ女王も出入りできるようにしましょう。閉じ込めておくのは長くても5日くらいにしてください。それでも出ていってしまう場合は、なにか別の原因がある可能性が高いです(スズメバチが同じ巣箱に巣をつくりはじめていたなんてこともありました)。
虫草農園では、重箱が4段になって巣の下側が底板に届きそうになったら採蜜します。ただし、冬近くは越冬のための発熱エネルギー源として蜜を大量に消費するので、採蜜を避けた方がミツバチは喜びます。ミツバチたちは冬眠せず、筋肉を動かすことで自ら発熱しその熱を蜂球に蓄え、蜂球中心部を外気温よりも20度C以上高く保ちつつ越冬します。
採蜜は貯蜜層である重箱の最上段をスクレッパーと針金で切り離し、蜜を濾す方法が一般的ですが、細かい手順は人それぞれです。ここでは虫草農園流の方法を紹介します。
最初に金槌で上蓋を小刻みに叩いて振動を与え、ハチに箱の下の方に移動してもらいます。上蓋を外したら、スノコと最上段の間に針金を通してスノコを切り離します。すると巣が露出するので、巣板の隙間に送風機で空気を吹き込みます。それによって最上段にはハチがいなくなります。今度は最上段と2段目の間に針金を通し、蜜が詰まった最上段を回収します。最上段の回収後、外したスノコを2段目の上に被せて上蓋を閉じれば、ミツバチは分泌した蝋でスノコと巣を再度接続します。
回収した巣は濾過用のメッシュを敷いた大きめの容器に収納します。巣箱から離れたところに移動後、容器のフタをあけ蜜巣のフタをパン切り包丁で切ります。気温が高ければ蜂蜜は垂れて流れ出します。この状態で容器を直射日光の下にしばらく放置すると、自然落下の美味しい「垂れ蜜」が容器に溜まります。
その後、容器の上蓋を細かなメッシュに変えて直射日光、場合によってはドライヤーなどの熱風を併用し、蜂蜜の糖度を80度以上まで高めて保管します(80度以下だと天然酵母が活性化しアルコール発酵することがあります。蜂蜜酒のミードは水で薄まった蜂蜜が発酵したもの)。
垂れ蜜を取った巣からは、蜜蝋と加熱蜜が採取できます。垂れ蜜をとったあとの巣をザルに入れ、それを小さめの寸胴鍋に仕込み、その寸動鍋をお湯をはった大きな寸動鍋で蒸します。加熱蜜は温度が下がると上面に蜜蝋が固まります。これにより、不純物、加熱蜜、そして蜜蝋の三種類を分離できます。
糖度80度まで凝縮された垂れ蜜は、蜂蜜本来の殺菌効果と糖度圧迫により、保管性に優れ発酵しにくい良質の蜂蜜になります。一方、加熱蜜は煮物などの糖分として使っています。蜜蝋は、次の季節の待ち箱に塗ったり、家具の仕上材、あるいは化粧品としても人気があるようです。
社会性を持つミツバチを飼ったことで、多くのことを知るようになりました。たとえばミツバチのオスは働きません。毎朝、美味しい食事を働き蜂から口移しでもらっては、上空に飛び立ち、他のコロニーのオスたちと蚊柱のような「ハチ柱」をつくり、未婚の女王がどこからか飛んでくることをひたすら待ちます。
オスとして、理想的な暮らしのようにも思えますが、蚊柱もハチ柱もそこにいるのはオスだけです。見合い会場、というよりもメスが交尾相手を見定めるためのオスの見本市会場のようなところだったりします(ちなみに英語でオスのミツバチのことをドローンといいます。「ブーンと音をたてて飛ぶだけの怠け者(迷惑な存在)」というスラングでもあります)。
こうしてオスたちと交尾した女王は、その後、巣箱から出ることはほとんどなく、毎日毎日ただただひたすら卵を産み続けます。健気にも思えますが、社会性のメリットである役割分担が進行し、効率が最優先されるとどんな社会になるかを暗示してくれているようにも見えてきます。
また、ミツバチたちは、ヒトも含めたすべての生物が自然の生態系の中で暮らしている、ということも教えてくれます。蜜源となる植物、天敵のオオスズメバチ、鳥などの捕食者……。ミツバチは多くの生き物と関わりをもっています。ミツバチの最強の天敵であるオオスズメバチにもネジレバネという寄生虫がいて、スズメバチの個体数を制御しています。ミツバチ、スズメバチ、ネジレバネの関係性によってバランスが保たれているのです。ミツバチとツヅリガ、ツヅリガの寄生蜂の関係性も同様です。生態系はこのような生物の多様性によって支えられています。
一方で農薬は自然界とは仕組みが異なります。それが散布された作物をヒトが食べても安全であることが確認された薬品たちではありますが、農薬として認可されている殺虫剤は虫を殺すし、殺菌剤は菌類を殺し、除草剤は植物を枯らします。そこにバランスを取る仕組みはありません。
ヒトの都合や効率を優先し、ひとり勝ちしてしまうシステムは一見、強そうに見えますが、多様性を失ってしまうので環境変化やパンデミックのようなものに弱く、全滅してしまう可能性が高まります。ヒトだけが生態系の外で生きることは不可能なように思います。
「わたしたちはハチを飼っています。雑草を許して!」虫草農園ではこんな看板を設置しています。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
よく言われることですが、受粉昆虫であるミツバチやアブ、蝶や蛾などがいなくなると、虫媒花は実らなくなってしまい、ヒトを含む多くの生物は生きていけなくなります。ときに厳しい側面を見せる自然の生態系ですが、どんな場合でも共生がベースになっていて、その素顔は優しく暖かです。ミツバチを飼育することでそんな自然界の成り立ちを感じていただけたらうれしいです。