パックメーカー「パーゴワークス」代表&デザイナー。少年時代に釣りと自転車から野外活動の世界に入り、成人してからはアウトドア用品のデザイナーとして活動。2011年にパーゴワークスを立ち上げる。
最近、街で見かける自転車にスポーツ車が増えました。今や高校生も当たり前にロードバイクやクロスバイクに乗っています。もしもあなたがそんな少年なら、自分の自転車のフレームをよく見てみましょう。きっとそこにはなんのパーツも付いていないネジ穴があるはずです。その正体は「ダボ」。キャリアなどを取り付けるためのネジ穴です。かつての自転車少年たちはキャリアに生活の道具をくくりつけて日本一周や海外へと旅立っていきました。移動時のエネルギー効率において、生身の人間はほかの生物やエンジンを使う乗り物と比べてそれほど優位ではありません。しかし、ひとたび自転車にまたがると他を大きく引き離すほど効率が高まります。自転車は人間が発明した乗り物のなかで最もエネルギー効率が高い道具だと言われています。あなたのもっているスポーツ車も数百km、数千kmを走り抜ける性能を秘めています。自転車のメンテナンスとカスタムの技術を覚えて、自転車で旅に出てみましょう。




上級者が遮るもののない道を自転車で走った場合、巡航速度は時速30kmを超えますが、トレーニングを積んでいない人の自転車の平均時速は10~20kmといったところでしょうか。これでも歩行速度の倍から4倍の速さ。そして、同じ距離を歩行した場合に比べて格段にラクに移動できます。
たとえば40kmの距離と聞くと、その足に使うのは当然クルマが思い浮かびますが、自転車で所要2時間の距離と考えてみるとどうでしょう。ぐっと身近に感じませんか? 片道2時間、往復で4時間。自転車なら40km先も半日で往復できる距離です。
こんな自転車散歩以上ツーリング未満の小旅行なら、特別な道具は必要ありません。ふだん通勤や通学に使う自転車なら、ベルやライト、反射板などの保安部品は既に装着されているはずです。ヘルメットの着用は努力義務となされていますが、自身の身を守る道具ですからこれは必携です。
あとは財布とスマホ、雨具と飲料水が入るデイパックがあれば十分です。出先でのトラブルに備えて基本的な工具と替えのチューブ、空気入れは用意したいところですが、最初のうちは街の自転車店を頼ってもいいでしょう(出先で2、3度トラブルに見舞われたら、きっと自力で直せるようになりたいと思うはずです)。自転車のトラブルの多くはちょっとした知識と道具で解決可能ですし、自分で直せばお店に頼むより格段に安上がりです。
目的地は自分が行きたい場所のどこでもよいですが、長距離を走るときはほかのクルマや連続する信号が気になるものです。そこでおすすめなのが川や海岸に沿った自転車道を利用すること。自動車も信号もないので安全かつスピーディーに移動できます。
自転車での遠乗りが身に付いたら、ハンドルにつけるフロントパックやフレームの前三角につけるフロントパックを導入してもよいでしょう。荷物の総重量は変わらなくても、背負う荷物が軽くなると体への負担が軽くなります。修理道具や雨具などを常に収めておけば、忘れ物も減らせます。





自転車でもっとも多いトラブルがパンクです。そもそもメカトラブルは日々のメンテナンスとチェックを行っていればそうそう起きるものではありません。しかしパンクだけは釘やガラス片などの鋭いものを踏むと起きるので、予防しきれません。パンク修理は現地で行うこともできますが、その場ではチューブ交換だけしてパンクの修理は自宅で行うのが一般的です。
タイヤとチューブ、ブレーキのシステムにはいくつかのタイプがありますが、入門者が乗る自転車はリムブレーキ(リムをブレーキシューではさんで回転を止めるタイプ)を採用し、クリンチャータイヤ(タイヤとチューブが別になっている)を履いていることが多いと思われるので、それに沿って解説します。
まずはタイヤの規格に適合するチューブを用意します。タイヤのサイドには「700×23C」などのタイヤのサイズを表す数字が書かれています。ものによっては数字がたくさん書かれていますがこれはインチとミリの表記の違いなので、日本では「700」とこの数字に続く数字を気にすればOK。「700×23C」とある場合は「直径700mm、幅23mmのタイヤ」となります。
チューブにもタイヤと同様に「700×18-25C」と書かれています。後ろの数字が18-25なのは、チューブは入れる空気の量で太さを変えられるから。チューブの許容範囲にタイヤのサイズが適合していれば問題ありません。チューブのバルブ(空気入れを接続する部分)には米式、仏式などいくつか規格があり、またリムの高さに合わせてバルブ長もさまざまです。元々ついているチューブの形式に合わせましょう。
それでは交換の手順を解説します。まずはペダルを回しながら変速し、チェーンをフロントのギアの内側の歯、リアのギアのいちばん外側の歯にかけます(こうするとホイールの着脱が楽になります)。続けてブレーキのロックを解放してから自転車の上下をひっくり返し、クイックリリース(を緩めてホイールを取りはずします。





ホイールがはずれたらバルブの弁を押し込んでチューブ内部の空気を抜き、リムとタイヤのビード(タイヤの縁の硬い部分)にタイヤレバーを差し入れます。このとき、ビードとタイヤレバーの間にチューブを噛み込まないように注意しましょう。タイヤをはずすためにレバーに力をかけたとき、噛み込んでいるとチューブが切れてしまいます。
2本のタイヤレバーを15~20cmの距離で2本挿し入れ、同時に起こすとバコン!とタイヤのビードがリムの外に落ちるので、レバーをスライドさせてぐるりと一周ビードを外します。このとき、タイヤの片側のビードはリムの内側に残っていますが、チューブ交換では片側は残っていても問題ありません。
ビードが硬くてうまくはずせない場合は、最初に3本のレバーをビードとリムの間に入れておき、最初に2本起こしてそのあともう1本を起こすとよいでしょう。片側のビードがはずれたら、バルブに付いているリングを回して外し、チューブをタイヤから引き抜きます。





装着は逆の手順をたどります……が、パンクによってチューブ交換する場合は新しいチューブを入れる前にパンクをした場所を確かめておきましょう。パンクしたチューブに空気を入れて膨らませ、穴があいている場所を確かめ、タイヤのその穴と重なる場所を目視で確かめ、続けてタイヤの内側を触って棘やガラス片などがないか確かめておきます。この作業を怠ると、チューブを交換したとたんに再度パンク、なんてことになりかねません。
リムの穴に新しいチューブのバルブを通したら、空気を軽く入れて膨らませ、チューブをタイヤのなかに収めます。タイヤのなかでチューブが偏らないよう均等に配置しましょう。タイヤにチューブを収めたら空気を抜き、リムの外にはずれているビードをリムのなかに押し込んでいきます。このとき、バルブがある側から反対側へと向かって進んでいきますが、バルブの右側を少し押し込んだら今度は左側を少し押し込む、というふうに均等に押し込んでいき、最後にバルブと正対するあたりでリムの内側にビードを落とします。
最後に残るビードをリムの内側に入れるのはなかなかたいへん。手で押し込めない場合はタイヤレバーを1本、ビードとリムの間に挿しこみ、レバーを起こしてビードをリムの内側に落とし入れます。このとき、レバーやビードの間にチューブを挟んでしまうとチューブが切れてパンクするので注意が必要です。
タイヤがリムにはまったら、チューブのバルブを奥側に押し込んで両サイドのビードより内側にチューブを押しやっておきます(バルブの周囲はとくにビートとリムの間にはさまりやすいため)。そのあと、チューブに軽く空気を入れてからタイヤ全体を揉み、ビードとリムの間にチューブを噛み込んでいないか確認しつつタイヤとチューブを馴染ませます。チューブを噛み込んでいないことを確認したら、適正な圧力まで空気を入れてバルブにキャップをします。





パンクには大きく分けてふたつのパターンがあります。ひとつはリム打ちパンク。スネークバイトとも呼ばれるこのパンクは、英名のとおり毒蛇の噛み跡のように左右対称の穴が2ヶ所あくのが特徴です。これはタイヤの空気圧が低いときに岩や段差に乗り上げると発生します。チューブが衝撃を吸収しきれる空気圧がなくて、リムがチューブを潰して切ってしまうため起こります。もうひとつは棘やガラス片などが刺さって起きるパンクです。後者は防げませんが、前者は空気圧の調整で防ぐとこができます。
どちらのパンクも修理法は変わりません。空気を入れてパンクした場所を確かめ、パッチで塞ぎます。穴の位置を確かめるなら空気を入れて水に沈めたり、せっけん水を塗ったりすると確実ですが、出先ではそういかないことも。その際は空気を入れて噴き出る空気の音や感触で場所を確かめます。唇や頬など、皮膚の薄い場所が敏感です。
穴の場所を確かめたらパンク修理キットに入っている紙やすりで少し広めに穴の周囲を荒らし、ゴム糊を均一に塗り拡げます。このとき、貼る予定のパッチよりも糊の塗布面が広いことが大切です。ゴム糊が完全に乾いたら、穴を被えるサイズのパッチを貼り付け、タイヤレバーなどでしごいて脱気します。パッチを貼ったらパッチの保護フィルムを剥がして終了です。チューブに空気を入れてほかにも漏れがないか確認しましょう。





基本的にロードバイク、クロスバイク、MTBといったスポーツ車は輪行が可能です。輪行とは分解した自転車を持って交通機関で移動すること。輪行をマスターすると、旅先に自転車を持っていったり往路は自転車で走って復路は電車で帰ってくる、といった楽しみ方ができます。慣れれば分解と組み立ての所要時間はそれぞれ5分程度。分解と輪行はぜひ覚えておきたい技術です。
輪行には「輪行袋」と呼ばれる自転車を覆う袋が必要です。これには大小のストラップが付属しており、分解したパーツ同士を固定し、吊り下げて運べるようになっています。輪行袋に加えて「エンド金具」という道具もあります。これは前後輪が収まるエンド部に付けるもので、繊細なパーツを守ります。エンド金具は絶対に必要というわけではありませんが、装着するとフロントフォークやリアディレーラーの破損が起きにくくなります。
輪行の手順は次のとおりです。チューブ交換のときと同様、最初に自転車を倒立させて前後輪をはずします。車輪をはずしたらフロントフォークのエンドにはつっかえ棒状の金具を通して固定。リアのエンドにはコの字型の金具型を装着して固定します。金具がディレーラーよりも外に出っ張るので、ディレーラーが破損しにくくなります。



続けて、はずした前後輪でフレームを挟みこみ、ストラップで3点を固定します。ストラップの位置にきまりはありませんが、①ストラップで固定したときに車輪がぐらつかないこと。②リムなどの硬い部分でフレームと接触しないようにすること(傷つき防止)。③繊細なパーツや鋭いパーツができるだけ外側にでないようにすることなどを意識しましょう。
写真のように、チェーンステー付近、サドル付近、フレームの前三角で固定して、ホイールがフレームに接するところにタイヤのゴムがくるようにすると理想的。ハンドルは左右のどちらかにきって、フレーム、車輪、ハンドルを一緒に固定します。こうすると持ち運び中も安定します。後輪のスプロケット(ギア)は内側にくるように配置し、フレームの前三角の空間に収まるようにするとよいでしょう。
輪行袋にはこの倒立した状態で運ぶ前提のものと、この状態から90度起こす(サドル後端とリアのエンド金具で接地する)ものの2タイプあるので、その袋の設計に応じたかたちで持ち運び用のストラップをかけ、袋で覆いましょう。




この記事の冒頭で「ダボ」について触れました。自転車で長距離を旅する場合、このダボにキャリアを付けてバッグを取り付けます。ダボはたいていシートステーの上部と下部に設けられており、フレームに貫通のネジ穴がある場合と溶接された耳状のタブにネジ穴が切られている場合があります。どちらの場合もキャリアの固定法は同じ。ネジで前後左右の4ヶ所を固定します。キャリアには耐荷重が設定されています。用途にあった強度があるものを選びましょう。
ダボがない自転車でも、ダボ穴付きのシートポストクランプやキャリア用エンド金具などを駆使してキャリアをつけられるかもしれません。フレームのデザインや細部の構造によって、適合するキャリアが変わるので専門店で相談してください。
キャリアにはパニアバッグと呼ばれるバッグを付けて道具を収納します。バッグは走行中に縁石などに擦れることもあるので、ある程度の強度は必須。また、防水素材でないものはバッグの内側で防水処理が必要になります。いろんなデザイン、メーカーがありますが、やや厚手の防水素材製で、開口部をロールして浸水を防ぐタイプが使い勝手に優れます。
タイヤも走行感や疲労に大きく関わります。タイヤはある程度細く、凹凸が少ないもののほうが軽い力で漕げますが、こんなタイヤは濡れた路面では滑りやすく、ぬかるみにも弱くなります。未舗装路を長距離走るなら、太さがあって大きめのブロックが並ぶトレッドパターンのほうがよいでしょう。乾いた舗装路がメインか未舗装路がメインか。自分が行う旅のスタイルに合ったタイヤを選びましょう。
チェーンリングとスプロケットの構成を変えるのも効果的です。多くのスポーツ車は大小2枚のチェーンリングと歯の数が異なる複数のスプロケットを組み合わせることで高速巡行から坂道の登坂にまで対応しています。滑らかで平坦な道を空荷で走るときとアップダウンの多い未舗装路を荷物満載で走るときでは、最適な構成は異なります。使う機会のないギアは装備していても意味がありません。4枚目の写真は思い切ってフロントのチェーンリングをシングル化した例です。重い荷物をつけた自転車でも坂道が登れるよう、軽い負荷で回転数を上げて走るイメージの構成です。



家を起点とした日帰りのツーリングが自転車旅の最小形だとしたら、もっとも拡張したパターンが長期間・長距離・テント泊の旅となるでしょうか。「走ること」と「生活」が一体になる旅ですから、あらゆる道具を携えることになります。
快適さを求めたらキリがありませんが、自転車で運べる物量には限界があります。心身を健康に維持しつつ、目的地まで生活ごと自分を移動させるために知恵を絞りましょう。幸いなことに、近年のアウトドア用品は軽くてコンパクトになっています。
基本となるのは今も昔も衣食住。体温を維持するための衣類、行動し続けるための食糧と水、それを調理するための燃料と火器、体力を回復するための寝床が必携品です。これらに加えて通信器具と救急用品、灯火類も必要です。
各々の選び方をここで解説するといくらスペースがあっても足りないし、またそれを試行錯誤することが自転車旅行の醍醐味であるので、ここでは説明しませんが、いくつかコツを伝えるなら、同じ性能ならより軽くてより丈夫なもの、壊れにくくて壊れても修理できるもの。単機能ではなく汎用性が高いものを選ぶように心がけると無駄が省かれていきます。
そして、いきなり長距離の旅に出るのではなく、身近な場所でそれらの道具を使った予行演習をしておきましょう。試す場所が近所の河川敷であっても、実際にひと晩泊まってみるといろんな問題点が洗い出されます。
17世紀の北米で毛皮猟をしたハドソン湾株式会社のスタッフは、いきなり遠征に出ないで基地の近くで一泊してから北米大陸の深奥に入っていったといいます。すぐ引き返せる場所で道具の不足を洗い出すこの技術は「ハドソンズベイ・スタート」と呼ばれ今でも冒険家たちに実践されています。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
1980年代の東京西部では、少年はふたつの派閥に分かれていました。ひとつは釣り少年、もうひとつは不良です。不良たちは釣り少年を見つけるとインネンをつけるので、釣り少年は彼らから逃げるために機動力を高めました。少年のもつ最速の道具といえば……そう、自転車です。釣り少年だった私は、まだ見ぬ大物がいる不良のいない地を求めて行動範囲を拡大していき、遠くへ早く移動するために工夫を重ねました。10代の後半には釣りよりも自転車のほうが楽しくなり、カスタマイズした自転車で林道や登山道を走るようになりました。人間に備わる力でもっと遠くへ、と願い続けた私はいま「PAAGOWORKS」というメーカーを立ち上げてバックパックをつくっています。ブランド名は ''PAck And GO!'(荷物を詰め込んで出かけよう!)からの命名です。アイデアを思いつき、自分でつくり、自分で試す。問題点があれば修正していく……。自分の力で移動することや自分の道具を自分でつくることは野外活動の大事な核ですが、自転車のカスタムとそれを使った旅には、そのすべてが詰まっていると思うのです。余談ですが、キャンプツーリングの項で登場したモデルと道具は私の息子と彼の道具です。彼は今、ここで紹介した自転車と道具でパミール高原を2700km走る旅に挑戦しています。