1974年東京生まれ。2000年よりオランダ在住。2000年文化庁派遣若手芸術家として、2007年ポーラ財団派遣若手芸術家として、オランダ&ベルギーに滞在。2005年以降、嗅覚とアートの融合を試み、匂いを素材として作品を制作・発表する。現在は石垣島を拠点とし、ヨーロッパを中心に世界各地で展示やワークショップを行う。欧米で流行中の嗅覚アート界の先駆者的アーティストのひとり。オランダ王立美術学校の学部間学科ArtScience非常勤講師。石垣島ではユニークなアトリエを構え、嗅覚教育と嗅覚のツーリズムに取り組む。http://www.pepe.okinawa/
オンライン・ポートフォリオ:http://www.ueda.nl
自然の中を歩き、花や葉っぱなどの素材を収集して、匂いを抽出し、カンタンな香水を作りましょう。自然界には匂いがあふれています。今回はチンキ法という、古来より人類が用いてきた原始的な抽出法を用います。香りをまとうためのファッション香水を作るのではなく、そのほのかな自然の香りを楽しみます。
いわゆる昔のバニラエッセンスは、天然のバニラビーンズをアルコールに浸して香りを移したものです。(茶色い液体の方です。最近の透明のものは合成香料で作られたものが多いんです。)アルコールに浸して香りを移すこの方法と要領は同じです。今回はアルコールの代わりにウォッカを使います。梅酒や果実酒を作るのとも似ています。
もし台所にある食品から香りを抽出すれば、「食べられる香水」になります。レモンで作ればレモン香水となり、魚料理にシュッとひとふきするのも楽しい食卓の演出ですね。
同様に、例えばペットの匂いが染み付いたぬいぐるみを素材とすれば、ペットの匂いが抽出できます。匂いがする物であればたいてい、抽出できます。色々な素材で試してみてください。
子どもも大人と一緒に楽しめますので、夏休みの自由研究ネタとしてもお使いください。
ジップロック(Sサイズ)
ハサミ
軍手
ナイフ、石、すり鉢、素材を細かくする道具
ウォッカ(フレーバーがついてないもの)
IHクッカー/電気コンロ ※ガスコンロはNG!!
鍋(IHクッカーとサイズが合うもの)
温度計
コーヒーフィルター(使い捨てタイプでOK)
コップ(使い捨てタイプでOK)
※フィルターとサイズが合うもの
漏斗
瓶、香水ボトル(スプレーボトルでもOK)
香料試験紙
※1cmx18cm程度に細長く切った画用紙でOK
ラベル
公園など自然の豊かな場所に出かけ、空気を吸い、その環境の匂いを注意深く嗅いでみてください。
Question:
「どんな匂いがする?」
「それはどこから来る匂いかな?」
あらゆるものを手に取って嗅いでみてください。葉っぱ一つでも、種類によって違った匂いがします。
Question:
「匂いをことばで形容してみよう。 ふわふわ? とげとげ? まるい? 白い? 黄色い?熱い? 冷たい?」(匂いを記憶にタグづけする手がかりを探します)
「それはどんな匂いに似てるかな?」(匂いの連想ゲームをして、匂い同士を関連づけて覚えます)
・葉っぱは、そのままでは匂いがしない場合もあるので、揉んで匂いがあるかどうか確かめましょう。
・花の場合は、花のどの部分に匂いがあるか、分解して確かめましょう。
・虫の抜け殻にもそれぞれの独特な匂いがあります。生きている虫はそのまま生かしておいてあげましょうね。
・木の樹脂は爪で引っ掻いてこすると、摩擦熱で香りが出てきます。
・匂いをきちんと嗅ぐには、適切な温度(20℃前後)と湿度(60~70%前後)が必要です。寒い冬などは、手のひらで鼻の周りを囲い、暖かい空間を作ってあげてください。
・キノコ類は得体の知れないものもあるので避けましょう。
・子供のうちにたくさんの匂いを嗅ぐと、とても豊かな「匂いデータベース」が脳の中で成長します。これが嗅覚の鋭さの土台です。これは大人になってからではなかなか難しいのです。子供には匂いの良し悪し、好き嫌いがありません。なんでも興味津々にスーッと受け入れてくれます。
どんな匂いを抽出したいか、決めましょう。子どもには聞いてあげましょう。匂いを抽出するためには、元の素材にきちんと匂いがないとできません。
<採集量の目安>
・花、葉っぱ、枯れ葉など、ボリュームの多いもの:ジップロックの袋いっぱい
・土、木の枝、木の実、昆虫の死骸や動物の毛など、水分をあまり含まないもの:ジップロックの袋半分
■石神井公園でのフィールドワークの例 *2009年に実施し見つけた素材です
・笹。抽出すると笹団子のような匂いがとれる。
・木の幹に張りついていた苔。抽出すると森の土のような匂いがとれる。
・蝉の抜け殻。動物的な匂いを抽出できる。
・シロツメクサ。数量が揃えば蜂蜜様の甘い匂いが抽出できる。白い花はたいてい香りがある。
・トウカエデの木の幹
・朽ちた葉っぱは、暖もりのある匂い。森の匂いを形成する一大要素。
・針葉樹。スーッとするかおりがする。
・オシロイバナ。甘ったるい、ジャスミン様の強烈な匂いがする。
・桜の葉。桜餅の匂い。
・泥。土や泥からも、薄くはあるがそれなりの匂いは抽出できる。
・抽出後に匂いの性質が変わるものもたくさんあるので、いちかばちかの賭けです。
・一般的に白い花は良い香りがします。←オススメ!
・一般的に針葉樹は涼しげな香りがします。←オススメ!
・通常の状態で匂わなくても、抽出後に匂いが出てくるものは、木の樹脂、木の実などです。
・湖水や沼水など、液体からの匂いは全く異なる抽出方法を用いないと抽出できません。固体か半固体を選んでください。
・鉄や石など、通常の状態で匂いがあまり強くないものからは抽出できません。
・素材を採集する際は子供にはやらせずに、大人が軍手をはめて取ってあげてください。子供ができそうだと判断した時にはやらせてあげましょう。
・グループでやると、バリエーションが出て面白いです。
・同じ素材でも、熱を加えるか加えないかで、まったく違う香りが採れます。
採集した素材を、なるべく小さく細かくします。ナイフ、ハサミ、石、乳鉢などを駆使して、潰したり、切ったり、刻んだり。できるだけ「粉状」「粒状」に近くなるまで細かくしましょう。子供の年齢や能力に併せてヘルプしてあげてください。
細かくした素材を、ジップロックに入れ、適量のウォッカを注ぎます。素材の表面を濡らして少し余る程度が適量です。注ぐ量が多すぎると匂いが薄くなってしまうし、少なすぎると素材が無駄になってしまいます。魚の漬けていどの液量がちょうど良いです。素材が水分を吸う場合は、時間をかけて吸わせてください。
ジッパーを閉めます。この際、なるべく空気を抜いてください。(そうしないと熱をかけた時に膨張してパンパンになってしまいます)
・素材を細かくするのは、抽出速度を速め、濃度を上げるためです。
・柔らかいものであれば手で揉んで(→組織を壊して匂いが液体と接触しやすいようにする)、細かくちぎります。(→匂いが液体と接触する表面積を大きくする)
・土やスパイスなどもともと粒子状の素材は、そのまま使います。
・柑橘系は、皮に匂いがあることが多いので、皮のみを使います。
・ウォッカの量が、香水の濃度を決めるので、さじ加減が難しいところです。濃度は濃い方が良いので、とりあえずウォッカは少量を心がけ、足りなければ後々のステップで足していきましょう。
匂い香りは、目に見えない得体の知れないものですが、こうして物質として扱ってみると、案外わかりやすい「モノ」として理解することができるようになります。
一方で、液体となった透明な「匂い」を、ビジュアルや文脈なしに嗅ぐと、何の匂いかを推測するのが難しくなることもわかるでしょう。
この実験は、匂いを抽出して保存するのが目的ではありますが、匂いを物質から切り離し、嗅覚を状況や文脈から切り離した時、何が起こるかも体験することができます。例えばご飯を食べるときなど、私たちは全感覚を総動員して知覚し、楽しんでいることがわかります。
以前、飼い猫のウンチを抽出した学生がいました。誰の鼻にもクサイその匂いを、彼は落ち着くと言い、彼にとっては最高の香水とのことでした。皆さんも常識を覆すようなマイ香水をぜひ作ってみてくださいね。