ホールアース自然学校理事。富士山麓をガイドして15年。田貫湖畔に環境省が設置した自然学校第1号「田貫湖ふれあい自然塾」のチーフインタープリターとして、身近な野生生物の生き様や人とのつながりを伝えることなどを通じて、自然と人とをつなぎ、身近な自然の見方を変えるきっかけ作りをしている。
その他、様々な企業・行政と自然を知る、伝える人になる、自然を守る・活用するなどの企画・実施に忙し楽しい毎日。
夏の昆虫採集のド定番と言えば……樹液に集まる虫たち。そもそも、どうして木から樹液が出るのでしょうか? 実は、木は樹液を流したくて流しているのではなく、ある昆虫の仕業によって、仕方なく樹液は流れてしまっているのです。では、そのある昆虫とは誰でしょう?
木から樹液が流れ出る秘密を知って、「樹液が出る木を予測する術」を身につければ、雑木林での生き物たちの暮らしをじっくり観察することができます。この夏、親子で友達同士で、樹液酒場に集まる生き物たちに会いに出かけよう!
夏は、生き物たちがたくさん出てくる季節。生き物たちとの出会いや触れ合いは、人生を豊かにしてくれます。では、出会いたい生き物を探すとき、あなたはどこに行きますか? それは、チョウなら蜜の出る花に、フンコロガシなら牧場に、トンボなら水辺に、イモムシなら好きな植物の葉っぱに……といった具合に、その生き物にとって必要なものがあるところに行けばいいのです。
では、虫たちがたくさん集まる木の樹液、通称「樹液酒場」。その樹液は、どんな木から出るでしょうか? 答えは、コナラやクヌギなどドングリの木の仲間、またヤナギの木と言われています。木を見分けるには、葉っぱの形や樹皮の表情、生えている場所などがポイントです。「虫を取りたければ、まず植物を知れ」。やみくもに探すのではなく、まずは植物図鑑を広げて木の特徴を覚えてから、雑木林へ樹液痕を探しに出かけましょう!
ここで、ちょっと考えてみましょう。どうして木から樹液が出るのでしょうか? 花のように、虫をおびき寄せて何かしてもらいたい……わけではありません。それは木にとってはいわば怪我のようなもので、樹液を出したいわけではなく流れ出てしまっているのです。
では、木に怪我をさせた犯人は誰でしょう? 木に穴を開ける生き物はいろいろいますが、多いのはシロスジカミキリをはじめとしたカミキリムシの仲間です。木に産み付けられた卵から孵ったシロスジカミキリの幼虫は、木の内部を食べながら育ちます。そうやって木を食べて大人になったカミキリムシは、やがて樹皮を食い破って外に出てきます。その時に開けた穴から、木にとっての血液のような大事な樹液が流れ出てしまうのです。つまり、樹液に集まる生き物たちは、カミキリムシの恩恵にあずかっているのですね。
木を食べた痕跡がまるで鉄砲で打ち抜かれたように見えるので、シロスジカミキリの幼虫には別名「テッポウムシ」という呼び名があるほどです。
樹液酒場を発見したら、樹液酒場に集まる常連客を探してみましょう。カブトムシやクワガタなどのスター選手だけでなく、じつは他にも面白い生き物たちがたくさん集まります。
カナブンは普通種であまり注目されないものの、宝石のような「アオカナブン」や、漆黒色の「クロカナブン」は見られたらうれしいものです。「スミナガシ」や「オオムラサキ」のようなチョウや、「ハグルマトモエ」といったガも樹液酒場に集まります。
川沿いの木には夜に「ヘビトンボ」も訪れます。甲虫でいえば、クワガタでないのであまり注目されないものの、「ヨツボシケシキスイ」の格好良さは群を抜いています! ただし、昼間は「オオスズメバチ」も訪れるから要注意です。
樹液酒場は、虫たちにとってごちそうを奪い合う場であり、また相手を見つける場でもあります。なので、時には交尾シーンに出会うこともあります。これらもすべてカミキリムシの恩恵と言えるのかもしれません。
木も生き物なので、怪我をそのまま放っておくということはしません。必死に治して傷口を塞ごうとします。なので、樹液をたくさん出している木が、来年もまた樹液を出すとは限リません。つまり、樹液が出る木は毎年変わってしまう可能性があります。
そこで、「樹液が出る木を予測する術」をお教えしましょう。それは、カミキリムシが卵を産んだ痕を見つけることです。シロスジカミキリは口で穴を開けて、木の幹に卵を産み付けます。写真のような、横並びに穴が開いた産卵痕を見つけたらしめたもの。これは、その木の中で幼虫が育っている証拠です。数年後に成虫となって外に出てきたら、そこがまた昆虫たちの樹液酒場となるのです。これで、数年後に樹液を出す木を予測できますね。
樹液酒場に集まる生き物を見つけたら、写真を撮って記録しましょう。「やった!レポ」に投稿して、あなたの発見をぜひ、ここでシェアしましょう。質問や感想はコメントに記入してください。
樹液酒場に集まるたくさんの生き物たち。とても美しくてワクワクさせられる光景です。その光景は、木が作り出した栄養や恵みを、生き物たちがもらっている姿ということになります。そして、カミキリムシがいなかったら、その生き物たちは樹液の恩恵をいただくことはできなかったのです。
さまざまな生き物たちが繋がり合うこの世界。夏の昆虫観察を通じて、そういった生き物たちの繋がりに気づいてもらえるとうれしいです。