狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
野菜とは畑で作られるもの、人間が世話をしてはじめて美味しく育つものだ、なんて思っていませんか? 現代は野菜の品種改良が進んでいますが、人間に育てられる前は、野菜だって自然のなかにあったもの。野菜のなかには、今でもこっそり野生に帰って、道端で自由な暮らしを楽しんでいる「野良野菜」がいます。畑の近くの原っぱや河川敷は、そんな野良野菜の宝庫。雑草のなかに目を凝らせば、意外な場所で意外な野菜を見つけることができますよ!
野良野菜が多く隠れ住んでいるのが、郊外の河川敷や川の土手。周辺に田畑と住宅地が広がり、年に数回草刈りがされるような場所によく生えています。草刈りがされない場所だと丈の高い草に覆われて枯れてしまうし、あまりに頻繁に草刈りされても種をつなぐことができないので、ほどよく人の手が入るような場所を野良野菜は好みます。また、公園や私有地では、たとえ野良野菜であっても勝手に採集することはマナーの面からおすすめできません。誰のものでもない河川敷が、野良野菜採集に向くスポットです。
どこにでも生えている野良野菜のトップランナーがシソ。いわゆる大葉と呼ばれる青ジソと紫の葉が特徴的な赤ジソは、市街地から河川敷まで、どこにでも生えています。シソには食用にはならないそっくりな草もたくさんありますが、自信がないときはそっと葉っぱをひと揉み。爽やかなにおいがたちのぼれば、それはまちがいなくシソ! しなければシソに似た別の草、と判断がつきます。野良野菜か雑草かの見極めには、においが役立つことが多いので、それらしい草があったらにおいを嗅いでみましょう。
もうひとつの野良野菜の代表選手がニラ。日本には古い時代に渡来したとも、元々日本にも自生していたともいわれる野菜です。丈夫で刈り取りにも強く、日向でも日陰でも生育できるので、注意してみていると市街地の道端やアスファルトの隙間に生えているのを見つけることができます。それらしい草を見つけたら、ひと株ちぎってにおいを嗅いでみましょう。よく知っているニラの匂いがすれば大当たり! においだけでは心配、という人は夏から秋につける花を目印に。小さな星をあつめたような花と、特有のにおいが一致すればまちがいなくそれは野生化したニラです。
※ニラとよく似たスイセンは食中毒の危険があり、食べられません!
スイセンは葉からニラ特有のにおいがしないので、においで区別できます。
薬味として活躍するミョウガも、野外でみかけることの多い野良野菜。根っこがひと節でもあれば、そこから次第に大きな株に育っていくので、ミョウガが好むちょっと湿った日陰の草むらなどにはよく生えています。夏にそれらしい株をみつけたら、草を分けて根元を見てみましょう。白い花をつけた見慣れたミョウガが顔をだしているかもしれません。
採れた野良野菜に合わせて、どんなふうに調理しても良いですが、繰り返し収穫できるシソとニラを見つけたら、ぜひ餃子を作ってみましょう。なにしろ基本となる具材のほとんどがタダ! ニンニク、ショウガなどの香辛野菜とひき肉を追加すれば、野良野菜でシソ餃子を作る事ができます。採集した野良野菜はビニール袋などに入れて持ち帰り、入念に水洗い。ゴミなどを取りながら虫食い部分や古い葉を捨て、可食部を取り除けます。下ごしらえがすめばあとはお好みのレシピで調理しましょう。
シソとニラは身近な場所で見つけられる野良野菜。秋にはタネをつけ、毎年更新するので、一度自分だけのポイントを見つければ、数年にわたって採集することができます。とくにニラは、定期的に刈り取ると柔らかく香りの強い状態に株を保つことができます。野良野菜を食べる時に注意したいのは、間違って毒草を採らないようにすること。形とにおいでしっかり見極めて、自信がもてないときは食べないことが鉄則です。食べられる山野草の図鑑などでも勉強できますが、確実なのは詳しい人に教えてもらうこと。地域の自然観察会や、公園のガイドなどに参加すると、住んでいる地域にある食べられる野草や、植物のことを総合的に学ぶことができます。
※野生食材採集のルール
野生食材の採集と喫食には危険と責任が伴います。動物・植物ともに食用種にそっくりな有毒種があります。食用種であっても農薬や化学物質によって汚染されていることもあります。食毒の判定に絶対の自信がない場合は採集物を口にしないでください。地域によっては、紹介した食材の採集や漁法が禁じられていることもあります。楽しむ際は地域のルールを確認してください。また、私有地へ立ち入っての採集は厳禁です。採集が禁じられていない動植物や場所でも、過度の採集は慎みましょう。資源量が少ない場所や食材では「自分で食べる分だけ」であっても、過度の採集になりえます。自然をよく観察し、大きな負荷を与えない採集に努めましょう。