狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
人間の暮らす街を生活の場とする鳥、「都市鳥」。人がつくった環境を積極的に活用する鳥、一度は姿を消したものの再度都市へと進出してきた鳥、都市化によってすみかを追われ細々と生き残っている鳥……。そんな都市鳥のなかには、都市で繁殖するものがいます。その代表がスズメですが、彼らが好んで巣をかけた瓦屋根がなくなったことで、スズメは繁殖の場をなくしたと考えられています。スズメをはじめとする馴染みの鳥たちと今後もご近所付き合いができるかどうかは、食事を採れる場所と子育てできる場所を提供できるかどうかにかかっています。観察しやすい庭木に巣箱を置いて、家賃がわりに鳥たちの不思議を少しだけ覗かせてもらいましょう。
板(1×15×130cm)
1枚
木ネジ
必要量
蝶番
2個
針金
1巻
凧糸
1巻
定規
1本
メジャー
1個
のこぎり
1本
ドライバドリル
1台
ビット
各種
自在錐
1個
今回紹介するのはスズメとシジュウカラ用の巣箱。内寸は13×15×20cm程度で、入り口の穴の直径は28~32mmとします。入り口の直径が28mmならシジュウカラやヤマガラ、32mmにするとスズメが好む大きさになります。地域によってはこの2種に限らず、ほかの鳥が入居するかもしれません。
巣箱の材料となるのはスギの板。樹種はほかの樹木でもかまいませんが、加工のしやすさと入手のしやすさ、流通時の規格の面で巣箱の素材を手に入れようとすると自然とスギになるはずです。この板に切り出し線を書き入れて、のこぎりで切断します。手に入った材の厚みや幅は、ここで紹介したものと異なるかもしれませんが、その場合は適宜寸法を調整してください。巣箱の制作では高い工作精度求められませんが、のこぎりで切断するときは刃の厚みぶんだけ材が無くなるので、そのぶんを計算に入れて墨付けし、切り出していきます。
墨付けするときに注意したいのが材の割れや節の位置。節はほかの部位よりも硬くて切り出すのに難儀します。また、あとでスポンと抜けて穴ができることも。材は少し長めに用意しておき、節をかわして墨付け・切断するとよいでしょう。
今回紹介する巣箱は、背板と前板で側板と底板をはさみこみ、その上に屋根板をつける構造です。完成時に背板が本体の上下から少しだけはみでる形にして、取り付け用の紐を通せるようにします。どのパーツから固定してもよいですが、前板と側板と底板をまず固定し、それから背板を固定すると紐を取り付ける部分の見当をつけやすくなるかもしれません。
板同士の接合に使うのは釘でもかまいませんが、巣箱を長く使う場合は木ネジがおすすめです。風雨にさらされると板は伸び縮みし、釘を使った場合は少しずつ隙間ができます。
木ネジはそのままねじこむと板が割れることがあるので、先に下穴ドリルで穴をあけ、そこに木ネジを入れます。木ネジを入れるのは、3枚の板が出会う頂点付近。ネジ同士が干渉しない間隔をあけ、ひとつの頂点につき2本の木ネジで固定していきます。
背板、側板、底板、前板を固定できたら、前板の1/3~1/4の高さの場所に入り口をあけます(入り口をあけるのは板の切り出しと同時でもよいし、全体が完成したあとでも問題ありません)。「自在錐」という任意のサイズの穴をあけられる錐があると便利ですが、手元にない場合はドリルでいくつもの穴をあけ、それをナイフで削ってつなげればよいでしょう。
入り口ができたら今度は底板に水抜き穴をあけます。四隅と中央のあわせて5ヶ所に穴をあければ、どんな角度で設置しても内部に染み込んできた雨水が排出されます。
屋根板を蝶番で固定する前に仮組してみると、本体との間に隙間ができることに気づきます。この隙間をそのままにして組み付けることもできますが、内部への雨の降り込みが多くなります。屋根板と背板の接合部と屋根板と前板の接する部分の干渉する材を削り落とすと隙間が小さくなり、浸入する雨量を少なくできます。
削る作業をしていると、前板と屋根板の削り落とす部分の角度がほぼ同じであることに気づきます。STEP1の図面を見てみましょう。前板と屋根板は切り出す前に接しているのがわかります。つまり、前板と屋根板を切り出すときに20度程度の角度をつけて切れば、この調整作業は不要になります。
微調整の済んだ屋根板を蝶番で背板に固定し、屋根板を浮かせないためのロックを設けます。このロックはどんな方式でもよいですが、屋根板と本体に1本ずつネジを入れ、2本のネジを同時に針金で縛る方式が簡便です。屋根板はとくに反りやすいので、屋根板の左右にロックをつくって針金で結束するとよいでしょう。
屋根板を開閉できる構造にするのは、巣箱の内部を掃除しやすくするため。小鳥の繁殖シーズン(春?夏)が過ぎたら、屋根板をあけて内部の巣材を片付けましょう。そのままにしておくと巣材が腐ったり、鳥の寄生虫が持ち越されたりします。
屋根板を固定できたら、背板のはみ出し部分に4つの穴をあけ、取り付け用の紐を通して完成です。この紐は針金などでも代用できますが、針金や化学繊維を使う場合は定期的な交換が必要です。そのまま放置すると成長した木に紐や針金が食い込んでしまうからです。巣箱の固定に使う紐は、繁殖期間中はしっかり巣箱を支え、万が一放置された場合は自然に切れて取れる素材がよいでしょう。この紐は巣箱の掃除のタイミングで新しいものに変えるのが理想的です。
シジュウカラの子育ての時期は3月中旬ごろから7月ごろ(スズメは3月~8月)。そのため、巣箱をかけるなら秋から冬が適期です。巣箱をかける場所はほどよく風と日差しが入る下枝の少ない木の幹が理想的。設置する場所が低かったり、フェンスや大きな枝の張り出しの近くにあるとネコやカラスに襲われやすくなります。また木の樹皮が粗かったり、幹が細いとアオダイショウなどのヘビに襲われることもあります。
上側にはほどよく枝が茂って直射日光と風雨を遮り、巣箱を設置する場所の周囲には捕食者の足がかりになるものがなく、周囲の安全を確認してから巣箱に入れる程度に開けた場所が理想の物件です。
雛はある程度大きくなると、巣箱を出て近くの茂みで親からえさをもらいながら成長します。下に池があったり人通りの多い道があったりすると、溺死したり踏まれてしまうことも。巣を出たあとも安全が確保できる場所を選びましょう。
設置する際は、巣箱が上を向いてしまうと入り口から雨が降り込んでしまうので水平からやや下向き程度の角度で固定します。紐だけではグラグラする場合は、適当なスペーサーを背板にネジ止めして、風で揺れないようにしてから固定します。
体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
わがやの庭には四季を通じてさまざまな小鳥がやってきます。冬にはシジュウカラやメジロ、コゲラなどの混群が食物を探して通りがかり、早春には巣材にするために犬の毛を拾いにきます。子育てが始まれば鳥たちは家庭菜園から青虫をせっせと持ち去ります。私の菜園は基本的にほったらかしですが、彼らの働きのおかげで壊滅的に野菜を虫に食われることはあまりありません(たまにあります)。そんな生き物たちのせめぎあいを見るのは楽しいものです。これまで人類はより快適で便利な生活を求めて自然を一方的に利用してきました。しかし、ここにきてほかの生き物たちが人間に与えてくれるサービスの大きさが明らかになってきました。そのサービスはほかの生き物たちが生きながらえてこそ得られるものです。生物資源は利用する前に増やす。地球上を循環する命の流れを強くする。身近な生き物と利用一方ではない関係をつくる……。世界各地でそんな取り組みにたくさんの人たちが挑んでいます。ささやかではありますが、巣箱の設置もほかの生き物と共存する取り組みのひとつといえるかもしれません。