「僕が一番活きる活動の場ってどこなんだ?」という自身への問いに、都会っ子でありながら自然環境の保全や再生のプロを目指した自分が一番説得力を持つのは、都会の自然環境の保全・再生とそれらを活かした都会の人向けの環境教育や体験学習だ!と思い立つ。現在は(株)BiotopGuildの代表として、“ビオトープ”という概念を用いながら、主に都市部の自然環境にまつわる仕事に従事。自然に興味がない人にも日常の中で楽しみながら自然や生きものに目を向けてもらえる仕掛けづくりをモットーとしている。
日本の正月飾りの歴史は古く、一般家庭でも、平安時代後期には門松を飾る風習が始まっていたと言われています。正月飾りとして今も一般的に供えられているのが門松や鏡餅、そして今回作り方をご紹介する「しめ縄飾り」です。いずれも元々は「依代(よりしろ)」、つまり神が降臨する目印であり、家内の安全や豊穣などを祈る為、そして「結界(けっかい)」、悪しきもの・忌むものがやってこないよう祈る為のものです。
このHow toでは、身近なフィールドへ出かけ、材料集めをするところからスタートし、しめ縄を自作する方法を紹介します。自宅でバケツ稲やプランター田んぼをしている方は、脱穀したあとの稲わらを使うと、愛情込めて育てた稲を無駄なく活用していただけます。
オリジナルのしめ縄を作り、正月飾りを準備して、新しい年を迎えてみませんか?
ガゼクサ、チガヤ、メヒシバ、チカラシバなどのイネ科植物
又は、バケツ稲などで育てた稲わら
赤と白の水引(木綿の紐や毛糸でも代用可能)
昆布
煮干
半紙(白色度の高いコピー用紙で代用可能)
ハサミ、カッター
木槌
まずは材料となるイネ科植物を探します。
少しでも大きな飾りにしたい場合は、なるべく背の高い種、そしてなるべく背の高い個体を選びます。
おすすめのイネ科植物は、「カゼクサ」「チガヤ」「メヒシバ」「チカラシバ」です。ススキやオギなどは、背は高いもののポキポキと折れやすく、茎が太くて硬いのでしめ縄には向きません。
ここでは、チガヤを例にして探してみます。
「チガヤ(Imperata cylindrica)」は、イネ科チガヤ属の植物で、日当たりのよい空き地に一面に生え、春頃に花を咲かせ、夏から秋にかけてキツネの尻尾のような細くて白い穂が目立つようになります。また、茎の根元のほうに赤みがかり、夏の終わりから秋になると葉先も赤みがかってきます。
チガヤは、様々な場所に生えていますが、まとめて探すなら河川敷の土手や大きな公園の斜面地などに探しに行くと良いと思います。
※あらかじめ、植物を採集する場所が採ってよい場所か、必ず確認しましょう。
※公園や管理された土地など、植物の採集が禁止されている場所や、私有地に立ち入っての採集は行わないようにしましょう。
元来、しめ縄には、穂が実る前に刈り取った藁を使います。それを数日間乾燥させてから綯(な)うと、美しいしめ縄になります。そこで、もし見つかるようであれば、枯れる前のまだ青いチガヤを刈り取りましょう。そのまま数日間干して、写真(1)のような色になるまで乾燥するのを待ちます。自宅で育てた稲を使用する場合は、収穫した後の稲わら(乾燥したもの)を使います。
乾燥した素材が準備できたら、次は、藁の毛羽立った葉をなるべく取り除き、茎の分量が多くなるように下ごしらえを行います。丈夫で張りがあり、美しいしめ縄を作るには、綯う直前に下ごしらえを丁寧に行うのがポイントになります。
まず、あまり固く絞っていない雑巾を準備します。写真(1)のように、藁を束にして片手に持ち、雑巾で藁の根元から先へ、先から根元へとしごきながら、写真(2)のように、毛羽立った葉を取り除いていきます。また、藁を少し曲げてみたり、ぎゅっと握ったりもしながらしごきます。濡れた雑巾を使用することで、水分が藁に移り、この後の縄綯いの作業もやすくなります。次に、写真(3)のように、湿らせた藁を木槌などで丹念に叩きほぐしていきます。この時、藁があまり乾燥しすぎているとボロボロになってしまうので、前の工程でしっかりと湿らせておきましょう。握力に自信のある方は、雑巾でしごくだけでも十分にほぐせるので、この作業を割愛することも可能です。
よく藁がほぐれたら、写真(4)のように、根元で揃えます。これで縄綯いの下ごしらえはバッチリです!
いよいよ今回のHow toの山場であり、一番難しい作業「縄綯い」です。ここでは、一般的な昔ながらの方法を紹介します。この方法が難しいという方は、STEP4で簡単な方法を紹介しているので、いずれかの方法でトライしてみてください。
はじめに、写真(1)のように、藁を数本から十数本の束にしたものを2束用意します。束の根元側を、足の指の間や、両足で挟んでしっかりと固定します。次に、写真(2)のように、両方の手に1束ずつ持ち、手のひらをすり合わせるようにしながら2本の束を別々に捻ります。
この時、右手は手前から奥へ押し出し、左手は奥から手前に引くようにします。この動作を繰り返し行うと、左巻き(反時計回り)の藁束が2本できます。
この時、それぞれの藁束がしっかりと捻じれるようにするのが大切です。束それぞれに捻れが生まれないと縄になりませんので、頑張って力を入れてすり合わせましょう。また、それぞれの束が混じりあってしまっても縄にならないので、気をつけながら捻りましょう。
ある程度捻れができて、うまくすり合わせられるようになると、手をすり合わせた際に、右に持っていた束が左手の位置に、左手に持っていた束が右手の位置にきます。それぞれの束を握り、写真(3)のように、2本の束を右巻きに捻ります。これを繰り返していくと右巻き(時計回り)の縄ができます。
しっかりと綯えていれば、手を離してもそう簡単にはほどけません。ほどけてしまう場合は、それぞれの束のひねりが弱いか、綯えていないので、もう一度やり直してみましょう。
このように、左巻きに捻れた2本藁束を、右巻きに捻ったものを、「左綯え」のしめ縄と呼び、一般的な巻きの方向になります。しめ縄の巻きの方向は元来、火・男性の神を祀る「左綯え」、水・女性の神を祀る「右綯え」で異なりますが、地域によっても違いがあるようです。有名なところでは出雲大社の立派なしめ縄は「左綯え(左巻き)」です。
STEP3の縄綯いが難しい方に、ふたりで簡単に縄綯いができる方法をこっそり紹介します。この方法は、握力がない方や手が小さい方におすすめです。
STEP3のやり方と同様に、藁を数本から十数本の束にしたものを2束用意します。ふたりペアになり、写真(1)のように、ひとりは根元側を2束まとめてしっかりと持ち、もうひとりは両手にそれぞれ1束ずつ持ちます。
次に、写真(2)のように、両手に1束ずつ持った人は、それぞれの束を左巻き(反時計回り)に捻ります。藁束がグネグネとうねり始めるまでしっかり捻ります。
それぞれの束がうねり始めたら、写真(3)のように、束と束を右巻き(時計回り)にします。
このように、藁束を左巻きしては、2本の束を右巻きにする動作を繰り返します。先のほうまで巻けたら縄の完成です!
無事に縄を綯えたら、いよいよ正月飾り作りの作業に移ります。今回紹介する正月飾りは、しめ縄の「輪飾り」と呼ばれるものです。名前の通り縄を輪っかにします。
輪っかにするために縛るものは、木綿糸や毛糸でも良いのですが、手に入るようなら水引を用いると縛りやすいですし、美しく仕上がります。色は紅白や金銀などを用いると、おめでたい雰囲気が引き立ちます。ここでは、水引で縛りました。
STEP3、または4で作った縄を、写真(1)のような輪っかにします。次に、写真(2)(3)のように、縄の重なる部分を、水引などの紐で縛ります。水引の余った部分は、写真(4)のように、蝶々結びにして形を整えます。
写真(5)のように、縄から飛び出た毛羽立ちがある時は、ハサミできれいに切り揃えるとより美しい飾りになります。これでひとまず、正月飾りの土台となる輪っかの完成です!
自宅で収穫した稲がある場合は、何本かの穂を茎の部分から刈って取っておき、留め部で一緒に縛ると、より収穫のお祝いや新年の五穀豊穣を祈るおめでたい正月飾りに仕上がります。チガヤの穂を用いても、かわいらしく仕上がります。
神社の鳥居や社、ご神木などにかかっているしめ縄から垂れ下がっている白い紙「紙垂(しで)」を見たことがある方は多いと思います。紙垂は、神様の依り代や悪しきものの侵入を防ぐ結界のような役割があるとされています。正月飾りにこの紙垂をつけることで、皆さんのお宅を悪しきものや不運から守り、神様にやってきてもらい福を運んでいただくことを祈ります。
ここでは、この紙垂を作ります。紙垂には半紙を用いることが多いのですが、半紙は張りがなく柔らかいので、ここでは白色度の高いコピー用紙で代用します。
はじめに、写真(1)のように、紙を縦長の短冊状に切ったものを2枚用意します。紙は半分に折って正方形に近い形にし、折り目が横になるように置きます。左側の紙垂を作る紙は、折り目が左に来るように、右側の紙垂を作る紙は、折り目が右に来るように置きます。紙垂づくりで忘れてはいけないのが、折り目が横になるように扱うことです。この折り目のある張りのある部分が縄に差し込む部分になり、反対側は垂れ下がりひらひらとたなびきます。
次に、写真(2)の黒い線のように、紙に切れ目を入れます。あらかじめ、写真左側のような型紙を作っておくと便利です。型紙は縦に三分割、横に四分割の折れ目を入れてから、折り目に沿って線を引くと簡単に作ることができます。
切れ目が入ったらいよいよ仕上げです。写真(3)のように、切れ目を入れた紙を折っていきます。写真は左に折り目がくる、輪飾りの左側に差す紙垂づくりの様子です。
最後に、写真(4)のように、折り目のある側の端っこを三角形に尖るようにカットします。この部分を縄に差し込みます。
左側が完成したら、右側の紙垂も作りましょう。これで輪飾りに差す紙垂の完成です!
しめ縄の輪に飾りつけをしていきます。ここでは、水引の結び目の近くに、輪の上部から輪の中に垂れるように紙垂を飾りつけてみました。紙垂を飾りつける場所はいろいろなパターンがあります。売っているものや飾ってあるものを参考に、好みの位置を探ってみましょう。
飾る位置を決めたら、縄に紙垂を差し込みます。上手に綯えた縄ほどギュッと締まり、隙間がありません。そこで、写真(1)(2)のように、差し込みたい縄の部分を手に取り、縄の巻き方向とは逆にひねります。すると「あら不思議!」隙間が生まれます。ここに紙垂の尖った部分を差し込みます。紙垂を差し込んでから手を離すと、また元に戻って締まります。このあとに出てくる飾りつけも、同様の方法で差し込みます。
紙垂を飾りつけるだけでも十分に正月飾りの体裁は整っていますので、ここで完成にしても良いですが、もう少しご利益を期待して飾り付けたい方は、次のステップに進みましょう。
さらに飾り付けをしたい方のために、正月におすすめの飾りを紹介します。
●鰯(煮干し)
鰯(煮干しにはだいたいカタクチイワシが用いられています)には、神様へのお供え物と、その臭気を嫌って鬼・魔がやってこないということで、紙垂と同じく「神を呼び結界を張る」という意味合いが込められています。まさに「鰯の頭も信心から」です。なるべく頭がついている煮干しを使い、取れないように気を付けて取り付けます。
●昆布
昆布は神へのお供え物と、「よろこぶ(昆布)」にかけています。日本人は昔から駄洒落好きだったのでしょうか…。
●万両、千両、十両(ヤブコウジ)
お庭や近くの森などで採取可能な場合は、「万両、千両、十両」とも呼ばれるヤブコウジの葉と赤い実も華やかな飾りになります。名前の通り、商売繁盛や繁栄を願って飾ります。また、同じく赤い実のなる南天も、「難を転じる」不浄の植物であるとか、天に通じ願いが成就する「成天(なるてん)」に通じるなどと信じられ飾られるようです。
●松葉
門松も正月飾りとして有名ですね。これは、冬でも青々としているということから、健康長寿の願いが込められるとともに、紙垂(しで)と同じく神の依り代であると考えられています。
●その他
橙
鏡餅の上に飾るのも橙です。橙は簡単に枝から落ちないとされています。その生命力にあやかって飾ります。また、「代々繁栄する」と、“橙”を“代々”をかけているとも言われます。なので、ミカンを代わりにしては本来の意味からは外れてしまうことになります。また先に述べたような理由から、枝葉がついたものを飾ります。
お好みの飾りを加えられたら、完成です。どうですか?手作りの正月飾りも結構立派に仕上がりますよね。稲藁と茅(チガヤ)藁の輪飾りを並べてみると、大きさこそ違えど、佇まいはどちらもしっかりとした正月の輪飾りです。
今回作っていただいた輪飾りは、神棚やお台所など様々な場所に、様々な想いを込めて飾ることができます。しかし、結界と神の依り代という意味を考えると、やはり玄関先に飾るのが一番で良いでしょう。
時期としては12月26日~28日くらいの間に飾り、だいたい1月の第1週くらいまで飾るのが一般的です。これは、29日は9のつく末日で「苦が待つ」にかけて、31日は「一夜飾り」と呼ばれて神様に対してあまりにも新年までの日が短く失礼ということのようです。28日までに飾れなかった場合は30日に飾るのが良いとされています。
そして、飾り終わった正月飾りは、地域のどんど焼などの行事があれば焼いてもらいましょう。最近では、売り物の飾りにプラスチックや金属が多用されて燃やせなかったり、近所迷惑になるので行事がなくなったという世知辛い話もあります。今回紹介した飾りでしたら、全て安心して燃やせる材料ばかりですので、地域の行事やお近くの神社などで焼いてもらえる場合は、お願いすると良いと思います。その火に当たることで、新年の無病息災を祈ることにもなるようです。
素敵な正月飾りはできましたか?身近な草花を利用して自作した正月飾りを飾って迎える新年はまた格別のものになるかと思います。試してみた方は是非『やった!レポ』に投稿してください。材料の採取や作り方、飾り方など、自分なりに工夫したことや苦心したことなど感想もシェアしてもらえると嬉しいです。
日本には、その年の収穫を祝い、次の年の豊作を祈り、悪霊や魔を退散させるお祭りや伝統的な風習が多くあります。何気なくお店で見かけたり、飾りつけている鏡餅や門松、そして今回ご紹介した正月飾りもそのひとつです。恒例の行事や習慣として、深い意味に意識を向けず過ごしている方も多いのではないかと思います。
このHow toを通して、しめ縄・正月飾りに込められた本来の意味に触れ、その思いを込めてオリジナルの正月飾りを作り、新しい気持ちで新年を迎えてみてはいかがでしょう?
また、身近な自然の素材から作ることで、身の回りの植物を少しでも覚えるきっかけになれば嬉しいです。