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自然エネルギーの神秘!雷を観察しよう

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小林文明

防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
大気現象の不思議を目撃する

大空は不思議な現象で溢れています。
「雷」は、太古の昔から恐れられてきた一方、ふたつとして同じもののないその姿は、芸術的で神秘的です。なかには、雷を見ると、その一瞬の輝きにワクワクする人もいるのではないでしょうか?

このHOW TOでは、自然の神秘とも言える雷について知ることで、その美しさと自然エネルギーの力強さに触れ、雷が起きる仕組みと特徴を知ることで、その予兆から観察する方法を紹介します。

また、異常気象が頻繁に起こるなか、いざという時に備えて、雷から身を守るポイントも紹介します。

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  • スマートフォン(または動画撮影できるカメラ)

  • 三脚

  • ラジオ(またはマートフォン)

STEP 1

雷の姿を見てみよう

  • (1.1)
  • (1.2)

激しい閃光が走り、大きな電流が流れ衝撃波が発生し、雷鳴がとどろく。
雷は、凄まじい自然エネルギーです。

まずはじめに、雷の一瞬を捉えた写真を見てみましょう。

STEP 2

雷はどうして起きるの?

  • (図2.1)三極構造
  • (図2.2)雷とは?

雷は「積乱雲」がもたらす自然現象のひとつです。
日本での落雷数は、ひと夏に多い年で100万回、少ない年でも10万回程度観測されており、身近な自然現象といえます。

皆さんは、落雷は静電気と同じ電気現象と言うことを、ご存知ではないでしょうか。小学校の理科で学びますね。すべての電気現象は、プラス(+)とマイナス(ー)の電荷で形成されており、電荷の移動を「電流」と呼んでいます。積乱雲のなかにも、+とーの電荷が存在し、+電荷とー電荷に分かれることを「電荷分離」といいます。この偏った電荷を中和するため電流が流れることを「放電」といいます。

雷雲の内部はどうなっているのでしょうか。
積乱雲の上昇流域では、数十m/sを超える激しい上昇流が存在するため、活発な電荷生成(電荷分離)が生じます。雲内では、さまざまな降水粒子同士がぶつかり合い、粒子間で+とーの電荷が分離します。

夏に発生する積乱雲は、上昇流と対流的に不安定な条件が整えば、雲頂は高度10kmにまで達し、アラレによる電荷分離が活発に働きます。雷の発生には、アラレ粒子による電荷分離が最も重要で、積乱雲内は上層に+、中層にー、 そして雲底付近に+の電荷にわかれて偏ります。この三層の構造を「三極構造」(図2.1)といいます。この雲内の偏った電荷を中和するため放電が起こります。これが「雷」です(図2.2)。

STEP 3

雷が落ちる過程は?

  • (図3.1)
  • (図3.2)
  • (図3.3)
  • (図3.4)

雷雲のなかで偏った電荷は、まずそれを中和するために、雲のなかで「雲放電」が生じます。これが、雲の中でピカピカとしている光です。雲放電でも電荷が中和しきれない時に、「対地電撃」が発生し、これを「落雷」といいます。

具体的なステップで見てみましょう。
雲内に電荷が蓄積される(図3.1)と、まず部分的な空気の絶縁破壊がはじまり、導電性の高いプラズマの道(チャネル)を形成し、進展と停止を繰り返しながら、空気中を枝分かれしたり、ギザギザに伸びていきます。これを「ステップトリーダ」(図3.2)といいます。

雲からのステップトリーダ(マイナスリーダ)を迎える形で、大地からは上向に「結合リーダ(プラスリーダ)」が伸びます(図3.3)。

ステップトリーダと結合リーダが接したとたん、雲内から地面まで放電路が繋がり、地面から雲内に電流が流れ、電荷は中和されます(図3.4)。この電撃は、時間にするとわずか約20ms程度で、放電路の温度は30000K(ケルビン)に達し、激しい雷光が生じ、大きな電流が流れる際に衝撃波が発生し、雷鳴となります。

STEP 4

雷はどこで見られるの?

  • (図4.1)暖候期(4~9月)
  • (図4.2)寒候期(10月~3月)

雷は、激しい対流現象を伴った積乱雲のなかで発生します。モンスーン(季節風)が卓越する日本では、夏も冬も積乱雲が発生し、発達した積乱雲には雷が発生します。そのため日本では、夏も冬も雷を観察することができます。

では、実際にどれくらいの雷が日本周辺に発生しているのか見てみましょう。(図4.1)は暖候期(4月~9月)、(図4.2)は寒候期(10月~3月)の落雷の分布を、20㎞四方のメッシュ内の数(5年間の年平均値)で表したものです。

夏は本州から九州の内陸部や山岳域で落雷が集中していることがわかります。強い日差しにより対流が発生する、いわゆる「熱雷(日差しが原因となる雷)」です。特に頻度が高いのは、関東、中部、関西、九州北部の内陸部にピークがみられます。

一方、冬は日本海側に集中しており、特に、北陸沿岸と東北沿岸に落雷頻度のピークがみられます。これはシベリアの寒気南下による気団変質が日本海上で起こり、雪雲が発達する場所と一致しています。さらに、冬にはもう一つ、太平洋上にも高頻度域が存在していることがわかります。特に、九州南方と関東沖の 太平洋で高くなっています。冬の太平洋上における落雷が集中する原因はよくわかっていませんが、寒気進入時に太平洋沿岸でも発生する対流雲や本州南岸を発達しながら通過する低気圧の影響が考えられます。

このように、日本では暖候期に、関東、中部、関西、九州北部の内陸部で雷がよくみられ、寒候期には、北陸沿岸と東北沿岸、九州南方と関東沖で雷を観察することができます。このHOW TOでは、内陸部で観察のしやすい、暖候期の雷の観察方法を紹介します。

POINT

素材提供:フランクリン・ジャパン
日本周辺の落雷分布(2007~2011年)
(図4.1)暖候期(4~9月)
(図4.2)寒候期(10月~3月)

STEP 5

夏の雷の特徴と、その予兆は?

  • (図5.1)熱雷とは?
  • 入道雲
  • かなとこ雲
  • 乳房雲
  • アーククラウド

夏に見られる特徴的な雷のひとつ「熱雷」は、強い日差しにより発生します。強い日差しが地表面を加熱し、温められた空気が上昇しながら周りの空気も取り込み次第に大きくなり、上空で擬結して雲となります。このとき、海風によって運ばれた水蒸気と出会うと、鉛直方向に発達した活発な積雲に成長します。

このように、真夏の入道雲に代表されるような「熱雷」は、安定した太平洋気団に覆われた夏型の晴天の日の夕方に起こりやすくなります(図5.1)。

昔から「観天望気」と言う言葉があるように、お天気の前兆現象を目で見て五感で感じることができます。特に、暖候期は特徴的な積乱雲がみられるので、予測しやすくなります。ここでは、雷が起きる前兆現象を紹介します。

【 あらかじめわかる前兆(前日) 】
・ 天気予報で「大気が不安定」と予報される
上空に冷たい空気、地表に暖かい空気がある状態を「大気が不安定」といい、暖かい空気が上空へ移動しようとすることで、活発な積乱雲の発生につながりやすくなります。

【 あらかじめわかる前兆(当日) 】
・ 朝から晴天で、強い陽射しが照りつける
・ 海からの湿った空気が流れ込む(海風による水蒸気の供給)
・ 昼を過ぎて、もくもくと垂直に発達する積雲・積乱雲が見えはじめる

【 遠くからわかる前兆 】
・ 遠くで雷鳴が聞こえる
・ 「かなとこ雲」が広がる
急速に発達する積乱雲は、高度10kmの圏界面(対流圏と成層圏の境界)でかなとこ雲として水平方向に広がりはじめます。
・ 「乳房雲」が雲底に見える
特殊な雲のひとつである乳房雲は、しばしば積乱雲に伴って発生するため、発達した積乱雲のサインともいえます。

【 近くでわかる前兆 】
・ 降雹(雹が降ると落雷のサイン)
・ 稲妻が見える
・ 真っ暗になり、冷たい風を感じる
積乱雲に覆われると日射が遮られて急に暗くなります。あるいは、乳白色になることもあります。また、積乱雲からの下降気流は周囲に比べて低温で冷たい風を感じます。
・ 「アーククラウド」が見える
冷たい風の先端は、周囲の暖湿気との間に前線が形成され、アーククラウドと呼ばれるロール状の雲が形成されます。

ここまでの前兆が確認できたら、確実に雷を観察することができます。

POINT

遠くで雷の前兆を感じたら、どこで雷が発生しているかを突き止める便利なサービスがあります。

・気象庁 雷ナウキャスト(無料)
雷ナウキャストは、雷の激しさや・発生率を解析し、その1時間後(10分~60分先)まで予測行し、10分毎に更新して提供されています。
https://www.jma.go.jp/jp/radnowc/index.html?areaCode=000&contentType=1

・日本気象協会 雨雲レーダー(無料)
https://tenki.jp/radar/

・フランクリン・ジャパン リアルタイムの落雷分布(無料)
現在~過去30日分の落雷状況が提供されています。
https://www.franklinjapan.jp/raiburari/lightning-info/

・AMラジオ
AM波は、雷に影響されやすく、離れていてもノイズで落雷の有無がわかります。スマホで聞くことができ、リアルタイムで気象情報も把握できるのでおすすめです。

STEP 6

雷を観察しよう

  • (6.1)
  • (6.2)

雷の前兆が見えたら、出来るだけ見晴らしの良い安全な場所(建物、または車の中)に待機し、雷が通過するのを待ちましょう。また、観察中は、たとえ家の中や車中でも金属に触れないようにしましょう。

この時、スマートフォンやビデオカメラなど、動画が撮影できる機材があると便利です。落雷は一瞬の現象のため、じっくりと観察することはできません。また、事前にどこに落ちるかを予知できないため、出来るだけ広範囲を動画で撮影しておくと、あとで見返し、落雷の一瞬を停止して観察することができます。長時間の撮影になるため、カメラを固定する三脚などがあると、なお便利です。

雷の通過中は、雲の動きやまわりの空気、電撃の向きなどを意識しながら全身で観察してみましょう。

画像(6.1)と(6.2)は、2020年8月23日(月)に発生した雷を動画で撮影し、雷撃の写った部分を書き出し並べた画像です。空気中を枝分かれしながら、ギザギザに伸びる、雷撃が確認できます。

POINT

雷は「落ちる」と言いますが、雷雲から地上へ向けて下向きに落ちるものの他に、地上から雲に向かう上向きの「上向き放電」や、雷雲と別の雷雲をつなぐ「雲間放電」や横向きに伸びる「水平放電路」もあります。また、雷には少ない本数で伸びるものから、同時にたくさん伸びる「多地点同時雷撃」などもあります。

肉眼で観察することができるので、どこからどこへ伸びるのか、何本伸びるのかも意識しながら観察してみましょう。画像は「水平放電路」です。

STEP 7

距離を測ってみよう

雷が観察できたら、自分の位置から落雷の発生した位置までの距離を計算してみましょう。

音の速度は、約340m 毎秒です。雷光が見えた時点から、雷鳴が聞こえるまでの時間をカウントし、その時間(秒)に340を掛け算すると、自分の位置から落雷までの距離(m)を計算することができます。

また、雨雲レーダーで雷雲の位置や動きがわかれば、どの雲からの落雷であったか確認することもできます。

STEP 8

『やった!レポ』に投稿しよう!

皆さんはどのような雷に出会うことができましたか?もし、その一瞬を撮影できた方は、「やった!レポ」にも投稿してください。観察してわかったことがあれば、コメントに添えてください。

STEP 9

落雷から身を守る3つのポイント

  • (図9.1)保護範囲
  • (図9.2)雷しゃがみ

遠くから観察する分には神秘的な雷ですが、実際に雷の直撃を受けてしまうと、命の危険があります。そのため、雷の観察は、必ず建物の中、または車の中から行うことが重要です。

また、もし屋外で雷に遭遇してしまった場合に備えて、「身を守る方法」と「保護範囲」を理解することも重要です。ここでは、落雷から身を守る3つのポイントを紹介しておきましょう。

ポイント1)
屋外で雷雲に遭遇したら、早めに建物や車の中に避難しましょう。

ポイント2)
退避場所「保護範囲」を理解して行動しましょう。
もし、近くに建物や車がない場合は、落雷時に木の側は最も危険ですが、逆に木から少し離れたところには「保護域」と呼ばれる安全な空間があります。一般的に、高さ5m以上30mまでの物体(例えば電柱など)の頂点を、45度の角度に見る空間は「保護範囲」(図9.1)と呼ばれ、物体から4m以上離れればほぼ安全といえます。

ポイント3)
「雷しゃがみ」の体勢を取りましょう。
保護範囲に逃げ込んだら、次は図(図9.2)のように体をなるべく低くし、しゃがんで身をかがめる基本姿勢「雷しゃがみ」を取りましょう。この時、地雷流が両足間を流れるのを防ぐため、両足はそろえ、設置面積を少なくするため、爪先立ちになります。また、爆風で鼓膜が破れないように、耳をふさぎます。

これらは、いざという時に役に立つので、しっかり覚えておきましょう。

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まとめ

いかがでしたでしょうか?皆さんも、芸術的で神秘的な雷を観察できたでしょうか?雷を観察できた方のなかには、あまりのパワーに「怖い」と思った方も多いと思います。

今でこそ技術が進歩して、雷が発生する原理がわかるようになりましたが、昔は、「風神・雷神」の絵巻にもあるように、神様の所業だと考えられていました。八百万(やおよろず)の神という文化が根強い日本の特徴とも言えます。それほど、昔の人も、雷から凄まじいパワーを感じたのでしょう。

芸術的で神秘的な自然も、ときには私たちに驚異となります。大切なことは、その美しさに触れながら、その原理や危険をしっかり理解し、危険を避け、いざと言うときには対処できるようになることです。

※さら詳しく知りたい方に
《おすすめ書籍》
「雷 極端気象シリーズ(著:小林文明 出版:成山堂書店)」
https://www.amazon.co.jp/dp/4425514718
「積乱雲 都市型豪雨はなぜ発生する?(著:小林文明 出版:成山堂書店)」
https://www.amazon.co.jp/dp/4425514416
「雷から身を守るには―安全対策Q&A―改訂版(著:日本大気電気学会編)」

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