1961年11月3日生まれ。北海道大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士後期課程修了。防衛大学校地球科学科助手、同講師、同准教授を経て、防衛大学校地球海洋学科教授。千葉大学環境リモートセンシング研究センター客員教授(H23~H24)。日本大気電気学会会長(H25~H26)、日本風工学会理事。専門は、メソ気象学、レーダー気象学、大気電気学、研究対象は積乱雲および積乱雲に伴う雨、風、雷。
大空は不思議な現象で溢れています。
「雷」は、太古の昔から恐れられてきた一方、ふたつとして同じもののないその姿は、芸術的で神秘的です。なかには、雷を見ると、その一瞬の輝きにワクワクする人もいるのではないでしょうか?
このHOW TOでは、自然の神秘とも言える雷について知ることで、その美しさと自然エネルギーの力強さに触れ、雷が起きる仕組みと特徴を知ることで、その予兆から観察する方法を紹介します。
また、異常気象が頻繁に起こるなか、いざという時に備えて、雷から身を守るポイントも紹介します。
激しい閃光が走り、大きな電流が流れ衝撃波が発生し、雷鳴がとどろく。
雷は、凄まじい自然エネルギーです。
まずはじめに、雷の一瞬を捉えた写真を見てみましょう。
雷は「積乱雲」がもたらす自然現象のひとつです。
日本での落雷数は、ひと夏に多い年で100万回、少ない年でも10万回程度観測されており、身近な自然現象といえます。
皆さんは、落雷は静電気と同じ電気現象と言うことを、ご存知ではないでしょうか。小学校の理科で学びますね。すべての電気現象は、プラス(+)とマイナス(ー)の電荷で形成されており、電荷の移動を「電流」と呼んでいます。積乱雲のなかにも、+とーの電荷が存在し、+電荷とー電荷に分かれることを「電荷分離」といいます。この偏った電荷を中和するため電流が流れることを「放電」といいます。
雷雲の内部はどうなっているのでしょうか。
積乱雲の上昇流域では、数十m/sを超える激しい上昇流が存在するため、活発な電荷生成(電荷分離)が生じます。雲内では、さまざまな降水粒子同士がぶつかり合い、粒子間で+とーの電荷が分離します。
夏に発生する積乱雲は、上昇流と対流的に不安定な条件が整えば、雲頂は高度10kmにまで達し、アラレによる電荷分離が活発に働きます。雷の発生には、アラレ粒子による電荷分離が最も重要で、積乱雲内は上層に+、中層にー、 そして雲底付近に+の電荷にわかれて偏ります。この三層の構造を「三極構造」(図2.1)といいます。この雲内の偏った電荷を中和するため放電が起こります。これが「雷」です(図2.2)。
雷雲のなかで偏った電荷は、まずそれを中和するために、雲のなかで「雲放電」が生じます。これが、雲の中でピカピカとしている光です。雲放電でも電荷が中和しきれない時に、「対地電撃」が発生し、これを「落雷」といいます。
具体的なステップで見てみましょう。
雲内に電荷が蓄積される(図3.1)と、まず部分的な空気の絶縁破壊がはじまり、導電性の高いプラズマの道(チャネル)を形成し、進展と停止を繰り返しながら、空気中を枝分かれしたり、ギザギザに伸びていきます。これを「ステップトリーダ」(図3.2)といいます。
雲からのステップトリーダ(マイナスリーダ)を迎える形で、大地からは上向に「結合リーダ(プラスリーダ)」が伸びます(図3.3)。
ステップトリーダと結合リーダが接したとたん、雲内から地面まで放電路が繋がり、地面から雲内に電流が流れ、電荷は中和されます(図3.4)。この電撃は、時間にするとわずか約20ms程度で、放電路の温度は30000K(ケルビン)に達し、激しい雷光が生じ、大きな電流が流れる際に衝撃波が発生し、雷鳴となります。
いかがでしたでしょうか?皆さんも、芸術的で神秘的な雷を観察できたでしょうか?雷を観察できた方のなかには、あまりのパワーに「怖い」と思った方も多いと思います。
今でこそ技術が進歩して、雷が発生する原理がわかるようになりましたが、昔は、「風神・雷神」の絵巻にもあるように、神様の所業だと考えられていました。八百万(やおよろず)の神という文化が根強い日本の特徴とも言えます。それほど、昔の人も、雷から凄まじいパワーを感じたのでしょう。
芸術的で神秘的な自然も、ときには私たちに驚異となります。大切なことは、その美しさに触れながら、その原理や危険をしっかり理解し、危険を避け、いざと言うときには対処できるようになることです。
※さら詳しく知りたい方に
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「積乱雲 都市型豪雨はなぜ発生する?(著:小林文明 出版:成山堂書店)」
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「雷から身を守るには―安全対策Q&A―改訂版(著:日本大気電気学会編)」