長野県白馬山麓と神奈川県鎌倉市の二拠点をフィールドに子どもや親子を対象とした自然体験活動を行っている。幼児と親子の自然体験ワークショップ「外あそびtete」(http://www.teteasobi.com)、自然とアートを結ぶ活動「山と図工の学び舎てくてく」(http://www.tekutekuyama.com)主催のほか、幼稚園や中学校で造形・美術講師をつとめている。二児の母。
“Wonder”=不思議・驚き・奇跡
自然の中には“Wonder”がたくさんあります。教科書や図鑑にない、“私のWonder”を探しに出かけましょう。
ある時、3歳の男の子が手のひらをギュッとにぎって山道を歩いていました。手のひらの中には小さな小石がありました。何てことない小さな黒い小石ですが、手の中にぴったりとおさまる大きさや色に、何ともいえない“ちょうど良さ”がありました。触るごとに愛着がわき、落としたときには必死に探しました。
その小石の“良さ”は、ほかの誰にもわからないかもしれません。けれど、自分だけが感じられる何ともいえない“良さ”に、男の子は出会えたのです。
たとえば“Wonder”は、そんな小石かもしれません。または、曲がった木の枝、落ちた椿の花、穴の空いたどんぐり。雨粒がついたクモの巣。夏の木漏れ日。
同じものには二度と出会えない自然の中だからこそ、見つけた“Wonder”にいっそう心がときめきます。誰かの「いいね」ではなく、私の「いいな」を見つけること。子どもは「いいな」を見つける名手です。
「いいな」と感じるものを見つけたら、写真を撮ったり、大事に拾って持ち帰りましょう。そうして集めた“Wonder”をボックスに入れて、作品に仕上げましょう。
虫めがね
カメラ(携帯電話のカメラでもOK)
ポケットティッシュ
ハンカチ(またはバンダナ)
メモ帳
フタ付きの小箱(百円ショップなどで購入可能)
ハイキングの準備一式
“Wonder”を探すハイキングは、できるだけ土の道を選びましょう。清掃の行き届いた公園内のコースより、ちょっとした山道がおすすめです。それは、落ちた葉や木の実がそのまま地面に残っていたり、クモの巣など自然の中のありのままの姿を見ることができたりするからです。
子どもと歩く場合は通常コースタイムの1.5~2倍の時間がかかります。ゆっくり歩いたり立ち止まったりすることを考えると、ハイキングは短めのコースを選ぶのがおすすめです。崖などの危険な場所がないか、道に人気があるかなどあらかじめチェックしておくと安心です。
では、実際に自然の中を歩いてみましょう。はじめは子どももドキドキ、緊張しています。子どもによっては森の雰囲気や周囲の暗さなどに心細さを感じることもあるので、無理に背中を押さず、手をつないだりしながらゆっくり歩き出しましょう。
自然道の中に入ると、ついつい足元に視線が集中しがちです。上を見上げると木々の葉が陽の光に透けていたり、周囲を見るとリスが木の上を歩いていたりすることもあります。
視野を広く持ち、目線をいろいろなところに向けてみましょう。
「せっかく来たのだから〇〇しなくては」とはじめから意気込みすぎず、子どもと一緒にリラックスして空を見上げてみたり、足元に何か落ちていないかと探してみたりしながら、だんだん自然道に足を進めていきましょう。
自然の中で目が慣れてくると、木の穴や落ちている実、咲いている花などに気が付きます。また、木漏れ日の光線や、鳥の声、水の音など、五感がだんだん開いていきます。
色や形が気になる葉っぱ、どんぐりがついた木の枝など、気になるものを手にしたり、「みてみて!」と子どもにも紹介したりしてみましょう。子どもも自分の発見したものを見せたり、自慢したりしてくれます。
土がついていないもの、形の崩れていないものを何となく大人は選びがちですが、子どもは茶色くなった椿の花や、虫の食べた葉っぱも「いいな」と思って選びます。子どもの選んだものを「きたないよ」とか「捨てよう」などズバリ否定することは控えましょう。
持ち帰れない状態のものは気持ちを汲んだうえで、「もう虫の食べ物になっているから取り上げないでおこう」とか「良いと思うけど、電車に持ち込むことができない」というように自然に置いていくことを話し合いましょう。持ち帰れないものは写真で撮って残しましょう。
国立公園や自然保護区域、公園の規則などにより、園内・区域内の自然物を採取したり、持ち帰ることが禁止されている場所があります。うっかり違反になってしまわないよう、注意しましょう。また、そういった場所では子どもにもルールを伝え、見て楽しむことをあらかじめ伝えておきまましょう。
息子が2歳を過ぎた頃から自然の中を一緒に歩くようになりました。ズボンのポケットから小石や何でもないかけらが出てきたり、気に入った落ち葉を持ち帰ったりしては、家にある空き瓶に入れて取っていたのが始まりでした。
ある時その小瓶を手にとって見ると、懐かしい思い出の品々に気持ちが温かくなりました。子どもの方が記憶ははっきりしていて、小石を手に取ると「どこで拾ったか」「どこが好きか」といったこともよく話すので、これは大切なものなんだと思うようになりました。
やがて、発見したクモの巣を子どもにも見せたり、子どもが拾った木の実がどの木から落ちたかなど、お互いの感性にふれたものが散歩の会話になりました。それは「あなたのいいと思ったもの、私のいいと思ったもの、どちらも面白いね」と互いに等しくあることを実感できる時間でもありました。
世の中には優劣で話すことがたくさんあります。大人と子どももまた、高い位置から低い位置にむかって話す構造になりがちです。しかし感性とは等しく、自由で、尊いものです。互いに見つめた先にあるものに共感したり、愉しむことができる時間こそが、アートボックスの核になるように思います。