82年東京藝術大学美術学部デザイン科インダストリアルデザイン専攻卒業。
NECデザインセンター、ミラノのデザイン事務所CDM社を経て91年に帰国後 (株)スタジオピーパを設立し現在に至る。大手家電・情報機器メーカーの製品を中心に色彩の戦略立案から量産時の色再現コントロールまで、トータルなCMFデザインおよびコンサルティングを行う。また、大学でCMFデザインを教えるほか、授業用に配色造形トレーニングツール「いろくみ」を考案、その普及にもつとめる。
多摩美術大学客員教授、青山学院大学・同大学院、金沢美術工芸大学、昭和大学、各非常勤講師
冬、身近な植物たちは枯れて冬色になります。そんな色が無くなった世界でも、枯れ葉や枝を見比べてみると決して同じ色ではありません。明るく白に近い「茶色」から、暗く黒に近い「茶色」まで、同じ茶色ですがそこにはさまざまな明るさがあります。
私たちがあたりまえに見ている風景には色がついています。「見る」という行為は受動的なので、自然の美しい色使いの風景を見た瞬間に心を奪われますが、いざ自分でその感動的な色を何かに応用しようとしても、なかなかうまくいかないことに気づきます。そんなとき、自然の色で作られたスケールがお手本にあったら、と思いませんか?
このHOW TOでは、枯れた植物を採集して見比べることで、同じような枯れ色にも明るさの違いがあることを発見し、色の「明暗」を意識できる「明るさのスケール」を作る方法を紹介します。冬色スケールが美しい色使いの糸口であることを体験しましょう。
枯れた樹皮・枯れ葉・枯れ枝・木の実・穂先など
カメラ、またはスマートフォン
冬色スケールのカラープリントアウト ※A4
台紙(白系の厚紙、またはケントボード)※A4以上
はさみ(園芸用はさみがおすすめ)
ラッピング用針金(茎を束ねる用)
接着剤(乾くと透明になる木工用ボンドがおすすめ)
はじめに、「冬色スケール」について紹介します。
私たちは色を見るときに「色味」と「明るさ」とを分けて頭の中で情報として捉えています。欧米では昔から色を理解するためにスケール化をしてきました。約100年前に米国人の画家・美術教育者であったマンセルの提唱した色のスケールは10進法で、現在世界的に普及しています。
今回はこのマンセル明度に従って、中央に9段階の明るさの基準である白から黒までを並べ(注:明度10は理想値なので物質としては存在しません)、左右に各明度とほぼ等しい明るさの赤色系と黄色系(植物の枯れ色は黄色から赤色まであるので)を配置した「冬色スケール」を用意しました。これをカラー出力して使いましょう。(注:画面の色と印刷の色は、光の色が物の色に置き換わるため同じにはなりません、ご了承のうえ体験ください。)
出力はプリンターの印刷方式によって色の濃さや発色が異なります。インクジェットやカラーレーザーなどを用い自宅で出力する場合は、通常のコピー用紙ではなく専用の用紙を用いるときれいに出せます。蛍光剤が含まれない「ナチュラル」と呼ばれる白の用紙がおすすめです。コンビニのコピーマシンで出力でももちろんOKです。
それでは、いよいよ冬色の植物を採集します。散歩の途中で見つけた枯れ草や木の実など、落ちているもので形の整っているもの、手で折っても良いものを集めましょう。
採集した植物は、家に持ち帰ったら形をこわさないようにザルなどにあげて軽く水洗いし、乾かしてから明るさを比べましょう。
採集した植物を、STEP1で出力した「冬色スケール」の色に近いところに置き、明るい色と暗い色の違いを確かめます。
枯れ色とはいっても良く見ると黄や赤などの色味があり、どれが同じ明るさなのか、どちらが暗いのかを見分けるのはなかなか難しいですね。そこで、デジタルカメラの編集機能「白黒モード」を使いましょう。色味がなくなって明るさだけが見えてきます。(注:機種によって最初に設定する場合と撮影後に変換する場合とがあります)
ではやってみましょう。まずは自分の目で植物の明るさを判断して順番を決め、スケールにのせます。それを撮影して白黒モードにし、明暗の順番があっているかを確認します。撮影前に明るさが良くわからないまま置いたものは白黒になった画像とよく見比べ、必要があれば並べかえ、再度撮影し確認します。この作業を何回か繰り返せば徐々にスケールができあがっていきますよ。
スケールに並べる前に撮影して明暗を確認してしまう、というやり方もあります。どちらからやってもOKです。
植物の各々の場所が決まったら、一旦スケールから移動させ、スケールを厚紙などの台紙に貼ってしっかりとさせてから植物を接着していきます。
松葉やねこじゃらしのような、細いものはラッピング用針金を使って束ね、長い物・大きいものはカットしてサイズをほぼ同じにしておくと作業しやすいです。
植物はデコボコしているので、スケールとの接着面は点になることが多いです。木工用ボンドは乾くと透明になるので、はみ出るのを気にせずたっぷりつけましょう。また接着に時間がかかるので、接着直後なら位置を移動したりもできますから、焦らず作業しましょう。
出来上がった冬色スケールを壁などにピンナップして、ちょっと距離をおいて眺めてみましょう。白に近い明るい茶色には、種の綿毛や枯れた花びらなど薄くふわふわしたものが多く、黒に近い暗い茶色には、硬くしっかりとした枝や実などが多くなったのではないでしょうか?
枯れた植物による明暗のグラデーションが出来上がりました。あなたが作った「冬色スケール」、そこに秩序のある美しさを感じませんか?
オリジナルの「冬色スケール」を作ったら「やった!レポ」に投稿して、体験をシェアしませんか?質問や感想はコメントに記入してください。
明るさの違いを意識した色使いは、中世ヨーロッパで用いられたキアロスクーロ=明暗法(伊語chiaroscuro)という絵画表現法にあたります。私たち日本人の伝統的色使いは、大漁旗や着物と帯の取り合わせに見られるように、赤・黄・青・緑といった色と色をぶつける「色相配色」なのに対し、欧州のそれは色の明るさの違いによる「明暗配色」です。日本の伝統的な「色相配色」は、にぎやかで楽しい色使いになり、欧州の伝統的な「明暗配色」は、落ち着いて秩序だった色使いになります。
洋服の上下やテーブルセッティング、カーテン&クッションなど、色選びで悩んだことがありませんか? 私たちの日常生活はすでに洋風なので、洋服やインテリアの色使いは「明暗配色」で考えるとうまくいくことが多いです。
冬の風景はほかの季節に比べて色味が少なくなります。なので、色味の向こうに隠れている「明るさ」という感覚を意識するにはもってこいの季節です。公園や里山を散歩しながら枯れ色を集め、冬色スケール作りを今冬ぜひ楽しんでください。