人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
自然のなかには、「1/fのゆらぎ」と呼ばれるものがあります。聞いたことがある人も多いのではないかと思いますが、このゆらぎは、人をリラックスさせ、心を落ち着かせる効果があると言われています。「1/fのゆらぎ」とは、どのようなものか調べてみると、「予想できそうで、予想することがむずかしい、意外性を含んだ規則的な動き」と説明されています。規則的なのに予測できない…。なんだか、矛盾したような説明ですが、例えば、焚き火の炎を思い出してみましょう。炎の大きさや形は次の瞬間、どのようになるのか正確に予測するのは難しいですが、まったく予想できない状態に変わることはありません。炎は、心地よく穏やかな変化を刻々と繰り返しています。ときおり、意外な変化を見せながら…。これが、「予想できそうで、予想することがむずかしい、意外性を含んだ規則的な動き」です。
自然のなかには、このようなゆらぎがたくさんあります。このHow toではあなたが心地よく感じる1/fのゆらぎを見つけに出かけてみたいと思います。
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1/fのゆらぎを見つけるヒントを、音、焚き火、香り、それぞれのスペシャリストに紹介してもらいます。ユニークな視点で語ってくれるのは、サウンドデザイナーの川崎義博さん、焚き火マイスターの猪野正哉さん、そして、嗅覚のアーティストMAKI UEDAさん。
あなたが心地よく感じる、自然のなかの1/fのゆらぎを見つけに出かけましょう。
1/fのゆらぎでよく言われるのが音楽です。モーツァルトの音楽には1/fのゆらぎがあり、心を癒す、勉強がよくできるようになるとか言われますが、実は科学的には実証されていません。もちろんアコースティックな楽器には倍音が含まれ、そこに揺らぎを見出すことができます。しかし、音楽には様々なジャンルがあり、個人の好みもあり、モーツァルトが心地よいと思う人がいれば、カントリーやロック、テクノ、ニューエイジなど好みが分かれます。さらにノイズミュージックが心地よいと感じる人もいます。
赤ん坊が聞くと安らぐのは、1/fのゆらぎを持つ母親の心音だけでなく、体内にいる時に聞く母親の身体の音、脈流音や呼吸音も含み、体内においてそれは凄いノイズでもあるのです。母親の体内音を大きな音でかけると、赤ん坊は安心して眠ったりします。身体が持つ1/fの《ゆらぎ》が含まれ、居心地が良いのかもしれません。測定などに使用するピンクノイズも実は1/fのゆらぎを持ちます。では、1/fのゆらぎの説のもとになった自然のなかではどうでしょうか?
自然のなかで心地よい風にふかれ、せせらぎの音を聴き、目を閉じ森のざわめきに耳を澄ますとき、心は緩やかに開かれ〈無〉になっていきます。そして体の力は抜け、緩やかな、静かな動き、《ゆらぎ》になっていく。そう私たちの体のなか、細胞には実は《ゆらぎ》があり、その《ゆらぎ》が自然のなかの《ゆらぎ》と同期していくのです。
実は私たち自身が、私たちの体が《自然》なのです。その体のなかの《自然》と周りの《自然》が同期することで、より緩やかな《ゆらぎ》、心地よい《ゆらぎ》が生まれます。
音は耳で聞いていますが、実は皮膚感覚でもあり、身体で音を捉えています。音を言葉で捉えるのではなく、身体で捉えて自然のなかに入ってみましょう。そうすると、周りにある多くの《ゆらぎ》に気が付き、その《ゆらぎ》に同期することができるでしょう。
【水音 信州小諸の森でのインスタレーション作品】
音と「1/fのゆらぎ」寄稿:川崎義博さん(サウンドデザイナー)
せせらぎの音、森のざわめき、木の葉を揺らす微かな風。繰り返す波音、鳥たちの声。あらゆる音に《ゆらぎ》を感じることができます。自分にあった、自分という《自然》と同期する《ゆらぎ》を見つけることができると良いでしょう。風に舞う一枚の木の葉。小さなキノコの呟き。ささやかな湧水。苔から滴り落ちる水滴。柔らかな木漏れ日…。
そよ風に吹かれながら、静かに目を閉じ、耳を澄ましているうちに、あらゆる感覚が目覚めます。さまざまな音に囲まれ、やがて聞くという行為もなくなり、あらゆる音、生命の息吹を、そして《ゆらぎ》を身体で感じはじめます。
そうやって自分の中の《ゆらぎ》を、好きな音、好きな《ゆらぎ》に同期させてみましょう。おすすめは、まず緩やかなせせらぎ。静かに打ち寄せる波。柔らかな風。自然のなかで色々見つけて、聴いてみましょう《1/fのゆらぎ》を。
※参考
「音と身体の不思議な関係」セス・S・ホロウィッツ著、「音と人間」音響入門シリーズ、「音の科学と擬似科学」蘆原郁/坂本真一 共著、「音のなんでも小辞典」日本音響学会、「1/fゆらぎ」武者利光論文より 日本音響学会
多いときには、年間100日は焚き火をしているという焚き火マイスターの猪野正哉さん。焚き火の炎を通して、猪野さんが見つけた「1/fのゆらぎ」を焚き火の動画とともにお届けします。
飽きることなく毎回、不思議と見入ってしまうユラユラ揺れる炎。理由など考えたことはなかったけれど、焚き火を生業にしてから深掘りするようになり、炎に「1/fのゆらぎ」効果があることを知りました。炎には、海の波や川の流れと同様に予測できない不規則なゆらぎがあります。ゆらぎだけを求めるなら甲乙つけがたいところ、焚き火は暖かさが加わるので、心地よさやリラックス効果が倍増するのではないでしょうか。
ノルウェーの国営放送局が12時間連続で暖炉の炎を流し、20%を超える視聴率を記録したことも話題となり、炎や焚き火の動画はとても人気で、たくさんの動画がYouTubeなどに投稿されています。
動画でさえ見入ってしまうほどなので、自分で育てた焚き火の炎を楽しむ時間は格別です。火を起こし後始末まで考えると手間も時間もかかるけれど、実際の焚き火の楽しさは言うまでもありません。ぜひ味わい深い焚き火体験を、そして世界にひとつ自分だけの「1/fのゆらぎ」を焚き火の炎から見つけてみてください。
炎のゆらぎを動画撮影するときのちょっとしたポイントをご紹介します。ビデオモードで撮影すると実際の炎のゆらぎより早く動いているように撮れてしまいます。そこでおすすめなのがスローモードでの撮影。比べてみると一目瞭然なのでぜひ試して、自分で育てた炎のゆらぎを堪能してみてください。
【焚き火の動画】
●ビデオモード
「ちょっと違った焚き火を楽しもう」
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/219
焚き火の炎から見つける「1/fのゆらぎ」寄稿:猪野正哉さん(焚き火マイスター)
1/fのゆらぎの現象は、自然界だけではなく、人間の体内にも見られると言います。例えば心拍数の1/fゆらぎは、自律神経機能の新しい指標として利用されていて、小児の喘息発作時に1/fゆらぎのリズムに乱れが見られるとの研究結果が報告されています[1]。さらには、アミノ酸の1/fゆらぎが細胞膜を越えた水輸送に寄与していることも確認されています[2]。このように体内化学物質の動きにも「1/fのゆらぎ」が見られると、人間はそもそも自然の一部なのだなぁと感じさせられます。
昔オランダの美大で教えていた時に、「音楽は香りの知覚に影響を及ぼすか」という実験をした生徒がいました。クラシックとヘビメタの比較で、クラシックを聞きながら香りを嗅ぐと、その香りを「良い香り」と答える人が多かったという結果でした。聴覚の「1/fのゆらぎ」が知覚に影響しているのか、あるいは、香りも音も同じように空間の「空気」を媒体としていることを考えると、音の「1/fのゆらぎ」が物理的に芳香物質に作用したのか…。いずれにせよ嗅覚の仕組みにおける「1/fのゆらぎ」の研究は発展途上のようで、詳しくは解明されていません。そこで今回は、私自身が無意識に実践している嗅覚から見つける「1/fのゆらぎ」の楽しみ方をご紹介します。
●キャンドルの炎と「1/fのゆらぎ」
キャンドルの炎がよく見えるように、透明なものを使います。パラフィン製のキャンドルは、灯火の揺らぎが大きいのも特徴。炎のゆらめきを壁に映し出すような切り込みが入っているホルダーやランタンは、視覚的効果がゆらぎを強調してくれます。蜜蝋キャンドルは揺らがずじっと燃えるので、静寂の中の細かい「1/fのゆらぎ」を見つめられます。
●線香の煙と「1/fのゆらぎ」
煙は「紫煙」とも呼ばれ、実際に紫色に輝いて見えます。煙に光を当てて、そのくゆる様をゆったりと見つめてみましょう。風の当たらない場所がおすすめです。
●焚き火の炎に香りをプラス
樹脂分の多い間伐材を乾燥させておき、焚き火のときに数本投入します。炎と煙の「1/fのゆらぎ」を視覚的に楽しむだけでなく、ふわっと上がる香りも楽しめます。
嗅覚から見つける「1/fのゆらぎ」寄稿:MAKI UEDAさん(嗅覚のアーティスト)
※参照
[1]Biological rhythm in 1/f fluctuations of heart rate in asthmatic children
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1323893015311266
[2]1/ f Fluctuations of amino acids regulate water transportation in aquaporin1
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25353519/
自然のなかにある1/fのゆらぎを見つけたら、「やった!レポ」に投稿しませんか?質問や感想はコメントに記入してください。
いかがでしたか?あなただけの心地よいゆらぎは見つかりましたか?自然のなかには、今回紹介したものだけでなく、さまざまな1/fのゆらぎがあります。今回、見つけられなかった人もゆらぎを意識して自然を眺め、耳を澄ませてみてください。意外なところで心地よいゆらぎに出会えるのではないかと思います。
しかし、私たちは、なぜ、このようなゆらぎに心を落ち着かせるのでしょうか?さまざまな説もあるようですが、その理由について、誰かの説明を聞いたり読んだりするのではなく、自分なりに想像を膨らませてみることは大切なことと感じます。想像を膨らませてみることで、体験したことはより深く心に刻まれ、ひいては人と自然との関係について考えを巡らせ、自身の自然観を深めていくことへとつながっていくのだと思います。