風とウイスキーをこよなく愛すアウトドアーズマン。outdoorsman bar ROVERS 店主/。NEUNブランドディレクター 。 モンゴル遊牧民を訪ねる1500km乗馬旅やリヤカー東海道五十三次、Vixen Island Journeyなどをプロデュース。
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人は古い時代から、飲み物に香りを付けて楽しんできました。「植物から香りを抽出する」というと、特殊な装置を思い浮かべるかもしれませんが、素材によっては、植物から香りを取り出すのはそれほど難しくありません。ここで紹介するのは植物から取った香りを楽しむ自家製ノンアルコール・ジン。お酒が苦手な方や妊婦さん、車を運転するお父さんやさらにはお子さんまで楽しめます。バーで飲むようなジントニックをつくってキャンプなどで仲間たちと一緒に楽しんでみましょう。
ジンとは穀物などを原料としたお酒に、ジュニパーベリー(杜松の実)とその他様々なボタニカル(植物)を加えて再蒸留した、とても華やかで香り豊かなお酒のこと。その誕生は今から350年以上も前のオランダ。ジュニパーベリーが解熱作用をもつことから熱病の薬として開発され、当初は薬局で販売していました。
薬として販売されていたものの、ジン特有の華やかな香りが話題となり、お酒としてオランダ国内で流行。その後ジンはオランダからイギリスへ渡ります。当時のイギリス国王ウィリアム3世がオランダ出身であったことも関係し、オランダでの人気をはるかに凌ぐ勢いで広まり、イギリスを代表するお酒として発展しました。あまり知られていませんが、日本でも古くから愛飲されており、江戸時代後期にはすでに飲まれていたことが記録されています。
現在では山岳地帯では高山植物を漬け込むなど、地域ごとに特色があり、その土地の環境や仕込み時期に合うボタニカルを用いて個性豊かなジンが世界中で作られています。
ジンの香りのベースとなるのはジュニパーベリー。ジュニパーベリーがあれば、ジン特有の香りを再現できますが、それ以外にも香りの土台となるボタニカルがあります。これらのなかからいくつかを選んで組み合わせや配合比を変えることで性格が変わってきます。以下にジンに使用されることの多いボタニカルを紹介します。
●カルダモンシード 爽やかなスパイシーさと柑橘に近いほのかな甘味
●シナモン 香ばしく甘みを引き立てる役割
●アニスシード 強烈ではない上品な甘みと芳香感
●スターアニス 八角。アニスシードより強い甘味と爽やかなスパーシーさ
●クローブ スパイシーさと甘みが共存
●コリアンダーシード 鼻に抜ける柑橘系に似た清涼感、スパイシーさの中に甘味
●キャラウェイ スッと立ち上がる爽快感とほのかな甘味
●レモンピール(そのほか果実のピール) 果実の香りが全体をまとめて広がりを創出
ボタニカルはスーパーの香辛料売り場で入手できます。近所で手に入らない場合は通販で入手しましょう。果物は果汁ではなく、皮をメインにして香りの抽出をしましょう
日本の山野に生えている植物もボタニカルの素材になり得ます。身近なものでは、庭木や畑から逸出したハーブ類が素材になるでしょう。ササ類、サクラの葉、カツラの葉、マツの葉、カキの葉、スダチやカボスなどの柑橘類、スペアミントやローズマリーなどのハーブ類……。いろんなものが素材になり得ます。
秋になると、森のなかでキャラメルのようなにおいを放つのがカツラの落ち葉。カツラの芳香成分は「マルトール」で、これは実際に菓子などのにおいづけに使われています。桜餅を包むサクラの葉の独特なにおいは「クマリン」。これは葉が青々としているときは香らず、落葉したあとや、塩蔵するとにおいが出てきます。
ボタニカルに使える植物に共通する条件が、芳香があって無毒であること。慣れないうちは、食物としての実績があるものを使うのが無難です。また、自分で自信をもって種類を判別できる場合以外、素材に用いるのは止めましょう。
植物の葉は、多くの種類を入れると香りが喧嘩して全体像がぼやけ、青臭くなります 。
本式のジンはお酒とともに蒸留して香りを移しますが、今回取り組むのはノンアルコールなのでお酒は一切使いません。使用するのはお水とボタニカルのみです。味が薄いので、果汁や糖類などで味付けをしたくなりがちですが、それをやってしまうと肝心なジン特有の香りが隠れてしまうので要注意。味を付けるというよりは、香りを抽出するイメージです。
ジンの香り=ジュニパーベリーの香りでもあるので、そこを邪魔せずに深みや広がりを与えるボタニカルを添えていきます。季節や環境によって、無限大にレシピが広がってゆきます。どんなボタニカルがどんな香りを出すのか、鼻を研ぎ澄ませて想像してみましょう。
芳香成分の抽出は、蒸留機を使う、アルコールに揉み出すなどの方法もありますが、いちばん簡単なのは水出し法です。文字どおり、素材を水に浸けて香りを移します。手順は以下のとおりです。
1.採取した葉っぱなどを水でよく洗い、熱湯で消毒します。(熱湯をかけると枯れ葉などでも柔らかくなり容器に入れやすくなります)
2.用意した容器の中にボタニカルを入れていきます。(ガラスの容器を使用すると、中の様子が見えて楽しさも増していきます)
※今回使用しているボタニカルは、ジュニパーベリー、カルダモンシード、スターアニス、シナモン、レモンピール、リンゴピール、桂の葉、スペアミント、すだち、ローズマリー、松の葉
3.ボタニカルが全て入ったら水を注いで蓋をします。
漬け込みは以上です。簡単ですね。このまま冷暗所で保存します。最初、水に浮いていたボタニカルが沈んできたら頃合いです。(半日~2日ほど)香りを嗅いでみましょう。華やかな香りが立ったら完成です。
素材と器具は熱湯消毒を丁寧に行なって、抽出中に雑菌が繁殖しないように注意しましょう。
香りが水に移ったら、いよいよ賞味。どんな手順で作ってもよいですが、以下の手順を踏むと、より香気が強く立ち上ります。
1.グラスに氷を入れる
2.グラスを冷やしながら氷の表面を鳴らすために軽くステアします
3.ノンアルコール・ジン30mlを氷の上から注ぎます
4.トニックウォーターを氷に当たらないようにそっと注ぎ入れます
5.下からそっとステアを1回します
6.最後に香り付け程度にノンアルコール・ジンを数滴垂らしてでき上がり!
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
「天然の素材から自分で抽出した香りを楽しむ」と聞くと、なんだかとてもワイルドな遊びをしているように思えますが、私たちがふだん口にしているものの多くは自然界からやってきます。芳香を楽しむコーヒーや紅茶も元は木の実や葉っぱですし、食卓にある七味唐辛子のようなスパイスも(栽培品ではあるけれど)自然に由来するものです。ノンアルコール・ジンは手軽に自然界にある香りを楽しむ遊びです。自宅の近くや出先で手に入れた植物は、いわば「場の香り」。そこにしかない香りを楽しんでみましょう。