2024.08.091203 views

かわいい子に旅をさせよ。挑戦する心を育もう

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大木ハカセ

outdoorsman bar ROVERS 店主
自分の力に気づく機会を子供に贈る

冒険家の遠征をサポートしたり、辺境へのツアーを催行するうちに、いつしか子供たちを誘ってちょっとハードな旅をするようになりました。親元を離れて自分の体と思考をフル回転させると、子供は自分の持っている力を自覚し、使いこなすようになります。その瞬間に立ち会うのは大きな喜びです。幾人もの冒険家と交わり、子供たちと旅をするなかで、親にしかできないこと、親以外の大人にしかできないこと、同世代の子供たち同士にしかできないことが見えてきました。どうしたら外の世界へと踏み出す力を子供に贈れるのか。そのヒントをお裾分けしたいと思います。

READY
準備するもの
  • 挑戦する心

STEP 1

冒険心の根源を考える

  • 子供は親の目のない場所で伸びる

みなさんの初めてのひとり旅はどんなものだったでしょうか? 海外旅行を思い浮かべる人もいれば、低山へのハイキングや自転車での遠乗りを思い浮かべる人もいるでしょう。それらの旅の距離やスケールはそれぞれに異なりますが、きっと「未知へと自力で踏み出した」という感覚は共通しているはずです。

その未知へと踏み出す力が人一倍強いのが冒険家や登山家たち。彼らは遠征を企画し、体を鍛え、道具を整えて未知へと飛び込んでいきます。彼らのように挑戦する心を我が子にも身につけてほしい。どうすればそれができるのだろうか……と親なら考えてしまいますが、最近、結論しました。おそらく親からは「挑戦する心」を授けられません。

私も2人の子供を育て、冒険家たちと彼らの子育ても見てきましたが、挑戦する心は親が授けるものではなく、もって生まれた性質が強いようです。偉大な冒険家や登山家の子供がインドア派、というのはよくある組み合わせです。

……こんなことを言ってしまうと本稿はここでおしまいになってしまいそうですが、発想を転換してみましょう。これは一般の家庭であっても、挑戦する心をもつ人物を輩出できる、とも考えられます。子供の挑戦する心を育むうえで、親にできることは存外少ない。その数少ないできることのなかで重要なのが、親の目の外に送り出すことだと私は考えています。

かわいい子には旅をさせよ、という諺にもある通り、人の成長には親元を離れる時間が必要です。アウトドアに親しんだ私も、我が子のことになるとついつい甘さが出てしまいます。失敗する前に手を差し伸べ、考える前に答えを与えてしまう。どれだけ気をつけても自分の子供を前にすると親はフラットになれません。その点で、鍵を握るのが肉親以外の大人。子供の安全を確保しながらほどよい距離を保てる親以外の大人の存在は重要です。

もうひとつ大切なのが、ひとり旅に出る前の助走です。ひとりで企画し、決意し、実行するのはなかなか難しいものですが、仲間がいると挑戦までの障壁は下がります。問題にぶつかったときに仲間は支えになり、ひとりでは見つけられない解決策を提案しあえたりもします。

親の目の外で、親ではない大人の指導のもと、同世代の仲間と思考錯誤しながらプロジェクトを進める。こんな経験は、達成できるかどうかわからないプロジェクトに挑戦する姿勢を育んでくれるように思います。

STEP 2

仲間と時間の力を知る

  • 力を合わせて難所を越える

子供たちに無限の暇があった時代、子供たちは親の目の届かない場所で新しい遊びを開発し、その遊びのなかで失敗したり成功したりして学校では学べないことを身につけていました。「ありあまる時間と仲間」は思いつきを形にする力を身につけるうえで欠かせない要素です。

しかし、現代ではそれを手にするのが難しい。子供が大人の目を離れて自由にふるまう時間はほとんどありません。私たちの世代が当たり前にもっていた「持て余すほどの暇」と「気の合う友達」を今の子供たちはもっていません。

その関係性を用意してくれるのがサマーキャンプなどのツアーです。しかし、現代のサマーキャンプはコンテンツが濃密で、用意された課題をこなしているうちにあっという間に終わってしまう。あとには楽しい思い出だけが残ります。これではなかなか変われません。

私が催行する「リヤカー東海道五十三次」では中学生たちと15日間かかけて東京・日本橋と京都・三条大橋の間の500kmを歩きますが、あるのは「リヤカーを引いて京都(東京)を目指す」という課題だけ。歩き、休み、食べ、眠ることを繰り返すばかりですが、取り組むテーマが単調なだけに、子供たちは次々と新しいアイデアを生み出します。疲れないリヤカーの引き方、退屈を紛らわせる遊び、リフレッシュするための休養日の設定……。単調だからこそ子供たちの創意工夫が入り込む余地があるのかもしれません。

歩くうちに仲間との関係性も変わっていきます。最初のうちは「だれそれが真面目に引いていない。ズルしてる!」なんて声が出ますが、お互いの力量がわかってくると、弱い人を気遣うようになります。不思議なもので、強いメンバーと弱いメンバーの混成チームと弱いメンバーだけのチームでは、弱いメンバーだけで組織したチームのほうが完歩率が高い。メンバーの個々人の力の総量と、チームになったときの出力はイコールではありません。

チームの規模も重要です。あまりに大人数だと、そのなかで気の合う者同士で小さなグループに分かれてしまう。3食のたびに顔を合わせて話合える大きさ、誰も孤立しない大きさであることがよいチームづくりには欠かせません。

「長期間、少人数で短調かつ大きな課題に挑む」。挑戦する力を育むにはこんな条件が必要な気がしています。

STEP 3

成功体験と挑戦体験を贈る

  • 中学生以上は旅の目的を挑戦に据える

子供たちを野外に引率するとき、小学生には成功体験を贈りますが、中学生以上の場合には課題だけを用意します。幼少期の成功体験は次へとチャレンジする力をくれます。しかし、人生は常に成功ばかりではありません。それを理解できる年齢になった中学生には、成功も失敗もありえる課題を用意します。成功そのものではなく、挑戦するなかで試行錯誤をしたことに価値を見出す。失敗を次の挑戦の糧にする。中学生以上なら、ときには噛み砕けないものへ挑戦すると、長い目で見たときにその体験が強い力をもつことがあると感じています。

STEP 4

託す人を選ぶ

  • 良いコミュニティをもつ団体を選ぶ

本稿を書く上でいちばん悩んだのが、子供の預け先について。世にはたくさんのサマーキャンプや学外のスクールがありますが、そのなかから良い指導者を選ぶにはどうしたらいいのでしょうか? ときおり、サマースクール等の学外の受け入れ先で子供が加害されるニュースを聞きます。問題ある催行者がひそんでいることは否定できません。

そのようなスクールを避けるコツのひとつが、過去の参加者のコミュニティの強さを見ることです。同じ主催者が同じテーマでツアーを長年提供している場合、参加者が繰り返しリピートしたり、兄の次に弟が参加したり、かつての参加者が成長してスタッフとして手伝いをする場合があります。これらは参加者がそこでの体験とスタッフを愛していることの表れなので、ひとつの指標になるでしょう。良いツアーの周辺にはOBとその家族のコミュニティができあがるものです。

また、女性スタッフの配置の有無や、ツアー中に起きえるトラブルについて細やかな説明があることも見極めのポイントになるかもしれません。

STEP 5

受け入れ側になる

  • 就寝前のミーティング。1時間に及ぶことも

さて、ここまでは子供を託す側への視点で解説しましたが、受け入れ側の視点でも気づいていることをいくつかお伝えしたいと思います。

まずは安全管理。整っているほどよいかというとそうでもない、というのが正直な感想です。スタッフの数を増やして事故を未然に防げるようになるのはよいのですが、大人の数の多さは子供の精神に強く影響を及ぼします。大人が漂わせる規範のにおいから逸脱できなくなり、大人に頼り、創造性を損なってしまいます。野外活動に長けた少人数の精鋭が、それとなくあらゆる面で目を光らせるのが理想ですが、これもなかなか難しい。子供たちの安全を確保しつつ、自由度を高める……。私も考え続けているテーマです。

子供たちの創造性を保つうえで、ルールをつくりすぎないことも大切です。ルールが多いと子供たちは自分で考えずにそれだけを守るようになります。大きな方向性だけ最初に打ち出して、活動するうちにゆるやかなルールを子供たちが編み出すようになるのが理想です。リヤカー五十三次では就寝前に毎日ミーティングをするのですが、歩き始めてから数日経つと、子供たちが自発的にミーティングを開いて問題解決をはかるようになります。

大人と子供の関係性もチームの空気に影響します。指導者である大人と参加者である子供、という関係性からスタートすると、子供たちは指示を待つようになりがちです。だから私は参加者を子供扱いしません。彼らと対等な旅のメンバーとして、子供たちとの間にある垣根を低くします。もっといえば、数十年歳をとっているだけの対等な参加者のようなつもりになります。こんな態度でいるだけで子供たちの創造性が格段に高まります。

STEP 6

『やった!レポ』に投稿しよう

体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください?

MATOME
まとめ

サマーキャンプに参加した我が子を迎えるとき、親御さんは見違えるようになった、と感嘆しますが、10日程度の自然体験では子供は見違えるほどには成長しません(そんなキャンプがあるなら私も参加したい!)。見た目の変化はきっと、自分に力と知恵が備わっていたことを確認したことによって起きるのでしょう。多くの場合、子供たちには既に力と知恵が備わっています。そして、それを発揮するときを待っている。社会が安全を重んじ、自由時間もないほどに子供たちが忙しくなるなかで、子供たちは自身の本当の力に気づく機会が減ってきました。それに気づくには、親の目を離れ、仲間と大きな課題に挑戦することが必要です。自分の真の力量に気づけたとき、次の課題へ向かう準備が整うではないでしょうか。

GROW CHART
成長スコアチャート
野性4
4知性
2感性
アクティビティ
感じる
環境
山 ・ 川 ・ 森 ・ 街 ・ 海
季節
春 ・ 夏 ・ 秋 ・ 冬
所要時間
1日以上
対象年齢
小学校中学年以上
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