小学5年の夏、初めて行った山陰海岸の海に感動して水中写真の撮影を始める。九州大学で「魚類の繁殖生態」を研究した後、鳥取県庁に入庁。 早期退職後は山陰海岸ジオパークのサポートを行う鳥取県政ジオバイザリースタッフに就任。鳥取名産の松葉ガニに扮した「かにクン」として、鳥取県の海の魅力や水産物の魅力を伝える講演も行う。さかなクンと親交があり、『さかなクンの山陰海岸ギョギョ図鑑』を共著で発行。さかなクンのステージに登場することも。SUPA(全日本スタンドアップパドルボード協会)公認 ベーシックインストラクター。
https://tottoriblue.jimdofree.com/
私が長く通いつめているのが、鳥取県の菜種五島の周辺です。このエリアは地形の変化に富み、深く切り込んだ入江や海蝕洞を探検するようなツーリングを楽しめます。菜種五島を含むこの一帯は地質学的にも価値が高く、ユネスコから「山陰海岸ジオパーク」として認定されてもいます。私はこの海を最初はダイビングで楽しんでいましたが、 10年前に新たな道具としてSUPが加わったことで遊び方が一変しました。水の上を歩くように進むSUPは異次元の自然体験で、それでいてマスクをつけて飛び込めば、海中の風景や生き物を見ることができます。SUPを手に入れたことで、総合的にこの海を楽しめるようになりました。船でも徒歩でもたどれない海岸線を漕ぎ、ときに海中をのぞき、波があれば乗るSUPのツーリングは、日本の海を楽しむのにぴったりの遊びです。
SUP用ボード
1艇
パドル
1本
PFD(ライフジャケット)
1個
リーシュコード
1本
携帯電話
1機
携帯電話用防水ケース
1個
マリンシューズ
1足
飲料水
必要量
SUPはStand Up Paddle Boardingの頭文字を取ったもの。日本語では一般にサップと呼ばれています。その起源は数十年前のハワイ。ビーチボーイズたちがサーフィンにカヌーのパドルを取り込んで遊び始め、それが2000年代に世界中に広まりました。
SUPのいちばんの特徴は大きな浮力と安定感にあります。サーフボードと比べると幅広で浮力が大きいため、バランス感覚が研ぎ澄まされていない人でも、数十分も練習すれば操ることができます。
SUPはその材質で2つに大別できます。ひとつはサーフボードのように硬質のFRPなどでできた「ハードボード」。剛性が高いのでキビキビ操ることができますが、持ち運びがややたいへんです。もうひとつの「インフレータブルボード」は、内部に空気を入れて膨らませるタイプで、収納と移動がしやすい利点があります。波乗りや高速ツーリングをメインに楽しむならハードボード、穏やかな海で小さな波に乗ったり、のんびりツーリングを楽しむならインフレータブルボードを選ぶとよいでしょう。
さらにボードは形状やサイズで4つに大別できます。ひとつは細身で波切りのよいレースタイプ。ふたつめは波乗りを楽しむウェーブタイプ。3つめは汎用性の高いオールラウンドタイプ。4つめはオールラウンドとレースの間くらいの性能のツーリングタイプ。そして、これらのほかにボードの上でヨガを楽しむようなモデルや、釣り用のモデルなどがあります。
総合すると、最初に手にするのは10フィート前後のオールラウンドがおすすめです。岩に当たるような場所で使う場合はインフレータブルを選ぶとよいでしょう。価格はピンキリですが、インフレータブルボードのあまりに安いものは乗ったときの剛性感が低いために操りにくく、加えて接着面からの空気漏れが2、3年で始まることも。ボードを購入するときは自分が使う場所の環境や耐用年数にも着目しましょう。
漕ぎ出すにあたって、ボード以外に必要なのが推進力を生むパドルとボードと体をつなぐリーシュコードとPFD(ライフジャケット)です。リーシュコードは落水の際にボードが体から離れることを防ぎ、PFDは身ひとつになったときでも体に浮力を与えてくれます。リーシュコードとPFDは万が一の事故の際に命を繋いでくれるものですから必ず用意しましょう。
もうひとつ、忘れてはいけないのが携帯電話です。もしもの際に救援を呼ぶのに必要なので、小さな防水バッグに入れて身につけます。加えて、海上で水分補給できるように飲み物を用意しましょう。ボードのデッキには伸縮性のあるバンジーコードが張られているので、そこに挟み込みます。
SUPに乗るときの服装は季節によって異なります。寒い時期や水温が低い時期にはウェットスーツが必要ですが、6~9月は水着とラッシュガードで十分です。ウェアを選ぶときに気をつけたいのが、できるだけ体にフィットした素材で全身を覆うこと。薄手の生地1枚でも身につけるだけでクラゲの刺胞を遮り、岩などに体を擦ったときも軽傷で済みます。日差しの強い季節は帽子も重要です。耳や首を日焼けしないようにツバ広な帽子を用意しましょう。
フットウェアはソールが薄手のマリンシューズが理想的です。足をある程度保護しながら、それでいて素足感覚で乗れるものがボードをコントロールしやすくします。
ボードに立つときは、ボードの中心付近の重心の取りやすい場所に立ち、肩幅か肩幅より若干広い程度に両足を開きます。そして、パドルのグリップを利き手で包み込むように握り、利き手でない方の手でパドルのシャフトを握ります。これが基本の姿勢となります。
そして体をやや前屈させてパドルのブレード(水をかく部分)を水面に突き立てます。SUPのパドルはもともと前側にベンド(シャフトに対して角度をつけること)しているので、パドルを水に押し込みつつブレードに体重をかけるように漕ぐと、水を後方へと押し出してくれます。このとき、パドルはできるだけ垂直にした状態で、ボードの近くを漕ぐように注意します。ボードからパドルが離れるほどボードを回転させる力が働くので、頻繁にパドルを持ち替えて進行方向を修正しなくてはいけなくなります。
ボードが真っ直ぐ進まないときは、反対側にパドルを持ち替えると軌道修正されます。慣れるまではひとかきごとにパドルを持ち替えて修正を繰り返すことになりますが、体が操作に慣れてくると、ステップバックしてボードを立ててターンしたり(回転が容易になります)、ブレードの入れ具合で、パドルを持ち替えなくても真っすぐに進めるようになります。
不安定なボードの上で、パドルは第二の支点となります。ブレードを水に入れればそれだけで安定感は増します。漕いで推進力をつければさらに安定します。パドルで水をつかめるようになれば、そう簡単には落水しなくなります。
漕ぎ方については、文字で読むよりも世にある動画を見た方がわかりやすいので、「SUP 乗り方」などで動画を検索してみてください。
SUPの何よりの魅力はその機動力です。車で移動してダイビングをしていたころ、私は山陰の海を点でしか知りませんでしたが、SUPを手に入れたことで線として海を楽しめるようになりました。長い海岸線のなかには、手漕ぎの小舟でしかアプローチができない小さな浜や洞窟が存在し、なかには地元の漁師も知らない数百m続く海蝕洞が潜んでいることも。
SUPに座って、両手で壁を押しながらでないと通れない洞窟もあれば、長い洞窟の途中にある竪穴からスポットライトのような光が差す洞窟もあります。こんな場所を自分の力で見に行くのはSUPならではの楽しみ方です。
SUPの特徴は数十分もあれば基本的な扱い方を身につけられること。サーフボードで波に乗れるようになるには、それなりのトレーニングが必要ですが、SUPでは初めて乗ったその日のうちに波に乗ることも可能です。
SUPが得意とするのはサーフボードでは乗れない小さな波や割れにくいウネリ。波のタイミングと方向を確認してパドリングして、波が追いつくタイミングで波と同じ速度に達し、波の進行方向を向いていれば波に乗ることができます。
初心者がすぐに挑戦できる反面、SUPはサーフボードよりも機動力と操縦性に劣るので、波の向きとボードの向きを揃えるのはサーフボードよりもシビアです。そのため、サーフィンの経験者には「SUPのほうが波をつかむのが難しい」という人もいます。SUPは波に乗るまでの時間は短いけれど、思うように乗りこなすのは難しい、といえるかもしれません。
SUPで簡単に波乗りを体験したい場合は、ボードに着座して経験者にボードを押してもらうとよいでしょう。波の方向を見定め、波が来た瞬間にぐいと押し出してもらえば簡単に波に乗ることができます。
SUPの何よりの長所は、ほかの乗り物よりも親水性が高いことです。私はよくツーリングにタモや観察ケース、水中マスクや箱メガネを携行します。SUPは水面に近いので、ボードの上に腹ばいになって顔を浸けるだけで水中を簡単に観察できるのです。スノーケリングはスノーケルを上手に扱えない年齢だと楽しめませんが、SUPの上から箱メガネでのぞくような観察方法なら、幼児でも楽しめます。
上手に泳げる年齢であれば、もちろんそのまま海に入ってもOKです。私のツアーでは、リーシュコードをボード先端に付替えスノーケリングでボードを曳航しながら帰ることもあります。こうすれば海藻が森のように茂る場所を泳ぎ抜けたり、大きな魚群を目にしたりすることもできます。
最近は、犬と一緒に「ドッグサップ」を楽しむ人も増えてきました。水遊びが好きな犬種にとって、飼い主と一緒に海の上を漕ぎ進むのは楽しい体験のようです。
海を楽しむものとしては、ゴミを持ち帰れるのも嬉しいポイントです。フラットなデッキと大きな曳航力をもつSUPは、出会ったゴミを持ち帰るときも大活躍します。自分が海に遊びにいくことで、楽しませてくれる海からゴミが減るのは喜ばしいものです。
SUPはほかのマリンスポーツと比べて、遊べるようになるまでの時間が短いので、しばしば不慣れな人が実力以上の海に漕ぎ出して事故を起こしています。
SUPを漕ぎ出す上で、いちばん注意するべきものは風。SUPの最中に起きる事故の多くが、強風による帰還困難です。私は入門者と一緒のとき、出艇するかどうかの目安を風速3m/秒を下回るかどうかで決めています(例外として、風を防げる場所で、風速4~5m/秒のときに海に出ることはあります)。
現代の風の予測はかなり正確です。数時間先の予報はほとんどはずれません。海に出るときは出艇時の風速と、浜に戻る時間までの風速を必ず確認しておきましょう。海の風は正午以降に強まる傾向があるので、午前中や夕方は海が比較的穏やかになることは覚えておいてもよいかもしれません。
風と比べて予想しにくい気象に雷があります。近年は雷が急速に発達することがあるので、海に出る前は雷予測をチェックし、海に出てからも黒い雲の出現や冷たい風などの雷の前兆と雷鳴に注意しましょう。
私のメインのフィールドは干満の差が小さい日本海なので、潮まわりはそれほど気にしませんが、干満差の大きい太平洋側や大きな湾の湾口、発達した珊瑚礁を漕ぐときは潮の干満に注意が必要です。とくに干満の差が大きくなる大潮の前後では、干潮・満潮のタイミングやそれが引き起こす潮流に気を配りましょう。エントリーするときは潮が上がったとき、下がったときに上陸できる場所があるかどうかを必ず確認しておきましょう。
万が一、事故に遭った場合は、携帯電話で118番へ通報を。海の事故は海上保安庁が担当しています。
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体験したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
私がSUPに乗り始めたのは52歳のとき。本格的にSUPに熱中したら、一年で11kgも痩せ、周囲からは大病したのではないかと驚かれました。それほどまでにSUPは体幹と全身を鍛えてくれるのです。私のほかにも壮年期にSUPに出会い、別人のように健康になった人が幾人かいます。楽しいから無理なく運動を続けられるのもSUPの特徴かもしれません。SUPに出会う前、私はスクーバダイビングを長く楽しんできましたが、ついに今年はその機材を手放し始めました。SUPとスノーケリングを組み合わせれば、十二分に海を楽しめるし、生き物も観察できると気づいたからです。板一枚だけれど、できることは無限大。どうやらSUPには、物質面と精神面の両方で、人を身軽にする効果があるようです。