2024.12.301510 views

あの手この手で冬を越える!虫たちの冬越しを見てみよう

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尾園 暁

昆虫写真家
冬の野山にひそむ虫たちを探す

木々が葉を落とし、生命感も薄い冬。暖かい季節には虫たちで賑わった野山も、動くものは少なく静まりかえっています。しかし、冬枯れの風景のなかでも虫たちはちゃんと命を繋いでいます。冬の野山に出かけて、この季節だからこそ目にできる虫たちの営みをのぞいてみましょう。

READY
準備するもの
  • 暖かい服装

    一式

  • カメラ

    1台

STEP 1

冬でも活動する虫を探す

  • 陽だまりにひそむツチイナゴ
  • 訪花するセイヨウミツバチ
  • シマアメンボは冬でも活動する

関東以南の太平洋岸は冬でも雪が積もることは稀。私のメインのフィールドである湘南も冬は晴天が続きます。こんなエリアでは、冬も活動する虫に出会えます。風の穏やかな晴れた日には、陽だまりに出かけてみましょう。南向きの林縁の落ち葉だまりや、林縁の土手を支える擁壁の周囲は気温が高くなるため、冬の間も活動する虫たちに出会えます。

陽だまりの枯れ葉を踏んだときに逃げる茶色いバッタがいれば、それはおそらくツチイナゴ。成虫で冬を越す彼らは、暖かい日は驚かされると動きます。冬に咲いている花があれば、その前で少し待ってみましょう。気温が高い晴れた日なら、ミツバチが蜜を吸いにくるかもしれません。ミツバチは冬の間も巣のなかで体温を保ち続け、暖かい日には蜜や水を集めに外へ出ます。

雑木林のなかに緩やかに流れる細流があれば、目をこらしてみましょう。スッと水面を滑る虫はシマアメンボ。ほかのアメンボ類は、冬は枯れ草などに潜り込んで越冬しますが、シマアメンボは冬でも活動しています。

STEP 2

冬だから活動する虫を探す

  • 交尾するウスバフユシャク
  • チャバネフユエダシャクのメス

冬「も」活動する虫とは別に、冬「だから」活動する虫もいます。冬の夜の雑木林を飛び交うのは、「フユシャク」というガの仲間。12月の上旬くらいに成虫の発生が始まり、3月くらいまでいろんな種がバトンタッチしながらかわるがわる現れます。冬はガの天敵のコウモリ類が越冬しており、夜は虫を食べる冬鳥たちも寝ているので自由に飛び回れるのかもしれません(※フユシャクには昼行性の種もあります)。自由に飛べるといっても、飛ぶのはオスだけ。メスは翅が退化しておりフェロモンでオスに見つけてもらいます。オスの姿を見かけたら、周囲の木の幹や擬木、ロープなどを探してみましょう。翅のないメスが見つかるかもしれません。

STEP 3

朽ち木をのぞく

  • 蛹室で夏を待つコクワガタの成虫
  • コクワガタの幼虫
  • コガタスズメバチの女王

冬を越す昆虫に人気のポイントのひとつが、朽ち木。朽ち木を食べる虫がそのままなかで越冬しているのに加え、安定したシェルターとして朽ち木を使う虫もいます。朽ち木を食べる種の代表がクワガタの仲間。クワガタの仲間は数年を幼虫ですごし、羽化してからも翌年の夏まで朽ち木のなかですごすこともあるため、冬でも幼虫と成虫の両方がみつかります。幼虫に出会ったら、腹部を見てみましょう。春から夏にかけては腹部には食べた朽ち木のかけらが透けて見えますが、冬は透明な液に満たされています。これの正体はグリセリンなど。グリセリンは水と結びつき、体液の凍結を防いでいます。こんな不凍液のおかげで水が凍る温度でも虫は組織を壊さずに済むそうです。

越冬場所に朽ち木を使う虫で、よく目につくのがスズメバチの仲間。スズメバチの女王は秋に交尾をして、女王だけが朽ち木のなかで冬を越して翌年の春から巣づくりを始めます。

POINT

朽ち木はさまざまな虫の発生源なのでむやみに壊さないようにしましょう。観察した後は断面をきれいに合わせて戻すなどして越冬する虫や朽ち木を利用する虫への影響を最小にとどめましょう。

STEP 4

発生場所の近くを探す

  • イボタに産まれたウラゴマダラシジミの卵
  • アオスジアゲハの蛹
  • 枯れ枝で越冬するホソミイトトンボ

見てみたい虫が決まっていれば、食草やその近く、あるいはその虫が好む環境を探すと目当ての虫に出会えるかもしれません。チョウやガなどは、食草を丹念に見ると卵や幼虫、蛹(さなぎ)がみつかります。チョウやガの仲間の冬越しはさまざまで、卵、幼虫、蛹、成虫のステージのどれで冬を越すかは種によって異なります。

ウラゴマダラシジミの食草はイボタノキの仲間。卵の姿で冬を越し、春に新芽を食べて大きくなり、初夏には成虫になって夏のうちに交尾・産卵します。実に半年以上を卵の状態ですごすわけです。

蛹で冬をすごすチョウとしては、アゲハチョウの仲間が観察しやすいかもしれません。種類ごとに食草は異なりますが、常緑樹のクスノキを探してみるとアオスジアゲハの蛹がみつかるでしょう。アゲハの仲間は蛹になる前に活発に移動するため、食草から少し離れた場所でみつかることもよくあります。断定はできませんが、私の経験では、食草で蛹になるものは寄生蜂に寄生されていることが多く、食草から離れた場所で蛹になるもののほうが羽化の成功率が高いように思います。蛹をみつけたら、ぜひ継続的に観察してみてください。

トンボの仲間には、成虫で冬を越すものがいます。成虫越冬するホソミイトトンボを探すとき、私は彼らが好む湿地帯の近くにある藪を探します……といっても、いきなり冬に探すわけではありません。活発に活動している時期から観察を続けて、よくいた場所の周囲を冬に探すのです。暖かい時期に虫を見たことがあれば、みかけた場所の周囲を探してみてください。冬もその場所の近くにいるかもしれません。

STEP 5

冬越しする虫の擬態を楽しむ

  • カエデに化けるミスジチョウ
  • 食草のササの裏にとまるナミヒカゲ
  • ゴマダラチョウはエノキの落ち葉の裏で越冬
  • クワの枝になりきるクワエダシャク

幼虫で冬を越すチョウやガの仲間には、食草そっくりに擬態して冬を越すものがいます。青い葉に似せたもの、枯れ葉に似せたもの、小枝に似せたもの……。どれもそっくりに似せていますが、ときにはその技術でみつかってしまうことも。カエデの仲間を食べるミスジチョウは枯れ葉そっくりに擬態するのですが、葉が落ちる前に自分が休む葉の根元を糸で補強します。そのため、ほかの葉がみんな落ちてしまったころに残っている葉を探せばミスジチョウに会えるわけです。こんなふうに、食草や休み方を知ると探す場所の見当をつけられるようになります。

STEP 6

集団越冬を観察する

  • ムラサキツバメの集団越冬
  • 木の皮の裏にいたナミテントウの集団
  • 葉裏で休むキイロヒラタヒメバチ
  • 樹皮の下にいたエサキモンキツノカメムシ

虫のなかには1ヶ所に集まって集団で越冬するものがいます。近年生息地が北上している南方系のチョウのムラサキツバメは、常緑樹の葉に集まって冬を越します。遠くから見ると、枯れ葉がひっかかっているようにしか見えません。ナミテントウは浮き上がった樹皮の裏などに集合して越冬します。おそらく彼らは好む環境が決まっており、好みの環境に飛んでいくとほかの個体のにおいがするので、それをたよりに1ヶ所に集まるのだと思います。

不思議なのはキイロヒラタヒメバチ。この種も常緑樹の葉裏に集まるのですが、ある木にはたくさんついているのに、隣にある同じ種類の木には全くいない。しかも、この種類の常緑樹でなくてはダメ、ということもないようなのです。常緑樹ならどんな種の木でもあまり気にしないのに、とまるときは同じ木に集まる。不思議です。不思議といえば、エサキモンキツノカメムシも不思議です。この虫はスギやヒノキなどの浮き上がった樹皮の下で越冬しますが、みかけるときはいつも2匹。1匹でも集団でもなく2匹で越冬していることが多い。どんな理由があるのでしょうか。

MATOME
まとめ

秋までの蓄えで冬を越すもの、冬だからこそ現れるもの、冬も活動を続けるもの……。虫の冬越しといってもそのスタイルはさまざまです。あの手この手で冬を越す虫たちに出会うコツは、あちこち歩き回らずにひとつの場所でじっと観察すること。見る側も動きを遅くして、冬枯れの風景を丁寧に目で追えば、葉の裏や枝の陰にひそむ虫たちが目につくようになります。

GROW CHART
成長スコアチャート
野性3
4知性
5感性
アクティビティ
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環境
山 ・ 森 ・ 公園
季節
所要時間
1時間~3時間
対象年齢
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