1983年山梨県生まれ。武蔵野美術大学の彫刻学科で木彫制作にとりくんだ後、2011年に「学校園」に関する教育史研究で学位を取得(造形博士)。現在は武蔵野美術大学などで非常勤講師。自然をめぐる教育をテーマに、日本教育史、美術教育、造形ワークショップなどの分野で研究を進行中。最近の趣味はヨガとマウンテンバイクとウイスキー。
単著に『近代日本における学校園の成立と展開』風間書房、2015年。共著に高橋陽一編『造形ワークショップ入門』武蔵野美術大学出版局、2015年。
学校にはたくさんの草花や樹木があります。簡単に思い浮かぶのは、観察実験のために育てた朝顔や、卒業の時に植えた記念樹などでしょうか。
教材としての自然物が、日本の小学校に積極的に設けられるようになったのは明治後期からです。観察研究に用いたり、美的観念を養ったり、作業の習慣を身につけさせたり。学習環境を整えるために遮光や空気清浄の目的で設けることもありました。今の学校には、その時々の教育目的に応じた様々な自然物が生き残っています。
一方で、こうして人々が決めた教育上の目的とは関係なく、勝手に育ってしまった雑草や、コケ、昆虫などももちろん存在しています。
このHow toでは、学校のなかの「自然」をみつけるヒントを紹介し、子どもたちそれぞれの感性で、自然に対する興味を広げるきっかけを与えます。
※学校のなかの樹木、草花、動物は、破損したり、持ち帰ったりしないように注意してください。
学校によっては事前、もしくは当日の申し込みが必要な場合があります。入構可能な時間帯も確認しておくとよいでしょう。また、当日身分証明書の提示が求められる場合は速やかに対応しましょう。訪問時は学校内であることを配慮し、学習者の妨げをしないこと、個人情報や著作権の扱い、器物破損などには十分に注意しましょう。
理科の観察や実験の教材として、植物が育てられているプランターがあります。栽培をすることで植物の成長過程を、実際に学ぶためのものです。樹木に名札の付いているものは、子どもたちが木の名前を覚えるのに効果的です。
過去をさかのぼると、日本の近代教育が始まって以来、学習効果をあげるための自然物として注目され始めたのは、明治後期の「学校園」という施設です。当時の理科教育や農業教育の発展などのために、それまでにあった花壇や植物園などを総称して、積極的に整備することが推奨されました。明確に教育の目的をもった自然物には、なんのための植物かよくわかるように、名札や説明文などがついているのが特長です。
生き物もさがしてみましょう。飼育によって動物愛護の習慣を身につけたり、小屋、池などを設けて動物の習性などを学習することがあります。過去にはウサギや鶏を飼育するところが多くみられましたが、現在では生態系が生息できる空間として「学校ビオトープ」を整備する学校もあります。これは、現在の地球環境問題への関心の高まりをうけて、1990年代ころから登場したものです。動植物が自生できる空間を目指し、完全に人の手で管理されないように、手入れのバランスが配慮されている点に注目してみましょう。
観賞用の草花が植えられた花壇、剪定された樹木。自然物には学校を装飾する効果もあります。都市部で土地がない場合、屋上庭園などを設けることも珍しくなく、過去には大正期の関東大震災後の復興小学校などでもこうした例がみられました。近年は、緑化や遮光などのために壁面にツタ類を施すものも多くなりました。
また綺麗に磨かれた石、細かくたくさん敷き詰められた丸石などが、規則的に配置されたような空間もあるはずです。先ほど紹介した明治後期の「学校園」は、日露戦争の勝利を記念する事業としても盛んに設けられ、なかには築山などを含めた日本庭園風の設備もありました。洋風の庭園を取り入れた例も多くあります。いまでも思わぬところに大きな石が配置されていたりしますが、何かの意匠の名残かもしれません。
樹木にも目をむけてみましょう。遮光や防風のため、景観のため、記念樹として。学校に樹木を整備する目的は様々ですが、学校になる前からただただ存在してきたような大木もよくあります。大学などの一部の高等教育機関では、その前身が武家屋敷、工場、寺院などの施設であったことも多く、そうした過去の歴史も古くからの木々には刻み込まれています。幹の太い木は、それだけ年輪を重ねており、その学校で過ごした数多くの子どもたちの記憶をとどめていることでしょう。どの学校にも必ずと言っていいほど存在している樹木ですが、あえて立ち止まってみつめるようなことはあまりないないはずです。木々に直接触れて、その記憶に思いを馳せてみましょう。
他の人が気づかないあなただけの「自然」がみつかったら、それを記録しましょう。上手に描いたり、綺麗に撮影したりする必要はありません。自分が気になる部分を抜き出して、その要素だけを記録してみましょう。葉っぱや、枝の輪郭のみを抜き出して線だけで表現したり、色のみを抜き出してみたり。近づかなければ見えないようなものは、カメラの接写機能を使うのもオススメです。また感じたことなどを簡単に文章でメモしておくとよいでしょう。
こうした自分にとっての自然の見方ができてくると、他の人がどう見ているのかが気になってくるはずです。他の人と見せ合ってみると、理科の授業や栽培活動などで教わったことのない、様々な自然の見え方があることに気づくでしょう。子どもであればあるほど、先生が教えてくれない自然をみつけるのが得意なはずです。
(参考)藤井久子著、秋山弘之監修『コケはともだち』リトル・モア、2011年。
※撮影にあたっては、顔、名前、住所などの個人情報が特定できるものの撮影は控えましょう。
学校のなかの多様な自然の姿に気が付きましたか。自然に接する機会が減少している今、学校は子どもたちにとって、身近に自然体験ができる貴重な場所のひとつです。先生に教えられたとおりのものを見て、学校教育の目的を達成するためだけに学校を使うだけではもったいないと思いませんか。学校のなかの多様な自然は、子どもがそれぞれの感性で、自然に興味をもったり、大切に思ったりする対象を広げていく、恰好の環境なのです。
また、大人の目線で考えると、学校の自然には、自然や自然物から何を学び、どのように接するべきかという考え方の変遷を読み取ることができます。学校園やその歴史との対比から学校の自然を眺めてみると、現代の自然観のようなものを感じ取ることができることでしょう。