1954年千葉県船橋市生まれ。早稲田大学卒。1998年よりピンホールカメラで作品を制作し、国内国外の写真展やメディアで発表している。
著作「流れる時間と遊ぶ光」(ヴィッセン出版) 林敏弘のピンホールフォトギャラリー:http://www.toshi-photo.com/Jpwelcome.html
皆さんはピンホールカメラ(針穴カメラ)を知っていますか?簡単に言うとカメラに必ず付いている「レンズ」が無いカメラのこと。レンズが無いのにどうして写るかって?代わりにとても小さい穴を使います。そしてその穴のおかげでちゃんと写真が撮れるのです。
カメラ付きスマホの普及もあって、最近は誰でも簡単に写真を撮りますね。SNSにアップする人も多いです。
では、なんで今どき「ピンホールカメラ」なのでしょう?それはレンズのカメラでは撮れない「光の柔らかさ」や「ゆったりと流れる時間」が、ピンホールカメラで撮った「ピンホール写真」では表現できるからです。アプリで加工する必要もありません。
これまでのピンホールカメラは箱や缶などを利用して作り、印画紙やフィルムで写す方法が一般的でした。印画紙を利用する場合は暗室も必要ですし、現像の薬品も使わねばならず、ちょっと試すにはかなりハードルが高かったのです。でも近年デジタルカメラが進歩して、簡単にデジタルのピンホールカメラを作って撮ることができるようになりました。ぜひ皆さんも挑戦してください。そして、その魅力を存分に味わいましょう。
【ピンホールプレート製作用】
薄手のアルミ板(缶ビールの側面でも良い)
細めの縫い針(例:きぬくけ針)
消しゴム付きの鉛筆(ドリルの柄にする)
サンドペーパー(細かいもの)
ニッパーとラジオペンチ
はさみ
ルーペと定規
新聞紙など台紙になるもの
【カメラ本体へ装着用】
デジタル一眼レフカメラの本体
ボディーキャップ(純正品でなくてOK)
ドリルとドリルの刃(約5~10ミリ径)
丸棒ヤスリ
黒パーマセルテープ
※なければ無光沢の黒い粘着テープ
角形UVシートフィルター(あれば)
はじめに、ピンホール(針穴)とは、文字通り針先で開けるほどの小さい穴のことです。その大きさは穴と像を結ぶ感光体(フィルム・印画紙やデジタルなら撮像素子)との距離により違いますが、一般的に0.2ミリから0.5ミリくらいの直径の穴を良く使います。スマホも含めてカメラにレンズは付きものですが、ピンホールカメラにはそのレンズがありません。小さい穴がレンズの代わりになるのです。穴、つまりそこに空間があるだけ。では、どうしてそんな穴で写真を撮れるのでしょうか?
図1を見てください。木の葉や枝に当った光はいろいろな方向に反射されます。しかしピンホール(針穴)を置くと、箱の内側にはその穴を通ることができた、ひとつの方向の光しか通れません。ある枝から反射された光は、箱の奥に置いた感光体の上のある一点にしか届きません。つまり、木の様々な部分の点から反射された光は、ピンホールという「光のふるい」にかけられることによって、感光体上に届く場所がそれぞれ対応して決まります。 全体で見ると180度反転された、倒立した木の像が感光体上に作られることになります。これは、レンズで像を作る場合と違う仕組みです。
一方レンズの場合を考えてみましょう。簡単にするためレンズは凸レンズ1つで考えます。(図2)光はガラスを通過するとき、入る角度によってある決まった方向に曲げられます。これを屈折といいます。レンズはその独特の形のため、レンズに光が入った位置により、曲げられる方向がそれぞれ決まった角度に変り、レンズの反対側のある一点に集中する性質があります。この点を焦点といい、光が集中することを、焦点を結ぶと言います。ある木の一点から反射された光はレンズ表面のあらゆる場所に届きますが、屈折により裏側の一点に集中して焦点を結びます。木の他の様々な部分から反射された光も同様にレンズで屈折されますが、それぞれフィルム上には対応した別々の場所に焦点を結びます。全体で見ると、図1と同じように180度逆向きになった画像がフィルム上に作られます。
<レンズとピンホールの違い>
大きな違いのひとつ目は、レンズはレンズ全体に当った反射光が一点に集中されるので大変強い光が感光体上の一点に届きますが、ピンホールでは穴を通った一本の光だけが対応した一点に届くので光がとても弱いことです。同じ感度の感光体なら、レンズの方が画像をつくるために必要な光の量をはるか短時間で与えることができます。反対にピンホールでは長い時間弱い光を当て続けねばなりません。この性質で時の流れを写真に表現できるのです。
ふたつ目は、レンズは焦点を結びますが、ピンホールには焦点が無いことです。レンズでは、焦点があった距離の撮影物(被写体)より遠かったり近かったりする物は焦点が外れボケます。ピンホールの場合は被写体が近かろうが遠かろうが、ボケずに同じように写ります。つまり、目の前の花から遠くに風景まで同じように撮れるのです。
ピンホールは、距離によらずボケずに画像ができますが、構造上どうしてもレンズのような鮮明な画像はできません。ピンホールの穴自体に大きさがあるからです。これが3つ目の違いです。だからピンホール特有の柔らかい優しい写真が撮れるのです。
では、デジタル・ピンホールカメラの工作をはじめましょう。
はじめにプレートと針ドリルを準備します。プレートは3,4cm角ほどの薄手のアルミ板(厚さは0.1mmほど)が使いやすいです。今回は手に入りやすい缶ビール側面のアルミを使いましょう。ハサミで3,4cm角ほどにカットし、両面の塗装をサンドペーパーで落としましょう。(写真1)
つぎに、プレートに穴を開ける針ドリルを作ります。糸穴を取るため、縫い針のお尻1cmくらいをニッパーでカットします。針の先端部はペンチでしっかり挟みましょう。針が飛ぶと危ないので空き缶の中などで慎重に行ってください。鉛筆の消しゴム部分の中心に、カットした針先端部のお尻をまっすぐにしっかりと刺します。この針ドリルは、針単独でピンホールを開けるよりうまく力が加減できます。(写真2)
いよいよ穴開けです。重ねた新聞紙などの台紙にプレートを置きます。針の先端をプレートの中心に、垂直に慎重にゆっくり突き刺します。鉛筆自体を回しあまり力は入れずに徐々に刺していきましょう。(写真3)
全体を持ち上げドリルしながらプレートの反対側から針の先端が少し出たところで止めます。直径0.3mmなら約1mm針が出る程度が目安です。全部通してしまうと0.4mm以上の穴になり大きすぎてしまいます。(写真4)
針を回しながら抜き、目の細かいサンドペーパーで穴の両面を優しくこすり、バリをとります。再度針を入れゆっくり回して穴を完成させます。
ピンホールの下にスケールを置いて、ルーペで覗き、だいたいの直径の大きさ、正円に近いか、バリがないかを確認します。バリがあれば、サンドペーパーでの作業を繰り返します。正確な数値より、穴の綺麗さ、バリの有無の方が直接画質に影響します。多少の直径の誤差は露出の時間増減でカバーできます。いくつか作ってみると慣れてきれいな針穴ができるようになりますよ。(写真5)
ピンホールと撮像素子の間が3cmの場合、穴の直径は0.2mmくらいが適していますが、多少大きくても問題ありません。
※注意:針やカッター、ハサミなどで工作しますので、小学生の皆さんは必ずご両親などの保護者の方と一緒に作業してください。
カメラのボディーキャップ(レンズを外したときに本体を保護するキャップ)を用意します。今お使いのボディーキャップとは別に新たに買うことをオススメします。カメラメーカーの純正品でなくても構いません。
ボディーキャップに穴を開けます。中心に(正確でなくてもOK)、ドリルで5~10mm程度の穴を開けます。バリは丸棒ヤスリなどで取って下さい。(写真1)
穴を開けたボディーキャップの裏側に、STEP2で作ったピンホールプレートを貼ります。テープは「黒パーマセルテープ」がベストです。写真用品店で入手できますが、無い場合は無光沢の粘着テープか白いテープで貼って、上から黒く塗ってください。光沢があるとカメラ内でピンホールから来た光が反射して画質に影響してしまうので、光沢が無いことが肝心です。
ピンホールプレートを貼ったボディーキャップをカメラ本体にセットします。これで撮影準備完了です。(写真2、3)
・ミラーレス、ミラー付に関わらず、レンズを外せる一眼レフカメラの本体は全てピンホールカメラ用に使えるはずです。広角にしたい場合はミラーレスが有利です。ただデジタルカメラ本体とピンホールには相性があるようです。相性が悪いとノイズや変な色ムラが出たりしますが、これはカメラメーカーの責任ではありません。カメラはレンズ用に設計されていますから当然ですね。
・デジタルカメラの最大の弱点はほこりやチリです。撮像素子にこれらがつくと、画像に丸い黒点やノイズが沢山できてしまいます。ピンホールはただの穴なので、小さくてもホコリやチリが入ってしまいます。そこで私はピンホールプレートに、UV(紫外線カット)の角型シートフィルターを小さく切って重ねて貼っています。完全に防げるわけではありませんがかなりな効果はあります。(写真4)
※注意:このステップもドリルなどで工作するので、小学生の皆さんは必ずご両親などの保護者の方と一緒に作業してください。
いかがでしたか?今までにピンホールカメラを知っていた方でも、随分イメージが変わったのではないでしょうか。デジタル・ピンホールカメラは、見慣れた風景でも新たな発見や気づかなかった魅力を引き出してくれる道具となるでしょう。
ピンホールカメラは光の絵筆です。デジタルの強みを生かし、さまざまな環境でいくらでも撮ることができます。ぜひご自身の感性を生かした、素敵なピンホール写真をたくさん撮ってください。そして楽しんでくださいね。
●参考サイト:林敏弘のピンホールフォトギャラリーhttp://www.toshiphoto.com/Jpwelcome.html
●参考図書:流れる時間と遊ぶ光(林敏弘著/ヴィッセン出版)