大学では農学部で食品の研究を行い、卒業後は大手コーヒー焙煎会社に就職。東日本大震災を機に、食を探求しその楽しさを発信するために転職し、大規模貸し農園事業を展開。現在はあらゆる自然遊びをサイエンスの視点から語るライターとして活動。狩猟も得意で銃砲店のスタッフとしても活動している。
twitterアカウントは@Yuu_Miyahara
WILD MIND GO!GO!アンバサダー
最近、縄文文化が注目を浴びています。縄文、というとまず思い浮かべるのはなんといっても縄文土器ではないでしょうか。有名な火焔型土器(かえんがたどき)のようなものから、煮炊きに使用する器まで、縄文の遺跡からは必ずといっていいほど土器が出土しています。縄文土器は、移動しながらの採集・狩猟生活が定住型の生活に変わったことで生まれ、発達したと言われています。
土器は、現代でもレンガや植木鉢などに使われている原始的な技術です。自然から採取する粘土を焼いた=素焼きしたもので、焼成することで化学変化を起こし硬化します。
原始の魅力たっぷりの土器、現代でも自然の中のものを使って自分で作ることができます。縄文の暮らしを想像しながら、土器の基礎技術となる素焼きにチャレンジしてみましょう。
※注意事項
・焚き火をする際はやけどなどに十分注意してください
・子供は必ず大人と一緒に作業しましょう
<土器の材料>
粘土(適量)
山砂(粘土の10~20%ほど)
水(適量)
<道具>
計り
ビニール袋
枝や葉っぱ
焚き火台
薪
防火手袋
火バサミ
タオル
土器の材料になるのは粘土と山砂です。
その粘土は土の一種です。そもそも土ってなんでしょう?地球が地殻変動などで生み出した陸上の岩石は、風化とともに微生物や植物に分解されます。植物やその他多くの動物の死骸、つまり有機物と混ざり地上に堆積したものが土です。
土のうち、岩石が風化してできた微粒子が自然の水によって化学的変化を起こし、ケイ酸やアルミニウム、カリウムなどを中心に分離されてできたものが粘土です。
野菜を育てる畑の土には、植物の栄養の素となる未分解の有機物(肥料)が多く含まれ、粒の大きい団粒構造でふっくらと空気を含んでいます。一方、粘土は有機物をほとんど含まず、色は白や赤みがかっています。粒子が細かく、水を含むと粘りを持ちます。雨水などによって分離されるので、湿気の多いところに堆積しやすくなります。
身近な環境にある様々な土を採集して、よく見比べてみましょう。土の中に含まれる成分によって、色や粒子の大きさ、感触などが様々な土が集まるでしょう。
土のことを知ったところで、土器作りに取りかかりましょう。
本当に良い素焼きの土器を作るには、土選びが肝心で粘土質の高い土が使われます。そんな良質の粘土は大昔の人たちも先祖代々苦労して見つけてきたもので、残念ながらそう簡単に見つかるものではありません。
そこでまずは粘土っぽいと思う土を見つけてきましょう。一番良いのは断層に露出している粘土層から採取することです。難しければ、身近なところでも粘土質の高い土は採取できます。池や田んぼの土は、土の成分が水と反応することで粘土が生まれ堆積したものです。断層から採取したものに比べると純度が低く、焼いても硬度が出ない場合も多いですが、それでも土の変化を十分に感じられるでしょう。
素焼きは粘土があれば作れますが、そのまま使うと乾燥とともに収縮し、ひび割れが発生しやすくなります。そこで粒子の細かい砂を混ぜ収縮をおさえましょう。砂は山砂と言われる、山の断層から取れる砂が適しています。山砂は岩盤(花崗岩)が風化したもので、粘土になる前の粒子です。ホームセンターなどでも売っています。この砂も目の細かい川砂などで代用できないことはありません。ふるいを使って細かい粒子に分けてから使いましょう。
*田畑にはその土地の所有者がいます。所有者に許可をもらって分けてもらいましょう。
*山や河川も採集が禁止されていることがあります。まずは採集可能か確認しましょう。
縄文時代は、それぞれの村や集団でお気に入りの粘土があったようで、粘土の採掘穴が発見されることもあるほどです。つまり、地面の断層から粘土を削り取っていたのですね。今でも里山の林道や宅地開発されている丘陵地を歩いていると、斜面を大きく切り崩した断層に粘土層が見えることがあります。川岸で見かけることもあります。湿り気を帯びてツヤツヤしていて、赤色や灰色の土は粘土質の高い土です。
採集した粘土に付いているゴミを大まかに取り除きましょう。粘土質の土に山砂をまず1割ほど加えて均一になるようによく練ります。山砂を加えすぎると接着力が弱くなります。山砂の量は粘土の純度によって変わるので、様子を見ながら加えていきましょう。
よく混ざったら、少しずつ水を加えます。市販のおもちゃ用粘土より少し柔らかい程度の硬さにします。水分が多過ぎると乾燥時に割れてしまうので注意しましょう。
この土器作りの土を「素地土(きじつち)」と言います。素地土はただやみくもに練るのではなく、土同士を擦り合わせ、空気を抜くイメージで練るのがコツです。
素地土はそのままでも使えますが、ビニール袋に入れて口を縛り1週間ほど寝かせることで、中の成分がこなれて接着力が上がります。
採集した粘土質の土を乾燥させてからふるいにかけ、砂利や不純物を取り除くと、質の高い素地土を作ることができます。
素地土の質次第ですぐに割れてしまうこともあるので、色々な土で試してみることをおすすめします。
いよいよ土器作りです。寝かせた素地土を成形していきます。最初は5~10cmくらいの簡単な土器から作ってみましょう。今回は葉っぱの形の土器を作ってみました。模様は枝などを利用して付けます。葉っぱなど自然物を使って型取りするのも面白いですよ。
成形後に日陰で1週間ほど陰干しをすると土器の割れを防げます。また、土器に厚みがあると割れやすくなるので注意しましょう。
いよいよ焼成です。まず焚き火台に火をつけます。熱が出やすい針葉樹の木片を入れて炎が上がるようにします。
成形した土器を焚き火台の近くに置いて、30分~1時間ほどかけて熱で水分を抜いていきます。まんべんなく熱が伝わるよう、土器の向きは時々変えましょう。この作業で土器の中に残っていた水分が抜けていきます。熱源に近づけ過ぎると土器が割れてしまうので注意しましょう。
土器が温まってきたら、焚き火台に広葉樹の薪を足してたっぷりと熾火を作ります。炎が落ちて熾火になったら、焚き火台の中にそっと土器を入れます。しばらく熱を加えると表面が黒ずんできます。全体の色が濃くなったら、今度は土器を囲むように新たに薪を重ねます。炎が上がって薪が燃えてくると土器は明るい赤色に変わります。全体が赤く色づいてきたら薪をくべるのをやめましょう。
熾火になって土器が見えてきたら取り出します。土器はとても高温になっているので、防火手袋や火バサミを使って取り出し常温で冷まします。絶対に手で触らないようにしてください。土器は赤色に変化し、叩くとカンカンと高い音がします。土器が冷めたら、速やかに表面の灰を水で流します。乾燥させたらMY土器の完成です!
*焚き火はまわりに燃え移らないよう十分注意し、水を用意して行ってください。
*火の粉が飛び散ることもあるので、溶けやすい素材の衣服は絶対に避けましょう。
素地土は600℃ほどの高温が加わることで、中の鉱物が結合して硬くなります。現代の陶器はさらに高い温度1000℃以上で焼かれています。
MY土器を作ったらぜひ「やった!レポ」に投稿しませんか?質問や感想はコメントに記入してください。
人は炎と土器を手にしたことで、今まで食べることができなかった食物を調理して食べることを実現させました。
土器は、同時期に使われていた道具や石器とは違って、人類が初めて物質の化学的変化を利用した道具です。それは1万6千年も前から脈々と受け継がれ、現代でも利用されています。
私たちの生活にかけがえのない土。土器作りを通して、すべての自然の基礎となる土の大切さを皆さんに知ってもらえたら嬉しいです。
これからの外遊びはぜひ、野山の土にも注目してみてくださいね。