1964年長野県生まれ。NHKカメラマン。北海道大学理学部卒業。北海道大学山岳部に在籍していた時から約30年に渡ってイグルー作りとイグルー泊に取り組み、近年はイグルー普及の講習会も行っている。2016年に著書『冒険登山のすすめ』(ちくまプリマ―新書)を刊行。
https://www.amazon.co.jp/dp/4480689656
最近の登山用品は美しく、機能も充実した道具が多いですね。それらはとても便利なのですが、ひとつだけ致命的な欠陥があります。それは、「便利なものを使い始めると、それまで当たり前にできていたことができなくなってしまう」ということ。
私の山登りの流儀は、なるべく人が作ってくれた便利な道具やしくみ(登山道や山小屋も含めて)からFREE(自由 / 助けなし)になり、天然の山を天然の方法で登ることを求めます。そういう方法が、奥が深くておもしろかったので、結果的に山登りに飽きず長続きした理由かもしれません。こうした山登りを「天然山行」と呼んでいます。
そして、その「FREE 四本柱」となるのがこの4つ。
1、テントフリー(イグルー)
2、ストーブフリー(焚き火)
3、登山靴フリー(地下足袋)
4、GPSフリー(地図とコンパス)
便利な道具の助けなしに、簡単な道具だけで自然の中で活動することは、本来人が持っていた生きる術がよみがえり、一生モノの自信になります。
このHow toでは、FREE 四本柱のなかでも「3、登山靴フリー(地下足袋)」の楽しみ方を紹介します。歩くって基本だけど、ほんとにちゃんと歩けますか?硬く丈夫な「殻」に守られた登山靴ではなく、より素足に近い地下足袋で、天然山行を味わってみませんか?
その他のFREE 四本柱に関連するHow toは、下記でも紹介しています。
1、テントフリー(イグルー)
イヌイットのように雪でイグルーを作ろう
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/180
2、ストーブフリー(焚き火)
ナイフ1本で火起こし! きりもみ式発火に挑戦
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/57
4、GPSフリー(地図とコンパス)
地図を読む、そしてその先へ
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/195
地下足袋
テーピングテープ(怪我や故障を応急で手当します)
山に必要な服装・装備(雨具と非常用防寒具)
地形図+コンパス
水筒
おにぎり
おやつ
皆さんは、地下足袋を履いたことがありますか?
私は、雪のない季節なら、山登りをするときにいつも地下足袋を履いています。靴下のように足にぴったりフィットして、軽くて動きやすく、激しく動いても脱げることはありません。それになんといっても格好いい。
登山靴を買おうとすると数万円するものが当たり前ですが、地下足袋は、千円台から購入することができるのでお手頃な上、軽くてペッチャンコに折りたたんで持ち運びもできるので、ひとつくらい履き替えを持っても邪魔になりません。
そのため、私は用途別に何足も持っています。例えば、沢登り用のフェルト底の地下足袋、手強い藪漕ぎの山で使うスパイク地下足袋、冬季など入山するまでの町用兼天場リラックス用など。一度この履き心地に慣れてしまうと、重くて硬い登山靴に戻ることはできません(私の場合)。
まずはじめに、自分の足の大きさにあった地下足袋を手に入れましょう。大きく分けて「縫い付け足袋」と「貼り付け足袋」がありますが、山ではゴムコーティングが側面まである、耐久性のある後者がおすすめです。はじめの1足としては、ワークマンなどでも購入できる丸五の「実用3枚」や「快速5枚」などが良いでしょう。
実用3枚 https://marugo-online.jp/shop/g/gJITSUYO3-BK-220/
快速5枚 https://marugo-online.jp/shop/g/gKAISOKU5-BK-225/
(何)枚というのは、ボタン代わりのコハゼの数です。10枚、12枚と、スネの半分までつながっている丈の長いものもありますが、私は、コハゼ少なめで丈の低いものと、足首を巻くメッシュの脚絆との併用をおすすめします。蒸れにくく、洗いやすいし、かさばらないので!
登山靴より底が薄いですが、足裏からは地面の感触をしっかり感じ取ることができるし、思っている以上に丈夫です。地下足袋のサイズは、自分の脚よりも0.5センチ大きなサイズを購入することをおすすめします。これは、下山する際など、足がむくんで指が伸びることもあり、地下足袋の先に爪先が当たって痛くなることがあるので、あらかじめ少し大きめのサイズを選び、爪先に余裕を設けておくためです。
少し大きめの地下足袋を履いていたとしても、爪先の指が下りの時痛くなることもあります。そんな時は、痛くなりはじめに、指をテーピングテープで巻いて保護すると良いでしょう。
いよいよ登山に出かけます。地下足袋に慣れるまでのはじめのうちは、行動時間の短い、半日で帰れるコースで様子を見るのがいいですね。
また、登山口までの舗装道路を長く(30分以上)歩く場合は、ジョギングシューズやスニーカーなど通常の靴を履いたほうが良いです。底の薄い地下足袋は、山道や土の上を歩くには気持ちが良いのですが、硬く平らに舗装されたアスファルトの上を歩くと、すぐに足裏が痛くなってしまいます。「天然の地面」に到着したら、靴を地下足袋に履き替えて、いよいよ登山開始です。
地下足袋での登山では、はじめは足元をよく見て、足の置き場に注意しながら、一歩一歩ゆっくり進みます。不用意なところに足を置けば、薄い足底ですから多少は痛い目に遭います。指先をぶつければアザになります。ガレ場などで足の甲にちょっと石が落ちただけでも飛び上がるほど痛いです……。裸足と大して変わらないのですから当然です。
硬く丈夫な「殻」に守られた登山靴に対し、地下足袋は少し修練を要します。歩き方を磨けというのです。たかが歩行ですが、舗装してない山道での歩行は、一歩一歩に素早い観察と判断が必要です。
でも、地下足袋で歩くことに慣れれば、それが簡単にできるようになります。歩きぶりも筋肉の付き方も違ってきます。道具に頼るのではなく、人が誰でも持っている体術が洗練され、技として身についていくのだと思います。
つい百年前まで、日本人はわらじで山道を歩いていました。わらじは草履とはちがって、指が全部、ソールの外側に出ていて、ぶつけて痛くないのかと思いますね。でもあれは、例えればネコのヒゲのようなセンサーの役割だったようです。同じ人間、慣れれば素足は、そこまで良い動きをすると思うのです。靴を履くということは、あの優秀なセンサーを覆ってしまっていると考えることができます。
むしろ、ダラダラ歩いてもとりあえず足裏やつま先が痛くないような「油断靴」で歩いているから、思わぬところで転んで怪我をするとも言えるのではないでしょうか。
山歩きというのは、場合によっては死ぬかもしれない危機が頻繁に訪れます。ちょっとぐらいの便利さに目がくらんで身体能力を怠けさせる事こそ危ないと、私は思います。
山道を歩いていると、乾いて歩きやすい道ばかりでなく、沢や泥沼を渡ることもあります。こんな時、登山靴だったら、靴がドロドロになるか心配したり、足首から水が入らないよう気になります。靴の中に水が入ってしまうと、蒸れたり靴ずれの元になったりしますから。
地下足袋登山では、そんな心配を捨てましょう。なぜなら、地下足袋は濡れて当たり前だからです。じゃぶじゃぶ沢を渡渉し、泥沼の中をヌルヌルと進めばいいのです。
地下足袋は、濡れればもちろん冷たく感じますが、ぴたっと足に張り付いているので、中に泥なども入りません。登山靴ではあれほど気にしていたことが、濡れて当たり前と割り切ることで開放され、それすらも楽しめるようになるのです。汚れれば、きれいな水のところで足ごと入ってじゃぶじゃぶ洗えばOKです。
登山道や林道は踏み固められて硬いですが、山道の脇の杉林や藪などに入ると、モゴモゴした苔の上や、ふわふわした落ち葉が積もっています。地下足袋でその上を歩いてみましょう。天然のモゴモゴやふわふわした触感が、足裏から直接伝わってきて気持ちが良く、これが地下足袋歩き本来の楽しみです。
木の根や岩のボコボコしたところも、実際に歩いてみると快感になります。その凸凹が足裏のツボを押すので、疲れたときほどツボを狙って足を運ぶようになります。地下足袋ならば10時間以上歩いても、登山靴のように脱ぎたくなりません。人の疲労回復のツボが、足裏に集中している意味がよくわかります。
木登りや岩登りも、登山靴よりうまくできます。足探りでいろんな情報が伝わるからです。登山靴に唯一かなわないのは雪の上です。冷たいし、キックして足場を作ることがかないません。登山靴というのはそもそも、残雪や氷河などのある欧米の山登り環境で使うものであって、日本の無雪期ではオーバースペックなものかもしれません。
地下足袋を履いて天然山行に出かけたら、ぜひ写真にとって『やった!レポ』にアップしてください。感じたことや、おすすめなどあればコメントにも記載してみんなにシェアしましょう。
下山して、長く舗装道路を歩く場合は、通常の靴に替えても良し、足袋のまま町を歩く場合は、指の付け根のところにクッションになる中敷きを自作して入れるとあまり痛くなりません。家まで地下足袋で帰るのもなかなか格好いいものですよ。脱いだ地下足袋は、そのままビニール袋などに入れて持ち帰り、自宅できれいに洗濯しておくと繰り返し使えます。
地下足袋歩行の天敵はアスファルト舗装道路です。思えば日本中、よくもまあ車のために舗装したものです。裏山での足慣らしが済んだら、長距離歩行計画を練りましょう。私は地下足袋で北アルプスの大縦走でもなんでも出かけますが、今の日本で舗装のないところは、山の中と、河原と、数少ない海岸しかありません。
●旧道を歩く
中山道や甲州街道、善光寺街道など、自動車道路や鉄道が無かった19世紀まで実際に人々が行き交った旧道の中には、現在の国道とは違う区間があり、峠越えなどの箇所では、舗装されていないところがあり半日~一日歩けます。中山道の鳥居峠(木曽)など、宿場から宿場に峠越えして、茶屋で五平餅を食べれば、気分は水戸黄門の八兵衛です。
●河原を歩く
河原はだいたい未舗装なので、自宅近くの川から源流まで歩いてみるのも楽しいものです。そのまま分水嶺を越えて山向こうの町に越えれば、自分の住む町を作る山と川の成り立ちがよくわかります。
●海岸線を歩く
日本の海岸線はほぼ、護岸工事でコンクリート固めになっています。でも、私の知る限りでは渥美半島の太平洋側などは30キロ近くも手つかずの砂浜が残されていて、無心に丸一日あるき続けることができました。探せばそんな海岸は、住まいの近くにあるかもしれません。時速4キロの勘定で、計画を立ててみてください。
地下足袋を履いて天然山行、いかがでしたか?
私が、裸足に近い感覚で登れる地下足袋が好きなのは、より天然世界に調和したい、できれば動物みたいに山で自由になりたい、せめて100年前の昔の人みたいに登って、山に対する畏怖を感じたいと思うからです。
山に登る楽しみは、人と天然世界との間にできてしまった殻を一つ一つ取り払う喜びを知ることではないかと考えます。地下足袋は、まさに天然世界を足裏の感覚で捉えられるものです。
皆さんも、地下足袋を履いて自然の中へ出かけ、道具やしくみから自由になり、本来人が持っていた生きる技を身につけましょう。
なるほど〜。
先割れ靴下ですね。
ありがとうございました。
地下足袋を裸足で履いて二週間ほど山で過ごしたことありますが、汗かいたりして、数日で中がトロトロになってきました。普通は先割れ靴下を履くのがおすすめです。いろいろやってみるのが良いです。
地下足袋いいですよねぇ、ゴロゴロした岩場とか、裸足感覚で且つグリップも効くし、ビョウの着いたやつは粘土質の斜面とかある山で安定した足元が期待できますね。脚絆もセットで!(今度買いに行こう!)
地下足袋、意味もなく、ちょっと憧れていました。
疑問が生じたのですが、
「地下足袋は素足に履くのか?」
ということです。
足袋ックスや五本指などの靴下(靴の下だから違うか?)は履かないのか……。
足袋だから素足に履くの当たり前だろ〜、
ということでしたら、愚問でした。
どーも靴感覚な発想ですみません!