狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
野外活動の原点・焚き火。体を温め、光を提供し、料理の熱源となる焚き火はアウトドアでは欠くことのできない道具のひとつです。数泊のキャンプに出かけるとき、ライターを持たずに向かう人はいないでしょう。しかし、その肝心のライターを忘れたり、使えなくしてしまったなら---? そんなときに、身につけておくと役立つのが摩擦式発火法。火が起きる理屈と火を起こすのに必要な素材さえ知っていれば、ナイフ1本で火を起こすのはそれほど難しいことではありません。
ナイフ(刃渡り:10~15cm)
1
厚手の枯葉
2枚~
針葉樹の枝(直径4cm程度)
1
まっすぐな棒(長さ1m、直径1cm程度)
1
枯れ草(極細の繊維質のもの)
ひとつかみ
小枝(径2~10mm)
ひとつかみ
火起こしをする上で、絶対に必要な道具がナイフ。どんなものでも構いませんが、刃渡りが10~15cm程度でよく研がれているものが扱いやすいでしょう。
そして集めるべき素材は、①直径2~10mm程度の小枝ひとつかみ ②極細の繊維質の枯れ草 ③長さ1m、直径1cm程度のまっすぐな棒 ④直径4cm程度の針葉樹の枝 ⑤厚手の枯葉、の5つのアイテム。
そしてこれらは、どれもよく乾いていることが重要です。
「火きりぎね」とはSTEP1で紹介した「長さ1m、直径1cm程度のまっすぐな棒」のこと。この棒を次項で紹介する「火きりうす」とこすり合わせることで、摩擦熱で火を起こします。
しかし、野山でまっすぐな棒を見つけるのは至難の技。乾いた木の枝で、長さ1mでまっすぐなものはまず見つかりません。そこで探すべきは足元。草に目をやるとどうでしょうか。中心に1本まっすぐな茎が立ち、そこから小枝が分かれている枯れ草が見つかるはずです。
郊外や低山で見られる植物では、ヨモギの仲間やセイタカアワダチソウなどが火きりぎねに向いています。山や川べりではアジサイの仲間やウツギなどの仲間が火きりぎねになりえます。これらの植物から乾いているものを見つけだし、ナイフで小枝を払って火きりぎねを作ります。
先にも書いた通り、火きりうすは火きりぎねと摩擦するための板。スギやヒノキなどの針葉樹が向いています。
板といっても、自然のなかには板は落ちていないので円筒形の枝を両側から削り出して、1cm程度の板を作り出しましょう。
この際、材料の枝は地面に落ちているものではなく、立ち枯れているものを選びます。立ち枯れの枝は水を含みづらいのでよく乾いており、また菌類によって腐っていないので火が起きやすいのです。
板状に削り出したら端から1.5cm程度のところにナイフの切っ先で直径2cm程度の皿状のくぼみを作り、くぼみの中心に向かって三角形の切り欠きをナイフで作ります。
三角の頂点は、くぼみの中心より1mm程度外側にくるようにします。皿状のくぼみに火きりぎねを当てて軽くもんで跡をつけておくと、切り欠きの深さなどを間違いづらくなります。
地面に厚手の葉を敷いたら、その上に火きりうすを置き、火きりうすのくぼみに火きりぎねをはめて摩擦を開始します。摩擦にあたっては、火きりぎねの上部を両手で挟み、両手を前後させて火きりぎねを回転させます。
回転とともに、重要なのが上側からの圧迫。回転させつつ体重を上からかけることで、強い摩擦熱が生まれます。回転を繰り返していると次第に手が火きりうすに近づいていくので、下部まで下りきったらすかさず上部へと戻り、摩擦を繰り返しましょう。
摩擦を繰り返しているうちに、火きりうすの切り欠きからは焦げ茶色の削り粉が排出され、少しずつ葉の上に溜まってきます。それとともに摩擦面からは煙が立ち上り始めます。削り粉が焦げ茶色になり、摩擦面ではなく削り粉から煙が出たら火種の誕生。火種の直径が5mmほどに育つのを待って、「火口(ほくち)」の中心へ落とし込みます。
火口となるのは、拾っておいた極細の枯れ草。これを鳥の巣のような形にまとめ、中心のくぼみに火種を落としこみます。
火種を入れたら火口を閉じ、両手で包んで外側から軽く圧力をかけましょう。こうすることで火種へと燃料を供給し、冷たい外気と遮断することで中心部を発火に必要な温度にまで高めます。この時点では酸素はそれほど必要ではなく、中心部の保温の方が重要です。
手のひらに熱を感じ始めたら、今度は酸素が必要な段階。少しだけ火口を開いて、中心部に向けて息を吹き込みます。次第に煙の量が多くなり、あるタイミングで火口がボワっと発火します。
火口が発火したら、あらかじめ組んでおいた小枝の山の下へと火口を入れましょう。火は下から上へと向かうので、小枝を下から熱することで火が小枝へと燃え移っていきます。小枝に燃え移ったばかりの小さな火は燃え広がる力が弱いので、小枝はなるべく密にするのがコツ。小枝全体に火が回る頃には、太い枝にも火を移せるほど焚き火が安定します。
ナイフの扱いから現地で素材を調達するなど、サバイバル度が高い火おこし。実際に自分の手でできた時は達成感を味わうことができるでしょう。自分でやってみたら『投稿レポ』に自分の火おこし体験を紹介してみましょう。
発火と火の維持には、「熱」「酸素」「燃料」という3つの欠かせない要素があります。言い換えれば、焚き火がうまく燃えていかないときには、この3つの要素のどれかに問題があることになります。
摩擦式発火は、何もないところから火を生むという点で優れた技術ですが、この「火の3原則」を学ぶ上でも、たいへん有効な練習になるでしょう。生まれたての小さな火は、注意深く観察してケアしないとたちまち消えてしまうからです。この火を消さずに安定させられるようになれば、どんな焚き火も操れるようになるはずです。
また、火起こしは、焚き火に向かう精神についても教えてくれます。
きりもみ式発火を身につけたとき、人は決して大きすぎる火は燃やさなくなります。小さくはじめ、小さく使い、小さく閉じるという、焚き火を扱う上で重要な心得も自然と身につくからです。