現代社会で見えにくくなった「自然と人のつながり」をテーマに身近に暮らす野生動物の生態や人との関わり、自然との関わりから生まれた文化や生業などを撮影している写真家。身近にいる生き物たちについての講演会や観察会なども行っている。ニコンの行う写真教室「ニコンカレッジ」の講師も勤める。
太陽からはいろいろな光が降り注いでいますが、その中には人の目には見えない「紫外線」が含まれています。紫外線と聞くと、日焼けの原因になるのであまり良いイメージがないかもしれませんが、実はその光で照らすと"光る生き物たち"がいるのです。
ここでは、誰でも簡単に手に入る「紫外線ライト」を使って、私たちの身の回りや、身近な自然の中にいる生き物を観察する方法を紹介します。思いもよらない生き物の新たな姿に出会えるかもしれません。
紫外線は、太陽光などにも含まれる人の目には見えない光です。その光を人工的に発生させるライトのことを、「紫外線ライト」や「ブラックライト」などと呼んでいます。昔は、蛍光灯タイプのものが主流でしたが、今では、LED電球の懐中電灯タイプのものもあります。今回のような観察では、懐中電灯タイプが使いやすくおすすめです。まずは、1本準備しましょう。
簡易的なものであれば100円均一ショップでも、「マジックペン」などの名前で文房具コーナーに売っています。透明のインクで書いた文字をそのライトで照らすと、文字が浮き出てくる商品です。価格も安いですし、試しに1本もっていてもいいと思います。ただし、安い紫外線ライトは青みが強く、生き物を照らしたときに発光の具合が少しわかりにくいのが弱点です。
野外観察で使うのであれば、紫外線ライトの光の波長が365nmのものがおすすめ。安いものでは、1000円から2000円ぐらいの値段で買うことができます。
紫外線ライトを手に入れたら、野外で使う前に、まずは身近なものをいろいろと照らしてみましょう!例えば、自分の手や足。爪が青白く光るはずです。他にも紙や新聞、鉛筆やのり、お米やバナナなどの食材…など、いろいろと照らしてみましょう。
全体が光るものや、部分的に光るものなど、様々なものがあるはずです。人工物は驚くほど明るく光るものも多いですが、全く光らないものもあるので、どんなものが光らず、どんなものが光って、どのように光るのか調べてみても面白いですよ。ちなみに、人の爪は写真のように、控えめに青白く光ります。バナナは、黒い点の周りが光ります。
紫外線ライトを使うときの注意点
絶対に直接光を覗き込んだり、人やペットの顔を照らしたりしないようにしましょう。紫外線は、人の目には見えないので、強い光を受けていても気が付かずに、目を傷つけてしまう恐れがあります。
今度は、家の周りで生き物を探して照らしてみましょう。
明るいとライトで照らしていても、光っているのかわかりにくいので、夕方や夜などの太陽光が弱まった時間帯や、日陰で暗くなっている場所で生き物を見つけて照らしてみましょう。周りの明るさで見えにくい場合は、手で覆って暗くするとわかりやすいです。
ぜひ見つけて照らしてみてほしいのは、クモの仲間です。例えば、花の上で獲物を待って狩りをする「カニグモ」の仲間は、青白く光ります。このクモは、獲物を捕まえやすくするために紫外線を利用しているのではないかと考えられています。同じクモの仲間でも光る・光らないがあるのでいろいろと試してみましょう。
他には、庭に落ちている石やレンガをひっくり返してみると、ダンゴムシなどの土壌生物(どじょうせいぶつ)がたくさんいるので照らしてみましょう。一見、地味な生き物でも光輝いたりしますよ。
人間には紫外線が見えないと言いましたが、虫は紫外線が見えているといわれています。例えば、モンシロチョウは紫外線が当たったときの羽の色の違いで、オスかメスかを判断しているそうです。このように、紫外線の見える虫たちは、その光を活用し、私たちとは違った見え方で世界を見ているのです。
家の周りだけではなく、場所を変えて森や林の中でも生き物を探して照らしてみましょう。うす暗い森の中だと、夕方からでも結構探しやすくなります。
森の中では、家の周りと環境が変わるので、同じように石をめくっても違う生き物に出会えます。また、樹皮を照らしながらじっくり探したり、樹に空いた洞(うろ)の中なども照らしてみたりしましょう。
落ちている朽ち木の表面や、朽ち木の下なども結構生き物が見つかります。写真1枚目は、朽ち木で見つけたシロアリです。紫外線ライトで照らしてみると面白いことに、写真2枚目のようにシロアリのお腹がまだら模様に光ります。自然光でじっくり観察すると、実際にまだら模様になっていて、その白い部分が光っているのがわかります。
立ち枯れしている樹などにはキノコも生えていることがあるので、照らしてみましょう。ときには光るキノコも見つかりますよ。写真3、4枚目は、普通に見ると黄色いキノコに、紫外線ライトをあてると、ヒダだけが青く光っているのがわかります。
身の周りには、光る生き物がたくさんいますが、多くの場合、死んでいても光ります。また、死んでいるわけではないですが、セミの抜け殻も紫外線ライトで照らすと目が青白く光ります。
森の中で、ぜひ探してほしい生き物がいます。それは「ヤスデ」です。特に大人の人差し指ぐらいの大きさがある「ババヤスデ」の仲間は、ぜひ見つけてほしい生き物です。
ヤスデの仲間は光らないものもいますが、ババヤスデの仲間は、森の中で見つかる生き物の中では特に光り輝く生き物です。それは、昼間でも照らすと光っているのが分かるほど青く輝きます。
実際に、森で出会ったババヤスデを赤外線ライトで照らした動画
ヤスデは、朽ち木の周りや下、落ち葉の中などに住んでいるので、そうした場所を照らしながら念入りに探してみましょう。ちなみに、ヤスデはムカデとは違う生き物です。ムカデは、体の一つの節に一対ずつしか足がありませんが、ヤスデは二対ずつあります。そして、ムカデは肉食ですが、ヤスデは落ち葉などを食べています。ムカデと違って毒はないので触っても特に害はありませんが、少し臭いにおいを出します。ヤスデが好きな人は多くはいないかもしれませんが、この輝きをみたらきっと考えが変わるはずです。
石や朽ち木などをひっくり返して生き物を探すときは、探し終わった後に、なるべく元あったように戻しましょう。私たちにとってはただの石や朽ち木でも、他の生き物にとっては大切な住処です。少し環境が変わるだけで、別の場所に移動する生き物もいます。また、元に戻しておけば、自分が次に来た時に、同じ場所で同じ生き物に再び出会えるかもしれません。
家の周りや森の中など、様々な場所で光る生き物を見つけたら、写真を撮って「やった!レポ」にぜひ投稿してみてください。カメラの性能にもよりますが、スマートフォンのカメラでも撮ることができます。
光る姿を撮影するときのポイントは、まずフラッシュを使わないことです。フラッシュを使うと、せっかく紫外線ライトで照らされて光っているのに、フラッシュの光でライトの光が邪魔されてわからなくなってしまいます。
また、紫外線ライトだけだとシャッターを切るときにどうしてもブレやすくなります。ブレないように脇をしめてしっかりとカメラを固定し、手振れしないように注意しましょう。
紫外線ライトを使った観察はいかがでしたか?
ヤスデやクモなど生き物が思いもよらず光輝くと、その生き物の見方が変わるのではないでしょうか。
紫外線ライトは、私たちが普段目で見ている見え方とは、少し違う視点を与えてくれます。それにより、見方を変えてくれたり、よく観察するきっかけを与えてくれ、新しい発見にたくさん出会うことができます。
紫外線を受けて光る生き物は、まだまだ知られていない未知の領域。「そもそもなぜ光るのか?」その理由ですらわかっていない生き物がほとんどです。皆さんの見つけた生き物が、実は光る生き物だと知られていない可能性もあるので、ぜひいろいろと照らして探してみてください。