東京農業大学で造園学を学んだのち、中国で2年間砂漠緑化活動に従事する。帰国後、日本各地の自然を訪ねるツアーを企画する専門特化型の旅行会社に勤務し、植物を学ぶ。2018年にフリーの植物ガイドとして独立。徒歩10分の道のりを100分かけて歩く『まちの植物はともだち』観察会を中心に、保育の現場や地域おこし、企業のSDGsの取り組みへの協力など幅広く活動。著書に『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』、『種から種へ 命つながるお野菜の一生』(どちらも雷鳥社)。
冬のとっておきのお楽しみ。冬芽観察に出かけましょう!・・・といってもわざわざ野山に行く必要はありません。家からすぐそばの場所でも、個性豊かな冬芽をたのしむことができます。方法はとっても簡単。樹木を探し、枝先をのぞきこむだけです。あとはルーペさえあれば、これまで素通りしていた近所の樹木の魅力にぐぐぐっと近づくことができます。
家にこもりがちな季節ですが、気分転換も兼ねて近所のお散歩をたのしんでみませんか?冬にしか見られない期間限定の自然の芸術がまっています。
これはとっても簡単です。家から一歩出て、あたりを見渡してみてください。ほぼ必ず樹木があるはずです。まちのなかで見られる樹木には、「家の垣根」や「庭木」、「街路樹」、「公園樹」などがあります。そのどれでも大丈夫なので、見つけた樹木の枝先に近付いてみてください。きっと枝先に、なにかピンと尖ったものや、すこし丸みがかったものなど、色々な形をしたものがついていると思います。それが「冬芽」です。
大きさは3mm程度の小さいものから2cm程度の大きさのものまで様々ですが、いずれにしても非常に小さいので、本当にこれが冬芽かなぁ?と不安になるかもしれません。ですが、ひとまずそれで大丈夫です。冬芽らしきものを見つけたら、次のステップに進みましょう。
つづいて今度はルーペを使って近付いてみます。ルーペではなくて接写が出来るカメラを使ってもいいですし、最近は100円均一でスマホ用の接写レンズも売っているので、それでも十分です。とにかく、拡大できる方法があればOKです。
枝先を拡大して見てみると、鱗のようなものに覆われたものがあったり、フサフサと毛が生えているものがあったりして、肉眼で見ていたときよりも、その姿がより鮮明に見えてきます。こうなってくると、これが冬芽であることに確信が持ててきます。
ひとつ見えたら、違う種類の樹木に近付いて、また冬芽を見てみてください。5種類くらい比較すると、冬芽の形は樹種によって随分と異なることに気付くはずです。
冬芽とは、来たる春にそなえて用意しておく葉っぱや花のつぼみのことをいいます。厳しい寒さを乗り越えるために、毛をたくさん生やして防寒したり、鱗のコートを何重にも羽織って防風対策をしているのです。樹木によってその冬越しの作戦が異なるので、冬芽の形も様々なものが出てきます。ルーペで見ながら、この樹木の冬対策はどんな作戦かなぁと自由に想像しながら見ていくと楽しさが増していきます。
必ずしも樹木の名前を知っている必要はありません。名前が分からなくても、樹形や樹皮の雰囲気から、なんとなくあれとこれは種類が違う樹木だと判断できると思います。違う種類の樹木の冬芽を見比べて、その個性を楽しんでいきましょう。
ここまでですでにお気付きの方もいらっしゃると思います。そう、冬芽を見ていると、なにやら顔のようなものがついていることがあるのです。よく冬芽の写真として紹介されるのも、この顔付きの冬芽が登場することが多いです。この顔の正体は、いったいなんなのでしょうか。
じつはこれは、前年についていた葉っぱが落ちた痕なのです。葉っぱのなかには、水や糖を通す管が入っているのですが、葉っぱが枝から落ちる時に、この管がついていた痕が枝の方に残ります。この痕が目や鼻に見えるというわけです。これを「葉痕(ようこん)」といいます。
葉痕も樹種によって様々な形をしているので、冬芽を見比べていると個性豊かな顔に多く出合うことができます。葉痕が顔なら、その上にのっかった冬芽は頭髪や帽子に見えるので、その二つが組みあわさることでユニークな表情が作り出されています。
探せば探すほど違った顔が出てくるので、ぜひたくさんの種類の葉痕と冬芽を探してみてください。
冬芽と葉痕のなかには、なんだか目立たない姿をしたものもあります。はじめに見つけた冬芽が地味なものでも、諦めずにほかの樹種の冬芽を探してみてください。どこかに必ず楽しい顔がついています。
さて、これにて冬芽観察は終了。としてもいいのですが、せっかくなので、見つけた冬芽をその先も継続して観察してみていただきたいです。というのも、季節が進み、春が来ると、冬芽はまたちがった顔を見せてくれるからです。
冬はつるつるのキャップのようだったユリノキの冬芽が、春になると両手をあげて踊っているような姿に変身したり、モッコクのかたい冬芽からは燃えるような色をした新緑が出てきたリするので、そうか、冬芽はこの姿になりたかったんだねぇ、と冬芽の役割にここでようやく気付くことができます。
ここまで観察することで、ようやく冬芽観察は完結となります。近所での植物観察は、季節に応じて植物がどのように変化していくかを定点で観察できることが魅力です。通勤や通学、買い物の途中などで「ながら冬芽観察」をはじめてみてはいかがでしょうか。
冬芽を見つけて写真を撮ったら「やった!レポ」に投稿して、体験をシェアしませんか?質問や感想はコメントに記入してください。
新緑の季節になると、今年もまた春が来たぞ、と気持ちが新たになります。ですが、淡い新緑の色が見られるのは本当に一瞬のこと。すぐに葉っぱは濃い緑色に変わり、初夏の装いに変わってしまいます。
花が咲き、風に揺られているうちに、季節は夏へと移ります。一身に太陽を浴びて光合成をしたかと思いきや、続いてやってきた秋風に吹かれ、葉っぱは次々に落ちていきます。するとやってくるのが、また冬芽の季節です。
こうして、植物は季節のめぐりとともに刻々と姿を変えています。当たり前の話ですが、冬芽を観察することは冬にしかできません。春や夏に冬芽を見たくなっても、じっと季節が変わるのを待つしかないのです。カレンダーを見なくても、植物の変化を観察していれば季節が変わっていくことを感じることができます。植物観察の魅力は、そんなところにもあるのではないかと私は思っています。
意外と簡単な冬芽観察。ぜひこの冬おたのしみください。