東京農業大学で造園学を学んだのち、中国で2年間砂漠緑化活動に従事する。帰国後、日本各地の自然を訪ねるツアーを企画する専門特化型の旅行会社に勤務し、植物を学ぶ。2018年にフリーの植物ガイドとして独立。徒歩10分の道のりを100分かけて歩く『まちの植物はともだち』観察会を中心に、保育の現場や地域おこし、企業のSDGsの取り組みへの協力など幅広く活動。著書に『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』、『種から種へ 命つながるお野菜の一生』(どちらも雷鳥社)。
植物は地面に根をおろし、芽生えた場所で一生を過ごします。その場から移動しない生き方は、手足を使って移動する動物との大きな違いと言えます。
ですが、植物にもその一生のなかで、えいっと遠くに移動する時があります。それは、植物が実や種となった時です。動物にくっついたり、羽を生やして飛んで行ったりと、旅をするのに適した姿に一時的に変身し、親元を離れていくのです。
秋は、そんな実や種の移動の工夫が観察しやすい季節です。植物たちのさまざまな移動の工夫を見つけて、秋の植物観察を楽しみましょう!
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まずは、風を利用する植物を探してみましょう。
街中でもよく出合えるのはモミジの仲間。種を包む果皮の先端がすーっと薄く伸びて、プロペラのような形をしています。この種を手に取ってパッと上に投げると、種はクルクル回転しながらゆっくり落ちていきます。羽のおかげで滞空時間が伸びるので、この時に風が吹けば遠くに行くことができます。
公園で見るユリノキや、庭木として植えられるシマトネリコなど、プロペラ式の種は多いのでぜひ探してみてください。
種が風に舞う仕組みは種類によってさまざまです。街路樹でよく見るケヤキは、葉っぱと種と枝をセットにして落とすことで、空を舞うようになっていて、公園で見かけるアオギリは、ボートのような形をした実に種がくっついて、そのまま風にゆらゆら揺れる仕組みになっています。
風に舞う種は、樹木でよく見られます。この種はどうかなぁと、色々な樹木を観察してみましょう。
この時期、空き地や草むらを歩いていると、ズボンにびっしり種がくっついていることがあります。いわゆる「ひっつき虫」です。これも植物が種を遠くに運ぶための工夫で、動物にこっそりくっついてヒッチハイクの旅に出かけます。
くっつき力抜群なのが、アレチヌスビトハギ。ちょっとした空き地や公園などでよく見かけます。どうしてこんなにくっつくのだろうと実を拡大して見てみるとびっくり。実の周囲にかぎ爪のような形をした毛がびっしりついています。これが服の繊維にしっかりとくっつくので、ちょっとやそっとでは離れません。
毛やトゲでひっかかる方法以外には、粘液でくっつく方法があります。公園の樹林の日陰によく生えるチヂミザサの種を見ると、なにやら水滴のようなものがキラキラ光っているのを発見することがあります。触ってみるとその手触りはべたべた!チヂミザサなどは、この粘液で人や動物にくっつくのです。
また、意外と観察する機会が少ないのがオオバコの実と種。実はカプセル状になっていて、フタを開けると中から種が出てきます。種は乾燥している時にはくっつきませんが、雨に濡れるなどすると粘着性が出てきます。この時に人に踏まれたりすると、人の靴の裏にくっついて移動ができます。なので、人がよく歩く場所にオオバコはよく生えています。くっつく種は草によく見られます。これも色々と探してみてください。
秋は実りの季節なので、植物たちにもさまざまな実がつきます。色とりどりで私たちの目を楽しませてくれますが、植物は人を楽しませるために実をつけるわけではありません。動物に実を食べてもらい、糞に紛れて種を違う場所に落としてもらおうとしているのです。
なので、実は、鳥や動物の目に写りやすい色になっていると考えられます。公園で見かけるミズキは赤い軸に青い実がつきますが、この色の対比は鳥の目には目立って見える配色だと言われます。クサギは、赤いがくの中から濃紺の実を覗かせて鳥にアピール。コブシは赤い種を細い糸で吊り下げて存在を示します。
この実は誰が食べるのかなぁと想像しながら待っていれば、バードウォッチングも一緒に楽しむことができるかも?
実や種の旅の工夫を観察していると、植物の知らなかった一面が見えてきます。なので、秋一押しの植物観察のテーマですが、最後にもう少し敷居を下げて「ただ見た目を楽しむ」という方法も紹介します。あれこれ考えず、目の前のことを楽しむ、というのも立派な植物観察です。
まずは、街中でフェンスなどにからみつく様子を見ることがあるノブドウ。青や紫、白、緑とカラフルな実がつくことが特徴です。まるでグミみたいな見た目なので、見ているだけで心が弾みます。
つぎに、風船のような形をした実が可愛らしいフウセンカズラ。実も素敵ですが、その中に入っている種にはなんと白いハートの模様がついています。実も種も可愛らしいので、庭で育てられることがよくあります。
ほかにも、街路樹として植えられているムクゲの種を取り出したら、毛がふさふさ生えたモヒカンヘアーのように見えてびっくりするなど、実や種の形には本当にさまざまです。
植物の多様性を、見た目で楽しむ。これも秋の観察の魅力のひとつです。
秋の植物観察をしたら写真に撮って「やった!レポ」に投稿しませんか?質問や感想はコメントに記入してください。
次の世代に命を繋ぐことは、生物に共通した大きな目的のひとつです。一生のなかで極めて重要な時なので、その工夫も洗練されたものになります。
親元を離れて、遠い土地へ移動することは、植物にとっては命がけの旅となります。旅立った種のほとんどは適切な土地に辿り着くことが出来ず、そのまま朽ちていってしまうからです。
ほんの一握り、たまたま生存に適した土地に辿り着いた幸運な種だけが、発芽し、成長し、花を咲かせ、また種を旅立たせます。そんな厳しい旅をする植物の実や種が、美しくないはずがありません。
旅立ちでもあり、はじまりでもある種の観察、この秋どうぞお楽しみください。
『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい(雷鳥社)』
http://www.raichosha.co.jp/book/other/ot48.html
『種から種へ 命つながるお野菜の一生(雷鳥社)』
http://raichosha.co.jp/book/other/ot56.html