東京農業大学で造園学を学んだのち、中国で2年間砂漠緑化活動に従事する。帰国後、日本各地の自然を訪ねるツアーを企画する専門特化型の旅行会社に勤務し、植物を学ぶ。2018年にフリーの植物ガイドとして独立。徒歩10分の道のりを100分かけて歩く『まちの植物はともだち』観察会を中心に、保育の現場や地域おこし、企業のSDGsの取り組みへの協力など幅広く活動。著書に『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』、『種から種へ 命つながるお野菜の一生』(どちらも雷鳥社)。
冬枯れの樹木を見上げて、「あれ?あんなところに鳥の巣が?」と思うものがあったら、それはもしかしたらヤドリギかもしれません。樹上にポンポンと丸いものがついている様子は、可愛らしくもあり、不思議でもあり、植物好きな人でなくても、つい気になってしまう存在です。今回はそんなヤドリギがどんな植物なのか、せまっていきたいと思います。
ヤドリギは冬以外の季節でも見ることができますが、冬に観察するからこそ楽しめる現象があります。今年の冬はヤドリギのことをよく知って、気になる存在にしてみましょう。
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さっそくヤドリギ探し…をする前に、少しだけ前知識を入れておく必要があります。まず、ヤドリギは自分自身で地面から芽生えることはありません。いつだって、ほかの樹木の枝や幹からにょきっとその姿を現します。なぜなら、ヤドリギはほかの植物に寄生をして生きる植物だからです。
とはいっても、ヤドリギは自分でも葉っぱを持つので、自ら光合成をすることもできます。なので、完全に寄生しきっているというわけではなく、寄生先から水分や栄養をもらう一方で、自分でも栄養をつくるという生き方をしています。こうした植物を「半寄生植物」と呼びます。
ということで、ヤドリギを探すなら、ヤドリギが寄生している樹木の枝に注目する必要があります。春から秋にかけては、寄生先の樹木に葉っぱがたくさんついているため、ヤドリギを探すのは難しいですが、樹木の葉っぱが落ちる冬になると、ヤドリギの姿は急に目立ちます。なので、ヤドリギを探すなら冬が断然おすすめです。
ケヤキやエノキ、サクラの仲間などの落葉樹に寄生していることが多いようなので、冬のケヤキやエノキがあったら、何気なくその枝を見上げてみましょう。そこに丸いボンボリのようなものがついていたら、それがヤドリギかもしれません。
ヤドリギは、秋から冬にかけて実をつけます。常緑性のヤドリギは冬でも濃い緑色の葉っぱをつけているので、その葉っぱのなかで実が光にあたって輝くといっそう目立つ姿になります。
ヤドリギには黄色の実をつけるものや、赤い実をつけるものがありますが、二股に分かれた葉っぱのなかに実が点々とついている姿はとても可愛らしく、これを好んでリースに使ったりする人もいます。
では、ヤドリギは人に喜んでもらいたくて、その黄色い実をつけているのでしょうか。なんとなく、そうではないような気がします。
ということで、ヤドリギの実を見つけたら、今度はその実を誰が食べに来るかじっと待って観察してみることにしましょう。
双眼鏡を片手に遠くからヤドリギを見守っていると、そこに赤い模様が美しいヒレンジャクがやってきました。その綺麗な姿に見とれていると、ヒレンジャクは迷いのない動きでヤドリギのなかに飛び込んでいきます。そして、パクっ!と、ヤドリギの実を食べてしまいました。
観察を続けていると、近くの樹木の枝にたくさんのヒレンジャクが止まっていて、次々にヤドリギの実をめがけて飛んでいきます。しばらく食べると、今度は近くの水辺に降り立って水を飲み、またヤドリギが寄生している木の枝に止まって小休止。そしてまたヤドリギに飛び込んで実を食べて…ということを何回も繰り返しています。
どうもヒレンジャクは、ヤドリギの実が大好物のようです。
ヤドリギの実を好んで食べるレンジャク類は渡り鳥なので、その年によって飛来数が大きく変わります。今年は出会うことが出来るだろうか、というドキドキも含めて楽しんでください。
実を食べ、水を飲み、お休みをして、という動きを繰り返すヒレンジャクを観察していると、その中に、なにやらじっとして動かないヒレンジャクがいることに気が付きます。なにか考え事でもしているかのような表情です。
その様子を見守っていると、唐突にお尻からぴゅーっと長くネバネバとした糞が出てきました。よく見ると、糞のなかにはヤドリギの種が未消化のまま入っているようにみえます。
じつはヤドリギの実は、その中身がとってもネバネバしているので、鳥の体内を通過すると、その糞までもが粘着性を帯びるようになります。糞のほとんどは、そのまま地面に落ちていきますが、なかには、そのネバネバでほかの樹木の枝や幹にくっつくものがあります。半寄生植物のヤドリギは、そうして寄生先の木の枝や幹に種を密着させて、その場所で発根・発芽をすることができるのです。
寄生先の樹木のなかに根っこを伸ばしたヤドリギは、そこで樹木に半寄生しながら少しずつ大きくなり、次第に丸いぼんぼりのような姿に変わっていきます。
ヒレンジャクは、ヤドリギの実を食べることで自分のお腹を満たし、ヤドリギはヒレンジャクに食べられることによって、樹木に寄生することができるというわけです。なんとよくできた関係なのでしょうか!
ヤドリギとヒレンジャクを観察したら写真に撮って「やった!レポ」に投稿しませんか?質問や感想はコメントに記入してください。
葉っぱで光合成をして、生きるための栄養を作りだす植物にとって、光を得ることは生存上の重要課題です。光を獲得するための方法は植物の種類によって様々ですが、ヤドリギの方法はちょっとユニークです。なんといっても、自分の成長を地面からはじめるのではなく、ほかの樹木の上からはじめてしまおうというのですから。
確かに樹上で生活がはじまれば、いきなり空高いところで光を集中的に集めることができます。とは言っても、樹上で芽吹くためには、まず種を寄生先の枝や幹の高さまで運ぶ必要があります。それを手助けしてくれるのがレンジャク類だったというわけです。
植物観察は、植物を単体として見るだけでなく、ほかの生き物とどのように関係しているのかを知るとより深い楽しみを得ることができます。今年の冬は、ぜひ観察対象にヤドリギを加えて、自然の妙に触れていただければ嬉しいです。
『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい(雷鳥社)』http://www.raichosha.co.jp/book/other/ot48.html
『種から種へ 命つながるお野菜の一生(雷鳥社)』http://www.raichosha.co.jp/book/other/ot56.html