2021.07.2139915 views

昆虫は食材だ!セミを捕って食べよう

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内山昭一

昆虫料理研究家
新たな食材に挑戦し、“食”の冒険に出かけよう

自然は巨大な食材の宝庫です。なかでも昆虫は日本だけでも3万種を数え、狩猟採集時代から食べられてきた立派な食材です。昆虫を捕って食べる行為は、私たちのDNAに刻み込まれている本能なのです。

たとえば、セミは昔から世界中で食べられてきました。中国では漢代の王の墓から「セミ焼きコンロ」が副葬品として出土していたり、古代ギリシアの哲学者アリストテレスは「幼虫が美味い」と言い、それを知ったファーブルが幼虫を捕まえて試食する話を『ファーブル昆虫記』に書いています。日本では井伏鱒二が小説『スガレ追ひ』で「アブラゼミはビールのつまみによい」と書き、かつて長野の園芸試験場では、リンゴの樹液を吸う害虫として捕獲されたセミ幼虫を缶詰に加工・販売していました。

身近で捕れる昆虫が食材になると、家の近くの草原や河原はご馳走の宝庫になります。さあ、美味しい食材を狩りに出かけてみませんか?前回の記事
「昆虫は食材だ!身近な虫を捕って食べよう」
では、バッタをいただきました。
今回は、いまが旬のセミを捕って美味しくいただきます。

※このHow toには昆虫を調理する写真が含まれます。苦手な方はご注意ください。

READY
準備するもの
  • 【狩りに使うもの】

  • 捕虫網

  • 虫かご

  • 又は、チャック付きビニール袋

  • 又は、洗濯ネット

  • ライト(懐中電灯など)

  • 【調理に必要なもの】

  • サラダ油

  • 唐揚げ粉(水溶きのもの)

  • 調理器具など

STEP 1

おすすめセミ料理

  • セミの天ぷら
  • セミ幼虫の煮付け
  • セミ幼虫の薫製
  • セミ幼虫の甘酢あんかけ
  • セミ幼虫のチリソース炒め

夏にはジリジリとうるさいセミですが、食材として捉えると、実はコスト不要で環境負荷も少なく、美味しいたんぱく源でもあります。そんな、セミがいちばん美味しい食べごろは、羽化する前の幼虫です。幼虫は、しっかり肉が詰まりシコシコした食感が特徴で、ナッツのような味がします。成虫は、身の部分は少ないですがカラッと揚げるとサクサクした食感と飛翔筋の旨味があります。いくつか、セミのおすすめ料理を見てみましょう。

●セミ幼虫・成虫の天ぷら
成虫のサクサクした食感と飛翔筋のタンパク質の旨味、肉の詰まった幼虫の歯ごたえとエビ風味を同時に楽しめます。(写真:『楽しい昆虫料理』所収)

●セミ幼虫の煮付け
純和風の味付けで懐かしい故郷の味を演出する一品です。(写真:『楽しい昆虫料理』所収)

●セミ幼虫の薫製
ナッツの味と燻煙の風味と香りが混じり合い、鼻孔をくすぐり逸品です。(写真:『楽しい昆虫料理』所収)

●セミ幼虫の甘酢あんかけ
とろっとした甘酢あんにからまるセミ幼虫の弾力ある歯ざわりが食欲をそそります。(写真:『楽しい昆虫料理』所収)

●セミ幼虫のチリソース炒め
辛くて甘酸っぱいチリソースを、殻を剥いた幼虫にたっぷりからめます。エビにない柔らかな食感が特徴です。

いかがですか?セミが食材に見えてきましたか?

STEP 2

食材!セミをもっと知る

  • セミ3種比較
  • アブラゼミ
  • クマセミ
  • ヒグラシ
  • ツクツクボウシ

食材として「セミ」に興味が湧いてきたところで、もう少し詳しく知りましょう。セミは、カメムシなどと同じ「カメムシ目」に分類することができ、その種類は、なんと世界で約1600種、日本でも30種類が生息しています。

セミの寿命は種類によっても異なりますが、3年から長いものでは17年ほど。一生のほとんどを土の中で幼虫として過ごし、地上に出て羽化して成虫になってからは、3週間から1か月ほどで一生を終えます。

セミが主に食べる餌は「木の樹液」です。そのため、土臭さや苦味も少なくナッツのような味がします。身近で見つけられるセミには、以下のような種類があり、種類によって食感や味が異なります。

●ニイニイゼミ
時期:6月中旬~8月中旬
大きさ:32~40mm
なき声:チー
味・香り:まろやかな旨味を感じる。味も匂いも香ばしい。

●アブラゼミ
時期:7月中旬~9月上旬
大きさ:52~60mm
なき声:ジリジリジリ
味・香り:噛んだ後からジワッと味が濃くなる。炒ったナッツの香りが強い。

●ミンミンゼミ
時期:8月上旬~9月下旬
大きさ:55~63mm
なき声:ミーンミンミンミンミン
味・香り:味、香りとも薄くあっさりしている。

●クマゼミ
時期:7月中旬~9月上旬
大きさ:60~65mm
なき声:シャーシャーシャー
味・香り:ナッツの香り、渋皮のような薄い苦味がある。

●ヒグラシ
時期:7月上旬~9月下旬
大きさ:40~50mm
なき声:カナカナカナ
味・香り:未検証

●ツクツクボウシ
時期:7月下旬~9月下旬
大きさ:40~47mm
なき声:オーシーツクツクツク、ツクツクボーシ
味・香り:未検証

ニイニイゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミ成虫の食べ比べイベントをしたところ、好きなセミは12名中9名がニイニイゼミでした。ほどよい味と香りに加え、一口サイズと食べやすいのも支持された理由でしょう。アブラゼミは味が濃く、ミンミンゼミは淡白で、好き嫌いが分かれました。クマゼミはいくらか苦味があり、さらに殻が硬いこともあり、支持者がだれもいませんでした。

POINT

アメリカの東海岸や中西部では、「17年ゼミ」と呼ばれる、17年かかって地上に現れるセミがいます。これは17年周期遺伝子を持ったセミで「素数ゼミ」と呼ばれ、13年サイクルで大発生する「13年ゼミ」もこの仲間です。氷河期に生き残る戦略として交尾機会を増やす方向に進化した結果だと言われています。大発生した地域では、昨今の昆虫食ブームも手伝って、珍しい食材にちょっとしたお祭り騒ぎになるとか。とはいえ大部分が掃いて捨てられる光景を見ると「なんてもったいない!」と叫びたくなるのは私一人でしょうか。

STEP 3

狩りに出かける(セミの成虫編)

  • 捕虫網 左:秘密兵器
  • セミを入れる容器
  • 捕虫網でセミを捕まえる
  • セミのお腹部分の膜を切る
  • 秘密兵器でセミを捕まえる

セミは、公園や裏山、雑木林など、身近にいて捕りやすい獲物です。また、オスは大きな声で鳴くため、時期が来たらすぐにわかります。夏になりセミの声が聞こえたら、どの辺りから声が聞こえるか、あらかじめ意識して観察しておきましょう。

捕るのに適した時間帯は、成虫と幼虫で異なります。成虫は昼間木にとまっているので、捕虫網で捕まえます。幼虫は、陽が落ちて暗くなると羽化するために土から出てきて木や草に登るのて、そこを手で捕まえます。

まずは、成虫を狩りに出かけましょう。
準備したのは、ホームセンターなどで購入のできる定番の捕虫網と、今回はペットボトルで自作した秘密兵器も使用します。秘密兵器は、空のペットボトルの一部(1枚目の写真のオレンジ色の部分)をカッターナイフなどで切り抜き、逆さまにして下から棒を刺しただけのアイテムです。あとは、セミを入れる虫かごも必要です。虫かごがない場合は、2枚目の写真のような、チャック付きビニール袋、又は洗濯ネットもおすすめ便利です。

道具を持って、セミのいそうな木がたくさんあるところへでかけます。木にとまっているセミを見つけたら、まずは捕虫網でそっと近づき、素早く捕まえます。

捕まえたセミがオスの場合は、大きな音で鳴くため、少しかわいそうですが鳴かないように処理をすると良いでしょう。セミは、お腹あたりを振動させて鳴きます。そのため、4枚目の写真のように、お腹の部分にある膜を指で切ると鳴かなくなります。セミが鳴かなくなったら、虫かごに入れておきましょう。

次は、秘密兵器の使い方です。木にとまっているセミを見つけたら、棒を伸ばして、ペットボトルに開けた窓の部分にセミが入るように捕まえます。すると、セミはペットボトルの中に落ちるように入り、そのあとは滑ってしまい逃げられなくなります。簡単につくることができるので、ぜひ試してください。

STEP 4

狩りに出かける(セミの成虫編)

  • ライトとチャック付きビニール袋

次は、セミの幼虫を狩りに出かけます。
準備するものは、ライトとチャック付きビニール袋です。もしヘッドライトがあれば、両手が空くので便利です。

セミの幼虫は、陽が落ちて暗くなると土から出てきて木にのぼり羽化する場所を探すので、素手で捕まえることができます。幼虫は動きも遅いので、簡単に捕まえることができます。昼間セミがたくさんいたところの、木の根元などを探してみましょう。

木や草を登っている幼虫を見つけたら、手で捕まえてビニール袋に入れます。

POINT

※野生食材には限りがあります。食べる数だけを目安に、自然に感謝をしながら捕りましょう。
※セミに限らず昆虫は鮮度が美味しさの決め手です。その日いただく数だけ捕るようにしましょう。
※捕ったセミ(特に幼虫)は、その日のうちに調理するようにしましょう。
※小学生以下のお子さんは、必ず大人と一緒にでかけましょう。
※狩りに出かける場所の環境を必ず確認しましょう。排気ガスの多い道沿いや、農薬や除草剤などがかかっていそうなところは避けましょう。
※私有地や公園など、管理された土地で捕る場合は、管理者に確認しましょう。
※野生食材の採取と喫食には危険と責任が伴うことを忘れないようにして下さい。

STEP 5

下ごしらえをする

  • 熱湯で茹でる
  • 茹で上がった幼虫
  • 茹で上がった成虫
  • 幼虫の殻に穴を開ける

いよいよ、捕ったセミを下ごしらえします。まずは、成虫と幼虫を一緒に熱湯で茹でます。熱湯で茹でることで、汚れも落ちてきれいになり、殺菌もされます。

鍋にお湯を沸かし、沸騰したら、生きたままのセミの幼虫と成虫を投入し2~3分茹でます。茹で上がったら、ザルなどで水気をしっかり切ります。

茹でた幼虫については、皮がツルッとしていて唐揚げの衣などが付きにくいので、爪楊枝などで数箇所穴を開けます。煮物などにする際も穴を開けておくことで、ダシが染みやすくなり美味しく仕上がります。

POINT

必要な分だけ心がけてセミを捕ったとしても、どうしても残ってしまった場合は、軽く塩茹でして冷凍保存すればある程度の鮮度は保て保存することができます。

STEP 6

調理をする

  • 幼虫に衣をつける
  • 幼虫を油で揚げる
  • 成虫に衣をつける
  • 成虫を油で揚げる
  • 油を切る

次に、セミを調理していきます。今回は、カラっと油で揚げた唐揚げをつくります。

【幼虫を揚げる】
はじめに1枚目の写真のように、ボウルに市販の唐揚げ粉(水溶きのもの)と水を入れて混ぜ合わせます。そこに、水気をしっかりと切ったセミの幼虫を入れて、衣をつけます。

次に2枚目写真のように、通常の唐揚げをあげるように、180℃くらいまで熱した油に衣をつけたセミの幼虫を入れて、黄金色になるまでしっかりと揚げます。カリッと揚がったら、キッチンペーパーをしいたトレーにあげて、油を切ります。

【成虫を揚げる】
幼虫と同様に、3枚目の写真のように、先程つくった唐揚げの衣に、セミの成虫を入れて良く絡めます。

次に4枚目の写真のように、熱した油に静かに入れて、黄金色になるまでしっかりと揚げます。カリッと揚がったら、キッチンペーパーをしいたトレーにあげて、油を切ります。

STEP 7

美味しく食べて、『やった!レポ』に投稿しよう

セミの唐揚げをお皿に盛り付けて食べましょう。
まずは幼虫から!何かの味ににていませんか?よくナッツの味に似ていると言われることがあります。食感もしっかり味わってみましょう。

次に、成虫も!幼虫と味、食感は違いますか?その感想は、ぜひ『やった!レポ』に投稿してみてください!どんな味がしたか、おすすめの食べ方もあればコメントに書き込んでください。

STEP 8

昆虫を食べる時に注意すること!

昆虫「セミ」は、私たちがいつも食べている食べ物ではありません。そこで捕って食べるときに気をつけたほうがいい点をいくつか挙げてみました。これらを参考にして安全に美味しく楽しくいただきましょう。

(1)アレルギーに注意しましょう
エビやカニなどの甲殻類にはアレルゲンとなるトロポミオシンというタンパク質が含まれていて、アレルギー症状を引き起こす場合があります。同じ節足動物に属する昆虫にもトロポミオシンが含まれています。そのため甲殻類アレルギーの人は食べないか、少量から試すようにしてください。
アレルギーがなくても初めて食べるときは、少量で試すようにしましょう。しばらくして体調に変化がないか確認しましょう。

(2)必ず手洗いと加熱をしましょう
野生の昆虫にはどんな微生物(細菌、ウイルス、原虫等)が付着しているか分かりません。75℃で1分間以上加熱することで微生物による食中毒を防ぐことができます。微生物が料理に混入しないよう調理する前後に必ず手を洗いましょう。調理器具もきちんと洗って使うようにしましょう。

(3)死んだ昆虫は食べないようにしましょう
死んだ昆虫はどんな未消化物が体内に残っているか分かりません。殺虫剤などの成分が含まれている可能性もあります。そのため死んだ昆虫を食べることはおすすめしません。死んだ昆虫は衛生面で問題ですが、それ以上におすすめしない理由はとにかく不味いからです。

MATOME
まとめ

現代人は美味しさをグルメ情報に依存しているといわれています。そのため食材とみなされていない昆虫には美味しさのスタンダードがありません。自分の五感を磨き、それらを総動員し、新たな食材に挑戦し、美味しさを自分で創造することが、昆虫食の大きな醍醐味といえるのではないでしょうか。

あなたも雑食動物であることを思いだし、五感を鍛えるトレーニングをはじめてみませんか。自然の巨大なレストランが、みなさんをお待ちしています。

もっと昆虫食を知りたい人のために
【参考文献】
『新装版 楽しい昆虫料理』内山 昭一著 ビジネス社
https://www.amazon.co.jp/dp/B097DFX287
『昆虫食入門』内山 昭一著 平凡社新書
https://www.amazon.co.jp/dp/4582856357
『昆虫は美味い!』内山 昭一著 新潮新書
https://www.shinchosha.co.jp/book/610798
『昆虫を食べてわかったこと』内山 昭一著 サイゾー
https://www.amazon.co.jp/dp/4904209834
新装版『食べられる虫ハンドブック』内山 昭一著 自由国民社
https://www.amazon.co.jp/dp/4426125545
『人生が変わる! 特選昆虫料理50』木谷 美咲著 内山 昭一著 山と渓谷社
https://www.yamakei.co.jp/products/2814450170.html
『ホントに食べる?世界をすくう虫のすべて』内山 昭一著 文研出版
https://www.amazon.co.jp/dp/4580886275

【参考サイト】
昆虫食彩館: http://insectcuisine.jp
NPO法人昆虫食普及ネットワーク: https://www.entomophagy.or.jp

GROW CHART
成長スコアチャート
野性5
4知性
3感性
アクティビティ
食べる
環境
山 ・ 川 ・ 森 ・ 街 ・ 田畑 ・ 公園
季節
所要時間
4時間~6時間
対象年齢
小学校中学年以上
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