1950年長野市生まれ。昆虫料理研究家、NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長、NPO法人食用昆虫科学研究会理事。昆虫の味や食感、栄養をはじめ、あらゆる角度から食材としての可能性を追究。著書に『昆虫食入門』(平凡社新書)、『昆虫は美味い!』(新潮新書)、『食の常識革命!昆虫を食べてわかったこと』(サイゾー)、監修に『ホントに食べる? 世界をすくう 虫のすべて』(文研出版)ほか。東京都日野市在住。
昆虫食彩館:http://insectcuisine.jp/
NPO法人昆虫食普及ネットワーク:https://www.entomophagy.or.jp/
みなさんはセミが食べ物とは思わないでしょう。でもセミは、美味しく食べることのできる立派な食材です。成虫をサクッと揚げればエビ風味、丸々太った幼虫の燻製はナッツ味!
狩猟採集時代の日常食は昆虫でした。栄養があって、たくさんいて採りやすかったからです。いまでも私たちのDNAには、虫採りの本能が刻み込まれています。昆虫採集の大好きな子どもが多いのはその証拠でしょう。夏には「セミを採って食す『セミ会』」を催すのですが、大人になってそうした狩りの本能に蓋をした人たちが参加します。彼らは幼少にかえり嬉々としてセミを採り、食べ、久しぶりの狩猟に心が解放されて帰っていきます。
昆虫食の醍醐味を知ると、山や森へ行かなくても、家の近くの草原や河原はご馳走の宝庫になります。春は小川でヤゴがスイスイ泳ぎ、夏はセミがうるさく、やがて秋の鳴く虫の大合奏が聞こえます。冬には脂がのったざざ虫がザーザー流れる瀬の音を子守唄に眠っています。
さあ、みんなで美味しい食材を狩りに出かけてみませんか?四季のある日本ではそれぞれが旬のご馳走がいろいろあります。このHow toでは、まずはじめに美味しい虫たちを紹介したあと、身近な昆虫「バッタ」を例に、狩りをして美味しく調理して食べる方法を紹介します。
※このHow toには昆虫を調理する写真が表示されます。苦手な方はご注意ください。
【狩りに使うもの】
捕虫網
虫かご
又は、蓋に数カ所穴をあけたタッパー
又は、チャック付きビニール袋
又は、洗濯ネット
【調理に必要なもの】
水
サラダ油
天ぷら粉
かき揚げの具(ニンジン・水菜)適量
塩
マヨネーズ
調理器具など
このページをご覧になっているのですから、きっと「昆虫ってどんな味?」と、食べることへの興味でいっぱいでしょう。そこで、最初にたくさんいる美味しい昆虫のなかから、選りすぐりの10選を紹介します。
なお、ここにあげた昆虫は自分で採るものばかりではありません。スズメバチなどは危険なので業者に頼みますし、タイワンタガメやツムギアリは、タイの食材店から購入します。コオロギも飼育したりします。写真は昆虫を使った料理をいくつか紹介しています。
1位:カミキリムシ【幼虫】
直火で甘辛いタレを塗って焼くと皮はパリパリで中身はトロリと甘い。コクがありクリーミーなバター食感。マグロのトロの味にたとえられる。ファーブルも絶賛。
2位:オオスズメバチ【前蛹】
しゃぶしゃぶ風にさっとゆがいてポン酢でいただく。甘味と旨みが濃厚で、鶏肉や豆腐に似た風味。繭を作った直後の前蛹が一番旨いとされ「フグの白子以上」と賞賛される。
3位:クロスズメバチ【幼虫・蛹】
小粒ながら旨みが強く、甘辛く煮てご飯に混ぜると、うなぎ丼の風味。長野や岐阜、愛知の伝統食。
4位:セミ【幼虫】
肉厚で歯ごたえ満点。ナッツ味。燻製もオススメ。
5位:モンクロシャチホコ【幼虫】(通称=サクラケムシ)
毛虫という外見からは想像できない上品な桜の葉の香りに驚かされる。旨みも濃い。溶かした砂糖と混ぜてキャラメリゼ(飴状)にする。
6位:タイワンタガメ
強面に似ず優しい洋ナシの匂いがする。この匂いはオスが発するフェロモンで、果実やハーブなどに含まれる人にとってリラックス効果のある天然成分。ゆでて中身をサラダに混ぜる。
7位:トノサマバッタ
大きいので食べごたえがある。飛翔能力が高く、捕るのも楽しい。揚げるとピンクに染まり見た目にも食べやすい。エビ・カニに近い食感。
8位:ツムギアリ【卵・幼虫・蛹】
ほのかな酸味、はじける食感、見た目は白いご飯粒。
9位:コオロギ(ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ)
身が柔らかで淡白なイエコ、硬く締まって歯ごたえ十分なフタホシ。素揚げしてピザに散らす。
10位:イナゴ
稲作とともに食べられてきた国民的伝統食。江戸時代には「陸(おか)エビ」と呼ばれた。小エビに似たサクサクした食感。佃煮。
昆虫が立派な食材だ!とわかってきたところで、今回の獲物となる「バッタ」について知っておきましょう。バッタといってもいろいろな種類がいます。ここでは、食用となる主な種類を挙げてみました。
●トノサマバッタ【緑色型、褐色型】
(7-10月)年2回発生。6月ぐらいでも成虫を採ることができる。仮面ライダー1号2号のモデルで有名。跳躍力と飛翔力が抜群なので、バッタのなかでも狩りの醍醐味を一番感じさせてくれるオススメ食材。通常は単独で生きる孤独相だが、大雨などにより大発生すると小型で黒っぽい群生相となって長距離飛行し、農作物に甚大な被害をもたらす。アフリカなどで大発生し「飛蝗」と呼ばれるサバクトビバッタがよく知られている。
●ショウリョウバッタ【緑色型、褐色型】
(7-10月)大きくて見つけやすく動作も緩慢なので採りやすい。
●オンブバッタ【緑色型、褐色型】
(8-12月)こちらも捕まえやすく、名前の通りオスがメスに乗っていることが多いので、同時に採取できてお得なバッタ。
●クルマバッタ【緑色型、褐色型】
(7-10月)トノサマバッタに似ているがやや小さい。後翅の円状紋が車に似ているのでこの名がある。
●クルマバッタモドキ【緑色型、褐色型】
(7-11月)クルマバッタと似て大型。胸部の盛り上がりが少ないのと、X状の白い紋が特に褐色型で際立つ。
●ツチイナゴ【褐色、幼虫は緑色】
(4-11月)10月ごろ成虫になり越冬するので、春に食べ応えのある成虫を捕獲できる。
●イナゴ【緑色】
(7-11月)イネの害虫として知られる。佃煮としていまでも食べられている。コバネイナが多く、ハネナガイナゴは少ない。
●クビキリギス【緑色型、褐色型、まれに紅色型】
(3-5、8-11月)成虫で越冬するので、ツチイナゴと同じく春でも大きな個体を捕獲することができる。
※ https://mushinavi.com 参照
※トノサマバッタ 画像提供:虫央堂
いよいよ狩に出かけましょう!
バッタは公園の草むらや河川敷など、身近にいて採りやすい獲物です。ふつうバッタは、夏から秋にかけて成長し、数も多く捕まえやすくなります。注意深く観察すれば、初夏の草原でも見つけることができます。身近な環境のバッタが潜んでいそうなところに、出かけましょう。
狩りに必要な道具は2つ。捕虫網と、捕まえたバッタを入れおてく虫かごです。虫かごがない場合は、蓋に数カ所穴をあけたタッパーや、チャック付きビニール袋、または洗濯ネットも代用することができます。ここでは、チャック付きビニール袋を準備しました。
狩に出かける時間帯は、できるだけ早朝か、午前中の涼しい時間帯がおすすめ。バッタは、昼間温度が上がると運動能力が高くなり、特にトノサマバッタなど大型のバッタは、遠くまで飛んで行ってしまいます。涼しい時間帯であれば、トノサマバッタでも手で採ることができます。
バッタが潜んでいそうなところに出たら、注意深く地面を見ながら歩いたり、足で草を掻き分けて見るのがコツです。ぴょんぴょん跳び出してきたところを発見したら、抜き足差し足でそーっと近づき、網を頭部の前方からかぶせます。採れたバッタは、優しく捕まえて、そのまま持ってきた虫かごやビニール袋に入れます。採取は、晩ご飯のおかずに必要な数だけにして、採りすぎないようにしましょう。
※小学生以下のお子さんは、必ず大人と一緒にでかけましょう。
※狩に出かける場所の環境を必ず確認しましょう。排気ガスの多い道沿いや、農薬や除草剤などがかかっていそうな草むらは避けましょう。
※私有地や公園など、管理された土地で採取する場合は、管理者に確認しましょう。
※採取した昆虫は、必ずWEBや図鑑などで確認し、種類を確認しましょう。種類の判断に絶対的な自信が無いときは、口にしないでください。
※野生食材の採取と喫食には危険と責任が伴うことを忘れないようにして下さい。
みなさん、たくさん採れたでしょうか?トノサマバッタの大物が採れていればラッキーです!捕まえたバッタが、まだ小さい場合は、少し大きくなるまで飼育してあげるのもおすすめです。
今回の撮影は、まだ時期の早い初夏(6月)だったので、大きなバッタを採ることができなかったので、私が自宅で飼育しているバッタを食材として持ってきました。
バッタは草食性でイネ科の草を食べている種類が多く、これらはフン抜きの必要がありませんが、気になる方は、捕まえたバッタを数日虫かごに入れたままにしておくと、お腹に溜まったフンを出します。(イネ科の草を食べているバッタのフンは、草原の香りのする鄙びたお茶として楽しむこともできます。)
また、昆虫の種類によっては、フン抜きが必要です。例えば野生のコオロギなど、雑食性の昆虫は、腐肉など食べている可能性があるので、餌を与えず数日虫かごに入れたままにし、フンを出す必要があります。
いよいよ、バッタを調理していきます。まずはじめに、バッタを熱湯で茹で下準備をします。熱湯で茹でることで、汚れも落ちてきれいになります。
鍋にお湯を沸かし、沸騰したら、生きたままのバッタを熱湯に入れて2~3分茹でます。茹で上がったら、ザルやキッチンペーパーをしいたトレーにあげ、水気を切っておきましょう。
次に、バッタを油で揚げていきます。今回は、カラっと油で揚げた天ぷらと、かき揚げを作ります。
【天ぷらを作る】
はじめに写真(1)のように、ボウルにてんぷら粉と水を入れて混ぜ合わせ、やや濃い目の衣を作ります。そこに、水気をしっかりと切ったバッタを入れて、衣をつけます。
次に写真(2)のように、天ぷら鍋にサラダ油を入れて火にかけ、天ぷらをあげる適温の180℃くらいまで熱します。そこへ、衣をつけたバッタを入れて、しっかりと揚げます。
カリッと揚がったら、キッチンペーパーをしいたトレーにあげて、油を切ります。
【かき揚げを作る】
写真(3)のように、先程作った天ぷらの衣に、みじん切りにしたニンジンと、3cmほどの長さにカットした水菜、お好みの量のバッタを入れて混ぜ合わせます。
次に写真(4)のように、180℃くらいまで熱した油に、適量の具材をかたまりにして静かに入れ、両面をしっかりと揚げます。
カリッと揚がったら、キッチンペーパーをしいたトレーにあげて、油を切ります。
カリッと揚った、バッタの天ぷらとかき揚げを、お皿に盛り付けて食べましょう。ここでは、トッピングとして素揚げしたバッタの幼虫も添えてみました。
まずはシンプルに、何もつけずに食べてみてください。何かの味ににていませんか?その感想は、ぜひ『やった!レポ』にも投稿してみてください!どんな味がしたか、おすすめの食べ方もあればコメントに書き込んでください。お好みで塩やマヨネーズをつけるのもおすすめです。
昆虫は、私たちがいつも食べている食べ物ではありません。そこで採って食べるときに気をつけたほうがいい点をいくつか挙げてみました。これらを参考にして安全に美味しく楽しくいただきましょう。
(1)有毒な昆虫に気をつけましょう
採った獲物の種類を確認しましょう。有毒な昆虫はあまりいませんが、それでも、ツチハンミョウの仲間など、いくつか有毒な種もいます。図鑑などで調べて種名の分からない昆虫は食べないようにしましょう。
(2)有毒植物を食べる昆虫には注意しましょう
キョウチクトウスズメというスズメガの幼虫は、オレアンドリンという有毒物質を含むキョウチクトウの葉を食べますし、ジャコウアゲハの幼虫もアリストロキア酸などの毒性物質を含むウマノスズクサを食べます。これらの昆虫も食べないようにしましょう。
(3)種類によってフン抜きが必要です
昆虫の種類によって、フン抜きは必要です。例えば野生のコオロギなど雑食性の昆虫は、腐肉など食べている可能性があるので、餌を与えず数日虫かごに入れたままにし、フンを出させてから調理します。
(4)アレルギーに注意しましょう
エビやカニなどの甲殻類にはアレルゲンとなるトロポミオシンというタンパク質が含まれていて、アレルギー症状を引き起こす場合があります。同じ節足動物に属する昆虫にもトロポミオシンが含まれています。そのため甲殻類アレルギーの人は食べないか、少量から試すようにしてください。
アレルギーがなくても初めて食べるときは、少量で試すようにしましょう。しばらくして体調に変化がないか確認しましょう。
(5)必ず手洗いと加熱をしましょう
野生の昆虫にはどんな微生物(細菌、ウイルス、原虫等)が付着しているか分かりません。フン抜きをしても一部が残っているかもしれません。75℃で1分間以上加熱することで微生物による食中毒を防ぐことができます。微生物が料理に混入しないよう調理する前後に必ず手を洗いましょう。調理器具もきちんと洗って使うようにしましょう。
(6)死んだ昆虫は食べないようにしましょう
死んだ昆虫はどんな未消化物が体内に残っているか分かりません。殺虫剤などの成分が含まれている可能性もあります。そのため死んだ昆虫を食べることはおすすめしません。死んだ昆虫は衛生面で問題ですが、それ以上におすすめしない理由はとにかく不味いからです。
いかがでしたでしょうか?昆虫食は楽しめましたか?
イナゴ、ハチの子、カイコさなぎ、ザザムシなどは、日本の伝統食として、長野県など一部地域で根強い人気があります。なかでもイナゴ佃煮の甘辛い味は、懐かしい故郷の味と言えるでしょう。
その一方で、「栄養と環境」に着目した新たな昆虫食が世界で注目されています。今地球規模で進行している、人口増加と温暖化による気候変動が喫緊の課題となっています。国連食糧農業機関(FAO)は、2013年にそれらの課題を解決する手段として昆虫食を推奨する報告書を出しました。この報告書が、昆虫食に全世界が注目する大きな契機となったのです。そこで、今では世界中で、主にコオロギの養殖が盛んに行われるようになってきました。
とはいえ、昆虫食の原点はプチジビエにあると思います。採って食べることで私たちは命をいただくととは何かを、五感で学ぶことができます。アメンボの匂いは水あめに似ていたり、青リンゴ風味のカメムシがいたり、みたらし団子の匂いのするゴキブリだっています。自然の巨大なレストランが、みなさんをお待ちしています。
もっと昆虫食を知りたい人のために
【参考文献】
『ホントに食べる?世界をすくう虫のすべて』内山 昭一 監修 文研出版
https://www.amazon.co.jp/dp/4580886275
『食べられる虫ハンドブック』内山 昭一 監修 自由国民社; 新装版
https://www.amazon.co.jp/dp/4426125545
『昆虫を食べてわかったこと』内山 昭一 著 サイゾー
https://www.amazon.co.jp/dp/4904209834
【参考サイト】
昆虫食彩館: http://insectcuisine.jp/
NPO法人昆虫食普及ネットワーク: https://www.entomophagy.or.jp/