樹木医・インタープリター。東京都内近郊を中心に、身近に生える植物の魅力を発信している。NHK文化センターや土木学会関西支部など、各所で身近な植物に関する講演を行うほか、道ばたの雑草から公園の大木まで解説する植物観察会を実施している。著書に『やけに植物に詳しい僕の 街のスキマ植物図鑑』(大和書房)。
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一歩外に出るとさまざまな場所に、木はたくさん植えられています。そして、木の幹や枝が切られると断面に現れるのが「年輪」です。木が一つ年を取るごとに年輪の輪っかが一つ増えていくことはみなさんもご存知かもしれませんが、それ以外にもその木がどんな環境にいてどのように生きていたか、年輪にはその道筋が刻み込まれています。もちろん、年輪は断面の一つに過ぎないので全てがわかることはありませんが、年輪から得られる情報は多いです。また、年輪は一年中観察でき、街中の公園樹や街路樹など身近に見つかるのが嬉しいところ。年輪を探して、木の一生を読み取ってみましょう!
まずは年輪を探してみましょう。
探索する場所は街路樹や街中の緑地など、とくに大きな公園はいろいろな環境がある場所のため、さまざまな生き方をしてきた「面白い年輪」が見つかります。また年輪は、切られてから年月が経つと黒ずんでしまい読み取りづらいため、なるべく切られたばかりの年輪を見つけてみましょう。
いざ探すと意外と見つからない!と思うかもしれませんが、切り株だけでなく枝が切られた痕にも年輪がでているので、生きている木の幹も含めて探してみてください。場所によっては切られた丸太や枝が積み上げられている場所もあり狙い目です。他にも台風の被害で倒木が多かった年や冬場の剪定の後だと、切られて時間が経っていない年輪がよく見つかります。
・台風で倒木が出たあとは年輪が観察しやすいですが、台風通過直後はとても危険です。十分に安全が確保できてから観察に行くようにしましょう。
・場所によっては立ち入り禁止になっている場合や、危険な地形の場合もあるので注意してください。
まず初めに年輪の輪っかの数から、木が何歳なのかを数えてみましょう。幹の根元から切られている年輪はその木の年齢、枝の根元から切られている年輪は枝分かれしてからの年齢がわかります。数えていくと、「この木は自分と同い年だ!」「この木は自分が就職した年に芽生えたんだな」また「こんな細い枝なのに10年も経っているのか!」など、色々な発見があると思います。同じ太さの木でも、種類や環境によってそれぞれ年齢が違うのも面白いです。
また、年輪の輪っかの幅を一本ずつ見ていくと、その年の木の調子がわかります。単純な話ですが、幅が広いとその年にたくさん成長して幹を太らせたということ、逆に狭いとその年は気候や周りの環境などの条件が悪かったのか、あまり成長できなかったということです(実際はズレが生じる場合などもありますが、厳密なところは目をつぶっていただければ幸いです)。
次のSTEPで詳しく説明しますが、一番外側が新しい幹で、中心にいくにつれ若い頃の幹になっています。同じように見える年輪の幅もよく見ると一様ではなく、「3年前は調子が悪かったんだな、そういえばこの年は梅雨は長かったかな?」、「この木は20歳を過ぎてから急に調子が良くなったぞ!周りの木より高くなって、光が当たるようになったのかな?」など、木の生きてきた道筋を想像することができます。
・フジの木の年輪は少し特殊で、年輪がいくつもつくられるので実際の歳はわからないことがあります。
今度は、顔をグッと近づけて年輪の基本構造を観察してみましょう。じっくり見ていくと、意外と複雑な構造をしていることに気づくはずです。年輪は、中心にいくほど若い頃の幹、外側にいくほど新しい幹でできています。樹皮のすぐ内側のところに細胞分裂する組織(形成層)があり、そこから新しい年輪が一層ずつつくられていくイメージです。年輪のある時点から内側が茶色くなっていることがありますが、これは古い幹が水を通す役割を終え、その後腐らないように抗菌物質が溜まるためです。
さらに近づいてよく見ると、年輪の中心から放射状にスジのようなものが伸びています(樹種によってはルーペが必要)。「放射組織」という栄養を貯めたり抗菌物質を出したりするところです。面白いポイントとしては、基本的に年輪の線に対してほぼ直角に交わっているところ。年輪がグニャグニャと曲がっている場合でも、きっちり直角を保ったままついています。ここが乾燥して縮むと年輪がひび割れるので、年輪に入るひびも、輪っかに対して直角に入っていることが多いです。
以上のように年輪に対して直角に放射組織が交わっていて、外側に形成層と樹皮があるのが年輪の基本構造になります。そこから樹種や環境条件の違いなどが組み合わさり、さまざまなパターンの年輪がつくられるわけです。ひとまずは、「内側にいくほど若い頃の年輪で、新しい年輪は形成層からつくられる」というところを意識してみてください。
それ以外にも、よくよく見ると意外と線がまっすぐじゃないんだな、とか、樹皮と年輪の部分とでは材質がずいぶん違うんだな、など観察してみると細かい部分で気づくことも多いと思います。このように観察を続けていくと、年輪がどういうものかがなんとなくわかってきて、ちょっと変な形をした年輪に出会ったときに想像力を働かせやすくなります。
・中心部に抗菌物質が溜まらないものや、放射組織がほとんど見えないものなど、樹種によっていろいろな違いがあります。
・タケやヤシは木ではないので、年輪はつくられません。まるで木のように大きくなるのにつくりが全く違っていて、これはこれで面白いです。
ここからは、少し特殊な形をした「面白い年輪」の読み取りです。時々、年輪が左右から包み込むような感じでグニャッと曲がったものに出会います。これは木が傷をふさいだ痕です。たとえば、病害虫による被害を受けたり、幹に直射日光が当たって乾燥したりすることで、幹に傷ができます。他にも人が枝を切ったり、草刈りをする刈払い機の刃が当たったりして傷になることもあります。こうした傷は病原菌の侵入口になるだけでなく、大きな傷であれば幹の強度にも関わってくるので、できるだけ速くふさがなければいけません。
樹皮のすぐ下に幹をつくる組織(形成層)があるとお話しましたが、大きな傷ができると、周りの形成層からじわじわと新しい幹がつくられ、傷をふさぐように成長します。それが左右から幹が包み込むように伸びてきた部分です。そのうち傷の部分は完全におおわれ、樹皮もつながり、外から見ただけでは傷があったことはわからなくなります。
しかし、年輪を見ると何歳の時点で傷を負って、何年かけて傷をふさいだのか、あるいはふさいでいる途中なのかが丸わかりです。両側から幹がせり出したところから年輪を数えて、完全に年輪が繋がったところまでの年数が、傷をふさぐのにかかった時間。基本的に、完全にふさぐにはかなり時間がかかり、10年以上かかることも珍しくありません。また、傷をふさぐより速く菌が幹を腐らせてしまった場合や、元々幹の中心が腐って空洞になっていた場合は、左右から張り出した幹が繋がらずその場でグルッと巻き込むように成長します。
傷を負うと素早くかさぶたをつくってふさぐ人間と比べると、生き方もタイムスケールも全く違うということを感じられますね。
いくつも年輪を見ていると、年輪の中心が不自然にずれて、一方向だけ年輪が広くなっているものに出会います。これは、木が体の傾きを修正した痕です。木は、上方向に成長したいときや、幹が傾いてしまったときなどに、幹の一部分を多めに太らせて、幹や枝をグッと持ち上げるように成長します。この太らせ方には2パターンあって、針葉樹は傾きの下側を太らせて押し上げるパターン、広葉樹は傾きの上側を太らせて引っ張り上げるパターンです。どちらも普段つくる幹とは材質が違い、針葉樹は茶色っぽく、広葉樹は白っぽく、年輪の色が変わっていることが多いです。これも傷をふさいだ年輪と同じように、年輪の幅が広くなって色が変わったところから数えると、何歳の時点で木が傾いたのかが読み取れます。
木は一度芽生えたらその場から動けないため、大きくなってから倒れてしまうと大ダメージです。また、上に伸びないと他の木との光をめぐる競争に勝てません。生まれた場所でベストを尽くすための頑張りや、木の生きる知恵が年輪からもうかがえますね。
この特徴がわかりやすく出ている年輪にはなかなか出会えませんが、公園の端っこや池のほとりなど、木が斜めに成長しなくてはいけない場所を探してみましょう。
・「年輪の広い方が南」なんて話も聞きますが、実際は幹が傾いていた方向か、その反対側だったというわけですね。
・広葉樹でも、枝の根元などで下側を多めに太らせる場合があります。これには押し上げる力はなく、下から枝を支えるだけの材です。
同じ種類の木の幹が隣り合って成長すると、合体して一つの幹になってしまうことがあります。一本の大きな幹だと思っていたものが、年輪を見ると実は何本かの幹が合体して一本になっていた、というものです。
傷をふさぐときに左右の樹皮が繋がっていくのと同じで、木の幹同士が接したままお互いにググッと太っていくと、やがて境界線がなくなり、年輪が繋がっていきます。別の種類の木だと基本的に繋がりませんが、枝分かれした自分の幹や同じ種類の木だと、時間さえあればくっついてしまいます。これも外側からではなかなかわかりませんが、年輪を見るとそれぞれの幹がどんなふうに成長し、いつから繋がっているのかが丸わかりです。よく観察してみると、ある時点までは年輪と年輪との間に樹皮が挟まっていて、別々の幹だったことがわかります。
太い幹に細い枝が巻き込まれたり、2本の太い幹がやがてくっついていったり、時には何本もの幹が合体して一つになっていることもあります。公園や雑木林で、根元の太い幹から何本も枝分かれしている木を見つけることがありますが、こうした木は、下の方から徐々に合体していっていることも多いです。
面白い年輪を見つけたら、写真をとって『やった!レポ』に投稿してみてください。どんな生き方をしてきた木なのか、あなたの考察があればぜひコメントに書いてみてくださいね。
「木」という生き物は、キリンより背が高くなるし、ゾウよりも重くなるし、カメの何倍も長生きです(もちろん種類によりますが)。そして、そんなすごい生き物が街中に当たり前に生きています。それだけでもすごいのに、それらの生きてきた道のりを「年輪」という形で読み取れるというのは、なんとも素敵なことだと思いませんか?
年輪というのは何mも伸びる木のほんの一つの断面にすぎないので、読み取れる情報はごく一部です。しかし、だからこそ想像の余地があり、知識や経験を絡めながら考えて、その木が生きてきた長い年月を頭の中で体験できるのが年輪観察の面白さだと思います。年輪観察を突き詰めていくと、この木がどんなふうに成長してきたのか、周りの木の成長や環境を加味しながら考えて、頭がパンクしそうになりながら切り株の前で何十分も考え込むこともあります。そこまで夢中になれるものが、街中や公園のいたるところにあるなんて、それはとても素晴らしいことです。
皆さんもぜひ、年輪を見かけたらその木がどんな生き方をしてきたのか、想像してみてくださいね!