東京都生まれ。日本野生生物研究所代表。アウトドア雑誌やテレビを中心にして生き物や自然との遊び方を紹介する。メインのフィールドのひとつである栃木県茂木市の「ハローウッズ」では生き物を呼ぶ里山を再生するほか、定期的に観察会の講師も務めている。著書に『虫と遊ぶ12か月』、『自然であそぶ』、『作って遊ぶ!工作KIDS』など。
森、海、川、山、原……。さまざまな環境が生き物観察のフィールドになりえますが、なかでも多様な生き物を一度に目にできる場所が潮だまり。魚や貝、カニ、タコ、ヒトデといったバラエティに富む面々を特別な道具や修練なしでも簡単に見ることができます。潮だまりにこんなにも生き物が多い理由は、潮の満ち引きに合わせて陸と海が入れ替わる特殊な環境だから。大潮の日の数時間、海が公開してくれる生き物の世界をのぞいてみませんか?
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タイドグラフ
ひとつ
ゴム貼り軍手
1双
ライフジャケット
1着
スニーカー(もしくはマリンシューズ)
1足
タモ
1本
バケツ
1個
エアポンプ
1機
観察ケース
1個
潮だまり観察を思い立ったら、最初に取り組むのは潮だまり探し。潮だまりは海沿いならどこにでもあるわけではありません。砂浜では水が溜まらないし、岩場であっても急に海へと落ち込む地形では生き物探しに不向きです。遊びやすい潮だまりができるのは、岩棚が緩やかに海へと落ち込んでいく地形。こんな場所をさまざまなツールを使って探し出しましょう。
最も簡単なのは「住んでいる地域」と「潮だまり」のキーワードで検索をかけること。「潮だまり」を軸にしながら「住んでいる地域」を市町村から都道府県、地方区分へと拡大していくうちに、家からいちばん近い潮だまりの情報が出てくるはずです。
海岸線の航空写真をチェックするという方法もあります。「グーグルアース」や国土地理院の航空写真を見ながら海岸線をなぞっていけば、岩棚が広がる浅い海を見つけられます。
潮だまりを見つけたら遊びに行く日を決めましょう。潮だまりの観察に向いているのは、春から夏の大潮の日。満月と新月のタイミングで訪れる大潮は、潮の干満の差がとくに大きくなります。潮の干満の時間を示すタイドグラフ(潮見表)とスケジュールを照らして、潮が大きく引く日に狙いを定めましょう。
磯遊びには特別な道具は必要ありません。濡れてもよい服装にタモとバケツがあれば観察を始められます。しかし、気をつけたいのが転倒やケガ。濡れた岩肌は滑りやすく、カキ殻や岩などで肌を切ることもあります。足元はサンダルではなく履き古したスニーカーやマリンシューズを履き、岩を起こしたり、生き物を手づかみするときは軍手を使うとよいでしょう。
潮だまり観察のハイライトは最干潮の前の2時間ほど。いちばん潮が下がるタイミングをタイドグラフで調べておき、2時間前には現地に入って下がる潮とともに沖側へと進むと無理なく生き物を観察できます。潮が満ち潮になると磯際に当たる波が強くなってきます。観察を続ける場合は無理をせず岸側で楽しみましょう。
潮だまりの生き物の多くは、干潮の間は岩の下や隙間、海藻の陰などに隠れています。まずはそっと近づいて目で探してみましょう。一度隠れた生き物も、息をひそめて動かずに待っていると物陰から出てきます。ある程度観察してから物陰をタモで探ってみましょう。
上手に捕まえるコツはタモで追いかけず、タモに追い込むこと。生き物に狙いを定めたら、追い込みやすい場所にタモを構え、別のタモや棒、足などでプレッシャーをかけて生き物を追い込んでいきます。
磯際の環境は潮上帯、潮間帯、潮下帯の3つに分けられています。潮上帯は満潮でも海に没しないエリア、潮間帯は潮の干満によって海に没したり露出したりするエリア、潮下帯は干潮でも海から出ないエリアとなっています。
生き物観察に向く潮だまりができるのは潮間帯です。半日ごとに新鮮な水が供給され、大型の捕食者が入ってきづらいので小型の生物や幼魚が多く暮らしています。
潮が引いている間は夢中で生き物を追いかけてしまいがちですが、潮上帯、潮間帯、潮下帯を意識してみると、同じように見える磯のなかでも生き物たちが住み分けていることに気がつくはず。とくに貝類やある種の甲殻類は海水面の高さに敏感です。そんな生き物がいる場所から、満潮時や干潮時の海水面の高さを知ることもできます。
生き物を観察するなら、バケツよりも透明な観察ケースがおすすめです。横からのぞけるので、生き物の色形を確かめやくなります。
採れた生き物は見るだけでなくぜひ撮影を。写真を残しておくと、あとから名前を調べやすくなり、デジタルカメラで撮った写真なら、撮影の日時がそのまま観察記録になります。潮だまりに通ううちに撮り溜めた写真には、そこにいた生き物の変遷や季節ごとの変移が表れます。こんな記録は個人で楽しむだけでなく、いつか学術的な価値を持つかもしれません。
狭いケースに生き物を入れるとすぐに酸欠になります。頻繁に水を換えるかエアポンプで空気を送りこむなどして、生き物に与えるダメージを小さくしましょう。
最初に書いた通り、ほかのフィールドと比べても潮だまりは簡単にたくさんの生き物に出会える場所です。直径1mほどの潮だまりをのぞくだけで魚類、貝類、甲殻類、頭足類、棘皮動物などが見られます。
これらは同じ磯に暮らしてはいても、分類上はたがいに遠く離れた生き物。採集時には大きさや見た目の派手さだけでなく、多様性にも注目してみると、潮だまりという世界がまたちがって見えてくるはずです。
1年のうちに、何度か潮だまりに通えるなら季節ごとの顔ぶれの変化も意識してみましょう。たとえば、日本本土の太平洋側では8月ごろになると熱帯魚が見られるようになります。これは黒潮にのって流れてきた「季節来遊魚」。これらの多くは冬に水温が低下すると死んでいます。夏から晩秋にだけ出会える生き物です。
潮だまりで遊ぶ前に、覚えておきたいのが危険生物。知らずに手を出せば、ケガをしたりときには死に至ることも。「全く知らない生き物は注意しながら扱う」ことを心がけましょう。
水温が高くなりつつある近年は、南方系の有毒生物が北上しています。噛まれると死亡することもあるヒョウモンダコなどはその代表。このタコは潮だまりでも見られるので、小さなタコを見つけてもいきなり手づかみにはせず、よく確かめるようにしましょう。
潮だまりには、触るだけなら問題なくても食べると重篤な事故につながる生物もいます。潮だまりでよく見られるスベスベマンジュウガニは筋肉中にテトロドトキシンなどの強い毒を持っています。「知らない生き物は口にしない」ことも安全に野遊びを楽しむ原則のひとつです。
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
潮だまりの魅力は生き物の数と種類が多く、それらを自分の手で採って観察できること。それはまるで水族館のタッチングプール。生き物を採取したことがない小さなお子さんであっても、潮だまりならたくさんの生き物と出会えるでしょう。かれこれ数十年潮だまりに通う私でも、出かけるたびに新しい発見があります。小さいながらも、大きい宇宙が広がっている潮だまりは自然観察の入門者にこそおすすめのフィールドです。